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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第5章 アウタースペース
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第69話



 その後も続いたリンとの会談で、太朗は正式にEAPとの軍事同盟を結ぶ約束をした。正式なサインはまだだったが、それはベラとライザの承認の元に行われるべき事だった。

 とは言っても、アルファ星系がこのあたり一帯におけるクリティカルな要所である限り、比較的平和路線を採るEAPと手を結ぶ以外の可能性は考え難かった。

 また、いくら代表のリンと友人関係にあるとは言っても、リンは大人数の責任を抱える身でもある。彼はTRBユニオンがEAPに敵対するか、もしくは利敵行動をとった場合、間違いなくアルファに対するあらゆる形での圧力をかけてくるだろうと思われた。

 太朗は私的な感情を除けばそれが正しい行動だろうと思っていたし、仕方がないとも思っていた。太朗が同じ立場でも、そうしただろうからだ。


「偉くなるってのも大変だな……」


 ぼそりと呟く太朗。決して広くはない自室で、球体のままの小梅がそれに「何か?」と答える。


「いや、色々とままならねぇもんだなと思ってさ。偉くなれば好き放題できるかと思ってたけど、実際にはそうでもねぇなって」


「おやおや、まるで世の中を悟ったかのような顔ですね、ミスター・テイロー。似合いませんよ」


「うるせぇ、放っといてくれ。あぁ、そういや博士の観測データ。二つ目がEAPから届いたってな」


「へぇ、そうなの。じゃぁまた一歩地球へ近づいたのね」


 太朗の後ろから、マールの声。マールは手にしていた端末を床に置くと、寝かされた小梅の体をいじり始める。最近、体の動きに違和感を感じる事があるとの小梅の訴えに、マールが様子を見ているのだ。


「だといいんだけどな。博士はなんか言ってたって?」


「えぇ、ミスター・テイロー。しばらく観測データの解析に集中するとの事ですよ。解析用の高性能コンピュータが欲しいと、追加の予算要求が来ています」


「また? 確かこの前も大型スキャナを増設したいって、予算出したばかりよね?」


「肯定です、ミス・マール。しかしニューラルネットによる分散処理が出来なくなった以上、仕方の無い事でもありますね」


「うぇ、こんな所にも影響出てんのか。でもまぁ、金で解決できるんならそれで良しとしとくべきなんかね」


「あら、随分剛毅な発言ね。言っとくけど、今うちに財政的な余裕は無いわよ。遺族への見舞金と船の修理費だけで一杯一杯だわ」


 マールの指摘に、うっと声を詰まらせる太朗。実際の所、太朗に遺族に対する見舞金を支払う義務など無かったが――それも給料のうちだというのが銀河帝国の一般認識だ――彼は十分過ぎる額の支払いを決定していた。それは太朗にとって罪滅ぼしの気持ちからであり、今後も続けるつもりだった。誰も太朗を責める気など無いようだったが、自分でどう思うかは別だった。


「そこはまぁ、ぐっと我慢してちょ。悪い事ばっかでもないじゃん?」


「まあ、ね。おかげで人材に困る事は無さそうよ。人事部が悲鳴を上げてたけど」


「帝国保険組合からも文句が来ていましたね。我々の仕事を奪うつもりかと」


「あぁ~、あれな。ふざけんなって返しといたぜ。あいつら戦争状態のコープには、ありえねえ額の請求してくんじゃん」


「事前に加入しろって事でしょ。うちも希望者だけじゃなくて強制加入にする?」


「うーん……いや、今のままでいこう。確かに保険使った方が結局は得だろうけど、それだとうちらが社員に支払ったって気がしねぇじゃん?」


「そうね……って、本格的に警備会社じみてきたわね。生命保険の話題なんて、普通の会社じゃしないわよ」


 マールの呆れたような声に、「たはは」と苦笑いを返す太朗。確かにマールの言う通り、会社の構成もやっている事も、今では警備関連としての仕事が大半を占めるようになっていた。しかし太朗としてはまだ輸送会社のつもりでいたし、これはむしろ輸送会社としての新しい形のはずだと思っていた。実際にこういった傾向を示すのは、決して太朗の会社だけというわけでは無かった。


「まあ、輸送に関してはスピードキャリアーが頑張ってくれてるしな。今の所、ライザ自身が武装艦を揃えるつもりは無いみたいだしな」


「そりゃそうよ。戦闘艦の運用なんて一朝一夕に出来るような事じゃないし、何よりこっちとの軋轢が生まれるわ。その辺、ライザは良くわかってるんでしょうけど」


「ライジングサンへの信頼と、これからも良くやって行こうというメッセージでしょうね、ミス・ライザからの。スピードキャリアーの規模からすれば、もっと大規模な艦隊を持っていてもおかしくはありません」


「なるほどなぁ。あんま気にしてなかったけど、そういう事か……っと、噂をすればって奴だぜ。ライザから外線だ」


 太朗はBISHOP上に表示された外線受付の文字を確認すると、ポケットから端末を取り出す。ひと昔前の自分であれば相当に驚いただろう脳波による端末の直接操作をなんなくやってのけると、壁に備え付けられたスクリーンに出力を設定する。


「"ご機嫌よう、テイローさん。マール。小梅さん。ステーションの中かと思ったら、船の方へいたのね。出立の連絡は来てないけれど?」


 スクリーンに映し出される、笑顔のライザ。何かご機嫌なようだと思いながら、それに手を振り返す太朗。


「やあライザ。まだしばらくはこっちにいるつもりだよ。ちょいと小梅の整備をね。それよりどしたん? なんか厄介事?」


 太朗の声に、とんでもないといった様子で首を振るライザ。彼女はとびっきりの笑顔を見せると、手で胸を押さえる。


「"やっぱり貴方と組んで正解でしたわ、テイローさん。最初の出会いこそあれでしたけれど、きっとそれも運命だったのかもしれないですわ"」


 潤んだ瞳でそう言うライザに、何が何だかと若干引き気味になる太郎。マールもただならぬ様子を感じ取ったのだろう、太朗に「気をつけなさいよ」と耳打ちをしてくる。


「そいつはまた、光栄というか何と言うか。偉いご機嫌なようだけど、なんかあったんすかね?」


 太朗の声に、驚いた様子を見せるライザ。彼女は何か思い立ったように端末をいじり始めると、やがてスクリーン上に数字の羅列が現れる。


「なにこれ。いち、じゅう……34億? スピードキャリアーの予算か何か?」


 太朗の声に、首を振るライザ。


「"TRBユニオンにプールされてる余剰資金ですわ。貴方、確認してなかったのね。契約通り、41%はそちらの取り分よ"」


 ライザの指摘に、目を点にさせる二人。やがてマールがその資金の出所に思い当たったのだろう。「あ!!」と声を上げる。


「関税収入!! 新航路の!!」


「関税……あー、そういやそうだな。1割もらうって話だったっけか。って、こんな額になるんかよ!!」


「それはそうでしょう、ミスター・テイロー。EAP自身による交易でも、こちらに対する関税割合分は支払い義務が生じます。戦争準備に使用した資金を考えれば当然の額では?」


「"えぇ、それにそれだけじゃないですわよ。交易は継続して行われるわけですから、他の有益な航路が見つからない限りこれからも収益が入り続けますわ"」


 太朗はそれに「ほえぇ」と間の抜けた返答を返すと、どうやら予算については悩まなくて済みそうだと胸を撫で下ろす。


「"この額は戦争初期の爆発的な消費によるものでしょうから、今後はもう少し落ち着くでしょうけれど。それでも継続した収入を得られるのは大きいですわ"」


 幸せそうに、うっとりとした表情のライザ。太朗はいくらか他人事に「そいつはよござんしたね」と呟くが、すぐ隣に似たような表情の人物がひとり居る事に気付く。


「約15億……どうしようかしら……各部署の予算要求を全部通してもなお余るわ。私たち個人の取り分だけでも1億は行くわ……どうしようかしら」


 こちらも幸せそうな表情のマール。太朗は「そんなにお金が好きかね」といくらか呆れ気味に呟くと、自らもその使い道についてを考え始めた。




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