第214話
更新遅くなってしまい、申し訳ありません。
キリが良いので長めの1話です。
甲高い音と共に、狭いコクピットへ振動を運んでくるエンジン音。プラム艦載爆撃隊キャッツのエースであるカト族のタイキは、その音だけでエンジンの調子がまずまずである事を把握した。
「上々だな。悪くねぇ」
ヘルメットの穴からはみ出したカト族の持つ大きな耳がピコピコと揺れ、上機嫌に踊る。彼は小さく鼻歌を歌いながら慣れた手付きでひと通りの船体チェックを済ませると、無事に帰ったら今回の出撃手当で何を買おうかなどと考えていた。
――"母船:発進準備 スタンバイ"――
タイキはBISHOPに流れる文字列を確認すると、彼の率いる10の無人機を眺め見た。見た目的にはほとんど変わらないそれらだが、良く見るとコクピットの中身が通信用の機器で埋まっているのがわかる。ドローンはそれ単体ではBISHOPによる予測動作を行う事が出来ないが、自機を戦艦プラムとの中継に用いる事で疑似的にそれが可能となっていた。
「40機分の未来機動を並行処理か…………最適化プログラムの助けがあるとはいえ、やっぱバケモンだな」
彼はそんな中継システムの中央演算装置となる社の代表を思い浮かべると、そう軽口を吐いて彼なりの尊敬の意を表した。
「"社長の事? まあ、普通じゃないよね。そういえば社長が探してた星が見つかるかもって探索チームの連中が騒いでたけど、本当かな。もしそうなら社長の言ってたネコって動物を早く見てみたいな。本当に僕達と似てるのかな?」
通信機より同僚であるチャーの声が聞こえてくる。タイキは「興味ねぇな」とそれに返したが、実際の所は少し気になっていた。
「"猫の手も借りたい、っつー言葉の猫がまさにそれから来てるって言ってたねぇ。役立たずの代名詞になるくらいだから、あんまり人類とは仲良くないのかも」
最年長であるユキの声が言った。タイキはそれに頷くと、「猫に小判なんて言葉もあるぜ」と皮肉気な声色で言った。
「"おい、ドンパチ始まったみたいだぞ。そろそろ気を引き締めておけ"」
ヘルメットのバイザーディスプレイにチームリーダーであるゴンが現れ、カメラの方へと肉球を振り上げてきた。各々の了解の声が通信上に流れ、タイキも同じようにした。
「"状況をしっかり頭に入れておけよ。お守りは御免だからな"」
「あんたを保護者だと認めた覚えはねぇなぁ、ゴンお父さんよ。上の様子は見えてるし、いつでも突っ込む準備は出来てるぜ。それより後でボスに言っておいてくれ。新型ヘルメットは悪くねぇが、ベルトはもっと通気性が良い素材にしてくれってな。蒸れてたまんねぇよ」
「"あぁ、こいつか。確かに蒸れるな。要望書に書いておこう"」
「頼んだぜ。あんまりに酷いんで爆撃に集中出来ねえって書いときゃあ、次には直ってんだろ…………くそっ、ジョークになんねぇな。本当にむず痒いぜ」
タイキはシートの上で身悶えると、後ろ足で首元を大雑把に掻いた。抜けた長い毛が無重力の船内をふわふわと浮かび、やがてエアコンへと吸い込まれていく。
――"母船:発進準備 ベイ解放"――
コクピット内の照明がゆっくりと落とされていき、ほとんど真っ暗に近い状態となった。タイキは意図的に瞳孔を大きく開くと、モノクロだがはっきりと見えるコクピット内で機体の最終チェックを行った。
「決めたぜ。帰ったらまず整備班全員に一杯奢る。今日のは5つ星だ」
タイキは調子の良い機体に満足すると、ゆっくりと開いて行くドローンベイの様子を見つめた。上下に分かれる扉の向こうから光が差し込み、視界が真っ白に染まる。彼は片方の目だけ瞳孔を細く絞り込むと、明るい世界と暗い世界の両方をうまく頭の中で合成した。
――"カタパルト射出 スタンバイ"――
――"リダイレクト レディー"――
機体ががくりと揺れ、カタパルトに接続された事を知る。タイキは肉球をぺろりとひと舐めすると、ボール式の操縦装置へと手を置いた。全操作をBISHOPで行う事は可能だが、大抵の爆撃機には機械式の操縦装置もついている。近接攻撃機には、故障が起きた際に修理を行うような時間的余裕は全くない。
「"よし、行くぞ。仕事の時間だ"」
ボスの声に続き、ベイに取り付けられた5つのランプが赤く点灯する。それは2秒にひとつずつ数を減らしていくと、やがて発進を示す緑の点灯へと切り替わった。
――"カタパルト射出 実行"――
磁気フック式のカタパルトに引かれ、爆撃機が急加速する。普通の人間であれば気を失いかねない強い加速を、タイキは平然としたまま受け入れた。カト族は人間のような強い力も器用な指も持たないが、代わりに高い反射神経と敏捷さを持ち、そして何より環境変化に強い身体を持っていた。
「"射出と同時にコールしろ。いつも通りだ"」
あっという間に戦艦プラムの外へ吐き出され、一列になって宇宙を駆ける44機の爆撃機。球形の船体が恒星の光をぬらりと反射し、カト族の耳と同じ形をした機体上部のセンサーが独特のシルエットを作り出す。機体にぶら下げる形となる長細いビームランチャーは、まるで葉巻を咥えたカト族のようだとタイキは常々思っていた。
「僚機異常なし。射出はスムーズ。視界クリア。通信強度に変化はなし。お前らのは――」
タイキが首をぐるりを巡らせると、顔の向きと連動して映し出される船外の映像に仲間の機体が映し出された。タイキはそれをズームして観察すると、「異常なしだ」と続けた。
「"…………各機了解。操縦をオートに切り替える…………よし、社長。こっちはOKだ。飛ばしてくれ"」
――"機体制御 システムオート:空母誘導"――
爆撃機の操縦が空母に委ねられ、機はゆっくりと円を描き始める。やがて一周して戦艦プラムの方を向く形で落ち着くと、カタパルト射出と同様の強い加速をし始めた。
――"空母誘導 マイクロオーバードライブ:スタンバイ"――
戦艦プラムの後方。すなわちタイキ達の駆る爆撃機前方に空間のゆらぎが発生し、青い光のもやが生まれる。タイキは途切れる事のない加速にうんざりしながらも、空母が空母たるゆえんとなる小さなスターゲイトと化したプラムがぐんぐんと大きくなっていく様を眺め見た。
「"慣性の引き付けに気をつけろ! 相対加速が遅すぎる場合はすぐにドライブバックだ!"」
――"機体制御 システム:マニュアル 遅延:5秒"――
「その台詞は聞き飽きたぜ、ボス! もうちょいマシなのはないのか!」
――"ドローンリンケージ 確立:システムスタンバイ"――
「"次までに考えておく。聞きたければ次回まで生き残るんだな"」
――"空母誘導 マイクロオーバードライブ:起動"――
眼前が青白い光に包まれ、浮遊感が襲い、そして光りと共に消え去る。わずか1秒にも満たないオーバードライブは周囲の景色をほとんど変えなかったが、それでも変化しているものはあった。周囲に浮かぶ船の量が増え、そしてそれら全てが敵だった。
「見ろよ、連中、馬鹿みてぇに横腹を晒してやがる!」
近接位置へのドライブインを避ける為に散布される反ドライブ粒子。しかしそれらは散布位置から遠い程に効果が薄れていくものであり、そうであれば膜と膜の間にある小さな隙間に質量の小さな船――たとえば爆撃機がまさにそうだ――を送り込む事は、スターゲイトの力さえあれば十分に可能だった。
「"どんな形であれ、まさか空母を保有してるとは思ってなかったんだろう……ターゲットを送ったぞ。各自、食い扶持ぐらいは稼いで来い"」
「了解だ。さぁ、おっぱじめようぜ!」
タイキは全身を駆け巡るアドレナリンに目を見開くと、自らが耐えられる限界まで爆撃機を加速していった。やがてこちらに気付いたのだろう敵艦が動きを見せ始めると、タイキはBISHOPでリアルタイム近接スキャンを実行した。
「挨拶代わりだ! もらっとけ!」
タイキはターゲットとして指示された最寄の巡洋艦に肉薄すると、防備の薄そうな場所めがけてビームランチャーを投下した。ランチャーは船の張るシールドの内側まで到達すると、その内包されたビームの力を解き放つ。
「ターゲット1、中破だ。これでこいつは脱落だぞ。エンジンをやってやっ――」
瞬間、脳裏に描かれる爆散した自機の姿。
間髪入れずに機体を横にすべらせるタイキ。
敵の対空弾が直前までタイキのいた場所を通過していき、虚空へと消えていく。
「くそっ! やっぱすげぇ量だな!」
敵艦隊の対空砲撃が開始され、あたり一面にビームの光が入り乱れ始める。主砲よりは小さいが、デブリ焼却ビームよりは大きく、連射の効く光弾。
――"ドローン回避システム 起動"――
タイキは何度も何度も繰り返し行われた訓練通り、素早く僚機となるドローンの制御と情報をプラムへとフィードバックさせた。これでタイキはシンプルかつ重要な命令のみに集中する事が出来るようになった。回避や何かの細かいが膨大な計算量が必要な作業は、プラムに乗る太朗によって行われる。
「"各自追加でターゲットを送るが、あまりこだわる必要はない。ランチャーを半分は残しておけよ"」
「でかいのをやるつもりか? この弾幕じゃあ近寄れねぇぞっ――――ちくしょう!」
機体に感じる大きな揺れ。タイキはそれに悪態をつくと、素早く装備のチェックを行った。
「……シールドタンクがひとつやられてる! どんな具合か見てくれ!」
「"待ってろ…………4番タンクが発火してる。切り離した方がいいな"」
「くそっ、こいつは満タンだったんだぞ!」
タイキは機体からシールド用燃料の詰まったタンクを切り離すと、これを行った不届き者の姿をデータログの中に探し始めた。ビームをプレゼントされたのだから、同じ様にビームのお返しをしなければならない。
「E044……あいつか。おいボス、悪いが俺はあれをやるぞ」
「"ガンナーがいるのか? 気を付けろよ"」
対空砲の銃座は全自動である事がほとんどだが、ときおり人が直接操作している事がある。そういった専門の射手による攻撃は、火器管制官が片手間で行う射撃と違って非常に高い命中精度を叩き出してくる。射撃と回避の関係は結局の所、どちらがより正確な未来をBISHOPではじき出せるかにかかっていた。
「フリゲートがいないだけマシさ。遠征にゃあ不向きだから、連中もわざわざ連れてきてねぇだろ」
タイキは急カーブによる加速で顔が大きく歪むのも気にせず、対空弾幕の網を縫うようにして目標へと接近した。途中で僚機のドローンがひとつ落とされ、その残骸がデブリ焼却ビームによって焼かれていく。
「社長によると、なんたらデーのお返しは3倍でってのが相場らしいぜ。今日がその日かどうかは知らねえけどな!」
タイキはほとんど敵船に激突せんばかりの距離で機体を走らせると、ドローンと共にビームランチャーを3つばかり投下した。その内の2つは残念ながら大した被害も出さずに敵の装甲を抉り取っただけだったが、残りのひとつが予想外に大きな仕事を果たした。
「…………わお。こいつは、そういう事か」
タイキは背面カメラで敵巡洋艦が派手に火を噴くのを確認すると、その映像をすぐさまリーダーであるゴンへと送り届けた。ビームの威力は確かなものだが、ここまで大きな損害を与えられる程ではない。
「おいボス、どうやら連中は背中がえらく感じるらしいぜ」
「"…………なるほど。遠征の為に追加タンクを積んで来てるんだな? よし、各機、狙うなら背面だ。エンジン上部に素敵なスポットがあるようだぞ"」
「ははっ、噴くのは火柱だけどな!」
太朗率いるアサルトフリートと砲撃戦を繰り広げている以上、敵艦は下手に向きを変える事が出来ない。そうであれば動きの速い爆撃機で敵の背面を取る事など、実に容易い事だった。
「おいボス、そろそろ本命を決めないとまずいんじゃねぇか。連中、密集し始めたぞ」
時間と共に激しくなっていく対空砲火に、タイキは敵艦隊が防空体制を本格的に整え始めている事を感じていた。
「"伊達にプロじゃねぇって事だな。ワインドや海賊相手じゃなかなかお目にかかれないぞ…………よし、こいつにしよう。社長のご要望だ"」
ゴンがそう言ってモニタの中で手を仰ぐ。すぐさまレーダースクリーンの中にマーキングが現れ、タイキはその船へ接近する為の算段を立て始めた。幸いにも戦闘力を無くした巡洋艦の陰に隠れる事が出来た為、ひと息を付けている。
「戦艦か…………後ろを取るのは楽だろうが、タンクを狙うのか?」
「いや、出来ればエンジンをなんとかしたい。俺達の役目を忘れたのか?」
「わかってるよ。足止めだろ? せっかくの大物なのに残念だと思っただけだ」
タイキは爆撃編隊のリンクシステムへアクセスして残りの戦力を把握すると、忙しそうにしている仲間達に代わって襲撃ルートの算定を行った。既にドローンの2割が撃沈、ないしは戦闘不能にされており、出来るだけ急ぐ必要があった。
「じいさんの消耗が激しいな…………おいボス、じいさんにランチャーを使い切ったドローンを連れてプラムへ帰るように指示してくれ。残りを俺達がもらって攻撃に使おう」
「"わかった。じいさんは…………くそっ、被弾した……なんてこった、姿勢制御スラスタがもってかれちまった! 悪いが俺のドローンも持っていってくれ。帰投する"」
「ついてねぇな。了解。そうなると、戦艦への攻撃はチャーの野郎とふたりきりか……あんまり期待はできねぇな」
タイキは頼りになるリーダーの脱落にため息をつくと、再び襲撃ルートの算定を行った。3か所からの同時攻撃を予定していただけに、編隊が2つになったのは痛かった。
「仕方ねぇ。ちょいと無茶をするしかないだろうな…………おい、チャー。襲撃ルートを送ったぞ。遅れずについてこいよ!」
ゴンの退場により臨時リーダーの資格を得たタイキがそう叫ぶと、モニタ上にせわしなく周囲へ顔を巡らせるチャーの姿が映った。
「"連中のドローンに囲まれてる! どうしよう!"」
「"ほっとけ! 中身がいなけりゃ大した相手じゃないし、いてもせいぜい人間だ。俺達の加速について来れるはずがねぇ!"」
タイキは全力で加速しつつ巡洋艦の影から躍り出ると、待ち構えていた他の艦からの砲火を避けながら襲撃ルートへと船を飛ばした。途中でドローンのひとつがタイキへ向かうビームをその身で受けて守り、脱落する。
「"ちくしょう、何が襲撃ルートだ! 敵艦隊のど真ん中じゃないか!"」
「いいから黙ってついてこい! 怖いのは手動の砲だ。そういうのは艦隊の中に入っちまえば手が止まるんだよ。同士討ちが怖ぇからな」
タイキはいくつかの船のすぐ傍をほとんどすれすれの距離で通り過ぎ、時にはアンテナだかなんだかの小さな構造物を引っかけながらも前へ急いだ。
「見えたぞ。準キロメートル級だな…………くそっ、しかし良く訓練されてやがる。あんなに接近出来るもんなのか?」
戦艦を守る為にいくつかの巡洋艦がそのすぐ傍を航行しており、いまにも衝突せんばかりだった。戦闘行動中という事は自動運転であるはずがなく、タイキはその操縦者達の度胸と技術に心中で賞賛を送った。
「ケツを狙うのは無理だな……おい、チャー。あの船が何だかわかるか」
「"えぇ? あれは、YAMATA社のアーキシマⅡだよ! 重武装艦になる前の足が速いやつ…………くそっ、くそっ、俺を狙うなこんにゃろ!"」
「YAMATA…………おい、確かそこは非モジュールシップを作ってたよな。目の前のあれはどうなんだ。モジュールタイプか?」
「"Ⅱは確か推進力以外は互換モジュールだったはずだけど、それがどうしたってのさ! それどころじゃないよ!"」
「本当だろうな…………よし、目標変更だ。連中のスラスタを狙うぞ!」
タイキは巡洋艦が守るエンジン周囲への攻撃を諦めると、船体の各所に存在する姿勢制御用のスラスタへと狙いをつけた。
「"ドローンが残り5機しかいないよ! もう戻らないと!"」
「うるせぇ、俺もだ!! くそっ、首元が痒ぃ!!」
タイキは近付くにつれて激しくなる砲火に目をちかちかとさせながらも、真っ直ぐに敵艦へと向かった。本音を言えば恐ろしくてたまらなかったが、怖がった所で何が変わるというわけでもなかった。
「船一隻行動不能にするのに、何もエンジンだけを狙う必要はねぇ」
タイキはドローンのひとつを囮に使って砲火の密度をそちらへ集めると、敵にとっては予想外だろう船首へ向けて爆撃機を走らせた。眼下に敵戦艦の構造物がまさに飛ぶような速さで流れ、攻撃を恐れたのだろう主砲のタレットが慌ててベイへと収納されていく。
「ちくしょう、耳をやりやがったな! 気に入ってたんだぞこのやろう!」
爆撃機のセンサーがひとつ吹き飛ばされ、レーダーの表示が不安定となる。タイキは回避行動と被弾による激しい衝撃を耐えながらも、身を乗り出すようにして外の映像が映る球体モニタを睨みつけた。
「てめぇのタイミングで投下しろ! 落としたらすぐに帰艦だ!」
タイキは戦艦からの激しい対空砲火に2度目の接近は無理そうだと判断すると、そう叫んでありったけのビームランチャーを投下した。投下位置の悪かった3つのランチャーは焼却ビームによってあっという間に無力化されてしまったが、それ以外の5つはそれぞれの目標目掛けて進んでいった。
「"こっちも投下完了! 最寄の隙間でいいの?"」
チャーからの通信に、タイキはちらりと背後を振り返った。もはや小さくなりかけている戦艦からはいくつかの火柱が上がっており、戦果は十分と言えそうだった。チャーの話が本当であればターゲットの推進系はモジュール非互換であり、そう簡単に修理が出来るとは思えなかった。
「…………いや、駄目だ。こんな状態で減速すりゃあ、あっという間に蜂の巣だぞ。このまま加速して連中の前方に向かう」
「"主砲に巻き込まれないよう祈るのね…………あぁ、くそっ! 了解だよ!"」
ふたりは戦艦の前方へそのまま飛び抜けると、プラムに対して帰艦要請を出しながら全力で加速し続けた。やがて小さな対空砲火とは別に巨大なビームの光が前から後ろからと降り注ぎ始め、不運なドローンのひとつがそれに貫かれてあっという間に蒸発して消えた。
「社長、早いトコ頼むぜ! ここが一番やべぇんだからよ!」
敵艦隊の外へと抜けた為、同士討ちの心配のなくなった敵の砲火が一気に激しくなる。タイキはシールドを背面に集中させる事で消耗を防ごうとしたが、それでもシールド残量は驚く程の早さで減っていった。
「"あいあい、今すぐ引っ張っから、もうちょい踏ん張ってね!"」
通信機から聞こえる社長の声。爆散するドローン。タイキは「そんな事を喋る余裕があるならさっさとやってくれ!」と頭の中で叫びながら、必死に機体を制御した。
――"空母誘導 マイクロオーバードライブ:起動"――
突然訪れた強い浮遊感と、そして青く染まる視界。わずかな時間の後にそれが消え去ると、タイキは血走った目で周囲を観察した。
「はぁ……はぁ……くそっ、これで2次攻撃に行けなんてぬかしやがったら、ブラスターで頭を撃ち抜いてやるからな」
周囲に船は浮いていたが、自分達を攻撃してくるものはいない。タイキは激しく鼓動する心臓の音を聞きながら安堵の息を吐くと、ヘルメットを投げ捨て、蒸れた首まわりを存分に掻き毟った。




