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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第10章 トータルウォー
126/274

第126話


「中央正面、E3番艦大破……訂正、砲撃が止みました。撃沈判定です」


 小梅からの報告に、ぐっとガッツポーズを作る太朗。


「今頃EAP4の連中は大騒ぎだろうな。大物だ」


 エンツィオ遠征軍も、EAP艦隊も、キロメートル級戦艦は数隻しか保有していない。たった今撃沈した敵艦はまさにその内のひとつで、大きな戦果となりそうだった。


「中央の圧力が減退したわ。見て、テイロー。敵が引いてくわ」


 レーダースクリーンには、慌てた様子で前線を離れていく敵艦隊の姿が。太朗はそれを素直に喜んだが、気がかりが消えたわけでは無かった。


「……なぁ小梅。例のやたら離れた位置にいるあれは、まだ増え続けてんのか?」


 太朗が気にしているのは、マーカーをつけた謎の小部隊の存在。砲撃の範囲外にワープをしているそれらは数を増やし続けており、既に60近い数が方々へと散らばっている。


「肯定です、ミスター・テイロー。しかしそれもどうやら終わりのようですね」


「終わり? なんで?」


「はい、ミスター・テイロー。ランダムに行われていたオーバードライブの空間予約ですが、それが先程から一切見られなくなっております」


「ほんとだ……静かになったのは有り難いけど、まじで何なんだ。不気味すぎんぞ」


 全く意味がわからないと、目を皿のようにしてモニターを睨み付ける太朗。謎の小部隊はこちらを包囲するように船を展開させているが、包囲を行うにしてはあまりに数が少なすぎる。突破しようとすれば、何の苦も無く突破出来るだろう。


「観測船か何かかしら? 砲撃の命中精度を上げる為とかに」


「無いとは言わないけど、こんなに数がいるか? 高速船を5隻かそこら用意すりゃ十分だろ」


「どこかで合流し、挟撃を図っているという可能性はありませんでしょうか、ミスター・テイロー」


「普通に考えるとそれが一番しっくり来るんだけど……でも、いくらなんでも遠すぎんだろ。こっちは挟撃される前に撤退しちまうぞ?」


「まぁそうよね……それにしても、随分綺麗に並んでるわね。ひょっとして観艦式でもやるつもりなのかしら」


 マールの冗談めかした言葉に、口をぽかんと開けて彼女を見やる太朗。マールは「冗談よ?」と慌てて取り繕うが、重要なのはそこでは無かった。


(綺麗に並んでる? 何だ? 何かがひっかかる)


 レーダースクリーンを見やり、マーカーのついた敵の姿を確認する。3次元的に展開しているので一見不規則に見えるが、言われてみれば確かに等間隔に展開している。


(考えろ。考えろ……そう昔の事じゃないはずだ。確か……)


 必死で回転させる頭に浮かぶ、いつかのアランの言葉。


「"まぁ、そうだろうな。連動複写による増幅効果を考えると一隻だけという事は――"」


 びくりと身体を起こし、目を見開く太朗。


「…………やばい」


 背中に嫌な汗が流れ、手が小刻みに震える。


「やばい、やばいぞこれ!!」


 悲鳴のように叫び、レーダースクリーンを見つめたまま素早くBISHOPを操作する太朗。プラムに搭載された超光速通信システムを起動させ、宙域にいる全ての味方艦へと通信を繋げる。通信に特化されたプラムの装備と、太朗のマルチタスクがそれを可能とさせていた。


「RS1より各艦へ!! 敵が大規模なECM攻撃を発動する危険性有り!! 至急対電ドローンを展開して下さい!! 繰り返す――」


 各艦へ呼びかけを行いながら、同時にキャッツに緊急発進の信号を送る太朗。返事を待たずにドローンベイを解放し、発進に必要な全ての準備を同時に操作する。


  ――"ドローンシステム制御 スクランブル発進"――


「――大規模なECM攻撃を……くそっ!! きやがった!!」


 マーキングしていた周囲に展開する敵艦から、寸分の狂い無く、全てから同時に青い音波の様な波が放たれる。それらは互いに重なり合った波がより高く持ち上がるのと同様に、干渉し、増幅され、まるで津波のように押し寄せて来る。


「プラムを対電モードに!! ゴンさん、ECCM(対電子攻撃)頼んます!!」


「"おう、任せとけ!!"」


 波は宙域内にいる味方艦を飲み込んで行き、なおも大きく広がり続ける。果たしてドローンの射出が間に合ったのかそうで無いのか、時折青い波がぶつかると同時に派手なプラズマを噴き上げる船が見て取れる。


「小梅は遮断を!! マール、オーバードライブ装置を守って!!」


 太朗の指示に従い、すぐさまケーブルを引き抜く小梅。彼女は絶縁体で出来たシートにすっぽりと収まると、外から見えなくなるまで深く埋まっていく。


「オーバードライブモジュールの切り離し完了!! テイロー、来るわよ!!」


 レーダー上の波が自艦に迫り、そして衝突する。


「うぐっぅっ!!」

「きゃぁあ!!」


 大きく揺れる船体。シートにあるアームを必死で掴む太朗とマール。ドライブ粒子の干渉により電子の動きが乱され、各種装置が不安定な挙動を見せる。振動はエンジンの出力が急変した為のものだろう。


「かっ、くそっ!! マール、損害報告!! んでもって小梅、生きてっか!?」


「まだよテイロー!! まだ来るわ!!」


 再び大きく揺れる船体。四方から放たれた粒子の波は時間差を置いて幾度と無く襲い来る。プラムはその度に船体を揺らし、照明を明滅させ、時には一部の装置から盛大なスパークを発生させる。


「痛ぇなちくしょう!! つーかあれが全部電子戦機ってどうなってんだ!!」


「電子設備の15%が損傷……被害リストを送るわ!!」


 太朗は打ち身に痛む身体を抑えながら、マールが算出した損害報告へと目を通す。そしてその中にオーバードライブ装置が含まれていない事を確認すると、目を閉じてほっと胸を撫で下ろした。


「ECMの威力の割に被害が少ない……対電ドローンのおかげだな」


 太朗は以前小梅が電子攻撃に晒された際の反省から、プラムに――正確に言うとドローン搭載能力のあるEAP艦全てに――搭載しているドローンの半分を対電子戦仕様へと換装していた。それらはECMを行う能力こそ無いが、近距離に襲い来るECMに対する若干の防御能力を有していた。


「"どうやら上手くいったようだな。そっちは大丈夫そうか?"」


「えぇ、なんとかギリギリって感じっすけど。素早い発艦で助かりました」


「"給料分は仕事をしねぇとな。そっちに戻るぜ"」


「あい、了解……マール、どうした?」


 太朗は何か真剣な顔でBISHOPを実行しているらしきマールに気付き、そちらへ目を向ける。マールは太朗の言葉を遮るように手の平を向けてくると、しばらくそのままの姿勢でじっとしていた。


「チェックプログラムがおかしいわ……テイロー!! 今すぐ呼吸器を装着して!!」


 数秒の後、叫ぶようにマール。太朗は「何故?」という疑問を飲み込むと、足元にあるレバーを引き上げてライフボックスと呼ばれる装置を引っ張り出す。中に入ったチューブに繋がったマスクを取り出すと、それを自らの顔に強く押し付けた。


「チェックに引っかからないけど、生命維持装置のどこかが破損したんだわ。室内酸素濃度が低下してるのよ……ちょっと様子を見て来る」


「まじか……了解、そっちは任せた。小梅、サポート頼んだぜ……あぁ、もう出て来て大丈夫だぞ!!」


 太朗はライフボックスを片手に部屋を出て行くマールを見送ると、小梅の方へ向けて大声で叫ぶ。するともぞもぞと動きながら小梅が現れ、「お任せ下さい、さっそくですが」と続ける。


「やけに静かだとは思いませんか、ミスター・テイロー」


 小梅の言葉に、何の事かと首を傾げる太朗。彼は耳を澄ますと、聞きなれた低いエンジン音と空調のかすかな音を感じ取る。


「いや、いつも通りだけ……ど……」


 何ら変わる事は無いとばかりに口を開く太朗だったが、小梅の言わんとする事を理解して固まる。


「そうだよ……なんでこんなに静かなんだ?」


 BISHOPを立ち上げ、船体情報をチェックする太朗。


  ――"通信制御機構 正常稼働"――


「プラムの通信機は生きてる……という事は――」


 太朗は顔を真っ青にすると、レーダースクリーンへと目を移す。混乱により不規則に隊形を崩す自軍と、はっきりとした目的を持って陣を整え出している敵軍。


「恐らくですが、通信網が破壊されたものと思われます。データリンクが切断されておりますし、通信回線に酷いノイズが混ざっております。少々お待ちを……通信、拾います」


 小梅がそう言い終わるや否や、通信機から大量の通信が送られて来る。


「"こちらCS4、本部応――てくれ!! こちらCS4!!"」

「"駄目だ……おい、別の周波数を試して……"」

「"こち……況を報告せよ……す。状況を……"」

「"もう……い!! なんてこった!! ……けてくれ!!"」

「"目標がわか……い!! 誰か座標を……"」

「"……れろ!! ぶつかるぞ!!"」


 悲鳴と、混乱と、怒号。太朗は震える身体でBISHOPを立ち上げると、ログの中からEAP1からのものを見つけ出す。


「なんてこった……リン……おい、リン!! 状況を知らせてくれ!!」


「"……ローさん? テイローさんですか!? わかりました、少々お待ちを!!"」


 返答が無い前提で声を掛けていた太朗は、返ってきた応答にぽかんと口を開く。


「リン? ちょっ、あれ、小梅さん? なんか通じてるっぽいぞ? なんでプラムは無事なんだ?」


 太朗の質問に、「少し違いますね」と小梅。


「機体の特定箇所にのみ障害を与えるECMによる直接攻撃というものは存在しませんよ、ミスター・テイロー。これは周辺宙域に広がる大規模な通信ジャミングと考えるべきかと。こちらが通信を拾う事が出来るのは、例の作戦の為に増設した通信システムのおかげでしょう。あれはニューラルネットを構成する装置と"ほとんど"同じ物ですから」


 ほとんどを強調する小梅に、を引きつった顔で「なるほど」と頷く太朗。


「一帯を封鎖て……これ、やばすぎんだろ……」


 太朗はぼそりとそう呟くと、絶望的な戦況を描くレーダースクリーンを見つめる。既に敵の艦隊は態勢を整え、混乱に陥ったEAPの艦隊に攻撃を加え始めている。


「どうする……どうすりゃいい……」


 プラムが純粋なニューラルネット通信連絡船であれば、全ネットワークを瞬時に構築する事が可能だったろう。しかし残念な事に、プラムに積まれているのはそれの機能限定版である。せいぜい10隻かそこらの通信を保つ事は出来るだろうが、それが限界だった。宙域にいる味方200隻には、遠く及ばない。


「このままじゃ…………ニューラルネット?」


 ふいに顔を上げ、ぼんやりとした表情で空を見上げる太朗。彼はしばらくそうした後、覚悟を決めて前を見据えた。


「……よし、いっちょやったろうじゃねぇか。お前らの思い通りにはさせねぇぞ!!」




 * 作品内でかつて「EMP」とされていた箇所は、全て「ECM」に統一致しました。電磁パルスかどうか微妙ナノデ。ジャミング等もECMに含まれますが、銀河帝国で単にECMと言った場合、電子機器に対する直接攻撃を意味すると解釈して頂ければ。

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[一言] これはまさかの、お前がハブになるんだよ!展開なのか?
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