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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第4章 ユニオン
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第61話


 ディンゴがその鋭い視線をアルファ星系へと向け始めた頃。太朗達はようやく片付いた事務仕事に、ほっと一息をついていた。彼らは来るべき戦いに向けた準備をする為、アルファ星系へ向かうべく船へと乗り込もうとしていた。


「んじゃクラーク本部長。そういうわけで、これからも本社を頼んだぜ」


 プラムの停泊する室内ドック。そこで太朗が言い放った一言。ライジングサンが社員の一般公募を開始してから4番目という、若い会社ながら古株として働いてきたC・クラーク本部長――Cは名前であるキャプテンを表すが、彼はそう呼ばれるのを嫌がった――は、信じられないといった表情で太朗の言葉を受け取った。


「社長、これでは私は取締役になってしまいます」


 クラークの手元に残されたチップには、太朗達が不在の間、事実上の経営権を彼が行使可能であるとされた新雇用契約書が入っている。簡潔に言えば、社長代行というやつだ。


「や、大丈夫っすよ。クラークさん優秀だし、船に乗れない事以外は完璧っしょ」


 のほほんと言い放つ太朗。彼の言う通りクラークは船舶の操縦に関してはからっきしだったが、経営についての才能は誰もが認めるところだった。


「えぇ、名前はキャプテンですが、確かに船の操縦は出来ません。しかし社長、デルタステーションの条例に従えば、私はライジングサンの資産の3%を受け取る事になってしまいますよ?」


 怪訝そうにそう語るクラーク。そんな彼に「おけ」と軽く返す太朗。太朗はクラークという人間が聖人だとは思っていなかったが、信用するに値する人間である事は良く知っていた。


「いいよ、あげる。そのかわり、頑張って頂戴な。さっきも言ったけど、その――」


 太朗は言葉を区切ると、ずいとクラークへと顔を近づける。


「俺が戻らなかった時は、みんなを頼むぜ。這ってでも戻ってくるつもりだけど、万が一の時はね」


 太朗はにこりと笑顔を作ると、タラップへ向かい走る。彼は自分が死ぬとは思ってなかったし、そのつもりもなかった。しかしどんな場合にも備えというものは必要であり、用意しておいて困るものでもなかった。


「えぇ、了解しました!! ですが私はまだまだ半人前の経営者です。今社長にいなくなられては困りますよ!!」


 苦笑いと共に、大声でクラーク。太朗はそれに手を振り返す事で応えると、マールの待つエレベータへと乗り込んだ。


「ん、結局クラーク本部長に全部押し付けて来たの?」


 上昇していくエレベータータラップの中で、壁に寄りかかったマール。太朗は彼女に「人聞きが悪くね?」と笑いながら返す。


「一応溜まった書類は片付けてきたし、胃が痛くなるような判断が必要なもんも無かったはず……だと思う。たぶん」


 太朗は目線を上げ、仕事内容を思い出しながら答える。マールは「たぶんって何よ」と呆れた様子で、太朗の額を指先で小突く。


「でもまぁ、クラークならうまくやるでしょうね。帝国大学出のエリートだし、人望も厚いわ。あんた、うかうかしてるとヤバイんじゃないの?」


 にやにやと、からかうようにマール。太朗はそんな彼女に「うぐぐ」とうなってみせると、開いたドアから船内へと乗り込む。


「みんなにはそれなりに好かれてるとは思うけど、本部長と比べると自信ねぇな」


「そりゃそうでしょ。何ヶ月も留守にする社長より、いつも傍にいる部長の方が頼りになるもの」


「そっかぁ……って、お前も副社長として同じ立場じゃねぇか」


「エヘヘ、そうね」


 二人は船内へ到着すると、真っ直ぐに管制室へと向かう。管制室では事前準備を行っていた小梅が二人を出迎え、ものの数分もしない内に発艦準備が整う。


「そいじゃ行きましょか。巡洋艦プラム、発進!!」


 各種弾薬や砲塔等を満載したプラムはいつもよりほんの僅かだけ重そうに旋回を行うと、外で待ち構えていた12の戦闘艦と共に、アルファ星系へ向けたワープを開始した。




「設置型センサに反応? デブリか何かじゃなくてか?」


 アルファステーションの一室。ライジングサンの社員用に作られた個室で、アランが眠たそうに目をこすりながら訊ねる。


「"デブリは途中で軌道を変えたりはしないわ。十中八九、当たりよ"」


 通信機から聞こえるベラの声に、大きく舌打ちをするアラン。彼は大急ぎで身支度を整えると、桟橋へ向かって急ぐ。


「ドックの連中に船を暖めておくように伝えてくれ。相手の数はどれくらいだ?」


「"およそ30の大艦隊さね。今ステーションのスキャンを動かしてるから、しばらくすればもっと詳しいのが出るよ"」


 アランは人気の無い連絡通路をひたすら走ると、高速移動レーンへ捕まり桟橋へと出る。いつもであればもっと人影の少ないだろうそこは、見知らぬ艦隊の出現に色めき立っていた。


「ベラ、避難命令は出さないのか? 連中、混乱してるぞ?」


「"もう出してるよ。ただし順番に少しずつね。一気に桟橋へ押し寄せてみなよ、衝突事故のひとつやふたつじゃ済まないよ?"」


 ベラの答えに、もっともだと頷くアラン。彼は防衛用にと残されていたライジングサンの駆逐艦を素通りすると、その奥に停泊している変わった形の船へと向かう。しばらくすると閉じられたゲートの前へ到達し、アランはそっと扉へと触れる。すぐさまBISHOPへ浮かぶ暗号関数の文字。


  ――"暗号要請 キー:電動?"――


「こけし」


 アランの答えにゲートが反応し、ゆっくりと扉を開いていく。アランはもどかしいとばかりに隙間へ身を入れると、こじあけるようにして先を急ぐ。


「ウィズ・アラン、発艦準備出来てます!!」


 船へ乗り込むと、待ってましたとばかりに叫ぶアランの部下。アランは手を上げる事でそれに応えると、すぐさま船を発進させる。


「ポール、状況を教えてくれ」


「ポイントB9付近に多数の動体反応。その後B8方向へ向けて15分程移動しています」


「横に移動、か……こっちの様子を見てやがるな。ろくな防衛部隊がいないとわかればすぐにでもやってくるぞ。ダミービーコンは?」


「はい、起動済みです」


 便利屋時代からの付き合いであるポールのきびきびとした返答に、満足の頷きを向けるアラン。彼はスキャンをかけてダミービーコンが起動している事を確認すると、そちらへ向けて舵を切る。ダミービーコンは簡単な動きを行う事が出来る小さな発信機で、相手のレーダースクリーンには船舶として表示がされているはずである。


 アランは一見何も無い空間へと出ると、宙へ浮かぶダミービーコン艦隊の旗艦のように振る舞う。相手の動きに合わせて艦隊を動かし、あたかも大艦隊の指揮を執っているように見せかけるのだ。


「主力がまだ来てねぇんだ……頼むから引き返してくれ……」


 アランは額から落ちる汗に気付くと、それを手の甲で軽く拭う。本来であればエアコンを強くしたい所だが、相手が熱源探知を行っている可能性を考えると難しい。一隻だけが極端に目立つという事態は、極力避けたい。


「向こう艦隊、3つに分かれました。左右へ展開するものと、正面を向かって来るものがあります」


「ちくしょう! 威力偵察だ! ベラ!! 連中、来るぞ!!」


「"了解。でもあんた、そんなかっかしなさんな。テイローがじきにやって来るよ。それまでの辛抱さね"」


 通信機より聞こえる、のんびりとした声。アランはそれに「あと6時間もあるんだぞ?」と返すと、ダミー艦隊をゆっくりと迎撃位置へと移動させる。


「交戦規定を破るなよ。アルファステーションは第一級だ。絶対に戦闘には参加させるな。あいつらは帝国なんぞ知った事かと思ってるだろうが、俺達はそうは行かない」


「"わかってるよ。あんた、うちらが何年ここでマフィアをやってると思ってんだい?"」


「そう……だな。くそっ、久しぶりの荒事に血が上ってるな」


 アランは冷静になるべきだと深呼吸をし、ゆっくりと息を整える。急いで行動するのは良い事だが、焦るのとは違う。


「よしっ。全部隊、第一防衛ラインへ集結。繰り返す、全部隊、第一防衛ラインへ集結」


「こちら第2艦隊、了解。集結まで220秒」


「ブルーコメット了解。あたいらはもう到着してるよ」


「こちらブラックメテオ。右に同じくだ」


 守備隊として分けられた3つ艦隊の返答に、アランは了解の返事を返す。彼はせめて予備艦隊とでも思われればと一抹の願いをたくし、ダミー艦隊を後ろへと下げる。自らはそのまま防衛ラインへ到達すると、第二艦隊と合流した。


「"ちょいと読みが甘かったね。やっこさん、まさかこんな早く来るとは思わなかったよ"」


 通信機より聞こえるベラの声。アランはモニタを切り替えると、彼女の乗る赤いHADを映し出す。


「まあ、な。恐ろしく有能か、それとも恐ろしく勘が良いか。どちらにしろ、俺達にとっては有難くない事だな」


「"ふん、まだ後者の方がいくらか救いがあるじゃないか。それより、こいつはちゃんと動くのかい? どう見たって工事中の代物じゃないか"」


 ベラのHADは軽くバーニアを吹かすと、簡易防衛拠点である小型ステーションへと移動する。

 この小型ステーションは廃棄予定だったアルファ第4ステーションをライジングサンが急遽買い取ったもので、急ごしらえの要塞にはステーション用の大型シールドや砲台。そしていくつかのジャミング装置が据え付けてある。元々はれっきとした第一級ステーションだが、正式に帝国からの破棄許可を得ており、戦闘施設として利用しても何ら問題は無かった。400メートルの長細い、巨大な粗大ごみという扱いだからだ。


「完成は来月の予定だったんだよ。まだせいぜいが半分程度の戦力って所だろうが、それでも無いよりは随分とマシだ。ステーションの管理局に感謝しなくちゃならんな」


「"連中からすりゃお礼のつもりなんだろうさ。普通は明確な戦争自体が予見されるような状況じゃあ、廃棄の届け出なんて受理されないからね。ライジングサンは一度ワインドの群れからここを救ってるだろ? それでさ"」


 アランはベラのそれに「人助けってのはやっておくもんだな」と呟くと、今にも接敵判定が出そうな一団を睨みつける。レーダースクリーンに映る彼らは、まるで挑発するかのように一定の距離を旋回をし続けている。


「ずっとそのまま回っててくれりゃぁ、嬉しいんだがな」


 アランは願望を込めてそう呟いたが、残念ながらそうはならなかった。

 敵の一団はこちらへ向けて船首を揃えると、一斉にビームジャミングを作動させ始めた。




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