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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第11章 フェデレーション
154/274

第154話

 アルファ方面宙域における最大の造船企業、タカサキ。主な生産ラインは民間船だが、軍事においても十分な実績を誇っている。その企業規模は巨大で、周辺宙域における最大アライアンスであるEAPの屋台骨と言えた。

 そのタカサキ造船によって生み出された新生プラムは、長い生産工程――予定より2ヶ月も伸びた――を終え、太朗達の待つニューワイオミングへと到着した。第一桟橋の付け根という一等地に係留されたそれは、周囲に圧倒的な存在感を放っていた。戦艦であるという政治的、軍事的な意味も当然あるが、何より単純に大きかった。


「見物人が凄かったわね。あんなに混雑してるロビーは初めて見たわ!」


 桟橋の高速移動レーン上。太朗の隣で移動するマールが、後ろを振り返りながら興奮気味に言った。太朗も後ろを振り返ると、自分らの後ろに続くライジングサン首脳陣の頭越しに、ぎゅうぎゅう詰めに混雑するロビーの様子が見て取れた。


「RSアライアンスの旗艦って事になるからなぁ。うちの会社の所有物ではあるけど、住民のみんなからすれば"俺達の戦艦"ってトコなんじゃないかな。オラが村の~って奴だ」


 太朗は戦艦プラムの建造にあたり、意図的にアライアンス運営費の一切を充てていなかった。建造費は思い出すのも嫌になる程に高くついたが、共有財産扱いにされ、自由な運用を妨げられるよりはマシだった。しかしそういった事実も、アライアンス領土内の住民からすればどちらでも良い事だろう。


「露出式の主砲か。帝国のライオット級やミドルコメット級に似てるな……なあテイロー。こいつは前面集中型なのか? ケツがデカくてセクシーなのはいいが、砲撃の邪魔に見えるぞ。それと、中央にあるあのデカイ構造物は何だ? 観光船の観覧席みたいだが」


 背後からアランが、桟橋の窓向こうを眺めつつ発した。


「いんや。主砲のみが制限域のある、いわゆる前面優勢型って奴だな。左右にあるベイが半周囲対応の副砲で、デカいケツはドローンの格納庫になってる。うじゃうじゃ積めるぞ。あのデカイのは通信システムらしいぜ。骨だけになったプラムⅡに積んでたアレの強化版だな」


 進行方向に背を向けたままで、戦艦の各部へと指さし説明する太朗。


 戦艦プラムは正面から見るとひし形で、上から見ると細長い楕円形をしている。これは太朗の良く知る地球の艦艇が持つシルエットと似ており、通信機能の詰まった艦橋も同様だった。

 アランが観光船の観覧席と。そして太朗が通信システム"らしい"とした構造体は、当初の設計に存在しなかったが、建造の最終段階で急きょ追加されたものだった。正面から見た際のシルエットが大きくなる事は、すなわち敵との殴り合いの際の被弾面積が増えてしまうという事でもある。当然太朗も船体はコンパクトにまとめるつもりでいたのだが、大口径砲のレールガンが発するプラズマと通信用ドライブ粒子が干渉してしまうという問題が試験運用中に発覚した為、致し方なくといった所だった。この船はアライアンスの旗艦であり、最も重要なのは、砲やシールドよりも通信機能まわりだった。


「詳しい仕様はお手元の資料をご覧にならずとも、はい、小梅さんヨロシク」


 太朗の振りを受け、小梅はいつもの無表情で頷いた。


「了解です、ミスター・テイロー。超キロメートル級戦艦スーパーサウザンドシップ、BB-RS001プラムⅢ。全長1024メートル、最少被弾面積200メートル四方。戦艦用大型バッテリージェネレータ4基と、8基の核融合エンジン。前プラムより転載したメインBISHOP中枢と、4つの複合サブシステムを搭載。ご覧の通り、露出型砲塔となっている主砲大口径2連装レールガンは上部前方3基、下部2基が階段状に。副砲として左右に3つずつの半球形対応格納式3連装ビームタレットを備えています。これらは主に、主砲の範囲外への対応用となりますね。なお、主砲はそのまま魚雷発射管としても使用可能です」


 すらすらと流れるように答える小梅。彼女は「艦載能力はどうなんだ?」と発したキャッツのゴンをちらりと見ると、さらに続けた。


「プラムで蓄積されたノウハウを元に、小型空母と同様の物を備えてあります。通常型戦闘機、HAD、及び爆撃機を約150機搭載可能。戦艦内部にドックが存在する為、イエローアラート程度の損害であれば艦載機の修理も可能でしょう。艦橋の通信システムはミスター・テイローのご説明通り、ニューラルネット連絡船のそれを強化・改良したものを流用しております。無人随伴機の中継もこちらで行っておりますが、予備としてドローン格納庫内にもサブシステムが搭載されております」


 全員の目が、新造プラムの後部へと集まる。そこには副砲のタレットベイとは別に、ドローン射出用のベイが2つ程確認出来た。向こう反対側を考えると、同時に4機ずつが射出可能という事だろう。


「随分とまぁ、色々と盛り込んだもんだね。出来の割りに安上がりなのは、例の精製法からかい?」


 ベラの問いに、「えぇ」と頷く太郎。


「現状では見返りが少なすぎるだろうって、ディーンさんがレイザーメタルをかなり安く融通してくれたんすよ。市場価格で調達してたら倍じゃきかないんじゃねぇかなぁ?」


 レイザーメタルは船やその設備を作るにあたり、最も材料費のかかる部分だった。ドライブ粒子に関係する部材が、全てレイザーメタルを必要としているからだ。それが圧縮されたのは非常に大きい。


「それだと会社が傾いちゃいますからね……さて、中に入りましょうぜ」


 太朗達は揃って桟橋を移動すると、連結チューブを通って戦艦内部へと足を踏み入れた。分厚い装甲で作られた隔壁をいくつも抜けると、代わり映えはしないものの新品特有の真新しさに包まれた通路へと到達した。


「指揮所はふたつあるんだな。リスクの分散か?」


 手元の地図を見ながら、アラン。戦艦内部は入り組んでおり、慣れるまで地図無しでは満足に移動も出来ない。


「それもあるけど、作業分担が主な目的かな。たぶん装置ごとに人員を配置する事になるだろうから、戦艦内部の統制は第二艦橋に任せる事になると思う。300人くらい必要になるみたいだしな。ちなみにアランはそっちのリーダーね」


「おいおい、そういう大事な事は前もって……あぁいや、すまん。意識が無かったんじゃ無理だな。わかった、任せとけ」


 太朗はアラン達と別れると、マール、小梅、エッタの4人で第一艦橋へと向かった。ベラは第二艦隊の指揮を執るためにプラムへ乗る予定が無い為、どちらでも良かったのだが、どうやら第二の様子を見に行ったようだった。


「綺麗な流れ……波が、邪魔しないようになってる」


 何も無い廊下の無骨な天井を眺め、エッタがぼんやりと発する。太朗もつられて上を見たが、当然何も見えなかった。恐らく彼女には戦艦プラムの通信機能が作るネットワークが見えているのだろう。


「アランが設計を担当したからな。通信、ネットワークに関してはほんと一流だわ。見た目とぜんっぜん合ってねぇけどな」


 太朗が無骨なアランを思い描きながらそう言うと、3人はくすくすと笑った。


「わ、思ったより狭いわね。図面で確認してはいたけど」


「結局前のプラムの時も、艦橋は俺らしか使わなかったしな。そん代わりに第二の方は10倍くらいでけぇな」


「300名も入るんだものね。こっちが私の席ね」


 4人は円形の部屋となっている艦橋へ到着すると、ひと目でそれとわかる自分達の席へと移動した。太朗は一段高くなっている艦長席へ。マールは無数の収納ボックスとモニターに囲まれたシートへ。小梅は手動操作が可能な機械設備の整ったそれであり、エッタのは快眠が約束されたひと周り大きい高級なシートだった。


「自分で言うのも何だけど、統一性のかけらもねぇな……」


「機能優先だから仕方無いじゃない。それより私、機関室の方へ行ってくるわね」


「小梅もお供しましょう、ミス・マール。ひと通りの機材を確認しておきたいです」


 太朗は飛び出していくふたりを見送ると、シートへゆったりと身体を預けて息を吐いた。かつて地球では持ち家を持つ事が一国一城の主と呼ばれる事があったが、それを手に入れた者はこんな気持ちなのだろうかと想像した。


「…………いんや、まだまだだな。もっと上がある。超弩級艦に、大型空母。ギガンテック社の輸送船みたいに、戦艦を乗せて運べるような船だってあるんだからな。こいつで満足してちゃ男じゃねぇぜ」


 太朗は満足感で満たされそうになっていた自分をそう叱咤すると、「よし!!」と気合を入れて自らの頬を叩いた。


「これで必要な物は揃ったな。後は実行するだけだ」


 いつの間に寝ていたのだろうエッタの寝息をBGMに、太朗はワインドが巣くう回廊の攻略についてを頭に思い描き始めた。そしてそれは、非常に簡単な事のように思えた。

 敵の行動が予測出来るという事が、これ程までに素晴らしい事だとは思わなかった。




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