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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第13章 メガコープ
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第191話

 ――"ドッキングアプローチ要請:Bブロック サイズ2"――

 ――"隔壁開放:Bブロック 3番 4番"――


 太朗の指示により、戦艦プラムの外装がゆっくりと両開きに開かれていく。やがてそれが一杯に開ききると、そばに待機していた小型搬送船から四角いブロックモジュールコンテナが切り離された。プラムとコンテナの相対速度は計算され尽くしてており、それは何の障害も無くプラムの内部へスムーズに吸い込まれていった。


 ――"ドッキング完了:Bブロック"――


 プラムの艦橋でBISHOP操作を行っていた太朗はブロックモジュールが無事に取り付けられた事を確認すると、インカムを外し、モジュール取り付け先の居住ブロックへと向かう事にする。ブリッジを出る際ちらりと後ろを振り向くと、プラムと併走する赤い船体の戦艦が窓越しに確認出来た。


「派手な色よね。狙ってそうしたカラーリングじゃないらしいけど」


 背後よりマールの声。彼女も太朗と同じように窓向こうへ視線を向けている。彼女は太朗の「そうなん?」という疑問に、「えぇ」と答えて何かを思い出すような仕草を見せた。


「T22コーティングだったかしら? タカサキが開発した新しい偏光塗料だって聞いたわ」


「偏光塗料? ステルス艦とかに塗られるアレ?」


「そうね。あっちはレーダー波やら何やら用だけど、タカサキのはビーム偏光用みたいよ。新品の状態で5%、劣化状態で2%のビームを拡散させるって言ってたから、本当だとしたら大したものね」


「まじかよ。今度プラムにも塗ってもらおうかな」


「維持コストが凄いし、プラムも赤くなっちゃうわよ?」


「色はともかく、コストが高いってのはヤだな。ただでさえ輸送向きじゃねぇのに」


 ふたりは艦橋を出ると、第2艦橋から出てきたアランと合流し、居住ブロックへと向かって歩き出した。分厚い隔壁を抜けて船内高速移動レーンを進むと、やがて円形の広いサロンへと到達した。サロンの壁には無数の扉が等間隔に並んでおり、その中には当然自分達の部屋への入り口もあった。


「やあ婿殿、久しぶりだな! 壮健そうで何よりだ!」


 サロンのソファで寛いでいたサクラが、太朗達の姿を見つけると元気良く立ち上がった。彼女が周囲で立ち尽くしていたタカサキRS支部の幹部達と思われる6人に目配せすると、彼らはその場で太朗達に向かって優雅にお辞儀をした。


「あぁ、ご丁寧にどうも。サクラ、そっちも元気そうやね」


 差し出された手を握り、しっかりと握手をする太朗。その後一歩引いたサクラに続き、6人の幹部と次々に握手を交わしていく。


「サクラ、あんたまだ婿殿なんて言ってるの? それって単なる願望……はい? あ、えぇと、初めまして。いえ、そんな。私なんてまだまだですし……」


 何やらサクラへ文句をつけにいった様子のマールだったが、自然にサクラとの間に割って入った幹部達に声を掛けられて足を止める。太朗は美辞麗句を並べ立てられて困惑しているマールを横目に苦笑いをした。


「ところで、要請が来たから許可しちゃったけど、何のモジュールなん?」


 ドッキングされ、普段は強制されているロックの外された扉のひとつを手であおぐ太朗。それを見てサクラが「あぁ」と興味の無さそうな声を上げた。


「私の私室だ。しばらくこっちに世話になろうと思ってな」


「あー、なるほど。サクラの部屋ね…………って、なんでやねん!」


 ぱしりと、手の甲でサクラの肩をはたく太朗。それを受けて「はっはっはっ」と笑い声を上げるサクラ。


「婿殿はおもしろいな。それはいわゆるノリ突っ込みという奴だろう? ふふん、私も勉強してるんだぞ。ユワッシャー星系で動画チップをたくさん見てきたからな」


「愛で空が落ちてきそうな星系だな……っていうかそうじゃねぇし、何の勉強してんだよ……え? まじで引っ越し? いや、それ何の意味があんの?」


「意味? 許婚であれば傍にいてもおかしい事はあるまい。そう照れるな」


「いやいや、いやいやいやいや」


 引きつった顔の前で激しく手を振る太朗。サクラはしばらくの間にやにやとそんな太朗を見ていたが、やがて表情を消すと顔を寄せて呟いた。


「これはまぁ、対外向けのパフォーマンスだとでも思ってもらえればいい。詳しくは商談という形で、後でしっかりと話し合おう。悪い話ではないと思うぞ」


 にこりと、満面の笑みを見せるサクラ。太朗は「本当かぁ?」と訝しげな視線を彼女に向けると、肩を竦め、いい加減困りきってるらしいマールに助け舟を出す事にした。




「本当に裏は無いのかしら……なーんか信じられないんだけど」


 腕を組み、後ろをちらりと振り返りながら頬をふくらませるマール。前を歩く太朗とマールの後ろには、小梅の説明を受けながら物珍しそうにプラムの内部を観察するサクラがいた。


「別に本当に婚約する必要は無いって言ってるし、契約書にもそう書いてなかったっけ?」


 先程行われた、ライジングサンとタカサキRS支部の会談。そこで決定された契約を思い浮かべ、確かそうだったはずだと思い出す太郎。そんな太朗へ「どうかしらね」と鼻息を荒くするマール。


「絶対、あわよくばモノにしてやろうって思ってるわよ。メイクにも凄い気合入ってるし、何より服装がおかしいわ。見知った相手との会談にドレスなんて着てくる? 艦艇上での会談なら宇宙服ってのが普通よ。バリバリ気合入ってるじゃない」


「そ、そんなもんかぁ? 俺には良くわかんねぇけど、借金がチャラになるってのは正直助かるぜ?」


「それはそうだけど、でも返せない額ってわけじゃないわ。むしろこっちに返済の目処が立ったから、融資の価値が下がる前にカードを切ってやろうって流れだわ」


「あー、そういう考えも……あぁいや、それが正解っぽいか」


 先のエンツィオ戦役において、太朗はEAP及びリトルトーキョーに多額の借金をした。それはタカサキからの融資を回す事で返済をしたが、融資に対する返済は滞ったままだった。タカサキは低金利での融資をしてくれたが、ゼロというわけではない。太朗達は他にも戦時賠償負債をアライアンスを手にする事での肩代わりしており、そちらの返済で一杯一杯だった。正直かなり厳しい状況だったと言える。

 しかし惑星ニュークから得られる莫大な利益が、そんなギリギリの状況を覆した。ライジングサンのキャッシュフローは改善の兆しを見せており、タカサキに対する返済も近いうちに始まる予定だった。


「婚約で信用を得るとかさぁ…………ここは中世かっつーの」


 呆れた調子でぼやく太朗。

 今回の会談においてタカサキから提案されたのは、タカサキRS支部のRSアライアンス議会への参入と、それに対するライジングサンのバックアップ。そしてその対価として、タカサキが持つライジングサンへの債権を帳消しにするというものだった。対外に向けた婚約うんぬんというのは、そのバックアップの一環としてタカサキから要求されたものである。

 本来であればある程度の市場調査及び開拓を行った後に新規市場へ参入するものなのだが、タカサキは事情が事情ゆえにそういった事前準備を行えていない。タカサキは速やかに足場を固める必要があり、それにはアライアンストップの協力を得る事が近道だと判断したようだった。タカサキが所持しているライジングサンへの債権はかなりの額だったが、マールの言う通り、それをそのまま現金として利用するよりカードとして使った方が良いと考えたのかもしれない。


「あんたの言う中世がいつの時代の事かは知らないけど、言っておくけど政略結婚や近親者経営は今の社会だって現役よ。帝国には貴族がいるし、ギガンテック社グループだって血縁から出来た財閥だしね」


「まじすか……ちなみに、議会はタカサキの参入に反対すっかな?」


「んー、どうかしらね。元からタカサキの名前は有名だし、市場的には歓迎するんじゃないかしら。議会もある程度は賛成すると思うけど、全部じゃないわね。造船に関係しない企業は多分反対するわ。相対的に自分達の発言力が低下するわけだし」


「だよなぁ。そうすっとある程度は根回しだの何だのが必要かぁ。借りを作るのは嫌なんだけどなぁ…………あー、くそっ。こうやってしがらみってのは出来てくんだろうな」


 遠い目をし、天井を仰ぐ太朗。これから先に必要となる会合の数や頭を下げる回数を考えると、うんざりした気持ちで一杯になった。

 

 一同は談話室へ到着すると、これからについてをもう少しだけ話し合った。サクラがしばらくの間をプラムで生活するとなると、憶えておいてもらわねばならない事もそれなりにある。プラムは戦闘艦であり、そしてサクラは社外の人間だった。


「まぁ、色々面倒をかけるとは思うがよろしく頼む。なぁに、邪魔はせんよ」


 満面の笑みでそう胸を張るサクラ。彼女はたまたま傍にいたエッタを両手で持ち上げると、「子供は好きなんだ」などと言いながらくるくると回り始めた。本人はあやしているつもりなのだろうが、エッタからは疑問符と困惑の視線が太朗へと投げられていた。太朗に出来るのは「ハハ……」と乾いた笑いを浮かべる事だけだった。


「あぁ、そうだ婿殿。さっそくだが、ひとつ私が役に立つという事を証明しようじゃないか」


 サクラは目を回すエッタをそっとソファへ下ろすと、バッグから何やら取り出して太郎へと差し出してきた。太朗が反射的に手を出すと、その上には数枚のチップが落とされた。


「EAP内部の、それなりに詳しい情報が入ってる。あまり褒められた事ではないが、まぁ、スパイというやつだな。もちろんタカサキとその関連企業についての情報は抜いてあるがね…………必要なのだろう?」


 にやりと笑うサクラ。太朗はどうやって知ったのだろうかとタカサキの持つ諜報力に驚きつつも、感謝の気持ちと共にチップを優しく握り締めた。




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