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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第11章 フェデレーション
144/274

第144話

不定期掲載になってしまい、申し訳ありません。

本業が落ち着き次第戻したいと思っておりますm(_ _)m


 ――"照準補正 マニュアル"――

 ――"BISHOPリダイレイクト 随時"――

 ――"レールガンタレット 斉射"――


 鋼の塊が宇宙空間へ飛び出し、同じ鋼で出来た塊へと向かい突き刺さっていく。付近は往来するビームの明かりで激しく明滅し、時折閃光と共に無数の船がいっそう明るく映し出される。


「第2艦隊は退避急いで!! 命賭ける必要とか全然ねぇから!!」


 艦隊指揮用のBISHOP関数群を急速展開し、敵正面を受け持つ艦隊へ退却の指示を送る。当然ただ逃げるのでは無く、部隊毎にお互いを援護させ、秩序立った撤退を行わせる。


「ミスター・テイロー、新たな敵の増援が確認されました。これで総計1214体目となります」


 太朗へ戦術スクリーンへ目を移し、遠方から飛来する光点の群れを確認する。


「また失敗か……くそっ!! いったいどんだけ居やがるんだ!! キリがねぇぞ!!」


 いらつきに任せてシートの手すりを叩く太朗。彼はしばらく無言で唇を噛みしめると、全艦隊に撤退の命令を発した。




「珍しいな、大将。随分と強い酒を飲んでるじゃねぇか」


「飲まずにやってられっかってんだ……これで3回目だぞ」


 ワイオミングは商業区にあるライジングサン社員行きつけのバー。比較的裕福な者達が利用するそこで、太朗はファイアボール925をちびちびと呷っていた。


「幸いにも大した損害は出てない。倒した相手がいずれ起こしただろう損害を考えると、まぁ、それなりの戦果はあったと考えていいんじゃないか?」


「どうだかな。そう考えるとちっとは気が楽になるかもだけど……」


 太朗は惑星ニュークへ至る道に巣食うワインドの排除を計画し、これに3度失敗していた。ニュークのある星系はドライブ粒子密度の揺らぎが作る自然の回廊が出来上がっており、そこを突破しない事には惑星へ近付く事さえ出来なかった。


「それにワインド討伐に対する懸賞金も馬鹿に出来ないぞ。あれだけの量だとかなりの収入になってるはずだ」


「あー、それだけど、多分一時的なもんになるだろうってディーンさんが言ってた。さすがに多すぎるから、いずれ帝国中枢からの距離に応じて金額を変える流れになるだろうってさ。辺境のワインドなんて二束三文だな」


「……やってらんねぇな」


 ふたりはグラスをぐいと煽ると、似たようなタイミングでため息を吐き出した。


「経費的に無理があるし、ハンターがこぞって辺境に流れでもしたら中央はたまらんか……中央にいれば当然で仕方が無いと思う様な事でも、こうして辺境に来てみりゃ向こうの身勝手さに腹が立つな」


「だぁな。正直独立したくなる連中の気持ちもわかんなくもねぇよ」


「おいおい、滅多な事を言うなよ。中央に睨まれるのは御免だぞ」


 アランは声を潜めてそう言うと、困ったような顔で片眉を上げて来た。太朗は「わかってるよ」とぶっきらぼうに答えると、空いたグラスを机の上に滑らせ、BISHOPを通して次の一杯を注文した。


「ところでテイロー、新しい船はいつごろ出来そうなんだ。もう着工に入ってるんだろう?」


 太朗と同じように新しい注文を済ませたアランが、AIロボットの運んで来たグラスを受け取りながら発する。


「完全なオーダーメイドだから、あとひと月かそこらはかかるだろうってさ。タカサキさんトコの工場をひとつ丸々貸し切ってる状態」


「こっちの企業を使わなかったのか?」


「部品やモジュールについてはこっちの会社に頼んでるよ。でも基礎設計と構造体については信用できる所にお願いしたかったから。戦時中は随分とお世話になったし、恩返しも兼ねてだね」


「そうか……リンやサクラの嬢ちゃんは相変わらずか?」


「おう、何も変わって無かったな。サクラは相変わらず……その、なんだ。ぐいぐい来てたし、リンは帝国進出の件で顔面蒼白にしてたわ。考えてみると、俺がリンと会う時はいつも大事件が起こってるな。ディンゴ、エンツィオ、帝国と」


「あっはっはっ、確かにそうだ。そのうち死神呼ばわりされるかもしれんぞ」


「ちゃんと火消しもしてるじゃん。勘弁願うぜ」


 ふたりはそうして笑い合うと、再び静かに飲み始めた。店内に流れるジャズのような曲にに身を任せてしばらくすると、太朗は「なぁアラン」とテーブルを見つめたまま口を開いた。


「正直俺にはどうしたらいいのかわかんねぇけどさ、アランが敵だとは思えないし、今まで通りでいいよな」


 エンツィオ戦争を引き起こした老人と対面した際の事。あの場でアランの口走った内容を思い出す太朗。あの内容から察するに、アランは今でも軍と何らかの繋がりがありそうだった。

 アランが口につけようとしていたグラスを止め、それを再び下ろす。


「そいつは経営者としてどうかと思うぞ。疑わしきをそのままにしておくのはよろしく無いだろ」


「経営者としてか……じゃあその台詞はどの立場から?」


「お前の部下としてだよ。情報部長としての立場もあるな」


「そんじゃあ、個人的には?」


「……悪いな、テイロー。お前の言う通り、今まで通りにしてくれると助かる」


 グラスを手にしたまま、下へ俯いているアラン。太朗はその苦渋に満ちた表情をちらりと横目に見て、アランを信じる事に決めた。


「ん、そんじゃそうしよう。全銀河童貞連合のトップツーが割れたんじゃ、喜ぶのはリア充だけだからな」


 ニヒヒと笑いながらグラスを持ち上げて見せる太朗。しかし茶化した太朗に反し、真剣な表情のままのアラン。


「なあ、大将。こんな事を言って信じてもらえるかはわからないが、俺は何があってもこの会社の事を優先するつもりだ。だがどうしても我慢ならないというのなら、それこそ切ってもらっても構わない」


 手元のグラスをぐいと呷り、まだ注いだばかりの酒を一気に飲み干すアラン。


「だがよ、テイロー。もしお前さんが待っててくれるってんなら、俺はいつか必ず、全部お前に話す……すまんが、今はそれだけしか言えん」


 アランはそう言って立ち上がると、一度頭を下げてから帰っていった。太朗はひとり、残った酒を見つると、アランと同じような事を言っていた男の事を思い出していた。


「ファントムさんもそんな事を言ってたな。うちの男連中は秘密の多い事で……でもまぁ、周りから見りゃあ俺もなんだろうけどな」


 太古の世界から来た自分の事をそう自嘲すると、アランの真似をしてグラスを一気に傾ける太朗。酷く咽る事になったが、いくらか気分が晴れた気がした。




「さすが博士と言った所かな。こう言っては何だが、高額の支払いを続けた甲斐があるってものだ」


 ライジングサンローマ支部の巨大なオフィス。その一角にパーティションで区切られたエリアが存在し、そこで太朗の正面に座ったファントムが、アルジモフ博士から送られてきた調査資料を眺めながら言った。


「ステルス艦に乗った上に、結構ドンパチやらかしたらしいぜ。アグレッシブすぎる博士ってのもどうかとは思うけど」


 太朗はファントムにそう返すと、自らも博士からの資料へもう一度目を通す。


「想定されるワインドの総数は約2000体。何らかの方法で増産、補充をしてると見られ、戦闘後数日が経つと規定数の部隊になっている。拠点は古代エリア方面奥の小惑星帯、か……材料はたんまりあるっつー事だな。一気に叩かねぇと駄目か」


 難しい顔をした太朗に、「かもしれないね」とファントム。


「連中がどんな規模の生産工場を有しているのかは知らないが、かなりの規模なのは間違い無いだろう。2000という数字は別のボトルネックがあると考えるべきかな?」


「ボトルネック?」


「材料はいくらでもあるわけだろう? だとすれば2000どころか2万でも3万でも作ればいいじゃないか。そうしていないという事は、何か他の理由があるのさ」


「にゃるほど……あいつらも維持費とか気にすんのかな?」


「経済的な意味での費用では無いだろうけどね。確かに、何か特定の資源が足りないのかもしれないな。もしくは管理能力に限度があるとか、単に奴らのAIがそうプログラミングされて可能性もあるね……いや、それはいささか楽観的すぎる考えか」


「わかんねぇけど、そうなると調べようが無いやね……とりあえず、2000とやりあって勝つ方法を考える必要がありそうね。全く思いつかないけど」


「いっそ帝国軍が動いてくれれば楽なんだがね。まぁ、来ないだろうが」


「来ないでしょうね。最近それどころじゃないみたいだし、ど田舎だし」


 太朗はそう言って、最近頼りなく思えてきた銀河帝国海軍の事を思い浮かべる。もちろんネットワーク寸断という一大危機に対処するので精一杯なのだろうが、彼らの腐敗具合や内部闘争で消費しているだろう労力を考えると、どうしても頼りなさが先に来てしまう。


「しかし、どうしたものかね。撃墜対被撃墜比率(キルレート)を考えると最低でも500近い艦隊が必要になるが、どう無理をしても絞り出せる物では無いだろう。200かそこらが限界だ」


 顎に手をやって考え込むファントム。太朗もそれに違う角度から賛成する。


「艦隊の増強は出来るだけ避けたいっす。EAPとの緊張がまずい事になるし、回り始めた経済に水を差す事になっちまうから。同じ理由で民間に頼るのも無しの方向で」


「なるほど……そうなると希望すら見つけられないね。どうするつもりだい? まさか諦めるわけでは無いだろう?」


「いひひ、もちろんっすよ」


 太朗は思わせぶりに笑うと、「こういうのはどうっすかね?」とファントムに案を語ってみせる。ファントムは興味深そうにそれを一通り聞くと、「おもしろそうではあるが」と口を開いた。


「かなり質の低い部隊になるだろうし、先ほどの500は損害を考えずに戦った場合の、あくまで最低値だ。そこまでして攻略するだけの理由を説明出来ない以上、現実的では無いよ。彼らは地球など知らないんだから……悪く無い考えではあるが、もう一声何かが必要だね」


 ファントムの冷静な指摘に、「うーん」と唸り声を上げる太朗。


「なんかこう、秘密兵器的なのがあると楽なんだけどなぁ。コロニーレーザーとかブラックホール爆弾とかそんな感じの…………ん?」


 何やらオフィス向こうからどよめきの声が上がり、何事かと首を伸ばす太朗。やがて悲鳴にも似た怒号が上がるに続き、太朗達のいる部屋のドアを乱雑に叩く音が響いた。


「社長、失礼します。たった今緊急入電が入りました。これをご覧下さい」


 手を伸ばし、太朗へチップを差し出して来る社員。太朗は社員の様子からただ事では無さそうだと判断すると、それをひったくるようにして額へ付けた。太朗達のいる区画はBISHOPの接続を切っている為、直接通信が送られて来る事が無い。


「…………大変だ」


 チップから送られてきた内容に目を通すと、呆然とした顔でファントムへ目を向ける太朗。


「ワイオミングがワインドの大艦隊に攻撃されてる……急がないとやばい……あそこにはマール達が……」


 何かうわごとを呟くように、ぶつぶつと太朗。頭には最悪の想定が走馬灯のように流れ、手足には力が入らなかった。




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