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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第5章 アウタースペース
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第63話




 ディンゴがアルファへ到達してから、およそ4時間ばかり。アランの乗った新造艦が遠距離に到着した別艦隊の姿を捉え、クルーに緊張が走る。


「でかいっすね……あんなに遠くにいるのに、スキャンに簡単にかかります」


 ポールがうんざりした表情で、レーダースクリーン上の光点を見つめる。


「まあ、な。腹立たしい事に、これからあれを相手にドンパチしなきゃならん。あれの艦種はわかるか?」


「えぇ、ディンゴが所持している戦艦は二隻。両方ともダヴ級のはずです。新たに新造したという話は聞いてませんから」


「ダヴ級というと、高速戦艦か……機動戦が得意そうなだけはあるな」


 アランは艦種から想像できるディンゴの戦術をいくつか思い浮かべると、対処の最もむずかしいだろうそれを考える。


「高速艦だとすると、それを盾にしての突撃は無いな。遠距離からの狙撃も難しい。部隊を分け、中距離からの要塞攻撃が鉄板か」


 ぶつぶつとひとり呟くと、先ほどようやく繋がったプラムへと通信を開くアラン。


「テイロー、エンジンを焼き切るつもりで急いでくれ。やっこさん、早ければ1時間もしないうちにやってくるぞ」


 徹底的に暗号化された通信。しかし返答はすぐに返る。


「"ういっす。今全力で向かってるけど、やばそう?"」


「おう、相当な。相手は戦艦1、巡洋艦4、駆逐艦8のフリゲートが32。バランスの良い、出来た艦隊だ」


「"うげぇ、そんな来てんのか……って、戦艦? 戦艦がいるの?"」


「1キロ超えのダヴ級がいるな。恐らくディンゴの主力打撃艦隊だろう。接敵したら5分も持たんぞ」


「"ひぃぃ!! お願い、もうちょっとだけ踏ん張って!!"」


 アランは太朗へ無茶を言うなと言い返そうとするが、息を吸った所でそれを取りやめる。太朗が急いでいるのは重々承知しており、急かした所で到着が早まるわけでも無かった。


「"アラン、向こうに動きがあるよ"」


 通信機へ、緊急割り込みして来たベラの声。アランは太朗との通信を切ると、すぐにディスプレイへと目を移す。


「前哨部隊が来るな。こりゃあ、はじまるぞ」


 アランは短く発すると、各船へ向けた戦闘用意の発信を行った。




「うぅー、やばいやばい。いそがねえと」


 眉間にシワを寄せ、船のエンジンまわりの情報を睨みつける太朗。そうする事で船が早くなる事など無いとわかりきってはいるのだが、焦る気持ちがそうさせる。


「ねえテイロー。気持ちはわかるけど、ちょっとは落ち着きなさいよ」


 いつの間にそこへいたのか、飲み物を差し出して来るマール。太朗はそれを受け取ると、乾ききった喉を潤すべく一気に吸い上げる。


「がっ……あづぅっ!!? お茶あづぅ!!」


「おお、これは良い反応ですね、ミスター・テイロー。リアクション芸人枠としてやっていけるかもしれませんよ」


「いや、カップを持った時点で気付きなさいよ……」


 太朗は楽しそうに笑う小梅を他所に、マールから再び差し出されたカップを今度は慎重にあおる。冷たい液体が喉を流れ、焼けた喉を癒していく。


「まじで死ぬかと思ったぜ。ストローで熱い飲み物いくのは自殺行為だな……ん?」


 喉を手で押さえながら、急に真面目な顔へと戻る太朗。彼は「大丈夫?」と心配そうなマールを手で制すると、考え込むように下を向く。


「倉庫……倉庫にワープのブースタ、あったよね?」


 ぼそりと、太朗。それに「えぇ、詰みっぱなしの在庫が」とマール。


「なぁ小梅。ちょっと聞きたいんだけど、今積んであるスタビライザー全部連結したら長距離ジャンプ出来たりする?」


「……理論上は、と申し上げればよろしいでしょうか。ミスター・テイロー」


「ちょ、ちょっと。あれ全部繋げるつもりなの? どうやってそんな大量の……って、そっか。あんたなら」


 何かに気付いたように、トーンダウンするマール。彼女はポケットからモバイルを取り出すと、素早くそれを操作する。


「ワープスタビライザーが32機、その内同型が24。24なら繋げられるけど……全部"いじる"事になるわよ?」


 マールはいじるという部分を強調して言うと、太朗へと目を向ける。太朗はマールの言わんとする事がわかり、頷く。


「全部おじゃんになるってこったろ? 仕方ねぇよ。金なら後で稼げばいいじゃん」


「まあ、ね……わかったわ。15分……いえ、10分で組み上げて見せるわ」


 マールは自らのシートへ戻ると、両手で顔を抑え込むようにしてうずくまる。太朗は心配になって覗き込もうとするが、彼女の様子はBISHOPの方でしっかりと確認できた。


「うぉぉ、すげぇな……早すぎて全く追えねぇ……」


 太朗の目に映ったのは、信じられない速さで組み上げられて行くワープスタビライザーの制御関数。無数に散らばる細かい制御が次々と組み合わさり、複製され、派生していく。太朗もやろうと思えば似たような事は出来なくも無い――実際にゴーストシップで機械制御の改良を行った――が、このような速度で行うのは明らかに不可能とわかるレベルだった。


「数回のオーバードライブでおよそ1千万クレジットの損失。戦後、ミス・マールが落ち込むだろう想像がつきますね」


「へへ、だろうな。でも、その価値はあると思うぜ」


 腕を組み、マールの合図を待つ事10分前後。太朗はマールの親指が上へ向けられている事に気付き、気合を入れる為に自らの頬を強く叩く。


「いよっしゃ!! 次は俺の番だな!!」


 太朗は飛び乗るようにしてシートへ収まると、24のワープスタビライザーが全く同時にリンクするよう、全ての並列作業を開始した。




 青い閃光がほとばしり、どこか遠い場所へと消えて行く。


「下手くそ!! 当てるんならもっときちんと狙うんだね!!」


 ベラは遠目に見える敵の戦艦に向かって吼えると、背中を流れる冷や汗をごまかすようにBISHOPへと意識を集中する。


  ――"分隊管理 縦陣"――


 ベラの機体から送られた通信が各HADへと届けられ、彼らは敵に向かって素早く一列に整列する。先頭には重装甲のHADが立ち塞がり、いくつか飛来する狙いの良いビームをシールドで弾いていく。


「射程内のフリゲートが14……駆逐艦が3……散開するよ」


  ――"分隊管理 ルート1~5:A小隊"――

  ――"分隊管理 ルート6~10:B小隊"――


 ベラは部隊を瞬時にふたつへ分けると、各々狙い易い標的への接近ルートを導き出す。一見するとでたらめに散開したかのように見える10のHADは、その実計算されつくしたルートで敵艦へと接近する。


「狙いは砲塔とエンジン、艦橋は放っておきな」


 叫ぶと同時に、自らも高速で移動を開始するベラ。HADが彼女の自律神経系から送られるBISHOP関数を反映し、彼女がぎりぎり耐えられるGでの加速を始める。

 本来HADで使用する関数と通常の関数を平行して使う事は非常に難しい事だったが、集団掌握制御のギフトを持つ彼女にはどうという事は無かった。HADの制御と制御の合間に訪れるわずかな時間さえあれば、彼女は部隊の指示を十分に行う事が出来た。


「"こちらDR-04、ターゲットAの1番砲塔を破壊した"」

「"こちらDR-02、ターゲットBに接近中。援護を頼む"」

「"DR-09、DR-03が被弾したようだ。一時帰投を求めている"」

「"こちらDR-06、DR-02の援護に入る"」


 通信機から次々と送られてくる報告。ビームを避ける為の急加速、急停止にうめき声を上げながらも、ベラはそれぞれに適切な指示関数を送り返していく。


「ブルーコメットよりアランへ。そっちの様子はどうだい。こっちは狙いを付ける相手に困る事は無さそうだよ」


「"こちらドライプルーン、こっちも似たようなもんさ。それと予想通り相手は手練れだな。要塞の砲塔からうまい事逃げやがる"」


「かき集めた連中は?」


「"即席の艦隊にしちゃあ頑張ってくれてる。だが、時間の問題だろうな"」


 アランの答えに、そこそこ満足だと笑みを浮かべるベラ。一方的な戦いになっていないだけマシというものだろうと。

 ベラはアルファの防衛にあたり、避難していく宇宙船乗りから義勇軍を募っていた。相手の戦力は誰でもスキャンで簡単に調べる事が出来る為、大軍を相手に名乗りを上げる者はわずかしかいなかった。しかしベラとしては満足のいく数字であり、それ以上は望まなかった。ゼロを覚悟していただけに、それは意外ですらあった。


「こんなど田舎のステーションでも、体張って守ろうって馬鹿がいるもんだねぇ……ひと山当てようって連中もいるみたいだけど」


「"はは、お前さんの統治が気に入られてる証拠だろう。後者については、どこにでも少なからずいるもんだしな"」


 ベラはアランの指摘にふんと鼻を鳴らすと、照れ隠しに「ところでさ」と続ける。


「うちのエースはまだかい。もう結構経ったと思うんだがね」


「"予定だと残り一時間もしないうちに到着するはずだ。今ドライブ中らしく、連絡がつかん"」


「一時間ねぇ……それまで持つといいんだけど」


 各種報告の合間に聞こえる、仲間の悲鳴や撤退の声。まだ敵の本格的な攻勢がかけられているというわけでも無いのに、すでにそれなりの被害が発生している。目を向ければ火を吹き上げる友軍艦の姿が見え、防衛側は全面的に後退を開始している。今のところベラの部隊に損傷は出ていないが、それも時間の問題だと思われた。


「それに、坊やが来てもアレがなんとか出来るかはわからないね……」


 ベラは大きく迂回しながら要塞へ向かい来ている大きな光点を眺めると、再び部隊を率い始める。あまり好ましくない状況だが、今はやれる事をやるしかないと。




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