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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第9章 ファニーウォー
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第125話



「よし、到着ー……って、なんか偉い事になってんな」


 飛び交う大量の通信とドライブ粒子の反応に、ひとつ舌打ちをする太朗。通信記録のログがどんどんと更新され、ドライブ粒子は周辺の至る所で観測されている。


「EAP1より報告です、ミスター・テイロー。敵はオーバードライブの空間予約を用いた欺瞞工作を行っている模様との事」


「みたいだな。見りゃあわかるぜ。しっかし、どうしたもんかなこれ」


 レーダー上に映っているのは、まるで雨の日の湖面のような波紋の群れ。時に艦隊の後方に複数現れる事もあれば、ごく近距離に空間予約が発生する事もある。それを見て考え込む太朗に、「無視は出来ないの?」とマール。


「それが一番いい気もするけど、この中のどれかが本物だった場合がやばいな。いつかの撤退戦の再現になっちまう」


「だったら前と同じように……って、そっか。今回はどこまででも逃げられるってわけじゃ無いものね」


「そゆこと。それに追ってきてくれるんならともかく、今回に関してはどうだろうな。向こうからすりゃわざわざ戦って危険を冒すより、すり抜けてアルファ星系へ向かう方が楽だろ」


 太朗はマールにそう答えると、いつ戦いが始まっても良いように戦闘準備を整える。オートメーション化された一連のBISHOP関数が実行され、わずか数秒のうちに戦闘可能な状態に。新造艦だとこうは行かないが、プラムⅡは手に馴染んだ艦だった。船のクセや各装置との相互作用も含め、最適化された関数が事前に準備されている。


「よし、このまま合流して圧力を吸収しつつ、後方へ撤退。無理に押し返す必要は無し。全艦、攻撃開始!!」


 太朗の命令と共に、RS1の艦隊からビームによる砲撃が開始される。100条近くとなるビームの群れは遠方の敵へと到達すると、いくつかの破壊の瞬きを発生させる。


「数撃ちゃ当たるってどっかの誰かが言ってたしな。そのまま各艦自由射撃。小梅、標的優先リストを送って」


「了解です、ミスター・テイロー。データリンク、更新します」


「テイロー!! 一部の空間予約が固定されたわ!!」


「くそっ、やっぱ単なる目くらましってだけじゃねぇよな」


 レーダースクリーン上にある揺らぎのいくつかが強く光り、それが光点として固定される。


「……随分遠くにドライブしやがったな。何の意味があるんだ?」


 固定された光点の距離はかなり遠く、少なくともビームの砲撃が届くような場所では無かった。


「それもたった3機だけね……なんだか不気味だわ。気を付けて、テイロー」


「あぁ、わかってる。マーカー付けておかしな動きをしたら警告が出るようにしとこう……よし」


 太朗は対象の光点が赤く光るようレーダーに調整を加えると、引き続き少数ずつワープインしてくる敵艦へと設定を行い続ける。いずれもかなり遠い距離にちらほらと散開するように散らばっているが、それらは特に戦術行動らしい動きを見せていない。現時点で12機程がワープしたようだったが、残念ながらその意図はわからなかった。


「ミスター・テイロー、正面奥遠距離に大規模な艦隊のドライブインを観測しました。数は100を超えており、恐らく敵の本隊かと思われます」


 予想外の敵の動きに、モニタへぐっと顔を近付ける太朗。敵の隊形はこちらへ向かう矢のように縦長となっており、待ち受けるこちらが非常に有利な形となっていた。敵は先頭を行く数隻しか攻撃に参加出来ないが、こちらはほとんどの船が砲撃可能だ。


「リンクワープを失敗したのか? なんか敵の動きがいまいち良くわかんねぇな。さっきも言ったけど、無理に押し返す必要は無いから様子を…………うーん……」


 レーダースクリーンから読み取れる展開に、語尾が小さくなる太朗。


「押してるな……」

「押してるわね……」


 味方の熾烈な砲撃は敵の先頭を来る船に集中し、何隻もの損害を与えている。敵は愚直にも真っ直ぐに突き進んで来るが、集中した火力に攻めあぐねているように見える。


「EAP1より通信です、ミスター・テイロー。作戦プランをDプランに変更するとの事です」


「Dプランっつーと、積極的な迎撃か。こっちに来るって?」


「そうみたいよ。EAP1と2がドライブの準備に入ったわ。EAP3を元の拠点で待機させてるみたいね」


「勝負所っちゃ勝負所なんだろうけど……おかしくねぇか?」


 首を捻り、考えを巡らせる太朗。

 敵の遠征軍は本格的な戦いが始まって以来、常に前線で戦い続けていた艦隊のはずである。全体的に守勢にまわっていたとは言え、時には同数以上のEAP艦隊に勝利した事もあるベテラン揃いのはずだった。そんなベテランが、ワープの失敗で艦隊を混乱させるような事があるだろうか。ましてや、空間予約を欺瞞に使える程の電子戦機を多数保有している状態で。


「……サクラに連絡は付くか?」


「ちょっと待ってね……繋がったわ」


 マールの言葉通り、モニターに映るサクラの姿。


「"やぁ婿殿。そちらの様子はどうだ。接敵したと聞いたが?"」


 のほほんとした様子ではあるが、いくらか引きつった笑みのサクラ。彼女なりに司令官として堂々としていようとする表れかもしれない。


「やぁサクラ。何度でも言うけど、その婿殿ってのはなんとかなんねぇかな……まぁそれは置いといて。そっちの艦隊だけど、EAP3と一緒にそこで待機してもらえないかな?」


「"ふむ? リン殿からは前線が有利な状況になったと聞いたが?"」


「それはそうなんだけど……なんか釈然としないのよ。なんかやらかしてくる気がするんで、出来れば艦隊を分けておきたいのよね」


「"なるほど……よし、ではその通りにしよう。一応こちらからリンに報告しておくが、直接君が言っても良いのでは無いか? リンなら素直に聞くと思うが"」


「いや、多分リンは賛成してくれるだろうけど、取り巻きはそうじゃないっしょ。どこの馬の骨ともわからん男が提言するより、サクラが言ったほうが確実だ」


「"そうか。ふふん、これでもEAPの重鎮だからな。任せておけ"」


 何か得意げな様子で胸を張るサクラ。太朗は苦笑いで彼女との通信を終了すると、再びレーダースクリーンへと視線を戻す。


「これで何もありませんでしたーつったら、戦後はさらし首だな」


「もっともな理由があるなら問題無いでしょう、ミスター・テイロー。それに、負ければ断頭台に行く必要すら無くなるかと」


「うへへ、手間が省けてよござんしたってな。よし、EAP2はジャンプを中断したみたいだ。こっちはこっちで頑張るとすっか」




 戦艦インフェルノの艦橋。ロレンツォは震える手で杯をぐいと煽ると、胃を焼く強いアルコールの感触に集中した。飲み過ぎて酔いが回るなどと言う醜態を晒す気は無いが、耐え難い緊張はなんとかする必要があった。現状での敗北は、死に直結する。


「サンフラワー部隊の展開はどうなっている」


「はっ、現状で約5割が展開を終了しております」


「敵に気付かれた様子は」


「いえ、警戒はしている様子ですが、目だった動きは特に。あっ」


 報告を返してきた部下の声に、鋭い視線を向けるロレンツォ。


「敵2番艦隊がドライブを取り止めた模様です。空間予約、開放されました」


 ほんの僅かの間、目を見開くロレンツォ。彼は小さく舌打ちをすると、ホログラフで構成された戦術スクリーンへと目を移した。


「少し露骨すぎたか? いや、敵主力艦隊が来るだけ良しとしよう」


 ロレンツォはそう言って自分を慰めると、時間と共に増え続ける艦隊の事を想った。彼らは作戦の為に犠牲となった完全な囮であり、彼らの為にも負けるわけにはいかなかった。


「……敵ながら優秀だな。特にこいつが面倒だ。ライジングサンと言ったか?」


 戦術スクリーン上で見事な機動戦を見せる『RS1』と表示された艦隊を眺め、目を細めるロレンツォ。確か以前に報告があったはずだと、BISHOPでデータバンクを検索する。


「なるほど。こいつが例の…………実弾兵器や、正体不明の攻撃に晒された形跡は?」


「いえ、今の所そういった報告はありません」


「ふむ。温存しているのか?」


 腕を組み、いらだたしげに足を揺らすロレンツォ。たった一隻の戦闘艦が戦況をどうこう出来るとは思わなかったが、思いがけぬ結果を生む事はある。特攻で旗艦を落とされたらどうするか。電子戦機のみを集中攻撃されたらどうするか。そして何より――


「サンフラワー部隊に向かわれるとまずいな……圧力を強めろ!! だが、決して撤退はさせるな!!」


 RS1を中央に留めて置く必要があると判断したロレンツォは、自らの声とBISHOPとを使って艦隊に指示を飛ばす。彼の艦隊は指令を受け、先程よりもいくらか強気な姿勢で前線を押して行く。


「敵EAP1がドライブイン。間も無く前線が崩壊すると思われます」


 部下からの報告に、黙って頷くロレンツォ。既に被害を受けた船は30を超し、そのうちの半分は撃沈判定を受けている。決して少なくは無い被害に冷や汗が流れたが、事前の想定範囲内でもあった。しかし前線が崩壊すれば、敵艦隊は未だに戦列を整えられずに散らばっているこちらの主力艦隊目掛けて殺到してくる事だろう。そうなった場合の損害は、想像するのも嫌になる程だろう。


「サンフラワー部隊の展開はまだか!!」


「現在7割が展開を完了しております!!」


「急がせろ!! 手遅れになりかねんぞ!!」


 戦況は大体が彼の読み通りに推移していたが、敵主力艦隊がこうも早く前線にやってくるというのは予想外だった。艦隊をおびき寄せる為に考えておいた作戦が全部無駄になってしまったし、必殺の一撃も十分な準備を行う事が難しそうだった。


「サンフラワー部隊、8割が展開終了」

「B艦隊、戦艦リットリオが中破判定!!」

「敵主力艦隊が中央を突破してきます。前線ラインは崩壊!!」


 次々と流れ込むネガティブな報告に、頭を掻き毟りたくなる衝動をなんとか抑えるロレンツォ。


「どうする……どうする……」


 ロレンツォは胸を押さえると、BISHOP上に浮かび上がるひとつの関数を注視する。サンフラワー部隊はまだ十分な展開が出来ておらず、想定通りの威力を発揮出来るかがわからない。


「戦艦リットリオ、撃沈されました!! 中央、敵がなだれ込んで来ます!!」


「……くっ、仕方無い!! ドライブストーム作戦、発動せよ!!」




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