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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第1章 ゴーストシップ
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第16話

「なんか、えらい過疎地やね」


 新しい配達先の星系へのスターゲイトを前に、太郎がぼそりと呟く。アルバステーション近くのスターゲイトの時はゲート内を埋め尽くすかの如くだった艦船が、今はわずか10隻足らずしか見当たらない。


「ペタ星系は……あ~、いわゆる廃坑星系みたいね」


 ディスプレイ上でニューラルネットワークを検索するマール。その言葉に太郎が疑問符を浮かべていると、小梅が機械の口で発する。


「ミスター・テイロー。廃坑星系とは読んで字の如く。元々は小惑星帯の採掘の為に開かれた星系ですが、掘りつくされて鉱脈としての価値の無くなった星系の事を差します」


「小惑星帯……あ~、アステロイドベルトってやつだっけ? 重力が無いから作業しやすいんだっけか」


「特定の鉱石についてはそうね。物によっては重力下の方が効率がいいものもあるから、そういうのは普通の惑星で採掘してるみたいよ」


 二人の説明に「なるほろ」と呟く太郎。


「小惑星帯を掘りつくしちまうとか、俺にはもう感覚がわからんな……あぁ、なるほど。掘ったその場で加工してステーションにしちまったりするのか。どんな規模の工事やねん」


 マールから送られてきたニューラルネットワークのサイトを見ながら太郎。彼は船がビーコンプログラムによって自動運用されるのを確認すると、座席を倒して仰向けになる。


「ちっちゃい星をそのまま掘りつくすレベルとなると、資源開発ってのはあんま儲かんなそうだな」


 そう言うと、ディスプレイに映る巨大な太陽を見やる太郎。そこへマールが「冗談でしょ」と続ける。


「コモンメタルならともかく、レイザーメタルの需要は年々上昇中よ。帝国中央じゃどこもかしこも掘りつくされてるから、今じゃ外周部から運び入れてる始末。値段は冗談みたいに右肩上がりよ」


 マールの説明に考え込む太郎。「つーことは」と続ける。


「外で採掘して、中央で売れば大儲けってわけか。輸送位はうちらも噛めそだな……って、うちらの船で運べる量じゃたかが知れてるか。金とかみたいに高級なのだけだったらいけるかな?」


「うーん、どうかしら。結構な額になるとは思うけど、信用も無い相手に輸送を任せるとは思えないわ。本当は自分達で掘るのが一番いいんだろうけど、採掘権は大手が全部掌握してるしね」


「あぁ~、やっぱそうだよなぁ……ん、なんか読めて来たぞ」


 にやりと笑う太郎。不思議そうな表情を向けるマール。


「いやさ、ずっと疑問だったんだよね。ほら、外宇宙は修羅の国みたいな事言ってたじゃん。こんな何の不便もないような所をわざわざ捨てて、なんでそんな世紀末世界に飛び込む奴がいるんだろうって。資源だけの話じゃないんだろうけど、外には手つかずの利権がわんさかだな?」


 太郎の言葉に「ご明察です」と小梅。


「時々鋭いですね、ミスター・テイロー。仰る通り、外宇宙には一攫千金を夢見れるだけの世界が広がっています。問題は手に入れた資源や権利を自分で守らなければならない点でしょう」


「時々、は余計だよね小梅ちゃん。ちなみにその自衛についてとかだけどさ、実際のトコみんなどうしてるの。自社だけで完結とか明らかに無理っしょ? 企業連合?」


「やっぱり時々鋭いわね、あんた。あんたの言う通り企業同士が手を組んで事業にあたるのは良くある事よ。ユニオンって奴ね。ギガンテック社みたいに一社だけで何でもやっちゃう所もあるけど、それは一部の少数派。ただし、外宇宙でホントの所どうやってるのかは、正直わからないのよ」


「企業秘密って奴か……まぁ、やり方わかったらみんな真似するだろうから、当り前か。ちなみに時々、は余計だよねマールたん」


 太郎はそう言いながらマールへと人差し指を向ける。


「あ、ジャンプドライブはじまるみたいね」

「まさかのスルー!?」




 霧散していく光のもや。

 あやふやな感覚に包まれていた自分という存在。

 光の離散と共に、それが確固たるものへと変貌していく。


「とうちゃくぅうううおろろろろろろろろ!!」


「うわ、また吐いたっ!! ちょっとあんた、まだ慣れないの?」


 太郎は全身を襲う不快感に身をよじると、ダストシュートへ向けてもう一度胃の中身を吐き出す。


「や、最初の時よりはずっとマシになったんだぜぉろろろろろろ!!」


「うぅ、喋るか吐くかどっちかにしなさいよ……」


「はぁはぁ……喋るのみを選択できるならとっくにそうしてるって。もうフルオートで内容物が込み上げてくるのよ……これがホントの嘔吐パイロットってか? やかましいわぁろろろろろろろ!!」


「いや、なんでそんな下らない事言う為に体張ってるのよ……」


 太郎は胃酸しか出なくなった内容物をぺっと吐き出すと、シートにどさりと寄りかかる。


「ジャンプ酔いつったっけか? くそっ、銀河の神だかなんだか知らねえが余計なもん作りやがって。ねぇ小梅さん。これっていつ慣れるんですかね?」


 太郎の吐き出した胃酸を、手にしたタオルで拭き取りながら小梅。


「ジャンプ酔いをしなくなるのは個人差がありますが、大抵は3、4回も経験すれば慣れるようです。しかしミスター・テイローのそれは一般的なものよりも随分重く見えますね。通常であればせいぜいが立ちくらみといった所だそうですよ」


「うぇ、俺が特殊なのか。聞かなきゃよかったな……って、あれ? なんかおかしくない?」


「あんたがおかしいのは今に始まった事じゃないでしょ」


「や、そうで無くて。ここどこよ? あの浮いてる石はなんすかね?」


 いつものおふざけかと思っていたのだろう。すました顔のマールだったが、太郎の真剣な表情を確認すると即座に広域スキャンを開始する。


「はぁ!? ちょっと、ジャンプ失敗って事? ここはまだ目標の全然手前よ?」


 マールの慌てた声に、太郎もスキャン結果を確認する。


「旧アステロイドベルト地帯……採掘されつくされたしぼりカスってとこか。マール、詳細スキャンよろぴこ」


 太郎はディスプレイ上に浮かび上がる無数の岩石を一瞥すると、デブリ焼却用のレーザーを起動する。やがてマールからよこされた詳細スキャンの結果を元に、進路上の邪魔な岩石を焼き払っていく。


「付近に大型構造物無し。小梅さん、ジャンプドライブってスターゲイトからスターゲイトまで飛ぶシステムなんじゃなかったっけ?」


 太郎の質問に、船体のチェックを行いながらの小梅。


「肯定です、ミスター・テイロー。ジャンプドライブは2基のスターゲイトが"押して引っ張る"事で実行されています。これはあくまで予想ですが、ジャンプ先のゲートに何か異常があったのでは無いでしょうか」


「なるほど、運が悪かったって事か……こういう事って良くあるもん?」


「否定ですミスター・テイロー。故障が起こる確率はおよそ10の15乗分の1となります。スターゲイトの数からすると、本当に極稀となりますね」


 小梅からの情報に唸り声を上げる太郎。宇宙旅行初心者の彼にも、どうやら異常事態が起こっているという事は十分に理解できた。


「ねぇテイロー。他の船との連絡は付かない? このデブリ重金属系みたいで、コールサインやスキャンがうまくいかないのよ。衝突に注意しないと」


 不安気な声でマール。太郎はBISHOPを開くと、周囲に送られた識別信号(コールサイン)の返信リストを眺める。そこにはまるででたらめに返されたノイズだらけの返信が、大量に羅列されている。


「こらまた偉い量だな…………ほい、抽出したぜ。ってあら? ダメだな。船が20以上になっとる」


 太郎はスターゲイトの中にいた10隻前後の船を思い出しながら、引き続きスキャン結果の洗い出しを行う。無駄と思われるノイズをはじき、乱反射や何かといった必要の無い情報をカットアウトしていく。


「28……だみだこりゃ。小梅、間違いなく船だってやつが4つくらいあるから、それらと通信繋いでくれね?」


「了解しました、ミスター・テイロー。近い順に4つをオンラインにします」


 小梅の声が終わると同時に、通信回線の声が耳へと届く。


「……おっと、繋がったか? こちらコールサインB112」

「……う……する……インC111。復唱する。コールサインC111」

「コールサインC164。こちらコールサインC164だ」

「おい、何がどうなってんだ。こっちはコールサインD024。聞こえるか?」


 耳障りなノイズと共に、付近にいると思われる4隻からの通信が入る。


「こちら……えっとなんだっけ。あぁ、そうだ。コールサインルート。こちらコールサインルート。ジャンプドライブに失敗したっぽいんだけど、みなさんの所はどうなってますか?」


 太郎の声に「ちょっと待ってろ」との返答が次々と入る。しばらくすると、太郎のBISHOP上に各船舶の情報が次々と送られて来る。


「ふむぅ……これがあっちの船からの信号で……これが向こうからの反射か……とすると……」


 太郎は得られた信号を元に、スキャン結果へより高い精度での洗い出しをかけて行く。


「そのままオンラインにしておいて下さい。今スキャン結果を送ります。識別不能(アンノウン)も多いですが、少なくともお互いの位置関係はわかるかと思います」


「こちらC111、情報を受け取った。そっちの船はいい解析機を積んでるんだな。こっちのアナライザーはダメだ。臨時指揮を任せていいか?」


「こちらルート。えぇと、とりあえず了解。解析はめっちゃ手動っすけどね」


「こちらC164、予想進路上にC111が近すぎる。回避するように伝えてくれないか?」


「こちらルート、C164了解。C111、進路をこちら側にいくらかずらして下さい」


「こちらC111、ルート了解。いくらかってのはちょいとアレだね。具体的な数字が欲しい」


「えっと、小梅お願い……C111、座標を送りました。マール、もっかいスキャンお願い。何回計算しても28になっちまう」


 太郎は慣れない事をしている緊張から震える手を押さえ込むと、次々と送られてくる情報を精査していく。


「なんとなく指揮を引き受けちまったけど、具体的に何をすればいいのかさっぱりっす。他の船同士でやりとり出来ないの?」


 どこか責任の逃げ道が無いだろうかと太郎。それにマールが「難しいんじゃないかしら」と続ける。


「この船だって、あんたの情報処理が無ければ何も見えてないわよ。前々からホント疑問だったけどあんたの頭って――」


「助けてくれ!! ワインドだ!! ワインドがいやがる!!」


 マールが何かを続けようとした時、それを遮って悲鳴のような通信。太郎はビクリと肩をすくめると、マールと顔を見合わせる。


「ミスター・テイロー。先ほどの計算結果の28。これは計算違いでは無い可能性は考えられませんでしょうか」


 小梅の声に、マールの喉がゴクリと鳴る。太郎はそれを横目で見ると、震える声で発する。


「敵だ……敵がウジャウジャいやがるんだ!!」




主人公は不幸体質、というわけでもありません。後ほどー

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