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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第14章 バトルオブザイード
221/274

第221話

なんか、予約投稿ミスってたみたいで、あがってしまいました。

もういいやこのままd

「"繰り返す。我々マーセナリーズ派遣艦隊は、それを運用する全権利を本社より委譲されたソド・マイアーズ警備部長、派遣艦隊提督の意思の元、ライジングサンアライアンスの主張について、これの説明を受け、検討、考察し、今後の動向を変更する用意がある。その為にザイード南部方面宙域派遣軍、及びライジングサンアライアンス同盟軍との間に現在行われている戦闘行為をただちに停止し、帝国政府民間軍事法の緊急停戦条項に基づき、停戦の要求をするものとする。なお――」


 スピーカーから流れる、マーセナリーズ第2艦隊からの広域通信。既に何度も流されているそれを、太朗はマールや小梅らと共にプラムの艦橋で静かに聞いていた。


「――同ソド・マイアーズ提督とそれの副官の2名を特使としてライジングサンアライアンス同盟軍向けに派遣するものとする。小型船にて交渉へ向かい、対デブリ用防衛兵装、及び対粒子防衛兵器を除き、これは全ての武装を所持しない。これへの攻撃は控えたし。また、この通信はその意思を裏付けるものとして、ライジングサンアライアンス議会、マーセナリーズ本部の双方、及び第三者組織として、銀河帝国政府、ギガンテック社統括機関、帝国戦時法弁護協会のそれぞれに同時送信するものとする。繰り返す。我々は――」


 太朗は船内スピーカーの接続をオフにすると、ぽかんとした表情でレーダースクリーンへと目をやった。そこには敵の言う通り、盛んにビーコンを発し続ける小型船の姿が描かれていた。


「……いやいや、まじで停戦? い、いいの?」


 とても信じられないと、マールの方をみやる太朗。調査班の報告待ちをする身としては、願ったり叶ったりの要求としか思えなかった。


「いいも何も、向こうから言ってきてる事よ。小型船以外は本当に機関停止してるみたいだし」


 何か納得がいかないのか、マールが口をとがらせながら言った。太朗はマールの言葉を受けてレーダースクリーンを確認すると、確かに敵側の船は「静止」と表示されていた。


「どうなっかわかんねぇけど、こっちも一応止めとくか…………そいやベラさんの予想だと、第2艦隊との決戦に調査終了は間に合わないって話だったよな。もしかしたら、これで変わるかもしんねぇぞ?」


 太朗は期待を込めてそう呟いた。どれくらいの期間を停戦するのかはこれからの交渉次第だろうが、流れによってはそうなってもおかしくなさそうだった。


「…………小梅?」


 先ほどよりだんまりのままの小梅へ向け、太朗が声をかける。それを受けた小梅は「ふむ」と鼻を鳴らすと、普段あまり見せないような厳しい表情を見せた。


「これは、してやられましたね」


 レーダースクリーン上の小型船を指差す小梅。太朗は小梅の表情から何か深刻な事態が起きたのだと判断し、彼女の方へと歩み寄った。


「なんかまずいんか? 俺にはすっげぇ好都合に思えるけど」


「いいえ。否定です、ミスター・テイロー。敵は随分と悪知恵が働く相手のようです。我々は正直、かなりの苦境に立たされる事になったと推測します」


「ちょ、ちょっと待って。どゆこと? 俺にもわかるように説明してくれ」


「えぇ、もちろんですとも、ミスター・テイロー。まずはこちらをご覧下さい」


「こちらって、や、ちょっ」


 急に地面からせり上がる大型スクリーン。危うく巻き込まれそうになり、転倒する太朗。マールも話を聞きたいのだろう、ふたりの元にやってくる。


「帝国政府民間軍事法の緊急停戦条項には――」


 スクリーンに表示された文字列を指さした小梅が、氷のような視線で太朗を見下ろしつつ口を開く。太朗はその鋭利な感情が自分に向けられているものではないとわかりつつも、背筋に冷たい物が走るのを感じた。


「緊急停戦の交渉中における様々な拘束事項が記されておりますが、その中で今現在の我々に重要なのは3点です。これはおわかりですね?」


「あ、あぁ。わかる。軍事の知識はいつかオーバーライドしたからな。まずは、当然だけど攻撃的行為の中止。次はお互いの位置関係の固定。つまり有利位置への移動禁止だな。最後は、なんだろ。緊急避難か?」


「素晴らしいお答えです、ミスター・テイロー。今現在我々は敵の追撃部隊に対するオペレーションバイブストームを実施し、これに手痛い打撃を与えた所です。いくつかの船は航行不能に陥り、敵はこれを乗組員もろとも放棄するか、それとも時間をかけて救助する必要に迫られています。向こうはどう動くと思いますか?」


「今までの向こうの動きを見るに、ちゃんと救助するんじゃねぇか? でもよ、助けるのは停戦が終わってからだろ。位置関係の固定があるから、機雷原……って言っていいんかな。バイブ原の中にある船を動かすのは明らかにアウトじゃねぇか」


「えぇ、えぇ、その通りです、ミスター・テイロー。しかし、船を動かさずとも、彼らを回収する術があるではありませんか」


 小梅がぐるりと顔を巡らし、太朗の顔を見つめてくる。太朗は何のこっちゃと考えを巡らせようとするが、それより先にマールが「あっ」と声を上げた。


「嘘でしょ? 向こうは船を捨てるつもり?」


 眉を顰めたマールが、信じられないとばかりに言った。太朗はマールの言葉の意味を考えると、同じようにまさかといった表情になった。


「緊急避難の規定……要救助者や負傷者は停戦中に回収しても構わねえってやつだ。あえてバイブ原に突っ込むとか、船を爆破するなりなんなりして、乗組員全部要救助者扱いにしちまおうってのか? いやいや、正気じゃねぇぞ?」


 船一隻あたりの値段を考えると、太朗にはとても信じられるような事ではなかった。電子戦機の存在も含めて考えると、総額はライジングサンの保有する全艦隊の1割近くに相当すると思われた。


「時間を金銭で贖ったと考える事も出来ますよ、ミスター・テイロー。人命がかかっていないのであれば、それはあくまで経済的な話にすぎません」


 小梅はそう冷たく言い放つと、太朗の反応を待つように静止した。太朗は腕を組んで唸り声を上げると、「だとしても」と前置きをして続けた。


「破棄した船の戦力分、俺達が得したって事になるんじゃねえか? 停戦なしの場合はそのまま普通に戦わなきゃならんわけで、それにかかる時間を考えっと、時間的な利益が向こうにあるようには思えねぇんだけど。例え救助後に停戦を破棄するとしてもさ」


 20隻近い船がこちらを抑え込めるだろう時間と、人員の回収にかかる時間。それらが致命的なまでに違うとも思えず、また、戦うのであれば相手側に当然被害が発生する。太朗からすると、戦う方があらゆる面でずっと得なように思えた。


「いいえ、向こうは停戦を破棄しないと思いますよ、ミスター・テイロー。敵は要救助者の救出作業を、かなりの余裕を持って行うものと思われます」


 澄まし顔の小梅が言った。それに「はぁ?」と首を傾げる太朗。そこへマールが「ねぇ小梅」と割って入ってくる。


「それじゃあ言ってる事が矛盾してるわ。向こうは時間を優先したいわけで、その為の停戦要求じゃないかって話でしょ? それこそ死にもの狂いで急ぐんじゃないの?」


「いいえ、ミス・マール。急ぐ必要はないのです。なにせ停戦するわけですから」


「や、だから――」

「ミス・マール。古典物理学の基礎を思い出して下さい。相対性原理です」


 マールの声を遮り、小梅が朗々と言った。マールはしばらく無言で小梅を見つめていたが、やがて大きく目を見開くと、かぶりつくように大型スクリーンへと顔を寄せた。


「あのー、すいません。何がどうなってるんでしょうか? 出来れば俺にもわかるように説明して欲しいんすけど」


 太朗が学生のように手を上げて言った。それに対する答えはしばらくなかったが、やがてマールが顔を上げ、太朗の方を見やった。


「進んでるのよ、テイロー。敵の艦隊は確かにエンジンを止めたけど、でも、進んでるの」


 深刻な表情のマール。太朗はマールの見ていたスクリーンを同じように見上げると、訝しげな表情を見せた。


「いや、止まってるだろ。出力はどう見てもゼロだし、レーダーに変化もねぇぞ。ジャミングか?」


「違う。そうじゃないのよテイロー。宇宙空間で、厳密な意味で静止する事は出来ないの。あらゆるものは相対的なのよ。各々が違うベクトルを持っていて、その長さ、つまり速度っていうのは、どこから見たかによって変わるのよ」


「…………なんのこっちゃ?」


「んもう! いい? 確かに私達はお互いの位置関係を保ったまま、エンジンを停止したわ。でもね、それって単に"加速を止めた"だけなのよ。それまでの加速がなかった事になるわけじゃないの。私達から見れば確かにお互いは止まって見えるけど、目的地から見ればそうじゃない。敵味方含め、艦隊丸ごとが近づいてきてるって事!」


「……あーっと、ちょっと待て。なんとなくわかってきたぞ。これは、あれだ。電車に乗った二人がお互いに歩くのを止めても、電車自体は動いてるってやつだな? 宇宙だから摩擦や何かの減速がないんで、アクセル切っても速度が落ちねぇと」


「そうよ、テイロー! ちょっと違うけど、考え方としては合ってるわ!」


「うへへ、俺だって馬鹿じゃないんだぜ…………って、到着したら破棄するって事!? それなんかズルくね!?」


 マールの方へ向け、体を乗り出して叫ぶ太朗。それに「ち、近いわよ」と顔を赤らめて抗議するマール。彼女は太朗との距離を少しとると、「法的には問題ないはずよ」と言い、「腹立たしいけど」と続けた。


「そっか……あいつら、だから回頭して加速しやがったんだな。今の内に全力で速度を稼いじまえって腹だ。やめやめ! こんな停戦受けてたまるかっつーんだ!」


 受けたところでこちらに何の利益もないと、拒否の文言を考え始める太朗。しかしそこへ、小梅の声が割って入る。


「それが可能ですか? ミスター・テイロー。敵は"わざわざ"各方面へ向けての放送を繰り返しているのですよ?」


 首を傾げる小梅。太朗はBISHOPの操作を止めると、小梅の方へ顔を向けた。


「こちらから一方的に停戦要求を跳ね除けるとして、議会をどう説得なさるおつもりですか? この戦いに注目している少なくない数の帝国市民に対しては? 我々が正義の側に立っているという前提で、施設の全容を暴く為に戦っているからこそ、周囲の協力や理解を得られているのです。しかし敵は我々の主張に耳を傾ける用意があると言い、無防備の提督を派遣するという覚悟まで見せました。その為のパフォーマンスとはいえ、まだ停戦の交渉すら始まっていないにも関わらず、既にエンジンの出力さえも落としています。これを拒否する行為が、いったい彼らの目にどう映る事でしょう。法的には、恐らく拒否した所で罰則に値するとは思えません。しかし、そんな事が政治的に可能ですか?」


 いくつもの疑問を投げかけてくる小梅。太朗が何も言えずに固まっていると、彼女はさらに続けた。


「アウタースペースなのだから帝国法など破っても良い、という考えも捨てた方が良いでしょう。我々は今更そんなアウトローを気取る事は出来ませんし、帝国への正式な要請があればしかるべき機関が目をつけるはずです。あのディンゴでさえ、かつてはそれに従った位なのですから。そして最たるは、ギガンテック社の動向です。彼らの行動原理は、己が評価を世間に知らしめるという点であり、我々を助けたいという気持ちではありません。彼らからすれば、別に悪役が我々であっても構わないはずです」


 ひと通りを言い終わったのか、黙り込む小梅。もの音ひとつしない艦橋。太朗は目頭を擦って考え込むと、しばらく後に口を開いた。


「慣例からすっと、お互いに歩み寄る形で速度を決めるんだっけか…………くそっ、まじいな。あんま時間がねぇ……なんとかこう、例の施設付近へジャンプ可能な位置を、戦いの有利位置として定義できねぇかな?」


 太朗の提案に、小梅がゆっくりと首を振った。


「可能不可能であれば、可能です。しかし考えてもみて下さい。彼らは、あの施設が攻撃対象であると公には認めてはいないのです。あの施設が、戦術、ないしは戦略的な目標であると証明しなければ、このような状況下では周囲を納得させるのは難しいでしょう。これは逆説的な言い方になりますが、それを証明する為に今こうして我々は戦っているとも言えます」


 感情のない小梅の声。太朗はため息をつくと、項垂れた。


「でも……このまま現地に向かうのを、指を咥えて見てろっていうの?」


 太朗に対する小梅の答えを受け、マールが苛立たしげに立ち上がって言った。


「いいえ、そんな事はありませんよ、ミス・マール」


 マールの方を見やり、否定の言葉を発する小梅。彼女は冷たい表情の上ににやりとした笑みを浮かべると、言った。


「我々の主張が真実であると、敵の司令官を説得してしまえば良いではありませんか。そうすれば、我々の勝利です。これは休戦というより、むしろ異なる形での戦いが始まったと、そう考えるべきではないでしょうか。小梅は先ほどの発言を訂正致します。苦境に立たされたのではなく、チャンスが訪れたと考えるべきでしょう」




読者の方々の反応から、一部本文中の説明等に不備があると判断し、

要所要所に修正を加えてあります。


1:マーセナリーズ側がエンジンを停止したのは、停戦(ないしはその交渉)が成ったからだと思わせないよう、いまだ戦闘中であり、パフォーマンスである旨の追記。


2:同様に、これがアンフェアな停戦要求であり、法的根拠が薄い旨の追記。太郎達が交渉に乗り出さざるを得ないのは、あくまで置かれた立場上の問題という点。


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