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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第9章 ファニーウォー
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第124話



「とうとう来たのね…………テイロー?」


 通信機からもたらされた情報は何かの間違いなのでは無いかと、見開いた目で空を見つめていた太朗。彼はしばらくそうしていたが、マールの呼びかけにびくりと身を起こした。


「わ、わかってるさ……小梅、聞こえるか? とうとうお客さんが来たらしいぜ!」


 太朗は電子機器の調整を行っていた小梅にそう声を掛けると、一度、二度と大きく深呼吸をする。


「"えぇ、聞こえてますよ、ミスター・テイロー。すぐにそちらへ向かいます。追加設備の稼働率は94%を記録しておりますから、問題無く作戦を実行出来るものと思われます"」


 通信機より返る声に、「おっしゃ!」と太朗。今会戦における隠し玉において、プラムの通信機能は必須だった。


「後はまぁ、本番を頑張るしかねぇな……マール、通知をお願い」


「えぇ、わかったわ……旗艦プラムよりRS1各艦へ。EAPの艦隊が敵と接触した。総員、戦闘配備。繰り返す、旗艦プラムより――」


 艦隊放送をマールへ任せ、EAP艦隊総司令部へと通信を繋ぐ太朗。


「RS1よりEAP1へ。EAP4から敵と接触したとの報を受け取った。詳細を頼む」


「"こちらEAP1、了解です。すぐに情報を送ります……テイローさん、このまま会戦になるんでしょうか?"」


「あぁ……たぶんな。向こうは急いでるはずだし、戦力を小出しにする理由も無いんじゃねぇかな」


「"なるほど……了解しました。こちらもその前提で動きます"」


「よろしく。データリンクを繋げたままにしといてな」


 太朗は通信機向こうのリンにそう答えると、送られて来た情報へと目を通す。


「敵は……エリアA4から正面突破隊形。巡洋艦サイズの通常艦艇多数、か……陽動か?」


 太朗は今までの経験からそう断ずると、周辺宙域の地図を大型モニターへと映し出す。エリアA4は恒星ニポリからの距離が近く、敵が侵攻経路として選ぶ可能性は低いと考えられていた。恒星の熱は船を熱して赤外線を発生させる為、相手のレーダーにかかりやすくなってしまうからだ。


「お待たせしました、ミスター・テイロー。状況はどうですか?」


 艦橋へ転がり込んできた小梅が、自分のオペレーターポジションへ向かいながら発する。太朗は手作りのスロープを登ってシートへ収まる小梅を確認すると、「まだ始まったばっかさ」と地図をあおぐ。


「エリアA4に敵が来てる。総数は不明だけど、多分そんなに多く無いと思う。問題は本隊がどこから来るかなんだけど……とりあえず、オペレートよろしく」


「お任せ下さい、ミスター・テイロー……データリンク、直結しました。通信損失0%です。素晴らしいですね、超光速通信設備というのは」


「そらまぁ、無理して乗っけてるからな……よし、全艦艇、エリアB2へ移動。索敵を厳とし、敵と接触した場合は予定通りすぐに撤退。何事もなければそのままエリアA4へ援軍に向かおう」


 BISHOPを操作し、艦隊への指令を送る太朗。すぐにマールが艦隊との連絡を引き継ぎ、太朗は座標計算へと集中する。


 ――"リンケージオーバードライブ 起動"――


 青い光が収束し、彩を取り戻す艦橋。到着すると同時に小梅がスキャンを開始し、マールが機器のチェックを行う。


「……広域スキャンに反応はありません、ミスター・テイロー。動体センサーにも反応は無し」


「各艦からも反応の報告は無しね。ステルス艦が潜んでるって可能性は考えられるけど」


「了解……うーん、どうすっかな」


 顎へ手をやり、考え込む太朗。EAP4への援軍が早ければ戦いは楽になるが、それで隠れた敵を見逃してしまう様では目も当てられない。


「EAP4-22番、24番が中破。敵E04中破。EAP1艦隊がエリアD3へ向かったようです。定石通り、敵を包囲するつもりでしょう」


「…………ん、やっぱり少し様子を見てから行こう。各艦散開。あらゆるデブリを見つけ出すつもりでお願い」


 太朗の指示に従い、互いに距離を取り始めるRS1艦隊。隠れた敵を見つけ出すには、ばらけた位置からのスキャンが有効となる。太朗が良く使う指向性スクランブラもそうであるように、ジャミングというのは特定の角度に対してが最も強く働く。よって多角度から同時にスキャンをかけるのは、ステルス艦を見つけるのに非常に効果的だった。


  ――"艦隊 詳細スキャン:反応無し"――


 BISHOPに流れるスキャン結果。それをじっと真剣な目で見つめる太朗。


「とりあえず、安全(クリア)か?」


「どこに敵がいるかわからないってのは、本当にやりにくいわね」


「まったくだな……うちのお姫さんはあとどれくらいで起きれるんだ?」


「先程睡眠に入った所ですから、およそ3時間は必要かと思われます。無理に起こしては以前と同じような結果を招くかと」


 小梅の指摘に、「んだな」と苦笑いを返す太朗。

 しばらく前の哨戒任務中、怪しい反応があるとして就寝中のエッタを無理矢理起こした事がある。その結果は散々なもので、彼女は全く能力を発揮する事が出来なかった。さらに彼女はほとんど半狂乱になって怒り狂い、太朗は身体のあちこちにアザを残す羽目になった。ファントムが言うにはソナーマンは常人に比べて脳への負担が大きい為、睡眠による情報整理が無いと十分な力を出せない者もいるとの事だった。


「3時間後でも間違いなく不機嫌にはなるんだろうな……なぁ小梅。これって偶然だと思うか?」


 太朗の質問に、しばらく無言の小梅。


「……現時点では、不明としか。しかし、可能性としては十分にあり得るかと」


「エンツィオ側がこの時間を待ってたって事? 確かにエッタは向こう出身だけど……」


「そう訓練されたんだかなんだか知らねぇけど、エッタはどんな状況だろうが必ず21時には寝るからな……やっぱ、どっかから情報が漏れてんのか?」


 エッタが太朗によって保護されているという事実は、基本的に外部へは公開していない。向こうからすればせいぜい『やたら強力なスキャナを積んだ敵がいるな』程度にしか思われていないはずで、そこからエッタの存在を確信するというのは無理がある。


「小梅の言った通り、まだ断定は出来ないわ。それに3時間で戦いが終わるとも思えないし、どうせやるならもっと重要な局面に合わせるんじゃないかしら?」


 目線を上に首を傾げるマール。それに「確かにな」と腕を組む太朗。


「まぁ、スパイがいるならいるでやりようはあるけどな……うぇ、エリアA4に敵の増援が展開する可能性有りだとよ。急ぐか」


 太朗は送られて来た通信に眉をひそめると、すぐさま散開させた艦隊を再び集合させる事にした。


 そして太朗達が光の矢となり去って行ってからしばらく。

 そこには恒星ニポリの光を受け、鈍く光る船体がいくつか。

 それらは開閉式のエンジンスラスタを露出すると、流れるようにゆっくりと動き出した。




「撤退だ! 急げ!」


 通信機へ向かい声を張り上げるEAP4艦隊司令官。彼は事前に決めた作戦に従い、いくらか撃ち合った後はすぐに艦隊を引き揚げる事にした。正面からの圧力はさほど強くは無かったが、ドライブ粒子の動きからするとすぐにでも敵の援軍がやって来そうだった。


「司令官、24番艦の足が止まりました。エンジンをやられたようです」


「……くそっ! 脱出を急がせろ! 救命艇射出!」


「ドライブ粒子、なおも活発です。いつ敵の増援が来てもおかしくありません!」


「わかってる! こちらもRS1が急行してくれてる!」


 艦隊総司令部にあたるEAP1からの報告では、既にRS1がこちらの増援に向かっているとの話だった。予定到着時刻まではまだしばらくあったが、現状の流れが続くようであれば問題なく持ち堪えられそうではある。


「敵の主力はまだ捕捉出来ないのか?」


「申し訳ありません。索敵を急がせてはいるのですが、強いジャミングに妨害されています」


「そうか……相手の遠征軍は相当数を減らしたと聞いたが、それでもまだ数的には圧倒されているはずだ。向こうは何を企んでる?」


 エンツィオ遠征軍は太朗を中心とした離反工作により、その数をピーク時の半分程にまで減らしていた。しかしそれでもEAP側よりもずっと多くの艦艇を保持しており、予想戦力比はエンツィオ側がEAPの倍程度と見積もられていた。エンツィオが領内不穏分子対策で艦艇を割いているように、EAPもステーション防衛にかなりの数を取られてしまっている。ステーションへの直接攻撃は、そこを拠点とする企業達に大きな恐怖を与えていた。


「司令官、RS1が間も無く到着するようです」


 副官の声に安堵の息を漏らす司令官。彼は首を巡らせると、RS1の空間予約によるドライブ粒子の動きをセンサー上で眺める。それに関しては問題無さそうだったが、その時彼は非常に不可解な現象が起きている事に気付く。


「エンツィオの増援はいつやってくるんだ? RS1よりもずっと早くに空間予約をしていただろう?」


 一向に姿を現さない敵の増援部隊。しかし空間予約は間違いなく行われ続けており、それが意味する事は――


「…………くそっ!! これはフェイクか!? 急ぎEAP1に通信を送れ!! 『敵のドライブ先は別のエリアになる可能性大。空間予約による欺瞞に注意せよ』だ!!」


 司令官の命に従い、すぐさまEAP1と連絡と取るオペレーター。

 その彼が通信を送るのと、艦隊の後方奥に新たな空間予約が発生したのとが同じタイミングとなった。




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