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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第10章 トータルウォー
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第131話


「いやいや、待って。何をどうこねくり回せばそうなるの?」


 EAPとエンツィオ双方の代表による戦後処理会議。それによって決まった内容に、納得がいかないとばかりの太朗。


「何をどうって、それこそ何を言ってるのよ。あんたもその場に居たじゃない」


 そんな太朗に、マールが呆れた顔を返す。カツシカのオフィスにはアランやベラ、そしてクラーク達ライジングサンの主要メンバーが揃っており、いないのはファントムだけだった。その彼は現在こちらへ向かっているらしい。


「そらまぁそうだけど、納得できるかどうかは別問題じゃん? それに、ほら。途中から随分突っ込んだ内容の話になったじゃない。意味わかんないんで、ずっとタブレットで似顔絵描いてたわ。ほら、これ見てみ?」


「わ、似てるわね。これエンツィオ代表側のあの禿げた人よね。ふふ、そっくりだわ……って、そうじゃないでしょ!! 何やってんのよ!!」


「い、いやいや。ちゃんと聞いてたって。特に文句も無いから黙ってただけでさ……でも、まさかこう来るとは思わねぇって」


 太朗は苦笑いをしつつ、会議室に備えられたスクリーンを仰ぎ見る。


「エンツィオ同盟領中枢における、新秩序構築の為のアライアンスを結成せよ、か……はは、随分と軽く言ってくれてやがるな。どんだけ大仕事になると思ってんだ」


 うんざりとした様子の太朗に、「なぁ大将」とアラン。


「とりあえず、ひとつずつ詰めて行こう。うちの影響圏はどこまでを指定されたんだ?」


「えーと、アルファからカツシカを通って、そこからオットー星系とローマ星系を含めた一帯ってなってるな」


「ローマ!! 連中の経済的な中枢じゃねぇか。良くエンツィオが同意したな……なるほど。これはレジスタンスの連中が後押しをしてるな」


「あ、やっぱりそういう流れ?」


「ローマはともかく、他がどこもレジスタンスの主要活動地だな」


「同じ好かれるなら美人がいいんだけどなぁ……あいつらオッサンばっかだし」


 ぶつぶつと文句を言いながら、スクリーン上の地図に自らの影響圏を表示させる太朗。エンツィオ同盟領の中央を貫く、細長くも巨大な領土。12の星系と、20のステーション。そして3千万の人口。


「既に元レジスタンスの企業が8つと、大規模なユニオンが3つ。その他150を超える企業からアライアンス加入の打診が来ておりますよ、ミスター・テイロー。ユニオンとレジスタンス側の企業に関しては戦後賠償の一環となりますので、これは断れません。しかし残り150の選抜は行う必要があるでしょう」


 会議室の入り口から現れた小梅が、朗々と語る。その姿に、「おぉ」と声を上げて立ち上がる一同。


「身体、なおったのか!!」


「えぇ、おかげさまでこの通りですよ、ミスター・テイロー。時間はかかりましたが、全て元のパーツから流用しております」


 小梅はそう言うと、その場でくるりと一周して見せる。フリルのスカートがひらひらと舞い上がり、そして重力に従って落ちる。


「時にミスター・テイロー。このスカートの下にはパニエというものがありまして、そのように床を舐めるような姿勢になっても得られる物など何もありませんよ」


「くそっ!! 謀ったな!!」


「ふふ、小梅の魔性に堕ちた男がひとり」


「はいはい、真面目な会議、真面目な会議」


 パンパンと手を打ち鳴らし、うんざり顔でマール。彼女は「問題は」と地図を仰ぎ見る。


「EAPへの賠償金を私達が支払う必要があるって事よ。全部じゃないけど、中枢部を任されるだけあって割合としては一番大きいわ。毎月かなりの額になるけど、支払えると思う?」


「いや、無理だろこれ。しばらくは復興だのなんだので、多分赤字だぞ? つーか、何で勝った側なのに俺達が……」


「仕方ないわよ。EAP側は何とか徴収しなくちゃならないわけで、でもエンツィオは支払いたくない。だったら第三者が納めて肩代わりするってのが手っ取り早いわ」


「あぁ……自分でも忘れがちだけど、別に俺らEAPじゃねぇもんな」


「そういう事。エンツィオも心情的にEAPには屈したく無いだろうから、私達が立場的に丁度良いのよ。多分例の食料ステーションの無償貸与が効いてるんだわ。戦争相手の企業なのに、好感度アンケートでぶっちぎりよ」


 スクリーン上に、EAP側関連企業のアンケート結果がグラフで表示される。2位であるタカサキ造船に5倍以上の差をつけ、ライジングサンのグラフは天辺を貫かんばかりに。


「すげぇ人気だな。ポルノグッズ輸送会社がこんだけ人気って、エンツィオの将来が心配になるぞ」


「いや、まぁ、それはそうだけど……でも状況的にポルノの会社だって認識はされてないんじゃない?」


「いや、されてるだろ。食料ステーションを送る時、在庫のポルノグッズも一緒に入れといたし。宣伝宣伝」


「何やってんのよ!!!!」


 社長の頭をはたく副社長と、それを生暖かい目で見つめる一同。しばらくするとベラが「いいかい?」と手を上げて起立する。


「現実的な問題としてだよ? この広いエリアを防衛するには艦隊がどうしても足りないさね。前の戦いでうちのは酷い目にあったばかりだし、相当早い段階で艦隊を増強しないとアライアンスの保持自体が難しいだろうねぇ」


 ベラの言葉に、「うーん」と腕を組む太朗。


「同盟企業にある程度防衛を任せるってのは?」


「そりゃあもちろん、ある程度はやってもらう事になるさ。でもね、必要以上にされても困るんだよ坊や。うちらが主導権を握らなきゃならない。軍事力ってのは、すなわち信用でもあるのさ」


「そっか……でもそうなると、ますます現金がやべぇな。特に立ち上げ付近の。待ってもらうわけにはいかないの?」


「いくらかはもちろんそうさせるけど、それもやりすぎると他の問題が出て来るさね。他のEAP企業に文句を付ける奴らが出て来るよ」


「あぁー、俺達の方がもっと上手く稼げるぞって? くそっ、やれるもんならやってみやがれってんだ」


「そういう事さ。うちは並み居る大企業を抑えて中枢を任される事になったんだ。早いうちに結果を出さないと、相当なやっかみが来るだろうね」


 各々、難しい顔で考え込む一同。しばらくすると、クラークが控えめに手を上げた。


「初期の資金に関しては、ある程度何とかなるかもしれません」


「んまじでっ!! その心は!!」


「はい、実は終戦の翌日より、エンツィオ同盟領……失礼。元同盟領の各企業から我が社へ、多額の入金が確認されております」


「おおっ……って、なんで?」


 心当たりが無いと、首を傾げる太朗。そんな太朗へ、もったいぶった様子で笑みを見せるクラーク。「わかりませんか?」という彼に、「わかりません」と太朗。


「振込み事由は、特許使用料に対する任意の支払いです」


「特許使用料? いやいや、うちらそんな大層なもんは……あぁあ!!」


 驚き、立ち上がる太朗。マールやアランもが驚きの顔を見せ、ベラが「マジかい」と呆れたように笑う。


「えぇ、御察しの通りですよ。食料ステーションとその苗の使用に対する、例の任意額の支払いです。かなりの額が入金されており、企業によっては賄賂では無いかと疑うレベルのものもあります」


 クラークは顔を上げ、スクリーンに入金リストの一覧を表示させた。


「うぉぉ……すげぇな。やっぱ数が多いと細かい額の集まりがとんでもねぇ事になるな……あぁ、これもレジスタンスの方々が中心になってるっぽい?」


「えぇ、そうですね。関連企業だけで大体6割となっています。恐らくですが、彼らなりのお礼といった所なのではないでしょうか」


「なるほどなぁ。自分らの為にやった事ではあるけど、やっぱ恩ってのは売っとくもんだな。ちなみに、これだけあればしばらくはなんとかなる?」


「えぇ。ただし、EAPに借りた戦時金を返さなければという前提が付きますが」


 クラークの発言に、太朗は苦虫を噛み潰したような顔へ。太朗は各種作戦を実行するにあたり、EAPから多額の借金をしていた。もちろんEAP全体に関わる事なので彼らとの折半ではあるが、それでも莫大な額である事に変わりは無かった。


「踏み倒すのは論外として……そこは、あれだな。しばらく待ってもらうしか……」


 ぶつぶつと喋る太朗。そんな彼に、小梅が無慈悲に返す。


「残念ですが、ミスター・テイロー。契約上にかなり厳密な返済に関する条項が規定されております。延滞金で破産という事になりかねませんよ?」


「マジで? くそっ、戦時下だったからその辺しっかり確認してなかったな」


「いやいや、アンタ、そういうの本当に止めなさいって。いつか会社を傾けるわよ?」


 呆れた様子のマール。小梅がマールへ「今がまさにそうなっておりますね」と発すると、「笑えないわ」とマール。彼女はしばらく手元の端末を見つめていたが、やがて諦めたように両手を広げて口を開いた。


「ガッチガチだわ。これは抜け穴を探すのも無理ね。当たり前かもだけど、咄嗟の場合すぐに貸し出せるよう、前もって用意してあったんだわ。うちも見習わないと駄目ね」


「くっ、リン相手だからって軽く見すぎてたか……でも向こうだって商売だもんなぁ。しかしどうすっかな。あっ、そうだ。タカサキさんの所に融資してもらうってのは?」


「あ~ら、いいんじゃない? 将来のお婿さんになら、ぽーんとお金出してくれるわよ。それもきっと喜んで」


「いやいや、婿とかアレ、向こうが勝手に言ってるだけだからね? マールたん?」


「知らないわ。私もあんたのプライベートに口出しするつもりは無いもの。それより資金はこれで何とかなりそうね」


「いやいや~、ちょっと待って下さいよマールたぁん」


 口を尖らせてそっぽを向くマールに、それを宥めようとオロオロする太朗。するとそこへ、「"お取り込み中の所悪いね"」と室内スピーカーから声が流れた。


「お? ファントムさん、もうついたんですか?」


「"あぁ、もうじきアプローチに入るよ。それよりおもしろい客を連れてきたんだ。みんな喜んでくれるものと思う"」


「ほぅ、ちなみに生物学的に女性だったりします?」


「"あはは、残念ながら男性だね……ダル・エンフォ・コールマン。元帝国軍特殊兵器研究所の所長で、最終階級は大佐。現在106歳の老人で、恐らく今回の戦争の首謀者だ"」




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