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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第10章 トータルウォー
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第138話

「最悪だわ。こんな酷いとは思わなかった」


 マールは作業服を脱ぎ捨てると、肌着のままどかりとソファへ座り込んだ。娯楽室のセンサーがマールの上昇した体温を捉え、軽い冷風を吐き出し始める。


「だ、だよなぁ。あの年齢であんな過酷な事させてんだもんな」


 太朗は不機嫌そうな彼女にそわそわとしながらも、健康的なその太ももをしっかりと目に焼き付けていた。ぴったりとした薄いシャツに、これまたぴっちりとしたハーフパンツ。実にけしからんと鼻の下を伸ばす。


「そこじゃないわよ。私だってあの子達とそんなに歳は変わらないし、別に珍しい事じゃないわ。それよりサルベージ品よ、サルベージ品。今まで古い廃材は全部溶かしてたんですって。信じらんないわ!!」


 身振り手振りを交え、興奮気味に語るマール。太朗は予想外の答えに驚きつつも、「高いもんなの?」と聞き返した。


「当ったり前じゃない。作ってた会社なんて10世紀以上も前に無くなってるし、結構な量の部品が再利用出来るはずよ」


「へぇ~、なるほど。コレクターや博物館相手に売れるってか?」


「状態が良ければそういう所に行けるわ。それにそうで無くても、せめて部品として売るべきよ。稼働部位はあるはずだし、それなりの値段になるもの。それを溶かすだなんて……鉄くずなんて二束三文にしかならないじゃない。あんたの童貞よりちょっとマシな程度の価値しか無いわ!! 無駄だし、非効率だし、サルベージャーとして許せない!!」


 怒りを露わに、腕を組んで鼻息を荒くするマール。太朗は酷い言われように反論、ないしは突っ込みを入れようとしたが、その剣幕に押されて取り止めた。それに太郎自身、そんな物に価値があるとは微塵も思っていなかった。というより、出来れば早い所捨ててしまいたいのが本音だ。


「荒れてるねぇ。どうしたんだい?」


 娯楽室の入口から、何かおもしろい物を発見したかのような顔付きのベラが現れる。そんなベラへ事の顛末を語って聞かせるマール。ベラはひと通り聞き終えると、「へぇ」と感心した様な声を上げる。


「あたしはサルベージに関しては無知だから、知らなかったねぇ。もっと古い時代の物もあったのかい?」


「うーん、どうだったかしら。ちゃんと見たわけじゃないけど、あの中には無かったと思うわ」


「そうかい。ちょいと期待してたんだがね」


 ベラの意外な言葉に、目を丸くするふたり。「ベラさん、そういうのに興味あるんすか?」という太朗に、ベラが苦笑いを浮かべて手を振る。


「あたしじゃあないよ。うちのじじぃさ。古い時代のもんが漂流してんなら、何か手がかりがあるかもしれないだろう?」


「手がかり……確かにそうね。何で思いつかなかったのかしら」


「そいやそだな。あの辺って、博士曰くすっげぇ古くからある場所なんだよな? とすると……こりゃやべぇな。早いトコ、サルベージ品のマーケットを構築しないとまずいんじゃねぇか?」


 古い廃材は溶かして売る。その言葉を考えると、太朗は背中に嫌な汗が流れ出すのを感じた。既に溶かされた廃材の中に、もしかしたら貴重な資料や手がかりがあったかもしれない。


「そうね……どこか一か所で情報を管理して、目ぼしい物が出たらすぐにわかるようにしないと駄目だわ」


「そんでもって、溶かして売るよりも利益が大きくなるようにしねぇと駄目だな。安い流通網も必要になるか……いや、無理だろ。規模がでか過ぎるし、範囲が広すぎる」


「いくらなんでもね……辺境ってかなり広いし、正直どこまで続いてるのかもわからないわ」


 星図を眺め、どうしたものかとため息を吐くふたり。辺境はその名の通り人類勢力圏の外れにあり、当然ながらその範囲も非常に広い。そして人口密度は希薄に広がっており、

安全な経路さえ不明な場所も多い。スターゲイトに至っては、それこそ数える程度にしか存在しなかった。


「相当なコスト高になるわね……場所によっては笑えない額の赤字だわ。範囲を絞り込むしか無いかしら」


「そいつは駄目だよ、お嬢ちゃん。こういうのは大きくやらなきゃ上手く行かない。いいかい? もしサルベージマーケットの元締めが幸運にも軌道に乗ったとしよう。その後はどうなると思うさね」


「…………真似する企業が出てくるわね。でも、情報を統合集約するっていう点だけなら、それも有りかしら。自分達だけでやる必要は無いわ」


「欲が無いねぇ。こいつはちょっとした利権になるかもしれないんだよ? それにどこかの企業に牛耳られでもしてみな。あっという間に権力を握っちまうし、情報だってきちんと出すかどうか怪しいもんだ」


「俺もそう思うな……ちなみに法律で囲っちゃうってのは?」


「いやいや、待ちなさいよ。あんたって、自由主義をうたってるんじゃ無かったの?」


「……おおう、何も言い返せねえし、冷たすぎる視線が心に突き刺さる」


 太朗は一度顔を背けると、「冗談は置いといて」と続ける。


「ウチだけでやるのは現実的に無理があるだろうし、かと言って現段階で協力してくれる企業を見つけるのも無理だと思う。辺境開発の一環として組み込んじまうってのがせいぜいじゃねぇかなぁ?」


 太朗の考えに、「そんな所が妥当かねぇ」とベラ。そこへマールが「だったら」と続ける。


「ワイオミング周辺の開発をモデルケースにするってのはどう? ここでちょっとしたノウハウを得られれば、出せるお金はともかくとして、少なくとも主導権を握る事は出来るんじゃないかしら」


「あ~、なるほど。情報を売る形か。いけるかもしんねぇな……あぁ、そうだ。だったら――」


 顎へ手をやり、天井を見上げる太朗。


「――もっと、どデカイ形でやっちまおう。サルベージ品だけじゃなくて、流通全体を改善する勢いで。それなら規模があんまりにデカすぎて、どこか一社が突出するって事も無いだろ。それに時間と共にうちらが有利になる」


「……大きい規模でってのはともかく、うちが有利になるってのはどういう事?」


「おいおい、運送をライザに任せっきりで忘れちまったのか?」


 にやりと笑い、自らの頭をとんとんと叩く太朗。


「ここにある経路での輸送、他の会社が真似出来ると思うか?」




「新アライアンスの盟主、大規模な辺境開発を表明……だってさ。ここもちょっとは都会になるのかな?」


 ラミーが10年以上も前から使用しているぼろぼろの携帯端末から顔を上げ、大して期待もして無さそうな声で言った。


「前の時の人もそう言ってたけど、結局何も変わらなかったもん。今回も同じだよ」


 空になった弁当箱から顔を上げ、つまらなそうに返すソフィア。彼女は自分の端末を取り出すと、後15分で休憩時間が終了する事を確認した。


「いやー、そいつはどうかなぁ。意外と頑張るんじゃね?」


 生気に溢れた声。ソフィアが振り向くと、船室の入口に作業服姿の男が立っていた。


「タロさん……お仕事は終わりですか?」


「いや、全然。というか、俺がいると邪魔だって、マー……おほん。マルから追い出された。細かい作業とか苦手だしな」


「そう、ですか」


 ソフィアは、きっと太朗の方は営業担当か何かなのだろうと考えた。親方の話によると機械修理の業者らしいが、細かい作業の苦手な修理業者など聞いた事が無かった。


「タロさんとマルさんって、都会の方出身なんですよね?」


 ラミーがそう言うと、太朗は複雑な表情で「そうなんのかなぁ」と呟いた。


「本当の意味での出身となると、あれって都会って言えるんかな……んー、そうだな。マルは都会出身だけど、残念ながら俺はそうじゃねぇな。都会の話はマルに聞くといいぜ」


 親指を上げ、現在作業中のマールがいるであろう方向へ首を傾ける太朗。


「……ところで、タダで船を直してくれてるって本当ですか?」


 昨日よりずっと感じていた疑問を口にするソフィア。親方の話によると、住居の提供を引き換えに無料で修理を引き受けてくれたらしい。馬鹿馬鹿しすぎる交換レートだ。


「おうさ。でも本当の意味で無料かって聞かれたらそうでもねぇよ。長い時間かけて船の状態を見ながら、修理後の変化や過程を情報としてもらってくわけだな。知ってっか? 情報ってのは金になるんだぜ?」


 親指と人差し指で丸を作り、そこからソフィアを覗き込んで来る太朗。下品だがおもしろい人だと、ソフィアは小さく笑みをもらす。彼女は情報がお金になるというのは良くわからなかったが、何か彼らなりの対価を得ているらしいと判断した。


「その、親方に騙されてるとかじゃ無いならいいんです……あっ」


 思わず漏れて出てしまった言葉に、咄嗟に口を押えるソフィア。親方に知られれば怒られてしまうと怯えた彼女だったが、太朗は片目を瞑って笑みを見せてくれた。


「あのハゲのおっさん、細かい事にうるさそうだもんな。大丈夫。言わねえよ」


 太朗の申し出にほっと胸を撫で下ろすソフィア。


「はい……悪い人では無いとは思うんですけど」


「そうかぁ? まぁ、労働基準法も児童保護法もねぇんじゃ仕方無いのかもしんねぇけど……ここは産業革命中のイギリスかっての。酷けりゃ中世だぞ」


「えぇと、はい?」


 太朗の話す内容が理解出来ず、首を傾げて聞き直すソフィア。ラミーも同じようにきょとんとした顔をしている。


「あぁ、いやいや。なんでも無い。それより楽しみだなぁ、寮に行くの」


「はぁ……寮が、ですか? 何もありませんよ?」


「いや、なんか共同生活って憧れがあるのよね。まくら投げとかしながらきゃっきゃうふふ的な……あぁ、やべぇ。色々と捗るな」


「そ、そうですか……良くわかりませんが、今日からよろしくお願いします」


 椅子から立ち上がり、ぺこりと頭を下げるソフィアとラミー。太朗も同様に頭を下げると、「こちらこそ!!」と元気な声を上げた。


「それでは時間なので……終了後に寮まで案内します」


 ソフィアはそう言うと、ラミーと共に作業場へ向かう事にした。つまらない仕分け作業が待っていると思うとうんざりとしたが、今日はいつもより足取りが軽い気がした。




地図ってまじで戦略兵器

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