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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第12章 ニューク
185/274

第185話

大変お待たせ致しましたm(_ _)m


更新遅れがちとなってしまい、申し訳ありません。

ちなみに書籍化による影響ではなく、単に作者の仕事が非常に忙しい為です。年末進行というやつがはじまっている為ですorz

 お世辞にも統一感があるとは言えない、寄せ集めのような宇宙ステーション。

 だがしかし近隣の宙域にあるどれよりも巨大なそれは、無数の船舶と大量のコンテナを周囲に浮かべ、地上とを結ぶ3本のケーブルをしっかりと保持していた。今もケーブルを伝ったコンテナが惑星から運ばれてきており、それを無数の作業船が所定の退避スペースへと運ぶべく作業をしていた。


「見て、父さん! うちのコンテナだよ!」


 宇宙ステーションから延びる棒状の観覧室にて、窓際へこれでもかと顔を押し付けた少年が叫んだ。


「ふむ。今ここにある全コンテナの内、49%はうちの製品が使われてるからな。あの辺は全部うちのなんじゃないか?」


 少年の頭越しに窓向こうを眺め、男が言った。

 男の名前はジョニー・G・ウェルズ8世。つい先日ライジングサンとの業務提携が決まったジョニーアンドバージン社の代表取締役であり、目の前にいる少年――当然9世だ――の父親だった。


「なんで全部じゃないの?」


 振り返った息子が言う。ウェルズは難しい話をしても仕方が無いだろうと適当にはぐらかそうとしたが、息子の顔をしばらく見てから考えを改めた。息子は生後8万時間に達しようとしており、そろそろそういった話をしても良い時期かもしれなかった。


「公共物寡独占禁止法……えぇと、みんなが使うものはみんなで作ろうという決まりがあるんだ。みんなで競争すればより良い物が作れるだろ? 逆に少ない会社だけだと、怠けて働かなくなっちまう。ライバルがいないんだからな」


「でも、父さんはそんな事しないよ?」


「はは、そうだな。だがそうじゃない人もいるという事だ」


 ウェルズは屈みこむと、自分と同じ栗色の髪を持つ息子の頭をくしゃくしゃと撫でた。


「いいか、ジョン。商売をするという事は、お互いに信用するという事だ。相手が客でも、企業でもな。そして相手に信用してもらうには、まずは信用される行動を心がけなきゃならん。その第一歩が決まり事を守る事だ。良く憶えておけよ? そしてチャンスが来たらそれを必ず掴むんだ」


 権力者には逆らうな。決まり事は守れ。商機を逃すな。この3点は、ウェルズ自身が今は亡き先代ジョニーから口酸っぱく言われ続けてきた事だった。ウェルズはそれを守ってきたつもりだったし、これからもそうするつもりだった。


「うん、わかった。その決まりは帝国が作ったの?」


「いや、違う。作ったのはライジングサンという会社だな。このあたりで1番偉い会社だ。この宇宙ステーションもその会社の所有物だぞ?」


「そうなんだ……1番って事は、うちの会社よりも大きいの?」


「いや、今はずっと小さいな。だが近い内に大きいも小さいもなくなる、父さんの会社とそこの会社はひとつになるんだ。難しく言うと、企業合併というやつだな」


 ジョニーアンドバージン社は古くから続く中堅製鉄企業であり、企業規模もそれ相応に大きい。特に最近は戦闘船舶の需要が急増した事により、業績はうなぎ登りだった。現状でもライジングサンよりも企業規模は大きく、普通に考えればライジングサン側に吸収される形での合併など有り得るはずがなかった。


「何が起こるかわからんもんだな……運命の神を呪うべきなのかどうか」


 ウェルズは首を巡らせると、壁に貼られたポスターを見た。そこには「乗るしかない、このビッグウェーブに!」という標語と共に、爽やかな笑みを浮かべたRSアライアンス代表の姿が描かれている。


「惑星ニュークの特産品が、御社の主力商品を駆逐してしまうかもしれません」


 先日行われたデルタ星系での話し合いにて、RSアライアンス代表から言われた言葉。ウェルズは当初それを何かの冗談かと笑い飛ばしたものだったが、実際に惑星ニュークへ訪れてからは笑い事ではなくなってしまった。質の良い装甲板がその辺にいくらでも落ちているという、ファンタジー小説の世界でも有り得ないような出来事が実際に起こっていたのだ。ウェルズの会社は船舶用装甲板の販売を主力としており、それが致命的な打撃を受けるのは間違い無さそうだった。価格競争での勝ち目は全くなく、質もかなり高い。

 もちろんウェルズには、装甲板以外の部門で会社を存続させるという選択肢を選ぶ事も出来た。企業規模は縮小せざるを得ないだろうが、装甲板無しでは即赤字になるというわけでもない。もしくは、ライジングサンの販路からはずれた遠くの星系に向かうという手もある。会社を存続させるだけであれば、方法はいくらでもあった。


「業務提携後の合併は既に決定事項だ。希望退職者には十分な退職金を出すから、遠慮せずに申し出てくれ。新天地はアウタースペースのど真ん中だし、今まで通りとはいかんだろう。だが新興アライアンスのトップになるという事をおもしろいと考えられる奴がいれば、俺と来い」


 しかしウェルズはそう言って、迷わず会社の整理体制を構築した。良く知るわけでも無い小企業との合併など傍から見れば気でも触れたのかと言われかねない行動だったが、ウェルズは自らの持つ経営者としての勘というやつを信じる事にした。多くの社員はライジングサンを死神の使いだと考えていたようだったが、ウェルズはむしろ逆だと感じていた。彼はこれを、チャンスだと捉えていた。


「何も言わずに対抗商品を売り出し、あっという間に我々を市場から追い出す事も出来たはずだ。それをわざわざ心配して事前報告に来るような企業だぞ? お人好しにも程がある。こんなおもしろい企業が他にあるか?」


 ウェルズは自分と共に来る事に決めた社員達へ向けて、勘の根拠をそう説明した。ライジングサンJAV開発部長という肩書は代表取締役と比べると見劣りするかもしれないが、ウェルズはどうでも良いと思っていた。1万人を擁する企業の社長より、100万人を擁する企業の部長の方がずっと箔が付くと彼は考えていた。それにもしかしたら、合併条件に非公開の株式をいくらか保有する旨を付け加える事も出来るかもしれない。


「これから、おもしろくなるぞ」


 根っからのギャンブラーであるウェルズは、そう言って舌なめずりをした。彼は怪訝そうな顔で見上げてくる息子へ誤魔化すように咳払いをひとつすると、彼と共にこの地へ来てくれそうな知り合いのリストを頭に思い描き始めた。




「社長、おはようございます」

「おはようございますテイロー社長」

「おはようございます!! 社長!!」


 惑星ニュークはラダートップのオフィスにて、顔を会わせた社員から発せられる声。太朗はやる気に溢れた社員の顔付きに満足を覚えながらも、少し戸惑いながら「あ、あぁ、はい。おはよさん」と返した。


「あらテイロー、珍しく早いのね。今日は何かあったかしら?」


 後ろからの声。それに振り返ると、チップの束を手にしたマールの姿が。


「ん、昼過ぎから開拓団の会合があるじゃん? それにちょっと顔を出しとこうかと思ってさ。ぶっちゃけ開発が急ピッチすぎて把握しきれてねぇよ」


 手近な窓に近付き、灰色の惑星を見下ろす太朗。分厚い砂嵐とほこりの大気が、単色のつまらない見た目のニュークを作り上げている。


  ――"アクセス:窓226 オーバーレイ:建物"――


 太朗はBISHOPで窓のインターフェイスにアクセスすると、目的の関数を実行した。すると窓から見える惑星の色合いが変化し、大気が存在しない惑星ニュークの状態をシミュレートした表示へと切り替わった。


「わ、もうあんなに大きくなってるのね。あれは第6コロニーかしら?」


 太朗の隣で、マールが窓を覗き込んで言った。ディスプレイ機能付きの窓が描く惑星ニュークの地表には、氷の結晶の如く放射状に伸びる人工建造物がいくつも映し出されていた。


「え? 第6? いやいや、この前見た時はまだ第4までしか無かったぞ。留守のひと月でふたつも増えたんか?」


「そうなるわね。第6は場所的に防衛しやすいから、かなり大型のコロニーになるって言ってたわよ」


「まじか……やっぱ投資が集中するってのは半端じゃねぇな」


 アライアンスの全面的支援を得た惑星ニュークの開発は、それこそ太朗の想像を大きく超える速さで進められる事となった。

 当初は装甲板の販路に頭を抱えたRSアライアンスだったが、それは競合企業となるはずだったジョニーアンドバージン社とライジングサンの合併という驚くべき方法により解決される事となった。当初経済界の人間はジョニーアンドバージン社の常軌を逸した行動に愚かな奴だと冷ややかな視線を送っていたが、それも今では羨望の眼差しへと変わっていた。JAVのウェルズは会社の譲渡により非公開株であるライジングサンの株式10%を取得し、いち企業主からアライアンストップの株主へと転身した。太朗達は外部の人間が少ないながらも株を所有する事に若干の不安をもったが、巨大な資本と販路はそれを補って余りある魅力を持っていた。

 そして惑星ニュークの特産品をライジングサンJAV開発部が加工した新製品『マイクロ追加装甲板』は爆発的な売り上げを叩き出し、もういくらもしない内に惑星開拓に行った投資を回収出来るのではという段階まで来ていた。ワインド危機により装甲板の需要は伸び続けており、しかもあらゆる船種、あらゆる場所に設置可能なマイクロ追加装甲板は非常に高い人気を生み出す事となった。宇宙船という巨大な船体に対して小さすぎる装甲板は生産の手間がかかる為に比較的割高な商品であるのが一般的であり、ライジングサンの提供する割安な――価格競争では負けようがない!――マイクロ追加装甲板はあっという間に付近の市場を席巻した。もちろんそれは、株主配当金という形でウェルズ個人にも莫大な利益をもたらした。


「おはようございます、社長。今日もよろしくお願いします!」


 背後からかけられた挨拶。太朗は窓から視線をはずして振り向くと、声の主である社員に曖昧に頷いた。


「どうしたのよ。元気ないわね。どこか具合でも悪いの?」


 どこか及び腰な様子を不審に思ったのだろう、マールが心配そうに覗き込んでくる。太朗は「いや」とかぶりを振ると、視線を社員の消えて行ったオフィス奥へと向けた。


「ぶっちゃけ、今のが誰だかわかんねぇ。あぁいや、今のがってのは違うな。ほとんど誰が誰だかわかんねぇよ。人増えすぎだろ」


「あー、そういう事。まぁ、確かにね。たった3ヶ月の間に社員が4倍近くに増えてるし、無理も無いわ」


「だろ? つーか大丈夫なんかよこれ。いくらなんでもペースがおかしいだろ。把握しきれてんのか?」


「増えた人数の半分はJAVの社員だし、今の所は大丈夫なんじゃないかしら。管理組織も一緒に来たわけだし」


「そらそうかもだけど、一気に5万人だぞ? こんだけ知らない顔がいると違う会社に入り込んじまった気分になんぞ」


「あはは、確かにね。でもしばらく経てば落ち着くはずだし、組織を整える時間は十分にあるんじゃないかしら。ワインドを除けば周囲は平和なもんだしね」


 窓際の壁へ寄りかかり、にこりと笑うマール。太朗は「まぁなぁ」と呟くと、アライアンスの置かれている現状を考えてみた。

 確かにマールの言う通り、RSアライアンス領の周辺は非常に落ち着いていた。というよりどこもかしこも組織の再編に忙しく、周囲へ拡大する余裕など無かった。ディンゴも、EAPも、そしてRSも、切り取った旧エンツィオ領というパイを消化するのに忙しかったのだ。


「ニュークはご覧の通りだし、問題らしい問題は無しか……」


 ラダーベース攻防戦から現在までのわずか3ヶ月の間に、既にほとんどのNASAの人間達が地上のコロニーで生活を送るようになっていた。地下の生き残りと思われるワインドが時折人々の安全を脅かしたりする事もあったが、それは非常に散発的だった。各コロニーは防衛用として中央の塔にドライブ粒子式の大型ECM装置を設置していたが、それが使われるような事態になる事はなかった。

 地球に関する情報の収集は食品開発部長であるハインラインをリーダーとした大掛かりな強行探索部隊が組織されており、こちらもそれなりの成果を上げてくれそうだった。まだ地球と直接の関わりがある物品等は見つかっていないが、古い地図を代表に過去の遺物がいくつも見つかっており、めぼしい探索箇所が絞り込まれ始めている。遺物はアルジモフ博士を中心とした研究班が解析を行っており、一定以上の価値があると思われる物は太朗の元へ上がってくる仕組みとなっていた。

 惑星ニュークでの問題点らしい問題点といえばNASAの人間の多くがアウトサイダーであるという点と電脳ワインドの存在があったが、それは今すぐ解決しなければならない問題というわけでもなかった。NASAの人々はアウトサイダーの境遇というものを理解しており、宇宙へ出て行きたいと考える者は少なかった。逆に惑星ニュークへ降りたいとするアライアンス領の人間は無数にいたが、それらは簡単に管理する事が出来た。地球と違ってコロニー外に人間が生活出来る環境はなく、惑星降下艇で忍び込む人間などいない。そしてそうなると、軌道衛星エレベーターでの出入りを監視するだけで事は十分だった。それは同時に、電脳ワインドについての対策にもなる。


「平和、か……なんか随分久しぶりな気がするな」


 アルファ星系防衛戦、エンツィオ戦役、そして惑星ニューク攻防戦。アウタースペースへ足を踏み入れてから今に至るまで続いた戦いの日々を思うと、太朗は平和とはなんと尊いものなのだろうかと強く実感した。得たものも多いのだろうが、失ったものも多い。


「そうね。でも、だからこそ、大事にしましょう」


 そう言って優しい笑みを浮かべるマール。太朗はまったく同感だと頷いた。


 しかし彼らが平和を望んでいたとしても、

 もしくは全ての人間がそれを望んでいたとしても、

 それがいつまで与えられるかなど、誰にもわからなかった。


 残念な事に、ここはアウタースペースだった。




なんとか更新頻度を上げられるよう、頑張りたい所です……


そういえば(?)、銀河戦記の実弾兵器(2)バトルオブアルファ、発売中でございます。加筆されたエピソードをお楽しみ頂ければと思います。宣伝せんd

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