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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第11章 フェデレーション
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第158話

 ニュークの大地に降り立った太朗達一同は、視察を兼ねてラダーベースと呼ばれるエレベーター基部をひと通り見て回った。生活に必要な全てが揃えられたそこは、あらゆる場所に積まれた雑多な資材を除けば、宇宙船の内部と非常に良く似ていた。


「似てるっつーか、そのままだなこれ」


 太朗は壁に刻まれたタカサキ重工のロゴを手でなぞり、タカサキは本当に宇宙船からステーションまで何でも作れるのだなと関心した。


「宇宙船内部は1Gの重力が設定されてるし、外壁と柱を除けば宇宙船そのものよ。ほら、使われてる部品も一緒だわ」


 マールは得意げな様子で鼻を鳴らすと、積まれた資材のひとつを指差した。太朗は「ほんとだな」と返したが、実際の所は同じ部品なのかどうかわからなかった。太朗も随分と宇宙船について詳しくはなったが、さすがにマールの知識とは比較にならない。


「既に住んでる人がいるんだっけか。様子はどうなん? 外はあんな様子だし、不安になる人もいるっしょ。何か異常が出たりとかは?」


「いいえ、至って問題ありませんよ、社長。窓の無い宇宙船に乗るスタッフもいますからね。ホームシックにかかるようなヤワな連中じゃあ無いですよ」


「そっか。そいつは頼りがいがあるやね……あぁ、そういう事か」


 廊下を歩く太朗達の脇を、資材の運搬車が通り過ぎていく。太朗はそれを見て、なぜこんなにも周囲が物だらけなのかを理解した。


「宇宙と違って、その辺に浮かべとくわけにはいかねえからだな。通路も二次元だし、こりゃあ大変そうだな」


 地球では当たり前だったはずのそれが、今の太朗には何か新鮮な事のように感じられた。


「何もかもが宇宙と同じってわけじゃ無いのね……ちなみにだけど、いきなりでっかい地震が起きたりはしないわよね? 基地を突き破ってマグマが噴出したりとか」


 少し不安気な様子で、太朗の袖を掴んでいるマール。太朗は「いやいや」とそれに苦笑いを返した。


「どっちも滅多にある事じゃねぇよ。ここが火山の上だって話は聞いてねぇし、地殻の活動もおとなしいもんだとよ。つーかそんなんだったら人なんて住めねぇだろ」


「ホントに? でも外は凄い事になってるじゃない。穴が開いたら砂が入ってきちゃうんじゃないの? そしたらどうするの? 砂よ、砂」


「いや、そりゃあ入って来るだろうけど、だからどうしたって話じゃね? 砂だぞ?」


 太朗は初めての地上に怯えるマールを宥めると、あれやこれやと話しながら用意された自室へと向かった。やがて15分も歩いた先に見つけたそこは、太朗にとって実に見覚えのある部屋だった。


「……うーん、新鮮味が全くねぇな」


 辿り着いたその部屋は、プラムにある自室を軌道衛星エレベーターによってそっくりそのまま降下させていた。よって当然ながら内部は何も変わって無いし、変化と言えばせいぜい固定し忘れたスナック菓子が床に散らばっている程度の物だった。


「でも、やっぱすげぇな統一規格のブロックモジュールってのは。宇宙でも地上でも船でも何でも対応か」


 太朗は使い慣れたソファへ飛び乗ると、窓の無い部屋をぐるりと見渡した。当然新しい発見など何も無かったが、壁の遠く向こうに広がっているだろう大地を考えると、何か不思議な感覚に襲われた。


「感覚的にはこっちの方が馴染み深いはずなんだけどなぁ…………ん、なんぞ?」


 太朗のBISHOPに届く、高い優先度に設定されたメール。しばらくは休憩になっていたはずだけどと疑問に思いながらも、太朗はその内容へと目を通した。


「ノイズの中に規則性のあるシグナルを発見、か…………パルサーの放射とか、だったら小梅あたりが気付いてるか。何だろ。ちょいと片手間に解読してみっか」


 周囲の砂嵐は大規模で、しかも砂には放射性物質が含まれている。エレベーターシャフトを通じたプラムとの有線通信ならばともかく、それ以外の通信はノイズに呑まれてしまうだろう。太朗はまさかワインドの生き残りがいるのだろうかといぶかしみながらも、部屋の掃除がてらスキャン結果のノイズ除去作業を行った。


「うわ、引き出しのジュースこぼれとるやん。どうすんだよこれ。ディーンさんにもらった木製の高いやつなのに……ライザにバレねぇようにしねぇとやべぇええぇえって何いぃいい!?」


 独り言から一転、中空を見つめて叫ぶ太朗。驚いた拍子に手にしたジュースを再びぶちまけてしまったが、既にそれはどうでも良い事となっていた。


「SOS? 誰? どっから? 何? どゆこと?」


 太朗の解読したノイズの中には、銀河帝国で広く使われているSOSの文字が含まれていた。しかもそれは、何度も何度も繰り返し送られて来ていた。


「…………いやいや、嘘だろ?」


 太朗はあり得る可能性のひとつに思い当たり、首を振った。まさかそんなはずは無いと理性が語りかけてきたが、考慮しないでおくにはあまりに魅力的な考えだった。




「生存者? 例の猛爆を生き残ったとでも言うのか?」


 何を馬鹿なといった様子のアラン。「ワインドの罠だって方がまだ有り得るぞ」と続けた彼に、太朗は「だったとしてもだよ」と返した。


「どっちにしろ確かめねえと駄目だろ。ワインドがいるならいるでなんとかしねぇと、せっかく作ったエレベーターが襲われたーなんつったら笑えねぇぞ?」


 太朗の指摘に、場の一同が頷く。マールは施設設置の手伝いに行っている為、会議室には太朗、アラン、小梅、ファントムの4人がいた。


「それは、確かにそうだが……位置の特定は出来ないのか?」


「うーん、ある程度の方角と距離だけだな」


「ふむ…………なぁファントム、お前さんはどう思う?」


 アランの振りを受け、携帯端末をいじっていたファントムが顔を上げた。


「どちらにしろ、もう少し調べる必要があるだろうね。幸いにもプラムは実弾で対地攻撃が可能だが、付近一帯全てを空爆するわけにも行かないだろう」


 ファントムの答えに、アランは考え込んだ様子で黙り込んだ。


「あー、そういやビームは大気で減衰しちゃうんだっけ。全く効果無し?」


「いいや、そんな事は無いよ。乱反射したビームが周囲の気温を急上昇させてくれる。ちょっとした暖房器具には使えるね」


「いやいや、それ効果無しっすよね!! 暖房器具としてもコスパ悪すぎじゃねぇすか!?」


 反射的に突っ込みを入れる太朗。彼は突っ込み先がファントムである事に気付いて少し慌てたが、当の本人は楽しそうに笑っていた。


「よし!!」


 そんな太朗達を横に、アランが何かを決意したように声を上げた。


「調査部隊を組織してみるか。いくらか時間はかかるだろうが、計画を立ててみよう」


「おっ、そうこなくっちゃな。アランは元陸戦て話だから、その辺もいけるんだろ?」


「武器がありゃあな。そう、問題はそこだ。どうやって装備を調達するかな」


「……え? 普通にマーケットに売ってねぇの?」


 宇宙戦艦が売られているくらいなのだから、当然あるのだろうと考えていた太朗。しかしそんな太朗に、「ミスター・テイロー」と小梅が口を開いた。


「陸上兵器など、いったい誰がお使いになるのですか?」


「誰って……そりゃあ、軍とかだろ。地上戦とかねぇの?」


「宇宙を取られればその惑星は終わりですよ、ミスター・テイロー。好きな場所へ好きなように投下兵器を投入出来ますし、惑星外との貿易を止めれば星は干上がってしまいます。そうなった以上は無駄な抵抗でしょう」


「……言われてみりゃあそうか。つーことは、あれか。陸戦ってのは対テロや何かに特化してんのか」


「そうなりますね。詳しくはミスター・アランに尋ねるのが一番でしょうが」


 ふたりの視線が、自然にアランへと向かう。アランは何か考え込んだ様子でぶつぶつと言っていたが、ふたりの視線に気付いて頷いた。


「そうだな。対テロというよりは、宇宙ステーション内での戦いに特化してると言った方がいいだろうな。だから武装にも色々と制約がある。例えば貫通力の高い兵器など以ての外だな。ステーションに穴が開いちまう」


「うへぇ……や、ちょっち待ちよ。つーことは、何? 戦車とかそういうのもねぇの?」


「センシャ? なんだそいつは。装甲車みたいな物か?」


「みたいなっていうか、いやまぁ装甲がついてるのはそうだけど……まじかよ」


 アランやファントムがいるのだから何とかなるだろうと考えていた太郎は、予想外の事態に慌てる事となった。


「そんなんだからワインドに星を取られちまったんじゃねぇのか? 戦車ってのは、あれだよ。でけぇ装甲車に大砲乗っけて、キャタピ……は会社名だっけか。えーと、履帯で進む奴。もしかして履帯もねぇのか?」


「いや、さすがに無限軌道はあるぞ。惑星開発用の作業車には必ずといって良い程使われてるな」


「そっか……いずれにせよ、あれだな。ちょいとばかり時間をかけてやる必要がありそうだ」


 太朗は薄れ行く地球の知識を必死に思い出すと、陸上兵器についてのあらゆる情報をかき集め始めた。




 砂嵐。今この惑星を支配しているそれは、乾いた大地を進む10名の男達へと容赦なく吹き付けていた。それは通常の人間であれば遥か空へと巻き上げられてしまうだろう途轍もない暴風だったが、それにも関わらず、男達はしっかりとした足取りで前へと進んでいた。


「隊長、このあたりのはずですぜ!!」


 アームドスーツを着た男のひとりが、風の音に負けじと大声で叫んだ。


「よし、機材を設置しろ!! さっさとやれ!! 記録を更新してみせろ!!」


 隊長と呼ばれた男。すなわちファントムがそう発すると、彼の昔からの部下達が一斉に行動を開始した。彼らはファントムが帝国相手に大立ち回りを演じた際に共闘した仲間達で、誰も彼もが鍛え抜かれた一流の兵士だった。


「設置完了!! ソナーレーダー起動します!!」


 男達はマニュアルによると平均75分かかるとされている組み立て作業をわずか20分で終わらせると、一列に並んで装置の反応を待った。


「…………ノイズが酷いが、エコーはきちんと返って来てる。下に何かがあるのは間違いないね。巨大な空洞だ」


 ファントムはレーダーから得られた結果へ目を通すと、これからどうしたものかと逡巡した。サイボーグである自分達はこの程度の嵐などどうという事は無かったが、ワインドがいるかもしれないと考えるといくらか不安だった。


「隊長、地上型のワインドってのはどんな奴なんですかね。砂嵐を飛ぶとは思えませんし、やはり地べたを這ってるんでしょうか」


「いや、どうだろうね。我々には考えつかないような方法で移動している可能性もあるぞ。物質が最も安定する形は球形だ。ひょっとしたら転がって移動しているかもしれんぞ」


 ファントムは冗談交じりにそう言うと、欲張らずに引き返す事を決めた。太朗からは安全第一を厳命されていたし、脅威度のわからない相手に身構えるのは非常に疲れる行為だった。


「行こう。長居しても良い事は少なそうだ」


 ファントムは大きく手を仰ぐと、来た時と同じように部下を連れて駆け出し始めた。基地に戻るまでの2時間は走り通しになるだろうが、彼らにとってそれは簡単な事だった。移動に惑星開発用の荒地運搬車を使うという選択肢もあるにはあったが、視界の悪いニュークでそれを使う気にはならなかった。



 男達が走り去った後も、ソナーレーダー装置は無人のまま稼働を続けていた。やがて日が落ち、ただでさえ暗かった周囲が完全な暗闇に覆われた頃、装置のすぐ脇の地面がふいにぽこりと盛り上がった。山になった砂が重力に従ってさらさらと流れ落ちると、そこには細長い潜望鏡のような不思議な物体が残されていた。


「……………………」


 その地面から生えた金属の塊は左右へきょろきょろと見渡すように回転すると、一度だけ間を置き、やがて砂の中へと消えていった。




7/3投稿予定の編集中である第159話を、

予約投稿の日時ミスで一時的にアップしてしまいました。

大変ご迷惑をおかけしました……orz

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