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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第11章 フェデレーション
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第156話

「総員、気を緩めるなよ。何かあっかわかんねぇからな。まだ壊れて無い奴もいっぱいあるはずだぞ」


 左目に片目用のゴーグルモニターを当て、船外の様子を慎重に伺う太朗。警戒担当艦2隻が先導する船の前方には、先の戦闘で発生した無数のデブリと共に大小様々な構造物が確認出来た。


「いくらアステロイドベルトとは言っても、明らかに集中しすぎてるわ。きっとどこかから集めてきたのね」


 太朗と同じようにゴーグルモニターをつけたマールが、独り言のように呟く。確かに彼女の言う通り、周辺にはあまりにも大量の小惑星が密集していた。カメラ向こうに確認出来る建造物はそういった小惑星に備え付けられており、それぞれが何らかの作業に従事しているようだった。


「ミスター・テイロー、活動の活発な施設を発見しました。アローによるポインティング済みです。攻撃を行いますか?」


 太朗のゴーグルモニターの表示上に、「小梅」と注釈のついた左方向への矢印が表示される。太朗がそれに従って首を回すと、モニター上の景色が首の動きに追従して変更された。


「あれか……くそっ、前の時もそうだったけど、何の施設かわかんねぇのがもどかしいな。脅威度の判定が出来ねえよ」


 悪態と共にそう言うと、太朗はとりあえず注意するようにと艦隊へ情報を送った。ワインドによる物と思われる施設は、人間が作成するそれとは全く様相が異なっていた。四角く整った一見すると普通の倉庫に見えなくも無い建物から、ただのスクラップの山に見える物まで様々だった。外見からは、何の為に作られた施設なのかが全く読み取れない。


「ベラから通信が入ってるわ。防衛用の大型施設と思わしき建造物を確認、現在戦闘中との事よ」


「うぇ、やっぱりあったか……こっちも気を抜かねえようにしないとな」


「アローの方角にある施設より、砲塔と思われる構造体が露出。如何しますか?」


「如何も何も、壊しとこう。出来れば安全を優先で」


 太朗は先ほどと同じように小梅指定の矢印に従うと、確かに砲と思わしき物体を突き出す施設が確認出来た。


「サイズ的に一発で行けそうだな……いや、念には念を入れるか。ターゲットをロック。主砲1番から3番まで斉射」


  ――"単艦指揮:戦闘行動"――

  ――"フィードバック:対象捕捉"――

  ――"フィードバック:砲撃計算"――


 太朗の指示に従い、すぐに戦艦が回頭を始める。並行して対象のロックオンと主砲の発射準備が第2艦橋の作業員によって行われ、それが太朗の元へと返された。


「やっぱ手分け出来るってのはありがてぇな……主砲、発射!!」」


 太朗はぶつぶつと第2艦橋へ向けて感謝の言葉を送ると、敵施設へ向けて金属の塊を射出した。今までのプラムにあったそれより重量、強度、値段、とあらゆる点が数倍に膨れ上がった弾頭が、巨大蓄電装置からの大電圧を受け、宇宙空間を疾走して行く。


「テイロー、対象施設が発砲したわ。総数34。被弾進路は12ね」


「了解。まぁ、大丈夫だろ。口径小さいみたいだしな」


 太朗はどことなくのんびりそう答えると、弾頭の制御へ集中する事にした。船には頼れる仲間達がおり、太朗は得意とする作業に没頭する事が可能になっていた。それに高額になった弾頭は前程気楽に撃つわけにはいかず、そして撃ったのであれば確実に当てたい所だった。


「敵砲撃着弾します……命中数11、損傷無し。使用分のシールドは既にジェネレータにより充填済みです」


「おおう……つまりこれ、永遠に撃ち続けられても大丈夫って事?」


「そうなりますね、ミスター・テイロー。味方主砲弾着まで残り3秒……2……1……主砲、全弾命中」


 太朗の目に、ズームアップされた対象施設が映し出される。レールガンの弾頭はその重量と速度のままに施設を破壊しながら突き進み、やがて施設中央と思われる地点にて内部のプラズマ膨張体を解き放った。プラズマ膨張体は弾頭を内部から破壊し、それを数万の小さな燃え上がる榴弾へと変貌させた。


「一丁上がりだな」


 施設は閃光と共に火を噴き上げると、ゆっくりと裂けるように分解していった。


「やっぱり高いだけあって凄いわね、戦艦って。でも、こういうのが敵として出た場合ってどう対処すればいいのかしら」


 ほっとひと息ついた様子のマールが、振り返りながら発した。


「んー、そうだな。プラムで戦っていいんなら素直に魚雷をぶち込むけど、そういう意味の質問じゃねぇよな……戦艦同士だったら主砲での殴り合いになるし、艦隊で接近出来るんならドローンの出番かな。船体がデカいからまとわりつかれるとどうしようも無いし、加速も遅い。シールド発生面と実装甲の隙間も大きいから、小型機からすりゃ楽だろうな」


 太朗はかつてオーバーライドして手に入れた知識を思い出すと、一般論としてそう語った。


「"楽だとは冗談きついぜ、ボス。戦艦ひとつに対空砲がいくつあると思ってんだ?"」


 視界の隅に枠が現れ、そこに映るゴンが不満げに呟いてきた。太朗はそれに肩を竦めると、「失言デシタ」と苦笑いを返した。


「"まぁ、ドローンを使った方がコストパフォーマンス的に優れてるってのは確かだがな。それよりボス、そろそろ十分な量のデータが取れたと思うぜ"」


「お、まじっすか。りょーかい。そんじゃ航空隊は引き揚げましょか」


 太朗は施設群の撮影を行っている艦載機を呼び戻すと、送られてきた様々なデータを眺めた。そのデータが何を意味するのかは分析を進めてからの答えになるだろうが、それが社会の役に立つだろう事は間違いなさそうだった。ここまで大規模なワインドの施設など、少なくとも一般公開されている情報の中では見た事が無かった。


「もうしばらく情報収集を続けたら、後は調査チームに任せよう。とりあえず集まったデータでチームの派遣計画は立てられそうやね」


 太朗はそう締めくくると、第2艦隊と共に長距離ワープの態勢に入った。周囲には十分な量のドライブ粒子が存在し、既に先遣隊による安全確認も行っていた。


「さ、それじゃ行きましょか。吉と出るか凶と出るか……惑星ニュークへ向けて、れっつらドン」




 ひとつの太陽と8つの惑星。銀河でもごく一般的なその星系は、実に数百年振りとなる外部からの侵入者を受け入れた。


「特徴的な惑星の数は一緒だな……水金地火木土天海だ。冥王星は無くなったんかな? こんな事になるんなら天文学のひとつでも勉強しときゃ良かったぜ。リングがあったのは土星だったかな?」


 太朗は広域スキャンの結果を確認すると、そう言って眉を顰めた。かつての彼は天体に全く興味が無かった為、それぞれの惑星が持つ特徴など全く覚えていなかった。


「それは恒星からの距離順なのかしら。リングのある惑星も確かにあるようだけど、そういった惑星自体は結構ありふれてるわよ?」


「どうだったっけかなぁ……ちょっと思い出せねぇ。地球には月っていうでかい衛星があるのは確実なんだけど」


「ふむ……ときにミスター・テイロー。何をもって大きいとするのでしょうか?」


「え? あぁいや、そう言われると、何だろうな?」


「んもう。本当に地球かどうか、判別できるの?」


「うーん、どうだろう。ちょっと自信無くなって来たぞ……」


 太朗はスキャンで得られた画像を前に、ああでもないこうでもないと話し合った。しかし結局はらちが明かないと、目的地である惑星ニュークへ向かう事にした。


  ――"オーバードライブ 終了"――

  ――"到着地:RPM95355 ニューク"――


 青い霧が晴れ、画面が漆黒の宇宙空間で満たされる。

 やがて恒星の発する輝きがそれを星々として埋め尽くし、太朗はジャンプ酔いの吐き気を覚えながら目を開けた。


「ニュークは……これか……」


 太朗は足元へと目を転じると、ゴーグルモニターを通じて船の向こうを見通した。そしてそこには、画面を覆い尽くさんとする巨大な惑星が存在した。


「……………………」


 無言で惑星を凝視する太朗。

 モニタに映し出された星は分厚い雲に覆われており、それは至る所で巨大な渦を巻いていた。赤外線を使ったスキャンで確認した地表の様子は、何も存在しない、ただなだらかな地形を描き出している。かつては海があったのだろう一帯を確認する事も出来たが、それが地球のそれと同様なのかどうかはわからなかった。


「…………オーバーライド、か」


 太朗はぼそりと呟くと、気落ちしてしまいそうな自分に気付き、頭を振る事でそれを振り払った。忘れてしまったものは仕方が無い。それを悔やむよりは、どうするべきかを考える方が建設的だった。


「……なぁアラン。この状態で、地表に降りる事って出来るん?」


「"そうだな……降下艇と宇宙服があれば可能だろう。放射線の量は高めだが、まぁ許容範囲内だな。酸素がほとんど無い点を除けば、大気の組成も生存可能惑星と大きく違うわけでは無さそうだ。いや、妙に水分が多いか?"」


「お? まじで? 行けるん?」


「"あぁ、多分な……ただしあまりおすすめはしない。デブリの量が異常だし、見ての通り大気圏内はかなり酷い気候だ。ハリケーンが至る所で発生してるし、気温はあらゆる場所で氷点下だ。テラフォームするにも、恐らく相当な年月がかかるぞ"」


「そっか……まぁ、降りた所で何があるってわけでもねぇんだろうけどさ」


 強烈な風の吹きすさぶ、茶色い死の大地。そこに降り立った所で、何か益があるとは思えない。


「"そう急ぐ事もないさ、大将。博士の研究が進めばわかる事も多いだろう。その結果を見てからでもいいんじゃないか?"」


「……まぁ、そだな。そうすっか」


 太朗は残念さから肩を落とすと、艦隊指揮の関数を立ち上げた。今遠征の目的は回廊攻略であり、そこで調査を行う事では無かった。


「リンケージオーバードライブの準備を。空間予約はマールに……」


 声と共に振り上げた手が、ぴたりと止まる。


「…………なぁ、あれって何だ?」


 戦術スクリーンに映った無数のデブリ。ニュークを周回しているのだろうその内のひとつが、艦隊のすぐそばをゆっくりと通り過ぎている。


「はい、ミスター・テイロー。何かの施設の一部だった物のようですが、何か気になる点でも?」


 太朗はゴーグル内で目をこらすと、自分でも良くわからない不思議な違和感を感じて動きを止めた。彼の中で、何かがあるぞと誰かが叫んでいた。


「……気になるようでしたら、拡大してみましょう。スクリーンへ移します」


 小梅はそう言うと、前プラムと同じように配置された大型スクリーンを仰ぎ見た。太朗もゴーグルをはずしてそちらを見ると、やがて現れたクローズアップされたデブリをじっと見つめた。それは確かに小梅の言った通り、破壊された何かの施設らしかった。


「これは、あれね。実物を見るのは初めてだけど、多分軌道エレベーターの残骸だわ。カウンターパーツ一体式なんて、相当古い物よ。ちょっと回収してみたいわね…………テイロー?」


 反応が無い事を怪訝に思ったのだろう。マールが訝しむ目で振り返る。太朗はマールが何かを言っているのには気付いていたが、今はそれどころでは無かった。


「………………あ……あ……」


 勝手に漏れた声。太朗の目は元施設だったデブリの一ヶ所に集中し、そこから離す事が出来ないでいた。


「…………あぁ……あぁあああああ!!」


 自分でも理解の出来ない感情が押し寄せ、慟哭する太朗。何をすれば良いのか、何を考えれば良いのか、何もわからずにただ叫んだ。


 そのデブリの側面には、大きく「NASA」と書かれていた。




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