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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第12章 ニューク
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第177話

最近色々と忙しく、投稿が不安定で申し訳ありません。



「プラムで地上砲撃が出来ればあっという間なんだけどなぁ……マジでいまいましいぜ」


 恐らく数百年を通して止む事なく発生し続けているのだろう砂嵐をにらみ、太朗がぼやく。太陽光線を遮るそれは地上を氷点下の世界に留めるだけではなく、レーダーをかく乱し、視界を失わせ、あらゆる点で太朗達に不利を強いている。


「"砂嵐か……帝国の社会は、こういった環境下で行動するようには出来てないからな"」


 アランが太朗に同意し、溜息と共に上を見上げた。

 戦艦プラムのレールガンが発する実弾は地上を攻撃する事が十分に可能だが、残念な事にその対象を捕捉する事が出来なかった。目視による座標報告を行おうにも、こう近くては弾頭がラダーベースを誤爆する危険性がある。高高度から射出される大口径弾頭がもたらすだろう破壊的な威力を鑑みるに、それは明らかな自殺行為だった。


「"確かにプラムの砲撃は出来ないけど、実弾兵器についてのノウハウがあったのは本当に良かったと思うわ。悪い事ばかりじゃないわよ、きっと……さ、次弾発射の準備が出来たわよ"」


 いくらか安堵した様子のマールの声。太朗は確かに彼女の言う通りだと、遠く離れた位置で今も砲撃を続ける戦車を眺めながら頷いた。延伸性を最大に伸ばした艦載用ビーム兵器でも、地上ではわずか数キロでその威力のほとんどを熱として失ってしまうのだ。当然ながら宇宙から放ったビームが地上に届く事はないし、それに対して戦車砲の射程は100キロ近くにも及んだ。


「それにあいつらにECMが有効だってわかったのは大きいな。小梅に感謝だぜ」


 巡洋艦パーツの何を降ろすかを相談していた際、地上型のワインドが電子的な攻撃に弱いだろうと推測したのは小梅だった。

 宇宙空間が常に天然のECMである太陽フレア等の脅威に晒されているのに対し、地上――すなわち惑星――では磁場という自然界のバリアがそれら脅威を防いでくれている。そうなると、地上型ワインドがそれへの対抗策を持っている可能性は限りなく低かった。あったとしても、極最低限のものだろうと考えたのだ。


「"まだ終わってはおりませんし、ご覧の通り敵はやる気満々のようです。気を抜くには早すぎるのではないでしょうか、ミスタ・テイロー"」


 小梅の冷静な声。太朗は確かにその通りだと苦笑いを作ると、今も仲間の死骸を乗り越えて押し寄せて来ているワインドの群れへと視線を戻した。砂嵐に消える車列の向こうがいったいどこへどれだけ続いているのか。それは誰にもわからなかった。


「へいへい、わかってますよ。そんじゃ景気良く一発ぶちかましときますか」


 太朗はBISHOPで主砲の発射準備を手早く整えると、前回と同じように施設全体に警報を流した。周囲の人間達が床に伏せ始め、吹き飛ばされないようにスーツを磁力でロックしていく。


「そんじゃいくぞ。マール砲、発射!!」

「だからその名前は止めなさいって!!」


 遠目に蠢く車列に向かい、再び大口径ビームが放たれる。大気によって拡散したエネルギーが放つ熱と暴風が相も変わらず荒れ狂い、屋上に積もっていた砂を一掃した。


「おうおう、相変わらず派手に吹き飛んだな……にしても、マジでどんだけいるんだ? キリがねぇぞ?」


 砲撃により地形ごと吹き飛ばされたワインドの残骸と砂が降り注ぐ中、ヘルメットに当たる砂の音を聞きながら太朗がぼやく。ビームで途切れた車列も、しばらくすれば何事も無かったかのように1列の黒い線と化した。太朗は坂道付近を砲撃する事で足止めが出来やしないかと目論んだが、それは残念ながら叶わなかった。艦砲は渓谷の崖崩れを誘発し、崩れた岸壁が結局は上り坂となってしまったからだ。


「"400年間も溜めに溜めてきたんだ。そう簡単に在庫は尽きんだろう"」


 いくらか疲れた様子のアランの声。太朗はさもありなんと頷くと、後方でワインドの車列に砲弾の雨を降らせるパンター戦車の集団をみやった。最悪の場合、それらに乗って逃げる事になる。


「次のECMは出来るだけ引き付けて撃たないとな……うしっ!」


 脱出を考えるにはまだ早いだろうと、太朗はヘルメットを叩いて気合を入れた。


「"ねぇテイロー、それなんだけど…………"」


 沈んだ調子のマールの声。太朗は瞬間的に良く無い事が起こったのだと察知すると、「どうした?」と砲塔の方を見やった。


「"ECM発生装置がうんともすんとも言わなくなっちゃったのよ。大気圏内で高出力のECMを放ったせいだとは思うんだけど、原因がわからないわ"」


 明らかにそれとわかる落ち込んだ声。太朗はマールの様子を心配には思ったが、今はそれを気遣っている場合ではなかった。


「動かない? 全然駄目か?」


「"うん、起動すらしないの……もしかしたら自身のECMで回路が焼けちゃったのかも。宇宙と違って大気で乱反射するし、可能性としては考えられるわ"」


「そっか……駄目か」


 太朗はヘルメットの内部で顔を顰めると、まだ想定内の事態だと思う事で自らを慰める事にした。戦いの決定打となるべくオーロラ作戦の第二段階は2発目のECMによる放射が引き金となるはずだったが、次善策で我慢する必要がありそうだった。


「んー、わかった。そんじゃマールは引き続き主砲の再装填と施設の整備にあたってくれ。上は俺達で何とかすっから」


「わかったわ……ねぇ、制限時間までECM無しで耐えられる?」


「どうだろうな。わかんねぇけど…………」


 太朗は遠目に蠢くワインドへと目を向けた。


「耐えらんなきゃ、終わりさ」




 惑星ニュークの遥か上空。ラダートップこと軌道衛星エレベーターの終着点となる宇宙ステーション付近では、ライジングサンの主力艦隊がきたるべき作戦に備えて万全の準備を整えていた。


「ボス、観測チームが強力な電磁波の放射を確認しました。恐らく始まったものかと思われます」


 普段であれば、太朗、マール、そして小梅の姿があるはずの戦艦プラムの艦橋。そこには現在、ベラとその側近がピリピリとした空気と共に控えていた。


「お前、それは確かなんだろうね。間違いでしたじゃ済まないよ」


 火の消えた葉巻を咥えたベラが、報告を口にした側近に鋭く投げかける。部下のひとりはベラの視線を真っ直ぐに受け止めると、「間違いありません」と断言した。


「そうかい。それじゃあ、始めるとしようか」


 ベラは発火カプセルを用いて葉巻に火をつけると、肺いっぱいに煙を吸い込んだ。普段は口腔内で煙をくゆらせるだけだが、緊張に襲われる事態にはいつもそうしていた。そうした所でどうなるわけでもないが、それは彼女にとって一種の儀式だった。


「ふぅ……やっぱり高い葉巻はいいねぇ。今度坊やに葉巻の生産でもお願いしてみるかね。米や何かの自然食品が作れるんだ。やってやれない事はないだろう…………オーロラ作戦最終段階スタンバイ。野郎ども、気合入れて準備しな」


 前半はのんびりと。そして後半は誰もが黙るスペースマフィアの首領としての力を込めた口調。すぐさま側近ふたりの「イエス、マム!」の声が返り、全艦艇に作戦実行準備の命令が送られる。


「タイマー起動。時間は予定通り」

「イエス、マム! タイマー起動! カウンター1800秒開始!」


「タレット起動。弾頭込め。魚雷装填」

「イエス、マム! タレット起動、魚雷装填!」


「気象観測班に弾道計算の再度要求を出しな。ランダム抽出で100回連続同じ値が出るまで連絡を寄越すなと伝えろ。それくらいやりゃぁ、いくらか坊やに近い精度が出るだろうさ」


 ベラは再び葉巻の煙を吸い込むと、ゆっくりと吐き出した。

 オーロラ作戦第二段階の実行は、2発目のECMを観測次第すぐに行われる。もし何らかの原因でECMの放射が行われない場合は、30分後に自動で発動される手はずとなっていた。


「わかってるだろうが、今作戦に中止はなしだよ。確実に、所定の場所に、投下だ。ピザの宅配とそう変わりはしない」


 手にしていた葉巻を持ち上げると、ベラは「ただし」と視線を尖らせた。


「ミスをしようもんなら、坊や達は全員蒸発だ。当然我々もただじゃあ済まない。文字通り、死ぬ気でやろうじゃないか」


 ベラはそう言うと、再び煙を肺一杯に吸い込んだ。

 彼女には、カウンターの減りがやけにゆっくりとしているように見えた。




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