表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第13章 メガコープ
189/274

第189話

「結構な数が集まったな……海賊被害ってのは俺達が思っていたよりずっと大規模で起こってるみたいだぞ。正直これは馬鹿にならん規模の経済損失だ。ワインドとどっこいどっこいなんじゃないか?」


 手元の端末を眺め、アランが難しい顔で呟いた。

 戦艦プラムの会議室にはライジングサンの首脳陣がひと通り集まっており、それぞれ携帯端末を手に難しい顔で円卓を囲んでいた。端末には各地方の武装勢力から集められた様々な情報が表示されており、大部分は辺境警察ユニオン(PU)加入予定の企業達からもたらされたものだった。


「海賊被害に限った話じゃないわ。各種統計、経済規模、何をとってもこっちの持ってる情報と大きく違うわ……はぁ。私達って、地方の事を全然把握出来てなかったのよ」


 溜息交じりのマール。そこへライザが「仕方ないですわ」と肩を竦めた。


「実際に調査して回るわけにもいかないですし、ある程度は相手の報告を信用するしかないですもの。今後はポリスユニオンが出来るからいくらかはマシになるんでしょうけど」


 既に結成が決定事項となった警察ユニオン。その仕事には周辺行政府の監視も含まれており、それは一定の効果を期待されていた。しかし――


「いくらか、っていう点を忘れちゃいけないよ。全面的に信用するのは危険だからね。数字を弄くる程度の事なら、PUだろうとどこだろうと、ちょっとした賄賂で動く奴がいくらでもいるさ」


 火のついていない葉巻を咥えたベラが、当たり前の事を語るように言った。


「情報元が行政府からPUに代わるだけやからね。汚職防止っつー点についてはあんま期待できねえかもだな。相互監視でもさせて様子を見るしかないかな?」


 頭の後ろで手を組んだ太朗が、背もたれに大きくのけぞりながら答えた。


「そうね。行く行くは専門の機関を作る事になるんでしょうけど、しばらくはそんな感じで濁すのがいいんじゃないかしら。でも今手元にある情報に関しては信用できるわよね。癒着が起こる前の直データなわけだし」


 マールが端末を少し上げ、指先で小突く。一同はそれに頷くと、それぞれの端末を思い思いにいじり始めた。


「しかし、ここまで麻薬が広まってるとは思いもしなかったな。大企業の役員までいやがるぞ」


 呆れた様子でアランが片眉を上げる。太朗は端末を指で操作すると、暖房器具の購入者リストのページを表示させた。


「支配者の入れ替わりがあって、景気がめちゃくちゃ良くて、新しい娯楽の提供が出来てる。ぶっちゃけ理想的な状況なわけで、そんな状況じゃなかったらまず禁止なんて無理だったろうな」


 麻薬関連の法案を決めた際に起こった、様々な反発を思い出す太郎。アライアンスの中にも反対する企業は多くあったし、狂乱的なデモが起こったステーションもあった。それでも法案を通す事が出来たのは、人々の良心や未来を思っての気持ちなどではなく、目先に大きな利益があるからに他ならなかった。


「麻薬中毒患者の更生施設が満員御礼だけどね。全費用がアライアンス持ちだから、こっちも気をつけないと汚職の温床になりそう……もう、嫌になっちゃうわ。汚職汚職って、あんまり帝国軍を馬鹿に出来ないかも」


 うんざりした様子のマール。太朗も同感だと頷いた。


「目をつぶったり見せしめに検挙したりしつつ、ほどほどになんとかやってくしかねぇな。あ、ちなみにそれのせいかはわかんねぇけど、無修正エロホログラフチップの予約が半端ねぇぞ。それ専用の大型輸送船が必要なレベル」


 マイクロ装甲板の販売や、アライアンス経営による税収。そういった新しい収入源による台頭から収入割合の減少が予想された輸送部門やアダルトグッズ販売部門だったが、全くそんな事はなかった。

 肥大し続ける経済や海賊やワインドの台頭による武装輸送艦隊の需要増、そしてアライアンストップという信頼性においては敵無しのブランドが輸送部門の売り上げを後押しした。少ない艦艇数というハンデはチップや電子機器といった高級品を重点的に取り扱う事で解消し、アダルトグッズは輸入に高い関税をかける事で半独占状態を作り出している。旧エンツィオによる鎖国状態下でアダルト産業は発展を妨害されており、現在帝国から輸入されているそれらに対抗しうる勢力は存在しなかった。精神判定による各種年齢制限が容易に導入できたのは、それら新しいアダルトグッズがあまりに過激だったからという理由もあった。


「ようやくアダルトグッズ関連会社ってカテゴリから脱出出来ると思ったのに……男がスケベなのは全銀河共通なわけね」


「いやいや、人類が繁栄してる原動力のひとつなのは間違いないだろ。実は女の方がスケベだっつー話も聞いた事あるしな」


「知ったような口聞いて。童貞のくせに」


「ち、違うよ。違うからね。童貞ちゃうからね」


「あんた、全銀河童貞連合のトップとか言ってなかったっけ?」


「公的には存在しない事になってる秘密結社だからな。表向きには否定するのが連合の決まりだ。あまり触れてやるな……それよりファントム、暖房器具の購入リストから何か掴める所はあるか?」


 ひとり黙って端末を見つめるファントムに、アランがそう振った。ファントムは「ふむ」と鼻を鳴らすと、しばらくしてから口を開いた。


「いくつか気になる点があるね。ひとつは外アライアンス企業の割合が多い事と、それらにあまり良い噂を聞かない企業の名前がある事かな。詳しく調べてみない事には何とも言えないが、恐らくいくつかの企業は密輸を前提とした購入と見て良さそうだ」


 ファントムが手元の端末を操作すると、太朗の持つリスト項目のいくつかがクローズアップされた。それらは注目度を表すのだろう暖色から寒色のグラデーションで色分けされており、1万以上ある企業名の内、4つが真っ赤に塗られていた。


「…………んー、これはまた面倒な事になりそうやね。ディンゴんトコか」


 4つの企業は、いずれも所在地がホワイトディンゴ領となっていた。当然太朗達がそれら企業を調査する事など出来ないし、要請したところでディンゴが実行してくれるとは思えなかった。ホワイトディンゴとRSは今の所対EAPという形でそれなりの関係を保ってはいるが、領域線を接する潜在的な敵である事に変わりは無い。


「もしこれら企業の中に例の自爆海賊の大元がいるとしても、恐らく地元ではおとなしくしているだろうね。ディンゴからすれば外貨を稼いで納税を行う有能な企業だ。明白な証拠でもあるならともかく、よほどの事が無ければ守ろうとするだろう」


 ファントムがそう淡々と語る。他のメンバーは溜息と共に眉間に皺を寄せた。


「あいつんトコは犯罪者やならず者をかき集める事で成立したんだもんなぁ。犯罪してるかもしんねぇから調査しろっつったって、だからどうしたって所か」


「まぁ、調査したが問題なかったとの答えが確実に来るだろうね……どうする? 潜入して調べてくるかい?」


 まるで軽いお使いにでもいくかのような調子でファントムが尋ねてくる。太朗は苦笑いと共に少し思案すると、首を振って否定した。


「ファントムさんの実力を疑うつもりはないけど、万が一に見つかった時の事を考えるとやばいんでやめときましょ。一応ディンゴも気をつかってくれてるんだかなんだか、今んとこスパイの流入を抑えてくれてるみたいだし」


 スパイ合戦は戦時も平時も変わりなく活発に行われるものだが、ホワイトディンゴ所属と思われるスパイの存在は想定に比べると驚く程に少なかった。むしろEAP所属と思われる諜報員の方が活発な動きを見せており、太朗からすると苦笑する他なかった。


「しかし、そうなるとどうするんだ。まさか指を咥えて見てるだけってわけにもいかんだろう。もう少し予算を軍事にまわすよう、アライアンス議会に持ちかけるか?」


 そう言って腕を組むアラン。太朗も同じように腕を組むと、「うーん」とうなり声を上げた。


「現場で対応出来るように艦艇の数を増やすってのは、まぁ、当然だし賛成なんだけど……」


「煮え切らない感じだな。気になる事でもあるのか?」


「ん、お隣の様子を見てると、ちょっとね」


 机に肘をつき、お隣ことEAPの事を思い浮かべる太朗。

 海賊被害に悩まされているのは、RSだけでなくEAPやディンゴにしても同じらしかった。ディンゴは強権的な統治方法ゆえに比較的被害も少ないようだが、EAPはかなり深刻らしい。リトルトーキョーのリンとは今でも定期的に連絡をとっており、そこから信憑性の高い情報が入ってきていた。


「向こうは軍と海賊の軍拡競争が起こってるみたいでよ。おかげで軍部がデカイ顔してどうしようもないってリンがぼやいてたぜ。今度サクラがこっちに社員大勢引き連れて半分亡命みたいな形でやってくるって言ってたくらいだから、相当やべえんじゃねぇかな」


「サクラっつーと、タカサキのか? 何でタカサキがわざわざこっちに来る必要がある。軍拡が起こってるんなら、造船のタカサキからすりゃ濡れ手に粟だろう?」


「や、それがそうでも無いみてぇよ。兵器の購入先は別んとこがメインになってるらしいぜ。タカサキはリトルトーキョー寄りだからな」


「向こうの軍部はそこまで力をつけてきてるのか?」


「それもあるし、エンツィオ戦役が起こったせいでそれまでの経済重視政策を進めてきたリトルトーキョーへの風当たりが強くなったんだとよ。求心力が低下したんだろうな」


「戦中戦後はあれだけもてはやしておいて、いざ危機がされば邪魔な存在というわけか。企業側からすれば当然かもしれんが、心情的には納得出来んな……」


「まぁ、そんな感じで軍拡は控えたいんよ。ただでさえウチはまわりの企業の方がデカいわけで、今回の警察ユニオンだって大企業の軍事傾倒を避ける為にやったわけじゃん?」


「ふむ……うかつな軍拡は危険か」


 太朗の説明に納得したようで、アランは頷きながら再び考え込み始めた。そこへ「じゃあ」と太朗の方へ顔を向けてくるマール。


「結局の所、どうするのよ。PUが軌道に乗るまでには時間がかかるわ。それまで何もしないでいたら、結局各企業が勝手に軍拡を始めるわよ?」


 マールによる当然の指摘。太朗はわかってるという意味で「ん」と答えると、腕を組んだまま天井を見上げた。


「こうなったら……どこ相手だろうと好き勝手やれる人にお願いしてみっか」


 太朗はライザの方を見ると、その兄の姿を思い浮かべてにやりと笑った。


「あんまりあの人を頼ってばっかりいると、その内とんでもない要求をされるわよ。あんただって…………あれ?」


 太朗の方へ注意を促していたマールが、何かに気付いたように声を上げた。彼女は集まる周囲の目を無視すると、何やら目を閉じてBISHOPの操作を始めたようだった。


「俺がどうしたんすかね、マールさん。そうやって止められると、何か怖いんすけど」


「ちょっと黙ってて…………うーん、やっぱりおかしいわ。というより、何で気付かなかったのかしら」


 マールは何やら端末を凄まじい速度で操作すると、太朗達の端末へ新しいリストを送り届けてきた。


「例の自爆船による海賊被害と、自爆した船の推定価格よ。つまりはそいつらの収入と損失ね。それらをリスト化してみたんだけど……これっておかしくない?」


 神妙な顔つきのマールが、一同をぐるりと見渡しながら言った。太朗は送られてきたリストを見ると、彼女のいわんとする事がすぐに理解できた。そしてそれを発するべく、口を開いた。


「なんでこいつら……赤字で海賊なんてやってんだ?」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ