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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第14章 バトルオブザイード
242/274

第242話

 暴かれた非人道的な施設の存在と、それを大企業と呼べる規模のマーセナリーズが利用していたという事実。さらにはそれを明るみにしようとした小さな領域外企業連合が、隠蔽の為に宣戦を布告してきた彼らを打ち破ったという、センセーショナルな一連の流れ。

 それらはアルファ方面宙域の各マスメディアによって盛んに広められたが、しかしながら広大な銀河帝国全体に比べればわずか一地方での出来事に過ぎず、その影響はわずかなものだった。

 だが、会戦終了から数日後。それは一変した。


 巨人、動く。


 そう見出しされた情報が最初だった。そしてその後わずか数時間のうちに、おおよそ銀河帝国内における主要マスメディアのほぼ全てがこれを伝える事となった。ギガンテック社による宣戦布告は実に久しく、それは銀河に強烈な衝撃を与えた。


「違う! ライジングサンだ、ライジング、サ、ン! 知らんだと? んなこたわかってる! 他の仕事を全てほっぽり出しても構わんから、今すぐこの企業についてを全力で調べあげるんだ!」


 ギガンテック社がライジングサンアライアンス側に立って共同戦線を張るとの声明を出した瞬間、銀河帝国内の企業の内99%以上が聞いた事すらなかった地方の企業は、一躍銀河全土で名を知られる事となった。すぐに銀河中からアルファ方面宙域にスパイや人員が送り込まれ、膨大な問い合わせによる宙域ネットワークの切断が度々起こる事となった。


「はぁ? スターゲイトが84時間待ちだと? 他のルートはないのか。件のザイード方面は封鎖中だと聞くぞ。多少高くついても構わん。ホワイトディンゴのルートを使えないかどうかを問い合わせてみろ!」


 大量の人員流入により、帝国中枢領土と接するアルファ星系やホワイトディンゴの星域は、ステーションでの補給や入港料だけでも莫大な利益を計上し、今期の関税額は天文学的な数字となりそうだった。特に人が集中したアルファ星系は、ギガンテックグループのサポートがなければ確実にパンクしていただろう。


「えぇ、えぇ。そうです、同志ファントム。何人かの柄の悪い連中がそちらへ向かっています。情報を送りますので、参考にして下さい…………いえ、大丈夫です。自由勲章持ちの領域で好き勝手させるわけにはいきません」


 様々な思惑を持つ人間が集まれば、当然悪意を持った人間も集まってくる。しかし悪名高い連中は、ナラザ会による広範囲からの情報提供により、大部分が侵入を阻まれる事となった。そしてそういった者達のほとんどは高額の懸賞金をかけられており、アルファ方面宙域には腕に自信のあるバウンティハンター達が集まり始める事にもなった。


「銀河帝国領域外、当該領域において行われていた一連の非人道的行為に対し、皇帝陛下はこれを大変遺憾であると表明された。我々銀河帝国政府は陛下の意思の下、ギガンテックグループから申請された対マーセナリーズ宣戦布告申請、これをただちに認め、いくつかの彼らに課せられた戦闘行為遂行を妨げる法的な束縛を一時的に解除し、自由な行動を認めるものとする」


 会戦終了からわずか10日後。既に降参ムードが漂っていたマーセナリーズとその関連会社は、この銀河帝国政府の発表により完全に士気が崩壊した。五百万の人員と数千隻の大艦隊を大々的に向かわせたギガンテック社だったが、結局大規模な戦いが起きる事はなかった。決まりきった戦いに命を賭ける者などおらず、何をしても無駄な抵抗でしかなかった。そしてそんな事よりも、大部分のマーセナリーズ社員にとっては、今後の身の振り方の方が問題だった。この巨人によるいじめとも取れる状況も、平時であれば不買運動のひとつでも起きたかもしれない構図だったが、しかし政府発表と施設の存在により、ギガンテック社の思惑通り、銀河帝国市民からむしろ熱狂的に支持される事となった。


「結局お前が望んだ通りの結末になったわけだが、しかし楽が出来るとは思わない方が良いぞ。代償を支払う必要がある。世間の風当たりは相応に厳しいものとなるはずだ」


「もちろんわかってるとも。少なくとも傭兵部門は潰す事になるだろうな……いや、造船関連もか。まぁ、中古設備の売り込み先に宛てはある。なんとかなるさ」


 そんな会話が、マーセナリーズ本社の取締役室で交わされた。片方はエッタ、ヨッタと共にマーセナリーズの統括をしていた男で、もう片方は帝国軍大佐のディーンだった。男はマーセナリーズの兵器開発や傭兵派遣以外の部門を独立させるつもりであり、それはどうにかうまくいきそうだった。

 男はナラザ会の人間や帝国軍とは既に渡りをつけており、その動きは戦前から続けられていた努力の結果だった。男は戦争に勝てばそれはそれで良いと考えてはいたが、負けた場合のプランも準備しておくだけの冷静な思考も持っていた。マーセナリーズの莫大な内部留保金は賠償金として消え去ってしまうだろうし、多くの人員も去っていってしまうだろうが、しかし全てではない。男は例え小規模になってしまおうとも、何かに怯えながら経営を行う必要がなくなった事に感謝した。


「そうか。まぁ、こちらの心配はするな。お前の存在を揉み消す位はできるだろう。しかし、わかってるな? お前が我々に十分に従順でなくなったら、その時は銀河のどこかでお前と施設との関係がリークされる事になる。いいな?」


「あぁ。君らに逆らえばどうなるか、それを知らない程の馬鹿じゃあないつもりだ…………ふん。結局、手綱を持つ人間が変わっただけかもしれんな」


 マーセナリーズグループの一部が分割され、新たに兵站構築総合支援会社が設立される事は、一連の事件の関係者による戦後賠償についての首脳会談において、いの一番に決められる事となった。それは倫理的に納得がいかないとする者もいたが、しかし大多数の人間からすれば都合が良い事だった。いくら一部とは言え、それでも規模は十分に大きく、継続的に施設の住人や被害者と呼べる人々に対する支援や賠償を行う事が出来る組織が出来る事は重要だった。


「我々には、かねてより領土紛争の場となっていたEAPの一部領域を、ホワイトディンゴに割譲する用意があります。また、ザイード周辺宙域の領有権をライジングサンが主張するにあたり、これを全面的に支持します。被害者でもあり加害者でもある我々は、まずこの2点をもって両アライアンスに対する謝罪の意思表示としたいと思います」


 マーセナリーズの手先となっていたEAPの軍部を持つ責任者として、リンは首脳会談でそう発言した。もちろんこれは3者による裏取引の成果であり、何の反対もなく即決された。領土割譲など住民からすればたまったものではないし、今後ザイードから得られるだろう利益を考えるとEAP内部で猛反発が起きてもおかしくはなかったが、しかしEAPの傀儡化を救った英雄の判断に異を唱える者などいるはずもなかった。いまやリトルトーキョーとリン・バルクホルン個人の支持率は、彼の父が成し遂げた記録を大きく塗り替える程に高まっていた。


「我々帝国軍、及び銀河帝国政府は、この度のライジングサンによる英雄的な行動と、これまでの帝国に対する良心的な経営を鑑み、アルファ方面宙域における銀河帝国直轄領をライジングサンへ割譲する事で報いる旨を決定した。汝ライジングサンは帝国政府認定辺縁部企業マフィアンコープとしてこれを良く運用し、納税する事で奉公とせよ」


 既に将軍への内定が決まっているディーンが、帝国政府の代表としてそう発表した。彼は結果的に大事件となったこの騒動に軍が関わっているという実績を残す事に成功し、それを大いに評価される事となった。さらには帝国軍のコーネリアス派が中心となって行われていた帝国軍辺縁部再進出を頓挫させる事にも成功し、彼はもはやラインハルト派の中心人物のひとりであると見なされていた。


「了解しました。全力を持ってこれにあたります。なお我々ライジングサンは、本案件において大幅に増加した領域を再編する必要性があると判断し、ホワイトディンゴ、及びEAPに対し、一部地域の支配権委譲を提案します。また、全面的な協力を惜しむ事なくして頂いたギガンテック社に対し、一部商品の独占販売権をもって感謝とします。あと、リンと俺とは、変わらずずっ友です」


 ライジングサンはそう提案し、これも受け入れられた。何の提案もせず、それぞれの案を容認するとだけ発表したディンゴが独り勝ちをしているようにも見えたが、しかし彼はそれらを受け取るに値するだけの行動をしたし、これは互いにメリットがあった。今後はアウタースペースの奥に向けて開発が進んでいくだろう事を太朗達は当事者として把握しており、紛争地帯など正直邪魔なだけだったからだ。

 なお、ずっ友という謎の言葉に各メディアは混乱し、太朗はマールにこっぴどく叱られる事にはなったが、その後アルファ方面宙域流行語大賞を取る事には成功した。


「それぞれの意思を尊重し、我々ギガンテック社は責任をもって戦後処理にあたる事をこの場に誓います」


 そして最も重要なマーセナリーズの処遇については、ギガンテック社に一任される事となった。彼らがケチな決断を下すとも思えず、また、マーセナリーズ程の規模の企業に対する戦後処理のノウハウなど、誰も持っていなかった。さらに言えば、結局の所マーセナリーズはまだまだ戦えるだけの力も気力も残しており、戦いがここで終了したのはギガンテック社という存在があるからに他ならなかった。


 そして首脳会談よりひと月後。アルファ宙域企業連合及びギガンテック社による終戦条件が提示され、マーセナリーズは正式にそれを受諾する事となった。長い戦いは幕を閉じ、アルファ方面宙域にはようやく平穏が訪れた。


 しかし誰もがそうだというわけではなく、むしろここからが本番とさえ言えた。


 マーセナリーズ元社長であるエッタが、ようやくニューエデンと呼ばれる施設についてを語り始めたからだった。




ようやく第14章も終わりとなりました。長かった……

新章はもっと落ち着いた、しかし物語の核心に迫る章となる事でしょう! はず! といいな!

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