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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第13章 メガコープ
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第193話

「そうか…………わかった。こっちは、さっき言った方向で進める」


 ディンゴは通信を終了させると、深く息を吐いてシートへともたれかかった。太朗からもたらされた情報は彼の懸念を裏付けるものであり、状況は最悪だった。


「予想通りか……外れて欲しかった所だがな」


 ディンゴはがりがりと頭をかくと、テーブルの上で手を組み、目を閉じて集中した。


 ディンゴが最初に異常に気付いたのは、自爆する海賊船の存在からだった。


「小金が欲しいんなら、船を売りゃあいい。そいつらには目的と、それを託した組織が裏についてるはずだ。少しは考えろボケが」


 ディンゴはただの頭のおかしな海賊だろうと判断していた部下に対し、そう断言して叱咤した。ディンゴから言わせれば、赤字で活動を行う海賊などというのは、膨張しない宇宙というのと同義だった。つまりは、存在しない。


「なんとしてでも調べ上げろ。俺のシマで好き勝手やったツケを払わせてやる」


 ディンゴはそう言って、所属不明の海賊船狩りへと全力を尽くした。ディンゴは海賊行為すらも経済活動の一環だと考えており、普段は必要最小限の対策しか行っていなかった。しかしそれはあくまで彼の抱える領域内に根を下ろす海賊に対してであり、他領域からの搾取となれば話は別だった。他領域"で"なら良いが、他領域"が"は許さない。

 そしてわずかな時間の間に、そういった海賊の被害をほとんど撲滅する事に成功した。元より他領域からやってくる海賊がほとんど存在しないディンゴ領において、イレギュラーな存在を見つけ出すのは簡単な事だった。


 しかし、結局存在すると思われる裏についてはわからず仕舞いだった。


 ディンゴは何度も海賊船の拿捕に挑戦したし、投降の呼びかけを行ったりもした。しかし結局はどれも自爆という結末を迎えており、残骸からのサルベージについても大した成果を得られなかった。わかった事といえばBISHOPで動く船である事から、間違いなく人間が操縦しているだろう事くらいだった。AIにBISHOPを扱う事はほとんど出来ず、そうであるには複雑な操船活動を見せていた。


「こいつらの目的は何だ……何の意味がある……」


 正体不明の海賊について、ディンゴはあらゆる可能性を考えた。それは常識的なものから突飛なものまで様々なものが浮かんだが、残念な事にこれといった結論を出す事は出来なかった。最終的には放置する事案として処理しかけた彼だったが、そこへ太朗からの通信が入る事で事態が変化を向ける事になる。


 EAPの軍拡。そしてタカサキの敗北。


 太朗からもたらされたその情報が、カテゴリとしては"突飛な考え"の方に含まれていたアイデアに現実味を帯びさせた。ディンゴはEAPの置かれた状況を良く知っており、見覚えがあった。


 そして今回の、太朗からの新しい情報提供。


「こいつは、決まりだろうな……だが、好き勝手はやらせねぇぞ」


 ディンゴはシートから体を起こすと、さっそく行動を開始する事にした。

 事態がどう転ぶにせよ、それは彼にとって利益のある形にする必要があった。




 ローマ星系第一ステーションの工業区。元コールマンの研究所が含まれるその一帯はライジングサンの警備部によって厳重に警備されており、調査研究所本館の入り口には重武装した警備員が油断の無い視線を周囲へと向けていた。


「ご苦労さん。これ食べてね」


 太朗は商業区の市場で買った味の気に入らない飴を警備員に握らせると、戸惑う彼らを残して小梅とふたりで施設内部へと入っていった。中には無数の研究員達が忙しそうにしており、太朗は手を止めて挨拶しようとしてくる彼らを「そのままで」と手で押し止めながら奥へと進んだ。


  ――"パスコード確認: ルート権限"――


 新しく作られたいくつもの隔壁を抜け、最重要区画へと移動する。コールマンが使っていた設備がそのまま残されているそこへ到着すると、ごちゃごちゃと解析用の機材やそれを使う人間で溢れた室内を真っ直ぐに突っ切っていく。やがて目的となる機材を見つけると、傍に居た研究員に誰も近寄らせないよう指示をした。


「これがそうですか、ミスター・テイロー」


 太朗の横に立ち尽くす小梅が目前の装置を見つめながら言った。太朗は「あぁ」と短く返すと、彼の良く知るその装置へと手を翳した。


  ――"セキュリティ開放:パスコード……拒否"――

  ――"パスコード再指定:アーキタイプ"――

  ――"セキュリティ開放:パスコード認識 開放"――


 太朗はBISHOPで装置へアクセスすると、わずかな時間で装置のセキュリティを開放した。横では小梅がそれを不思議そうな顔で見ていたが、何も言わずに作業を続けた。


「…………エンドール社製、タイプⅧ冷凍睡眠装置。ランドインターフェイスシステム搭載で、TETF方式一体型になってる。タイプⅤからのアーキテクチャを引き継いで、オーバーライドシステムを後付出来るのが特徴だな。冷凍睡眠時の脳停止状態を利用してスムーズな記憶の上書きを目的として作られた製品だけど、そうは使われなかった」


「………………」


  ――"システム凍結 受諾"――

  ――"ハードウェア開放 受諾"――


 冷凍睡眠装置のカプセル部分が浮き上がり、土台部分の基盤がむき出しとなる。


「いざ使ってみると、致命的な欠陥が見つかったからだな。活動してない脳からは、各種活動領域がうまく読み取れなかったから。言語野とひと口に言っても、人によって微妙に場所が違うからな。言語野に視覚情報を上書きするような、おおざっぱに言うとそんな事故が多発したわけだ」


 太朗はあらわになったいくつもの基盤の内のひとつに手を伸ばすと、それを抜き取った。


「だからほとんど作られてないし、市場に広まったのは問題点を解消したタイプⅨの方。そんじゃタイプⅧは破棄されたかっていうと、そうじゃない。脳の拒絶反応が出ないオーバーライド装置なんつー便利なもんを放っとくわけねぇよな。こいつが活躍したのは、いわゆる洗脳装置としてだ」


 抜き取った基盤をまじまじと眺める太朗。太朗はその基盤を見るのは初めてだったが、それについては隅から隅まで良く知っていた。ゴーストシップで目覚めた時から知っている、冷凍睡眠装置に関する正体不明の知識。


「装置に必要なのは、特殊な脳内麻薬。賭けてもいいけど、多分ここらで使われてる暖房器具から出来るのがそうだと思うぜ。基本的な操船技術と、簡単な命令。例えばある一定条件になったら自爆するような命令を無理矢理オーバーライド、なんて真似も出来るな。そんな事して何の意味があるのか、ってのは置いといて」


 太朗は基盤の一部から麻薬の操作に関係するチップを見つけ出すと、それを静かに取り外した。装置全体の解析を行うとなると大仕事だが、このチップだけを解析するのであれば大した手間ではない。


「ちなみにこのタイプⅧだけど、開発者の名前がダル・エンフォ・コールマン。なんかどっかで聞いた事あるよな。予想通りここの施設にあったし、同一人物かな? 開発されたのが数千年も前だってのが気になるトコだけど」


 太朗は黙って話を聞いている小梅に基盤を預けると、人差し指を立てて顔を傾げた。


「さて、ここで問題。普通の海賊は軍艦が来りゃあさっさと逃げるけど、死ぬまで戦うようなふざけた海賊が大量に沸いた場合、軍部はどうすりゃいいと思う?」


 太朗の問いに、小梅が無表情なままで口を開く。


「性能に関わらず、最低でも数を充足させる必要がありますね。海賊の数にもよりますが、恐らく大幅な拡張を余儀なくされるでしょう」


「そんじゃあ、次の質問。経済が十分に軍事に傾いた状態で、突然理由も無しに海賊がぱったりといなくなったら?」


「……許されるのであれば、軍事の予算が大幅に削減されます。それが無理な場合は、新しい軍事力の投射対象を探す必要があるでしょう。そうでなければ軍部は自己を保てません」


「じゃあ最後。そういった状況に見覚えは?」


「…………旧エンツィオにおける長期の戦争状態と、その終結後のEAPへの宣戦布告。しいて付け加えるのであれば、現状のEAPがそれにあたります」


「はい、良く出来ました。ちなみにディンゴによると、エンツィオにあるアライアンス同士が戦争を行う前に大量の海賊が発生した時期があったらしいぜ?」


 太朗は踵を返すと、出口へ向かって歩き出した。


「どこの誰だかしんねぇけど、第2のエンツィオを作り出そうとしてやがんだ」




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