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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第3章 グロウイングアップ
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第47話




 アウタースペースに存在する、いくつもの民間ステーション。箱型モジュールの組み合わせで作られたそれは、帝国領に存在する計画的なものと違い、次々にモジュールを追加していったら結果的にそうなっただけという、場当たり的な雰囲気を感じさせる。

 アルファ星系から最も近くに存在するクレオー4星系には、太陽に相当する恒星がふたつ存在し、星々は複雑な公転軌道を描いている。その不安定な引力のひしめき合う空間に、クレオ連棟ステーションは浮かんでいた。


「……さっぱり、売れねえな」


 ステーションから伸びる細い桟橋。それに係留されたプラムⅡの談話室にて、ディスプレイを眺めながら太朗がぼやく。談話室には複数のテーブルやソファ。長いすや絨毯といった船員がくつろぐ為の設備が備え付けられており、給湯施設や何かも完備されている。

 プラムには会議室に相当する部屋も設けられていたが、太朗達はそちらよりも談話室で様々な話し合いを持つ事の方が多かった。


「うーん、需要はあるはずなんだけど。高すぎるのかしら?」


 太朗の隣でソファにくつろぐマール。彼女が手にしているカップから立ち上る甘い紅茶の香りが、太朗の鼻腔を優しくくすぐる。

 二人が眺めているディスプレイに表示されているのは、ステーション内に出品した交易品リストの一覧。あらゆる物品の専門業者がいる帝国領と違い、日々の物流が安定していないここでは、こういった方法での商売が一般的らしい。ニューラルネットに作られた入札市場には、それこそ何千万種類もの商品が、これでもかと陳列されていた。


「あ、自分で言っておいてなんだけど、それは無さそうね。今売れた商品なんて、私達が売ってるスタビライザよりも一昔前の型だわ。価格的にはそんなに変わらないはずなのに、何故かしら?」


「うーん、たまたま特定の商品が欲しかったとか? こっちの船は積める装置の型に指定があったりするんかな……さすがに時間的に厳しいから、今日売れないようだったら買取業者にまわしちまおうか」


 太朗達が交易品として運んできたワープスタビライザーを入札に出してから、既に丸二日が経過していた。帝国領では直接販売を行っていたし、アルファのような地方のステーションでさえ、こういったマーケットでは出品後数時間の内に買い手が付く事がほとんどだった。最後の手段である総合買取業者に売るという手もあったが、出来ればそれは避けたかった。どうしても安く買い叩かれてしまうからだ。


「やぁ、どうしたい坊や達。そんなに暗い顔をして」


 太朗とマールがどうしたものかと悩んでいるそこへ、葉巻を咥えたベラが涼しい顔で現れる。彼女は「失礼するよ」と太朗の向かいへと腰を下ろすと、遅れてやってきた彼女の部下から飲み物を受け取った。


「やあ、ベラさん。どうもこうも、この前出した商品がまったく捌けなくて」


 太朗は溜息と共に体を倒すと、ソファの上へぐったりと身を投げ出す。ベラはそんな太朗を呆れた顔で横目に見つつ、自らの前にも設置されているモニタを起動させる。


「ワープスタビライザーか。いい商材だけど、これじゃあダメだね。売り方が悪いよ」


 ベラの声に、はじかれたように起き上がる太朗。彼の「どういう事すか!?」という大声に、うるさそうに顔をしかめるベラ。


「広い銀河の中じゃあ、私らの名前なんてまだまだ無名もいいとこだって事さ。帝国と違って安定してないからね。こっちの連中は皆用心深く、他人を疑ってかかる。多分だけど、この商品がまっとうな品なのかどうか計りかねてるのさ」


 ベラの答えに、なるほどと頷く二人。


「こっちの人達からすると、どこの馬の骨だか知らんコープが良くわからん最新の機材を売りに出してるってとこか。そりゃ買わねぇわな」


「確かに言われてみればそうよね……それこそ場合によっては、盗品か何かかもって思われてるかもしれないわ。これ、買取の際の売買契約書を商品に付属させてみるのはどう?」


「おぉ、それでいこう。コピーでいいのかな?」


「やめときな、坊や。脱税行為で捕まりたくないんならね。複製を作るんなら複製証明書を発行できる専門業者に頼むんだ。いくらか金はかかるけど、まっとうなチップの複製を作ってくれるよ」


「うえ、まじっすか。んじゃその方向でいきまっしょう。これで売れるかな?」


 その後太朗はベラに言われた通り、チップの複製専門会社へと足を運び、商品説明に売買契約書を添付する旨を表記する。すると入札サイトの更新後、商品はわずか数分のうちに全てが入札される事となった。それも、太朗達が予想していたよりもはるかに高い値段で。


「やっぱ、土壌を知るってのは大事だなぁ……もっと早くベラさんに相談しとけば良かった」


 商品が売れた際の、太朗の感想。ベラはそれに「あたいらにアルファ星系まわりの現地調査を任せたのは誰だったっけ?」とからかうような口調で返していた。もちろん太朗は、顔を赤くして下を向く事しか出来なかった。




 クレオ星系での売却を終えたプラム一行はその後、最初の目的地であるポイント01へ向かって移動を開始した。いくつかのスターゲイトをくぐり、数え切れない程のオーバードライブを使用し、プラムⅡのクアドロパルスエンジンは休み無く働き続けた。

 道中にさしたる危険はなかったが、帝国領に比べてかなり船がまばらなアウタースペースでの移動に、太朗は不思議な孤独と不安感を感じていた。"すれ違う"というレベルで船が接近する事は、ほとんどスターゲイトまわりに限定されていた。

 彼はゴーストシップで小梅と共に過ごした孤独な1年間にトラウマを負ってはいたが、今回の件はそれが原因だとは思わなかった。それよりも、帝国の庇護からはずれているという事実の方が、恐らく自分を不安にさせているのだろうと分析した。彼は出来るだけ他の乗組員と交流を持つようにし、それは大体が歓迎された。


「さぁ、そこでダイスを振る。ファンブル? うは、残念。君のキャラクターは穴へ落ち、6点のダメージ」


 太朗は既に時代遅れすぎて誰もやらなくなったような遊びや、その場で思いついたゲームや暇つぶしの品を、次々と船の仲間達と分かち合った。彼は自らを「一人遊びの天才」と自虐的に称したが、それは娯楽に飢える宇宙船乗り達にとって、尊敬される能力だった。

 アルファ星系を出立してから、既に半月。帝国の影響からはずれた地を進む彼は、そうして寂しさや孤独を紛らわせていた。


「厳しいけど、頼りになるお父さんってとこか」


 ポイント01とされた目標地点近く。放棄された廃ステーションをモニタで眺めながら太朗。それに「何の話?」とマール。


「ん、銀河帝国の事。放任主義だったり強権的だったりとあんまいい話を聞かないけど、やっぱ大事な存在なんだなって」


 太朗の呟きに「そりゃそうよ」とマール。


「何をするにも、まずは土台がなきゃ始まらないわ。精神的だったり、物理的にだったり、それこそ様々だけど。帝国はそういった土台になってるんじゃないかしら。もし帝国が無くなったら、なんて冗談でも想像したくない事態だわ」


 マールの答えに「そうだよなぁ」と頷く太朗。彼は船の姿勢を少し傾けると、ステーションからはずれたと思われるモジュールブロックの残骸から船を離す。


「混乱、どころじゃ収まらないよな。商売なんてやってられないだろうし、戦争だって起こってもおかしくないか。よく考えた事は無かったけど、国家って大事なんだな」


 彼の祖国である、地球は日本を思い浮かべる太朗。彼は家族や親しい友人の顔を思い出そうと努力したが、何人かの顔は思い出す事が出来なかった。間違いなく存在すると確信してはいるが、その姿はぼやけた影としてしか彼の脳裏には現れなかった。


「ポルノのモザイクより、こっちのをなんとかしてぇな」


 呟く太朗。マールが「なぁに?」と聞き返してきたが、「ちょっとね」と手を振る事で濁した。


「博士の言ってたポイント01ってのは、これの事かな?」


 廃ステーションの傍である現在地より、前方に数千キロを進んだ先。元々は星系観測用ステーションとして使われていた、小型の建造物。プラムのセンサーが捕えた微弱なビーコンが、レーダースクリーン上に光点として表示される。


  ――"シールド防御 出力2.2%"――


 太朗のBISHOP上に浮かぶ表示。彼は驚いて立ち上がると、飛び上がるようにしてシートへと身を沈める。


「敵? 何? 大型デブリ? 何? 何が起こった?」


 慌てふためく太朗。そんな太朗に、冷静な小梅が答える。


「不明です、ミスター・テイロー。ですが、デブリではありません。恐らくビームかとは思いますが、かなり拡散していたようです。船体に異常はありません」


 小梅の報告に、ほっと胸を撫で下ろす太朗。


「拡散してたって事は、有効射程外からの流れ弾かなんかか……いや、流れ弾て、どんだけの確率よそれ」


「銀河帝国統計局によると、毎年多くても数十件程度しか起こらない事だそうですよ、ミスター・テイロー。いやぁ、実に貴重な体験ですね」


「いや、なんでそんなに満足気なのか意味がわからねぇよ……ちなみにスキャンは?」


 太朗の声に「やってるわよ」とマール。


「指向性をかけたから、相当遠くまで見れるはず……いたわ。スクリーンに出すわね」


 マールはそう言うと、大型ディスプレイに表示されたレーダースクリーンを仰ぎ見る。すぐさま画面上の縮尺が大幅に縮まり、より広範囲の表示へと切り替わる。するとプラムの右手前方の遠くに、いくつかの黄色い光点が現れる。


「全部で……22隻か。結構な船団やね。こんなとこで何やってんだ?」


 太朗の当然の疑問として発したが、答えが返って来るとも思っていなかった。彼は「どうする?」というマールの質問に、「様子を見るしかないっしょ」と首をかしげながら答えた。





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