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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第2章 ライジングサン
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第40話




 まるで気の触れた巨人が、そこら中にある全ての物を無理矢理押し潰したかのような、グロテスクな造形物。その雑多にからみあったスクラップの中に、明滅する幾つもの光点。それらはレーザーを発し、火花を散らし、コンベア状の不可思議な装置の上を流れ行く何かを次々と加工していく。


「"なあ、テイロー。俺は今、何か見ちゃいけないもんを見ちまってる気がするぜ"」


 機械のアームがそこらの部材を掴みあげ、既にある程度完成しているのだろうワインドの船体へと押し付けて行く。すると別の複数のアームがすぐさまそこへ現れ、恐らくリベットによる接着を行っているのだろう。等間隔に動いては止まり、動いては止まりを繰り返す。


「同感だぜ、アラン。なあ、いったいどこのどいつだ?」


 同時に稼働する何百、何千ものアームがせわしなく動き続け、係留用と思われる太いポールに括り付けられた船へと新しい部品を追加していく。ただ押し込んだように見える棒状の何か。きちんと取り付けされているのかもわからない、板状の何か。


「ワインドが、スクラップを利用するだけの出来損ないだなんて言ったヤツはさ。そいつをこの工場の下請けとして働かせてやりてえぜ」


 宇宙空間へ剥き出しとなったままの工場群。直方体をくり抜いたような形のそれは、決して整列されていない不規則な各所で様々な働きをしているらしい。ビーム兵器の為のレイザーメタル精製だろうか、紫や青の光が四方へ向けて放たれている場所があれば、そのすぐ近くでスキャン用のアンテナと思われる部材が組み立てられている。明らかに人間が観察、行動する事を前提としていないその工場は、とても人が立ち入れるような環境では無さそうだった。


「"なあ、スコール。良かったじゃあないかい。これでまた神様に祈りを捧げる理由が出来たじゃないか"」


「"茶化すなよベラ……しかしこんな短い時間で二度もアーメンを唱えるとは思わなかったぜ。なあテイローさんよ。こいつ、どうすんだ"」


 通信機より聞こえたスコールの声に「どうするっつっても」と太朗。


「ほっとくわけにもいかないっしょ。完全破壊する必要は無いだろうけど、機能停止くらいはさせとかなきゃじゃね?」


 太朗の声に「賛成よ」と横からマール。


「見たところ工場には間違い無さそうだけど、本当にそれだけなのかは正直わからないわ。人間が介在するのを前提としてないから、見た目だけじゃ何が何だかさっぱりよ。工場兼何かの兵器っていう可能性もあるんじゃないかしら」


「小梅も賛成です、ミスター・テイロー。内部には蓄えられた燃料や動力炉が存在すると思われますし、この質量だけでも十分な脅威と推測出来ます」


 マールと小梅の意見に、太朗も頷く事で答える。彼は通信機より聞こえる「"ちょいと様子を見てこようかい?」というベラの言葉に、否定の言葉を発する。


「や、ベラさん。あれに近付こうと思えるアイアンハーツは尊敬しますけど、何があるかわからないんで止めときましょう」


 太朗はBISHOPでビームタレットを起動させると、巨大建造物に狙いを付ける。少なくともまだ建造物まではかなりの距離があり、爆発に巻き込まれる危険は無さそうだった。


「…………えぇと、これよ。どこ狙えばいいんだ?」


 あまりに巨大。あまりに不均一なそれに、いったいどこを攻撃するのが有効なのかが全くわからない太朗。彼は顔を巡らしてマールの方を見るが、返って来たのは首を振る動作。


「私にわかるわけが無いじゃない。長い時間をかけて研究すればいくらかは理解も出来るでしょうけど、そういうのは専門家に任せたい所だわ」


 渋い顔をしたマールが、ディスプレイへ視線を向けながら発する。太朗はそれに「まあ、そうよね」と返し、適当な箇所を狙い撃つ事を決める。シート付きのモニターへ手を伸ばし、画面に映った建造物の一部を手で触れる太郎。


  ――"ロックオン 画像照準:30%"――


 BISHOPによる画像指定でのロックオンを行うと、すぐさまパーセンテージの上昇が始まる。今までに無くゆっくりとした上昇なのは、恐らく例のジャミング装置が妨害しているためと思われた。


「うぇ、随分時間かかるな……よし、ロックしたぜ」


 太朗は暗号化されたロックオンスキャンの情報解析を行うと、即座にそれを完了させる。先ほどの戦いでジャミング暗号の規則性がわかっていたため、簡単にそれを解く事が出来た。


「1番から4番までを……って、なんだ!?」


 まさに砲撃を行おうとしたその時。巨大建造物の全体がぶるぶると揺れ始め、まるで崩壊を起こしたかのようにいくつもの部品をまき散らし始める。


「ミスター・テイロー、対象から大量のドライブ粒子が検出されています」


 冷静な小梅の声。太朗は「ドライブ粒子?」と首を傾げる。


「オーバードライブ発生と共に出る素粒子よ!! テイロー、見なさい!!」


 大型ディスプレイには、うっすらと青白いもやに包まれる建造物の姿。太朗は反射的に射撃関数を実行すると、ワープの為の引き伸ばし現象が起き始めた建造物へ向けてビームを放つ。


「8番まで全部開けて!! レールガンは充電が間に合わない!!」


 プラムⅡから延びる8条の光が、大型建造物のそこかしこを焼き落とす。気化した鋼材が爆発を起こし、球状の白い塊をいくつも浮かび上がらせる。しかしその爆発球すらも引き延ばされ――


「そんな……あの巨体でジャンプて……そんなんアリか?」


 ――光の矢と共に消え去った大型建造物。大量に舞い散るデブリの中、ぽかんと空いた空間へ向かって太朗が呟く。


「"何ぼさっとしてんだい!! 特定するんだよ!!"」


 耳を覆いたくなるような大きさの、ベラの怒声。太朗は耳を抑えながら呆けていた気持ちを元へ戻すと、急いで小梅に「ジャンプ先を割り出してくれ!!」と指示をする。


「少々お待ちを、ミスター・テイロー。ドライブ先は……0.4光年先の星間空間です」


「…………え?」


 小梅の声に、本日何度目かわからない驚きの声を上げる太郎。そこへマールが「計算違いじゃないの?」と続ける。


「オーバードライブだけじゃそんなに遠くへは飛べないわ。それこそスターゲイトでも使わないと絶対に無理よ」


 マールの語るそれに「ううん」と眉をひそめる太郎。彼はふと思いついた単純な答えに「なるほど」と発する。


「んじゃ、そのまんまだろな」


「そのまま?」


「そう。そのまま。スターゲイトを取り込んだんだ」


 太朗の声に、集まる視線。


「確かに不可能ってわけじゃあないだろうけど……そういえば研究ステーション行きの小型スターゲイトが失われたって言ってたわよね?」


「ミス・マール、小梅も同様に記憶しております。が、例えスターゲイトそのものを手にしたとしても、一朝一夕に船へ組み込む事が出来るかどうかという疑問が残ります」


「"だな。いくらなんでもそれは無いだろう。スターゲイトはBISHOPで制御されてるわけで、ワインドにBISHOPは使えない。あるとすれば機械的に操作できるように改造だが、さすがにかなり時間がかかるだろう"」


 無線越しに会話へ参加しているアランに、納得の声を上げる3人。


「なにはともあれ、とりあえず軍に報告が良さそうだあね。さっさと……って、ダメか。ここ中央との接続圏外だ」


「そうね。急いでデルタへ引き返して、録画データや船体データごと報告するべきだわ」


「"ふむ……よし、テイロー。各種データのコピーを送ってくれ。俺がスターダストで一足先に届けて来よう。お前らは博士との接触や、必要ならステーションの防衛を手伝ってやってくれ。反対意見はあるか?"」


 アランの提案に反対する者はおらず、とりあえず目先の行動は決定となりそうだった。






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― 新着の感想 ―
これ、実弾兵器の存在を知ったワインドを逃したって事に… これが後々どんな状況に繋がるのかと思うと、怖いですね!
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