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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第12章 ニューク
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第167話

 少し広めの通路を塞ぐように、机やら何やらをぶちまけた即席のバリケードが設けられている。そこでは4名程の兵士が油断なく銃を構えており、誰もが古い型のアームドスーツを着こんでいた。


「やれやれ……こうなると殺しても文句は言われないだろうが、やりすぎると社長が怒るかな」


 バリケードと向かい合う場所の曲がり角で、ファントムは壁を背にぼやいた。オリヴィアは付近にある安全の確保できた部屋に押し込んであり、今はひとりで行動する事が出来た。


「しかし、ちょいと決断が遅いんじゃないかな、ミスター・アントニオ。このままだと部下がいなくなってしまうよ」


 ファントムは銃のシリンダーを開くと、装填されていたゴム弾を2つ抜き取り、代わりに金属弾頭である完全被甲弾フルメタルジャケットへと差し替えた。


「では、行くか」


 小さく呟くと、ファントムはバリケードの待つ廊下へと飛び出した。すぐさま敵兵士4名が反応し、銃口を向けて来る。


 ――"マイクロBISHOP:瞬発起動"――


 脳内に走るスパーク。ファントムの脳に埋め込まれたBISHOP制御装置が瞬間的に起動し、周囲に存在するあらゆる可能性粒子を掻き集め始める。BISHOPの持つ未来予測の結果がフィードバックされ、ファントムの目に現在と未来が交じり合った歪な映像が映し出される。


(…………まずはあれが邪魔だな)


 スローモションのようにゆっくりと進む世界。ファントムは飛び出したままの勢いで壁へ向かうと、それを蹴りながら空中で銃を構えた。


 ――"弾道計算:アクセラレート……最適化"――


 机の上に乗った本を手で持ち上げるかのように、何の不安もなく、迷いもなく、ただ当たり前の事をするのと同様に引き金を絞る。発射された弾丸が回転しながら銃口より飛び出し、わずかな狂いもなく、バリケードに設置されていたセントリーガンへと向かっていく。


(次は重火器)


 4人の敵兵のうち、機関銃を構えた男をターゲットに選ぶ。ゆっくりと銃口がそちらへ動き始めた頃、先ほど放った弾丸がセントリーガンの駆動部分へと到達した。鉄同士がぶつかる事で火花を上げ、続いてひしゃげた部品が四方へ飛散していく。


 ――"脅威発現:2ヶ所"――

 ――"脅威判定:0"――


 敵の構えた銃から火花と共に弾丸が連続で発射され、それがファントムの方へ向かって飛来する。しかし銃口の向きやBISHOPの情報からどのタイミングでどの方向へ弾丸が飛んで行くかを知っているファントムは、それを全く気にする事なく再び引き金を引いた。


(残りは……弾丸がもったいないか)


 敵から武器を奪う事も出来るが、道具は使い慣れたものが望ましい。ゴム弾はさして多くを持ってきているわけでは無いので、出来れば節約したかった。軌道を変更する為に着地した足にひねりを加えたファントムは、そんな事を考えながら敵の機関銃が粉々に吹き飛ばされる様を見ていた。


 ――"脅威判定:2"――


 敵のアサルトライフルから発射される弾丸が、次から次へと後方に流れて行く。ファントムは脅威であると判定された弾丸2つの弾道を見切ると、ひとつを首を動かす事で避け、もうひとつは衝撃によって硬化する特殊な素材を用いたグローブで、すなわち手で弾き落とした。


 ――"脅威収束:安定"――


 二度目の跳躍を行うと、BISHOPは既に敵が脅威で無くなった事を伝えてきた。敵が構える現在の銃口の位置と人間が行う事の出来る反応速度を考えると、既にファントムを射線上に置く事は不可能であるという計算結果。


「悪く思うなよ」


 バリケードの向こう側へ着地すると、ファントムはそうひと言呟いてからひとりの男を押しやった。男は廊下を激しく回転しながらすっ飛んでいき、身に着けていた装備をそこら中にまき散らした後にぐったりとしたまま動かなくなった。ファントムは首を巡らせると、悲壮感の塊のような顔をした3名の男達へと笑顔を見せた。


「閃光手榴弾を持っているね。そいつは便利だから置いていってくれ。後の装備はいらないから、さっさとこの場を離れてほしい」


 ファントムの声に、男達は震えながらもその通りに従った。何度も転びながら走り去っていく彼らを眺め、ファントムはひとつため息をつく。普段ワインドを相手にしてるような連中がまるで化け物を見たかのような反応を示すというのは、そう気分が良いものでもなかった。


「…………ん、ようやくエアコンを切ったか。帝国の陸戦相手に比べれば、まぁ簡単な仕事かね」


 空調の音が消え、周囲に耳鳴りのするような静寂が訪れる。ファントムは待ち望んでいた状況が訪れた事に満足すると、オリヴィアを押し込んでおいた部屋へと向かう事にした。

 じきにここは地熱により人が足を踏み入れる事すら出来ない環境になるだろうが、それは敵にとっても同じ事である。しばらく行方をくらませるのに、これほど好都合な事も無かった。センサーの類は壊してあり、それを直しに来れる人間もいなくなるのだから。




「英語、ですか。小梅のデータバンクにもいくらかデータはありますが、このような複雑な単語は記載されておりませんね」


 ハンドルを片手に、小梅が金属プレートを興味深そうに眺めている。そこへマールが首を出し、「それじゃあ」と続ける。


「ここは地球じゃ無い。もしくは、その可能性が非常に高いって事よね。こんなのが別の惑星に置かれてたら変だもの」


 マールの台詞に、「おうよ」と太朗が得意気に返す。


「多分だけど、ほぼ間違いねぇだろ。博物館ってくらいだから、当時の様子を記録したデータや何かが見つかるかもしんねぇぞ」


「そうね、ちょっと期待できるかもだわ……帝国成立以前から存在するとなると、少なくとも5千年近く経ってるのよね? 情報に手を加えられたりしてないかしら」


「手を加える? いやいや、マールたん。これって遺跡なわけだろ? 当時のモンがそっくりそのまま残ってんじゃねぇの?」


 わけがわらないと、首を傾げる太朗。マールはそんな太朗へ眉をひそめ、視線を外し、そしてしばらくしてから再び目を上げた。


「残念だけど、違うと思う。だってこれ、新しいわ」


 小梅の持っていたプレートを手にすると、マールはそれをそっと撫でた。


「耐腐食用にダイヤモンドコートされてるの。その下に偏光塗料が塗ってあるから、ほら。傾けると見え方が変わるでしょう?」


 マールが金属のプレートを弄ぶと、確かに元々の灰色が濃くなったり薄くなったりと滑らかに変化した。


「おぉ、おもしろいなこれ……でも、そっか。新しい物か」


「物というか、技術ね。偏光塗料の上に直接ダイアコートを塗れるようになったのは、確かー……えーと……」


「今から約552年前ですね、ミス・マール。オ・ラム星系の企業がそれを成功させました。今でも残っている大企業です」


「そうね、ありがとう。というわけでこれは、少なくとも500年前あたりに作られた物だわ。もしかしたら技術の再発見が起こっただけって可能性も無くはないけど、ちょっと無理矢理ね」


 いくらか申し訳なさそうなマール。太朗は「りょーかい」とそれに返すと、このプレートが意味する所を良く考えてみた。


「つまるところ、あれか? NASAの勘違い? 博物館にある品物を見て、てっきり古い時代の建物だと思ったっつーオチか。どう反応していいかわかんねぇな……でもそうなると、この文章はどういう事なんだろな。英語ってもう使われてないんだろ? だとすると、こんなん作れるのおかしくね?」


 プレートを睨みつけ、考え込む太朗。するといくらもしないうちに小梅が「そのままという事ではないでしょうか、ミスター・テイロー」と手を上げて言った。


「そのまま? いやいや、俺にはまんま納得出来るような情報はみつかんねぇぞ」


「いえ、そうではありません。ときにミスター・テイロー、貴方は良くファンタジーを題材としたコンピューターゲームをプレイしておりますよね。ちょっとエッチなアレです」


「おうおう、やってるやってる。でも後半の情報はいらなくね? マールさんがめっちゃ冷たい目で見てきてるんですけど」


「ではそのゲーム中に登場する太古から伝わる伝説の石版に、銀河標準語で文字が記されていたらどう思われますか?」


「ハハッ、スルー……って、なるほど。雰囲気がそれっぽくなるから、そのまま使ったってわけか。文字の意味はわかんねぇけど、なんか入口に置く表札みたいなもんらしいぜってなノリで?」


「まぁ、真実がどうかはわかりませんがね、ミスター・テイロー。あくまで可能性としては有り得るというだけの話です」


「いや、不可能な状況じゃないって事実だけわかりゃ十分っしょ…………しっかし、博物館かぁ。時代背景を考えると、単に空爆か何かに巻き込まれて埋もれただけか。あぁいや、残ってるって事は元々地下施設か?」


「かもしれないわね。でも気を落す事は無いわよ、テイロー。私としては、逆に助かったんじゃないかって思う」


「お? マールたん、その心は?」


 真剣な表情で質問する太朗に、マールは「考えてみなさいよ」と肩を竦めた。


「ここは博物館なわけでしょ? という事は、当時の様子や情報がわかり易くまとめられてるって事だわ。そりゃ4000年前の遺跡がそっくり残ってた方がわかる事も多いかもしれないけど、でもそれって十分な時間と資金があって初めてそう言える事よね」


「あー、なるほど。確かにこんなトコで悠長に発掘作業なんてやってらんねぇわな……しかも、あれか。少なくともニュークに住んでた人達が色々調査なりなんなりして、間違いなく当時の物だって鑑定済みの代物って事でもあるよな?」


「そうそう、そういう事。私達はニュークの歴史についてまったく知らないわけで、いきなり考古学をやるってのは無理な話だわ」


「にゃるほどなぁ。そう考えると、ハズレどころか超大当たりかもしれねぇわけか」


「ふふ、そうね。でもそうなるかどうかは、もう少しここを調査してからの結果待ちね。何も板切れ一枚から結論を急ぐ必要もないわ」


 にこりと、希望を感じさせる笑顔を見せるマール。太朗も同じように笑みを作ると、ふたりに向けて握りこぶしを掲げた。小梅とマールはそれをきょとんとした顔で見ていたが、やがてその意味に気付いたようで、二人揃って拳を合わせてきた。


「えぇ、頑張りましょう。今私達、これまでにないくらい地球に近づいてるわ」


「小梅もそう思いますね、ミス・マール。そしてミスター・テイロー。これはいわゆる、チャンスという奴です」


「そうだよな……よしっ、ほんじゃ気合入れていこうぜ!! ライジングサーン!! ファイッオッ!!」


 掛け声と合わせ、手を高々と上げる太朗。

 そしてそれをジト目で見るふたり。


「いや、そういうの今までやった事無いわよね。いきなり振られても出来ないんだけど」


 手を上げたままの太朗は赤面すると、「デスヨネー」と小さく縮こまった。




あれ。誰が主人公なんだっけ。

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