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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第2章 ライジングサン
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第37話

「"あら、それは僥倖じゃありません事? ぜひ手を結ぶべきだと思いますわ"」


 プラムⅡ管制室のモニタに映し出される、ライザの興味深げな表情。てっきり怒られるなり呆れられるなりするだろうと思っていた太朗は、肩透かしを食う。


「えぇ、と。向こうはマフィアなんすけど、いいの?」


 太朗の言葉に、訝しげな表情を見せるライザ。


「"質問の意味が良くわかりませんわ、テイローさん。マフィアと組んで一人前なんて言葉もあります通り、ユニオンの良い箔付けになりますわ。向こうから話を振ってきたという事は、恩返しのつもりなのかもしれないですわね"」


 ライザの肯定的な考えに、ううむとうなり声を上げる太朗。彼は今ひとつ納得できず、傍にいた小梅へと顔を向ける。


「なあ、小梅。俺が思ってるマフィアと随分様子が違うみたいなんだけど、もうちょい詳しい説明プリーズ」


 太朗の声に顔を向け、首を傾げる小梅。


「ミスター・テイローの持つマフィアのイメージがわかりませんので、一般的なマフィアについての情報でよろしいでしょか?」


「あぁ、そうだわな。それでよろしく。俺的にはあれだ。法律スレスレか、もしくは完全にアウトな商売をやって、一般人から怖がられてるイメージ。おうおうおめぇ、ちゃんとショバ代払ってんだろうなぁ、って感じで。わかるかなぁ?」


「なるほど。綺麗な女性に懇意にされ調子に乗って関係を持ってみれば、その実マフィアの情婦で強引に金銭をむしり取られそうなイメージでしょうか」


「おめぇぜってぇわかってるだろ!?」


 太朗の突っ込みに、肩を竦ませて手のひらを上へ向ける小梅。いわゆる「何の事だかわかりません」のジェスチャー。


「いえいえ、あくまで想像ですよ、ミスター・テイロー。そうですね、エンサイクロペディアギャラクティカによれば、マフィアは以下のように定義されています。"帝国法の影響が著しく制限される地域において、その一帯の維持管理を主に武力によって行う企業団体の構成員。帝国の許可を得た上で営業する企業をマフィアンコープと呼び、無許可にて運営される団体のアウトローコープとは区別される"」


「帝国の許可!? お上のお墨付きがあるんすか!?」


「えぇ、そうなりますね、ミスター・テイロー。銀河は広く、人類の生存圏は日々拡大しております。その膨張が帝国組織の成長速度を超えた場合、どうしても無秩序な領域が発生してしまいますからね」


「はぁ……その空白を埋める為の暫定措置って感じか。でも色々とヤバイ仕事をしてる所もあるんだろ?」


「そうですね。禁制麻薬の製造販売や人身売買。許可されたそれを超える権力の行使等、人から疎まれるような事をしているコープもあるようです。ですが、大抵の場合は必要悪として認知されているようですね」


「必要悪ねぇ……需要があるから供給されるってやつか。マフィアがやらんでも、誰かがやるっていう」


 太朗の言葉に、無言で頷く小梅。太朗は小梅から語られた内容にしばらく考えを巡らせるが、待ちくたびれた様子のライザに気付いて慌てて音量を上げる。


「ごめんごめん、お待たせ。マフィアについてなんとなーくだけど、理解したよ。ちなみにベラは発言権に20を要求してるんだけど、どう思う?」


「"あら、随分控えめですわね。一時的な加入と考えれば自然かもしれませんけど。そうなると、そちらが41のこちらが39でいいのかしら? それで構わないのでしたら、それでいきましょう"」


「りょーかい。それじゃユニオンとして可決って事で。さっそく送信しとくか」


 太朗はBISHOP上で簡潔な契約書を作成すると、プラムⅡのドッグへHADの搬入作業を行っているだろうベラへと送信する。


「テイロー、オーバードライブの改良、済んだわよ」


 もしユニオン加入を拒否していたらどうなっていたのだろうかと、あまり楽しくは無い想像をしていた太朗。そこへエンジンルームから戻ってきたマールが、額の汗をタオルで拭いながら発する。


「お疲れさん。その様子だとうまくいったみたいっすね」


「えぇ、これで長距離ジャンプが出来るはずだわ。やっぱり思った通り、構造的な問題で別々の電源を積んでたってわけじゃないみたい。クリティカルな装置への送電が止まらないようにって、一種の安全機構ね」


 マールは後ろへまとめていた髪をほどくと、ふうと息を吐く。


「でも、これで全電圧を好きにまわせるわ。研究用ステーションまでの距離でも、十分行けるはずよ」


 親指を立てて見せるマールへ、同じ様に親指を立てる太朗。研究用ステーションはここからかなり離れた場所にあり、本来は小型のスターゲイトを使ってジャンプを行う必要がある。しかしその小型スターゲイトはワインドの襲撃によって失われており、プラムⅡは自力で現地まで移動する必要があった。


「了解。でも全電圧て、そんな事しても大丈夫なん?」


 太朗はマールの"クリティカルな装置への送電"という言葉が気になり、質問する。それへ「うーん」とマール。


「一気に全電力を使う機会なんてそうそう無いんじゃないかしら。今回もジャンプの後、せいぜい5分かそこらをバッテリーの充電に充てればそれで済むはずよ。生命維持装置関係はさすがに予備バッテリーから持ってこれるしね」


 マールの言葉に満足した太朗は、短く「了解」と答える。


「そいじゃ、博士を救いに行くとしましょか……プラムⅡから各員へ。間もなく現地へ向けてジャンプをしまっす。準備はどうっすかね?」


「"こちらスターダスト。問題無しだ。いつでも出れるぜ"」


「"こちらブルーコメット。積み込みはとっくに終わってるよ、坊や"」


「"こちらブラックメテオ。準備は出来てる。早いとこ片付けようぜ"」


 支援機としてスターダストに乗り込んだアランと、新たに積み込まれたガンズアンドルールのHAD部隊。それぞれ3機ずつの隊長として、ベラとスコールの返事がすぐに返される。


「こちらプラムⅡ、各員了解。ほいじゃ、いきましょー」


 マールへと目を向け、無言で頷く太朗。



  ――"オーバードライブ 起動"――



「広域スキャン。ターゲットの検索。状況確認」


 オーバードライブによる移動が終了すると、すぐさまスキャンを実行する太朗。


「該当の大型建造物は400キロメートル前方。想定誤差の範囲内です、ミスター・テイロー」


「フレアの影響、デブリ量。共に問題無し、フィールドは安定してるわ」


 小梅とマール、二人の報告に頷く太朗。彼は「目標へ向けて全速」と短く発する。やがてそれから5分も経っただろうか、目標までの距離が半分を切った頃。太朗の見つめていたレーダースクリーンに、いくつかの光点が現れる。


「ん、出迎えってやつかね。識別信号への返信は?」


「無いわ。全部アンノウンよ。まあ、ワインドでしょうね」


「小梅もその可能性が高いと推測します。ところでミスター・テイロー。ひとつ、不可解な点が確認されました」


 小梅の声に、顔を向ける太朗。「いい報せ?」という彼の質問に「不明です」と小梅。


「広域スキャンの結果に、想定外の反応が含まれています。解析のエラーかと再度走査をしましたが、恐らく間違いありません。現地には、大型建造物の反応が"ふたつ"存在します」


 小梅の報告に、思考の沈黙が降りる室内。


「えっと、どういう事? 研究ステーションて2棟あるん?」


「否定です、ミスター・テイロー。それに大型建造物同士には、約150キロメートル程の距離が存在しています。連棟ステーションにしては、少々離れすぎでしょう」


「何かの小惑星を捕えたとか、そういう可能性は無いかしら?」


「それも否定です、ミス・マール。対象の建造物双方から、微弱な電波が検出されています」


「うぇ、んじゃ両方人工物か。なんだろ。サイズの特定は出来る?」


 太朗の声に「少々お待ちを」と小梅。しばらくの後、沈黙の流れる船内に再び小梅の声が響く


「両方共に、超小型ステーションサイズの建造物です。ひとつはアルファ星系研究用ステーションのそれと一致しておりますが、もうひとつはそれよりいくらか小さいようです」


 小梅の報告に、眉間へしわを寄せる太朗。


「うーん、なんだろ? 超小型つっても、船と比べりゃ遥かにデカいサイズだろ?」


「肯定です、ミスター・テイロー。質量的にも、この船の少なくとも10倍以上はあるようです」


 太朗は小梅の報告から想像出来る可能性をいくつか頭に思い描くが、どれもしっくりとした解釈は得られそうに無かった。どうやらマールも同様なようで、顎に手をあて考え込んでいる。


「わからないわね。何かしら……もうすぐ映像が届くわね。考えるより、見た方が早いわ」


 マールはそう言うと、管制室に備え付けられた大型スクリーンをあおぐ。太朗と小梅も彼女の動きに合わせ、視線をそれに向ける。

 やがて不鮮明な宇宙空間の画像がモニターに映し出され、数秒をかけてゆっくりと鮮明な絵へと置き換えられていく。解像度がより細かく更新される事で、最終的に現れた対象の姿。その姿に、管制室の一同は驚きの声を発する。


「なん、じゃこりゃあ……」


 あんぐりと口を開けたままで太朗。マールや小梅までもが同じ様な表情でモニターを見つめている。

 映し出されたのは、雑多な寄せ集めで作られた不可思議なオブジェ。巨大な鉄板や、船で使用されるカーゴ。ステーションの桟橋と思わしき突起から良くわからないアンテナに至るまで、おおよそ宇宙で使用されている人工物の全てをねりこんだかのような、奇妙で巨大な直方体。太朗が真っ先に思い浮かんだのは「巨大なワインド」と言うものだが、船に必要と思われる機構は見当たらなかった。


「いや、まじでなんすかこれ……」


 太朗はこちらへ進路を取り始めた光点の存在も忘れ、ただ呆れたようにスクリーンを見つめ続けた。





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