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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第14章 バトルオブザイード
215/274

第215話

投稿遅くなり、真に申し訳ありません。 orz




「巡洋艦、大破2、中破3、小破11。シールド艦がふたつやられましたので、いくつか陣に穴が開きますね。戦艦ドルチモネは小破判定ですが…………」


 被害報告を読み上げるマーセナリーズ派遣艦隊提督ソドの副官が、難しい顔をしたままのソドへ向かってちらりと視線を上げた。


「放棄するしかないだろうな。あれの修理に時間を費やすわけにもいかん」


 ソドが苦々しい顔で言った。

 戦艦ドルチモネの推進系機構は簡単に着脱交換の出来るモジュール互換ではなく、専用のパーツを必要とするものだった。現在彼らが最も優先すべきは時間であり、残念ながらドルチモネを救っている暇はなさそうだった。


「それより第二波に対する備えを急がせろ。各艦隊を密集隊形に。このまま包囲を続行する」


「了解です、提督。ドルチモネに退艦命令を出します。しかし迎撃はそれなりに成功したと思われますが、次が来ますかね?」


「わからんが、空母にしては爆撃機の数が少なかったのが気になるな」


 ソドは高速でリプレイされる先ほどの襲撃を写したレーダースクリーンを睨みつけると、「俺であれば」と前置きをしてスクリーンを指さした。


「相手が空母の存在を知らず、対策が取れないでいるだろう第一波に全打撃力を投射する。味方の被害を押さえられるし、最大戦果も望める」


「向こうが、我々が空母の存在についてを知らなかった事、それ自体に気付いていなかった可能性はありませんでしょうか?」


「相手が余程のぼんくらであればそれも有り得るかもしれんが、まずないだろう。我々の艦隊が対空防御に気を払っていなかった事は、それこそ広域スキャンの結果を見ればすぐに判断が出来たはずだ」


 ソドは今もなお激しく交わされる砲撃戦の様子をちらりと確認すると、ため息交じりに呟いた。


「通常であれば、空母の存在を秘匿するなど不可能だ。あまりに大勢が関わるし、存在感が大きすぎる。アウタースペースという僻地である事もあるだろうが、よほど優秀な防諜ネットワークが張り巡らされているんだろう」


 マーセナリーズの抱える情報部は、彼を含む現場からすればおせじにも優秀とは言い難かった。時折目が飛び出るような貴重な情報が降りてくる事もあったが、それは恐らく会社代表ふたりの能力によるものだろうと彼らは考えていた。


「向こうにはあのファントムがいますしね。それに情報部もかなり出来るようです。アランという代表が管理しているようですが、軍のネットワークに侵入した事もある筋金入りのハッカーのようです」


「レポートにもそうあったな。人材が豊富で羨ましいものだ」


 ソドはため息まじりにそう語ると、たった今敵側の巡洋艦に大破判定が降りたのを見て、誰にも見えないように小さくガッツポーズを取った。


「やはり砲撃戦では我々が優勢ですね。数の力は嘘をつきません」


 ほんの少し前に、相対する規模からすれば屈辱的とも言える一撃を喰らったばかりにしては、実に冷静な様子のままの副官が言った。


「6対1で負けるようなら、俺は潔く廃業するさ…………展開、焦らず急げ! 相手を数で押し潰すんだ!」


 ソドは全艦艇へ向けてそう激を発すると、艦隊群司令官が座るにしては窮屈な座席――高速艦ならではだ――へどさりと納まった。彼はそこで鷹揚にあごへ手をやると、繰り返され続けている爆撃機による襲撃のリプレイを細目で眺め見た。


「………………」


 こつこつと、かかとでリズムを取るソド。彼は50近い年齢に相応な幾多もの戦いを経験してきている、いわゆるベテランだった。彼は理屈に合わない事や精神論といったものが嫌いだったが、時には勘に頼る事もあった。経験に裏付けされた勘というのは、脳が表だって論理的に処理する情報から漏れた何かを、無意識のうちに組み上げた結果だと信じていた。


「何か…………何かあるはずだ」


 そして今現在、彼の勘が警笛を鳴らし続けていた。空母による奇襲は確かにあったが、それで終わりなはずがないと叫んでいた。


「敵空母、再度10以上に分離! 第2波が来ます!」


 警戒担当官の叫ぶような声。ソドは「来たか」と腰を上げかけるが、肘かけにおいた手に力を込めたままの姿勢で固まった。


「まさか…………」


 ソドは目を見開くと、警戒担当官が指摘した敵空母を表すレーダースクリーン上の表示を凝視した。


「どうする。どっちだ?」


 ソドは自らの勘が送り届けてきた可能性を吟味すると、どうやら大きな決断が必要らしい現実に、胃から込み上げる何かを感じた。決断如何では多くの仲間が失われる事になるだろう。そしてわずかな時間の間に決断を下さなければならなかった。


「敵分裂体、空母ジャンプ軌道に乗ります!」


 迷うソドを煽るかのように、警戒担当官が焦った声で言った。ソドはぎりと歯を食いしばると、全艦艇へ向けた直通回線を開き、ゆっくりと大きく息を吸った。


「全艦隊、散開せよ!! 繰り返す、全艦隊散開せよ!!」


 叫ぶソド。それに対し、彼の副官が怪訝そうな顔を向けて来る。


「提督、散開しては敵爆撃機の良い的では?」


「そんな事はわかっている! いいから急がせろ!」


「…………了解です、提督」


 副官は「知りませんよ」とでも言いたげな顔だったが、命令通りに調整を始めたようだった。ソドはその様子を確認すると、後は腕を組んでじっとその時を待った。


「複数の空間予約を確認。敵、ワープインします!」


 警戒担当官の声。ソドは目を閉じると、続きを聞き逃すまいと意識を集中した。


「敵爆撃機、数は30…………て、訂正します。飛翔体の数は30! 爆撃機ではありません! ワープインしたのは…………恐らく、大型の弾頭と思われるものです!」


 続けられた報告に、ソドは勢い良く「よおしっ!!」と歓喜の声を上げた。


「シールド艦を除き、全てフィジカルシールドへシフト! ジャミングはシールド艦へ向かう弾頭に集中! 落しきれない弾頭は最大装甲厚部位で受けろ! 既に船を旋回させるスペースくらいは用意出来たはずだ!」


 大声で指示を飛ばすソド。彼は知らぬ間にじっとりとかいていた額の汗を手の甲で拭うと、賭けに勝った自分が浮かれぬよう、頬を強く叩いた。


「何もかもが、お前の思い通りになるとは思うなよ」


 ソドは敵旗艦がいる方角へ顔を向けると、人差し指を突き付けてそう言った。




「あ、あれ? 敵さん、散開し始めてんな……」


 爆撃機を敵地へ送り届けるのと同様の空母能力を用い、レールガンの弾頭をジャンプさせたばかりの太朗が、困惑しながら言った。


「残念ながら読まれていたという事でしょう、ミスター・テイロー。やはり侮ってはいけない相手のようですね」


 いつも通りの無表情だが、少し目を細めた小梅が言った。太朗は「侮るもなにも」と前置きをすると、BISHOPに記録された敵の人材リストを確認した。


「経歴だけで言えば、俺なんかお話にもなんねぇぐらい優秀な司令官だろ…………あぁっ、くそ! こりゃ駄目だな」


 話ながらもいつも通りの弾頭制御で攻撃を行っていた太朗だったが、あまり芳しくない戦果に歯噛みした。弾頭との間で交わされる、わずかではあれど馬鹿には出来ない距離によるBISHOP通信の遅延と、敵の過剰なまでの対空砲火が原因だった。


「でも巡洋艦3つに手痛い一発をお見舞いしたじゃない。たった一度の攻撃にしては上出来だし、それにほら――」


 プラムへ飛来するビームへのジャミングを行っていたマールが、そう言って大型戦術スクリーンの方を指さした。


「弾頭に意識が向いてる分、他の船による有効打が増えてるわ。これだけ数の差があるのに、互角かそれ以上のペースよ…………まぁ、互角じゃ駄目なんでしょうけど」


 興奮気味に語り始めたマールだったが、後半に行くと消沈する。太朗は「そうなんよねぇ」と同意すると、どうしたものかと考え込んだ。


「相手の5倍以上は戦果を出さないと、全体としては負けてるわけだしな…………にしても、どうすっかな。欲を言えばもうちょい叩いておきたい所なんだけど、マールの言う通りこっちの損害も馬鹿になんねぇ。包囲される前には逃げなきゃだけどさ」


 じわりじわりと締め付けてくる包囲陣形は、太朗の胃に対して非常に強い攻撃を加えてきていた。大艦隊による包囲が完成すれば太朗達の壊滅は避けられず、それは事実上のタイムリミットだった。


「足止めとしてはもう十分なんじゃないの?」


「いや、微妙。艦隊を分割されると駄目だな。あっちはそれが出来るだけの数がいるし」


「脱落した仲間をこの場へ置いてくって事? 中央の会社がそこまでするかしら」


「うーん、向こうさんの覚悟次第だな。正直わかんねぇ。だからこそもうちょい叩きたいって感じなんだけど」


 各種操船作業をしつつも、ああでもないこうでもないと話し合う太朗とマール。ふたりはしばらくの間をそうしていたが、やがてそれは中断される事となる。


「だめっ!!」


 突然発せられた大声。ふたりが何事かと顔を巡らせると、恐らく勢いよく立ち上がろうとしたのだろうか、安全ベルトを邪魔そうにどかしているエッタの姿が。


「エッタ、どした? おしっこか?」

「黙れこの変態野郎! 静かに星の数でも数えてろ!」

「ひ、ひぃぃっ、ごめんなさいっ!?」


 叫ぶように太朗へ一喝するエッタと、びくりと身を引きつつ素早く謝る太朗。彼はシートの上で彼女の様子に驚きつつも、黙って続きを待つ事にした。エッタの口調がそうなる時は、精神的に不安定になっている時か、もしくは何かにキレている時だと知っていた。


「…………多重波…………焦点…………探してる?」


 うつろな目でどこか遠くを見つめながら、ぶつぶつと呟くエッタ。太朗はちらりとマールや小梅に目配せをしたが、ふたりとも無言で首を振るだけだった。


「偽装……右……それとも左?」


 シートの上で丸く縮こまり、不機嫌そうに眉間へしわを寄せているエッタ。やがて彼女ははっとした表情で顔を上げると、太朗の方へ見開いた目を向けてきた。


「テイロー、船を右に転回して!!」

「えぇっ? いや、別にいいけど何で?」

「いいから急げボケナス!! 今すぐ右だっ!!」

「あ、アイアイ!! プラムは正面以外はそんなに固くねぇんだぞ…………」


 ぶつぶつと文句を言いつつも、エッタの気迫に負けて操船関数を操作する太朗。しかし旋回速度のパラメータを出力50%と代入しようとした所で、脳裏に描き出されたBISHOPの未来情報に思わず目を見開いた。


「こ、小梅! スラスタ出力全開!! インド人を右に!!」

「既にやっておりますよ、ミスター・テイロー」


 叫ぶ太朗。冷静に答える小梅。船体がカタログスペックを超えた速度での旋回を開始し、生まれた遠心力に歯を食いしばる一同。


「ちょっと、いきなり何で――」


 文句を言うつもりだったのだろう、振り向きながらそう口を開くマール。しかし彼女が発しようとしたのだろう疑問の答えは、レーダースクリーンにはっきりと描き出されていた。

 四方八方から同時に襲い来る、大量のビームの群れ。

 しかもそれら全てが、プラム目掛けた正確な衝突軌道を描いていた。


「おいおい、全部照準合ってんぞ…………派手にジャミングもしてんのに、どうやって座標合わせてんだよ」


 険しい顔でぼやく太朗。

 しかしその問いに答える者はいなかったし、なによりそんな時間はなさそうだった。




エタってるわけじゃないんです。

ただ、ちょっと忙しすぎるんです。

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