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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第11章 フェデレーション
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第160話

「ワ、ワインドだ!! ワインドが来たぞ!!」


 砂埃で汚れたフードを羽織った男が、遠方を指差して叫んだ。男の周りには同じような格好をした10名程がおり、彼らは男の声に姿勢を低くして身構えた。


「くそっ、やっぱりやめときゃ良かったんだ……おい、さっさと逃げるぞ!!」


 別のひとりが吐き捨てるように叫ぶ。彼らは異口同音に呪いの言葉を発すると、地面に散らばった荷物を掻き集め始めた。


「いや、待て…………何か様子がおかしい!!」


 双眼鏡を覗き込んだ男が、風に負けじと叫んだ。双眼鏡の中には装甲車と思われる巨大な鉄の塊が無数に映し出されており、それは彼らに向かって猛スピードで接近していた。


「何が見えてるんだ!! こっちに映像をくれ!!」


 彼らがいる場所から少し後方。地面に空いた穴から上半身を出した男が、大きく手を振りながら叫んだ。双眼鏡を持った男が後ろを向いてひとつ頷くと、彼の持つ双眼鏡が見ている光景が男の手元の端末へと送られて来た。


「マイク、連中の機体を見てみろ!! 何かマーキングがされてるぞ!!」


 マイクと呼ばれた男は穴へもぐると、双眼鏡の男の言う通りに端末の映像を確認した。砲と思われるノズルを持つ機械の塊には、確かに白地に赤丸のマーキングが描かれていた。


「……なんてこった。おい、あれに乗ってるのは人間だぞ!!」


 機械生命体であるワインドはその必要が無い為、決して所属を表すマーキングを行ったりはしない。マイクは興奮して叫ぶと、端末の情報をすぐさま彼らの本部へと送信した。彼は手にしていた端末を傍にいた部下に手渡し、勢い良く穴の外へと飛び出した。


「おーい!! ここだ!! 俺達はここにいるぞ!!」


 両手を大きく振り、全力で叫ぶマイク。周囲にいた彼の部下達はあっけにとられたように彼を見つめていたが、やがて誰ともなく同じように走り始め、ついには全員が駆け出し始めた。




「"我々はRSアライアンス盟主、ライジングサンの者だ。SOSの信号を受け取ってやってきたんだが、発信元は君達か?"」


 装甲車のひとつから降り立った男が、遠目から手を上げながら歩いてきた。強い風の中を堂々と歩いている事から彼がサイボーグである事は確かであり、マイクは部下へ注意するように促した。


「ライジングサン……知ってるか?」


 部下のひとりがぼそりと発する。横にいた彼の仲間は、肩を竦めて首を横に振った。


「我々はNASAエヌエーエスエーアライアンスの者だ。君達の宇宙船を確認したので、助けを要請した。君らは帝国軍では無いのか?」


 通信機へ向かって震える声で語りかけるマイク。彼は歴戦の兵であったが、今はひどく怯えていた。見た事も無い巨大な装甲車が砂嵐の中より大量に現れ、彼らをぐるりと囲んでいたからだ。


「"帝国は何百年も前にこのあたりの統治を放棄しているよ。アルファ方面宙域よりこちらはアウタースペース扱いだ。それより武器を下ろしてくれないか?"」


 こちらへ歩みを進めていた男がそう言って足を止める。マイクは男の言葉にいくらか迷ったが、彼らが敵だった場合、この状況での抵抗は無意味だろうと武器を下ろした。


「詳しい話を聞きたい。代表者数名と共にこちらへ来てくれ……おい、スタンリー。彼らを212上昇口へと案内しろ!!」


 マイクは部下にそう命じると、歩み寄る男の下へと足を進めた。化け物のような装甲車は不気味だったが、それに勝る期待が彼の心を鷲掴みにしていた。


 ワインドによる地上降下から実に400年。ようやく彼らの元に、宇宙との繋がりが戻る事となった。




「うぉぉ……地下都市っすか? まじすげぇんだけど。なにこれ、まじすげぇんだけど。2回言ったぞ俺」


 長々と続くトンネルを見渡し、子供のようにはしゃぐ太朗。重厚な鉄で作られた通路は迷路のように入り組んでおり、彼は既に自分がどういったルートを歩いてきたのかわからなくなってしまった程だった。


「地上はご覧の有様だからね。我々はもぐらのように生きるしか無いのさ」


 砂で汚れきったローブ姿の男はそう言って笑うと、その青白い顔に笑みを見せた。太朗は当初こそその病的なまでの白さに驚いたものだが、口を開けば何の事は無い。同じ人間だった。


「なるほどね。ちなみにそのモグラというのは、何かの生き物かな?」


 常に太朗の傍に立ち、油断無い様子で周囲を伺うファントムが言った。


「トンネルを掘って地中に生きる哺乳類っすよ。ミミズっていうにょろっとした虫が主食だったかな?」


 傍を歩くファントムに説明する太朗。すると「ほぅ」という関心した様子の声がローブ姿の男から上がる。


「良く知っているね。既に絶滅した種だと思っていたが、また見つかったのかな?」


「あー、いや。見つかったというか何というか……そのあたりも後で説明しますよ」


「ふむ……そうか。わかった。期待しておく」


 一向は曲がりくねった廊下を歩き続けると、やがて広めのホールへと到達した。穴へもぐったばかりの頃は投げやりで薄汚れた廃工場のようだった光景も、既に小奇麗な宇宙船内部のようになっていた。


「ようこそNASAへ、ミスター・テイロー。我々はあなた方を歓迎します」


 ホールには数十名の代表と思われる人々が待ち構えており、その中からきらびやかなスーツ姿の女性が一歩前へ出て手を差し出して来た。女性は例により青白い不健康な顔色をしていたが、垂れ目が印象的な、穏やかな美人だった。


「どうも、ミス・オリヴィア。我々は歓迎に感謝します」


 太朗は手についた砂を叩き落とすと、差し出された手をぐっと握って笑顔を見せた。




「なるほど。では我々NASAは、RSアライアンスの傘下にあると考えてよろしいのでしょうか?」


 天井こそ低いが、広く取られたホールで食事をする一同。気を利かせてくれたのか警備兵の類はおらず、逆にライジングサンの面々は武装を許されていた。

 太朗達は地下へ出迎えられた後、しばらくをお互いの情報交換へあて、その後の会食までの時間を休憩時間と称した相談の時間とした。太朗達は空爆を地下でやり過ごした彼らの生命力に感嘆をもらしつつ、同時に現実的な方針を話し合った。そしてある程度の方針を決め、代表同士の話し合いへ望む事となった。


「一応そうなるとは思うんですけど、何分前例の無い事なので……どうなんだろな、これって」


 NASAアライアンスの代表であるオリヴィアへそう答えると、隣に座るマールへ顔を向ける太朗。マールはしばし考え込んだ様子の後、口を開いた。


「アウタースペースである以上、その辺の取り決めはお互いで決めるしか無いわ。ディーンさんが権利をかき集めてくれたのは帝国の一派が手を出したりしないようにする為だし、前例も何も無いんじゃない?」


 マールの答えを受け、「なるほど」と太朗。どうしたものかと考え込む素振りを見せた太朗に、オリヴィアが挙手と共に口を開けた。


「我々としては、RSアライアンスへの帰属を希望します。400年の間に技術的格差は広がっているでしょうし、現状を維持するだけの力が我々にはありません」


 少し残念そうにオリヴィア。「現状を維持出来ないってのは?」と太朗が尋ねると、オリヴィアはひとつ頷いてから続けた。


「ドライブ検知素子やレイザーメタルといった品が、もはや完全に枯渇してしまっているのです。今まではリサイクルやワインドからの回収で何とかやりくりしていましたが、それももう限界となっています。既に数多くの機械類が稼動を止めていますし、再稼動の見込みもありません」


「ドライブ検知素子、か……そいやあれって全部コピー品なんだよな。企業側で作れねぇの?」


 隣へ座るアランへ、ひそひそと尋ねる太郎。


「あぁ。オリジナルは帝国が保管している。素子はコピーの度に劣化していくから、400年もの間にどれだけ劣化したかは考えるまでも無いな。恐らくBISHOP関連の機械は全滅だろう」


 同じように、ひそひそとアラン。太朗はそれに頷くと、オリヴィアへと向き直った。


「なるほど、状況はお察ししました。そういう事でしたら、我々はその両方を供給できるでしょう。それとこちらへ来る道すがらお聞きしたんですが、随分と長い事ワインドとやりあってるらしいですね。そのあたりについてはどうなっているんですか?」


 太朗の質問に、「はい」と疲れた様子のオリヴィア。


「もう何百年も戦いを続けています。彼らの住む地下とこちらの地下とが繋がってしまった頃からですから、もう300年近くになりますか」


「さんびゃく……そいつはまた。連中は諦めるって事を知りませんからね」


「はい、その通りです。当初は穴を塞ぐ事で対処も出来ていたようですが、近頃はそうも行かなくなりました。時間をかける事を学んだようで、おもわぬ場所から穴を開けてやってきます。何百キロも掘り進んで来るんですよ?」


「あ~、わかります。上も似たようなもんですよ。何百年だか何千年だかをかけてドライブ粒子の有無を無視して飛んでくる奴らがいます。うんざりですよね」


 苦虫を噛み潰したような顔で語る太朗。それに柔らかい苦笑という器用な表情で返して来るオリヴィア。太朗は彼女と被害者同士の共感という無言の時間をしばらく過ごすと、「ところで」と口を開いた。


「どうでも良い質問なので無視してもらっても構わないんですが、そちらのアライアンスの名前。"NASA"というのは、何か由来があったりするんですか?」


 どうでも良いという言葉とは裏腹に、真剣な表情の太朗。それとは対照的に、何故そんな質問をするのだろうかときょとんとした表情のオリヴィア。彼女は「正確な所はわかりませんが」と前置きをしてから続けた。


「地上を追われた祖先達が地下都市を拡張していく際に、帝国初期の物と思われる古い遺跡を見つけた様なのです。その遺跡に残されていた物品に描かれていた模様と名前を頂いたと、少なくとも私は聞いております。彼らと同じように、自分達も新しい生活環境を開拓していこうという気持ちの表れだったのでしょう」


 オリヴィアの言葉に息を飲む太朗達一同。太朗はマールやアランと素早く目配せをすると、無言で頷き合った。


「遺跡ですか……それは非常に興味深いです。実は我々は、辺境開発と共に帝国初期人類の研究についても行ってまして。その遺跡ですが、見せて頂く事は可能ですか?」


 立場的に命令しても構わないのだが、わざわざ心象を悪くする必要も無い。それにアライアンス名の由来とする程なのだから、もしかすると崇拝対象になっているのかもしれない。

 そんな太朗の考えが正しかったのかどうか、「それが……」と言いよどむオリヴィア。出来れば強気に出るのは避けたいんだけどと考え始めた太朗だったが、オリヴィアの答えは予想とは違う方向のものだった。


「遺跡があったとされる場所は、もう随分と前にワインドの手に渡ってしまっています。今現在どうなっているのかは、残念ながらわかりません」




書籍特設サイトが公開されました。

http://over-lap.co.jp/bunko/narou/906866984/

http://blog.livedoor.jp/geek/archives/51446062.html


ライジングサン一同や初代プラムの素敵なイラストが公開されています。

どのキャラも素敵すぎてもだえます。

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