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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第8章 ステーションマスター
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第107話

 プラムⅡの談話室でテーブルを囲む、マール、アラン、ファントム、小梅、サクラ、そして太朗の6名。正確にはもう1名いるが、エッタは備え付けられたダーツに夢中で、ホログラフで表示された的へ飽きることなく矢を放ち続けている。


「信じ難い考え方ではあるが、理論的に間違っているわけでは無いし、実際過去にそういった戦いが行われた事もあるようだな」


 眉間にしわを寄せ、腕を組んだアランが発する。太朗はサクラについての紹介を行った後、総力戦についての考え方を披露した所だった。


「わたしには良くわからないわ。支配域に存在する全企業が戦闘に参加するなんて、それってちょっとした自殺行為じゃないの?」


 ソファの上で足を組み、頬杖をついたマール。太朗は「そうかもな」と彼女に答えると、続ける。


「でも地球じゃあそんな戦いが2度もあったぜ。しかも世界中の国々が参加したどでかいやつが。軍人民間人問わず、5000万人くらいが犠牲になったとか言ってたっけかな?」


 地球で起こった2度の大戦についてを、かすかな記憶を頼りに語る太朗。太朗は勉強熱心な学生だったわけでは無いが、勉強について全く興味が無かったわけでも無い。そんな太朗に、険しい顔を向ける一同。


「5000万という事は、地球人口の1%から2%に相当するという事ですよね、ミスター・テイロー。銀河帝国に置き換えるならば、約1兆人が犠牲になるような大きな戦いだったという事でしょうか」


 テーブルの上の小梅が、ランプを明滅させる。太朗がそれに「まぁそやね」と答えると、「信じられない」と口を押さえるマール。


「でも、前にもそんな事言ってたわね……地球って、その、大丈夫なの? それってどう考えても普通じゃないわよ? なんでそんな事になったの?」


 驚きの表情で疑問を発するマールに、「俺が調べた所では」とアラン。


「総力戦ってのは、一度始めちまうと引っ込みが付かなくなるものらしい。全部を投げ打って勝負に出るから、そこで失った物を取り返すまでやめる事が出来ないみたいだな」


 手元の端末へと目を落としながらアラン。太朗は身を寄せて端末を覗き込むと、そこには戦史調査報告書と題された論文か何かがまとめられていた。


「私は戦には詳しくないが、それもまたおかしな話じゃないか? 被害が大きくなる前に、何らかの形で手打ちをとるべきだろう」


 背筋を伸ばしたサクラが、どうなんだといった様子でアランへ手をあおぐ。そんなサクラへ、「どうだろうな」とアラン。


「和平は、相手がそれを飲んではじめて成立するものだろう。向こうも全てを賭けてきているのであれば、そう易々と飲むとは思えん。特に自分達が勝っている場合は、だ。俺が指導者であれば、相手が再起不能になるまでぶちのめすだろうな。総力戦を仕掛けてくる相手など、潜在的な危険が大きすぎる。地球ではどうだったんだ?」


 太朗へ向けて視線を寄越すアラン。太朗は「そうだなぁ」と腕を組むと、続ける。


「あんまり戦争について詳しいわけじゃねぇけど、そんな感じだったんだと思う。さっきアランが言った通り、掛け金がでかすぎるもんで負けた場合のリスクが半端ないわけじゃん? そしたらもう、勝つまでやるしかねぇよな。それに途中で手打ちが出来るような状況なんだったら、そもそも戦争なんてしねぇだろ」


 そうじゃね、といった体の太朗。太朗の答えに納得する所があったのか、一同はいくつか頷きを見せる。


「まぁ、言われてみればそうよね……ちなみに、あんたが向こうへいたときも戦争があったの?」


 少し悲しげな表情のマール。太朗は「うんにゃ」と首を振る。


「世界中を巻き込むような戦争は、俺のじいさんの世代が最後だな。戦争自体はいろんなトコでまだまだあったけど、次は起こらなかったんだろうな。あったら銀河帝国とか出来てねぇ気がするし」


 そう語ると、近代についての歴史を大まかに語り始める太朗。一同は興味深くその話を聞いていたが、話が冷戦構造についてへ進むと、揃って顔を引きつらせ始める。


「狂ってるな」


 明らかに嫌悪感を持った、サクラの一言。それに各々が同意の言葉をあげる。


「正直、ぶっとんでるぞお前のいた世界は。相互確証破壊だと? 理屈ではわかるが、そんな恐ろしい事を本当にやるやつがあるか。どうなってんだ地球ってのは」


 呆れを通り越した様子で、少し楽しそうな表情のアラン。


「いやまぁ、やろうとしてやったわけじゃ無いんだと思うぜ。自然とそうなったというか……でも、うーん。こっちみたいにミサイルや何かを簡単に撃墜できるようになったら、また戦争が起きててもおかしくねぇなぁ」


 ビーム兵器であるかどうかはともかく、相互確証破壊の構造を打破出来るような技術が開発された場合、再び大規模な戦争が起きる可能性があるように太朗には思えた。グローバリズムによる経済的な結びつきがある為に先進国間でそれが起こるとは思えなかったが、大規模な代理戦争となると十分にありえるのではないかと。


「そう……なんて言っていいのかわからないけど、今でも無事だと思いたいわね……話を戻しましょう。あんたの言う通りエンツィオ同盟が総力戦に出た場合、問題になるのは何?」


 表情を真剣な物に戻し、太朗へというよりは全員へ向かって発するマール。それへアランが「まずは」と答える。


「エンツィオの戦力が、想定していたよりも数倍に膨れ上がる事だろうな。EAPで算出しているのは、あくまでエンツィオアライアンス同盟への加盟企業だけだ。それが領域内全ての企業となると、正直ぱっとは想像できんレベルになるぞ……小梅、そのあたりわからんか?」


 球体へ目を向けるアラン。小梅は「少々お待ちを」といくらか沈黙すると、しばらくしてからランプを明滅させる。


「旧ニューラルネットが存在していた時期から推測されるおおよその値とはなりますが、推定値で現行想定戦力の3倍から5倍。可能性だけで言えば10倍以上になる事も有り得ます。亡命者の話では、長い事準備期間があったようですから」


 小梅の説明に、さっと顔を青ざめるサクラ。


「5倍から、10倍だと!? 待ってくれ、それだとEAPの総戦力を軽く超える事になってしまうぞ!?」


 ほとんど悲鳴のような声。太朗はその場に立ち上がったサクラを落ち着くように促すと、自らも驚きにはねた心を落ち着かせる。正直、太朗自身が想定していたよりもずっと大きな値だった。


「一応EAPの想定だと、先月の新艦隊群竣工で戦力差が逆転したはずなんだったけか……洒落になんねぇな。総生産力から逆算すっと、実際にひっくり返るのは……2年後から5年後かよ。うわ、駄目だなこれ」


 アルファ方面宙域で最も生産能力の高いEAPだが、他方に比べて圧倒的だというわけでは無い。さらにエンツィオ同盟領全ての企業の経済規模も加算すると、正直5年といった数字でさえ楽観的かもしれなかった。


「ちょ、ちょっと、どうするのよ。それって、まともに戦っても勝ち目が無いって事じゃない!!」


 問い詰めるように、太朗へとずいと顔を寄せるマール。太朗が「いや、それを皆で考えようって話じゃね?」と答えると、「う……そ、そうよね」と引き下がるマール。


「まぁ、気持ちもわかるけど……あー、そう考えるとあれだな。前に戦った敵の艦隊群だけど、あれって実は主力でも何でも無かったりするかもしれねぇな」


 ぼやくように発する太朗。それに「ありえるな」とアラン。


「あの地域における戦略的価値の低さを考えると、そう捕えたほうが自然だな。主力かと思っていた相手が、単なるいち方面軍だったという事か……これは早い所、EAP首脳陣に現状の把握を努めてもらわんとまずいな」


 苦い顔で、腕を組むアラン。そんなアランに、サクラが暗い顔で口を開く。


「かなり、難しいと思うぞ。理屈ではわかるが、私自身も本当に納得出来ているのかも難しい所だ。なにせ前例の無い事だし、頭の固い彼らに信じてもらえるかどうか……」


 伏目がちに、サクラ。そんなサクラに「ねぇ、ちょっと!!」とマール。


「あんた艦隊司令官だし、EAPでも重鎮のひとりなんでしょ!? そんな悠長なこと言ってる場合なの!?」


 少しきつめの言い方で、マール。太朗はマールへ落ち着くように言葉をかけようとするが、サクラが「いいんだ」とそれを押し止める。


「マールの言う通り、確かにこれは私の仕事だ……うむ、すまなかった。しかし先も言った通り、彼らに納得させるというのがかなり難しいだろう事は事実だ。何かこう、説得の材料になるようなものは無いだろうか」


 謝罪の仕草と共に、そう語りかけてくるサクラ。その言葉に、一同は各々考え込んだ様子を見せる。


「問題は、状況証拠と亡命者による証言しか根拠が無いという点だろうな。そこをなんとかするべきだ。もっと大量の証言でも得られればいいんだが」


 目を閉じたまま、机を指でこつこつと叩きながらアラン。そんなアランに「それもあるけどさ」と、ぽかんとした表情の太朗。


「つーかあいつら、どうやって領域全ての企業を従わせてんだろ。反帝国の意思を持った企業が沢山いたとしても、全部っていくらなんでも無理じゃね?」


 帝国の生活単位が企業にある以上、あまりに不自然だと太朗。そんな太朗の疑問に、「全部とは限らないのでは無いか?」とサクラ。しかしそこへ「いや、全部だろう」とアラン。


「亡命企業が全く無いのがその証拠だ。どうやってるのかは知らんが、何らかの方法で意思を統一しているのは間違いないだろう……確かに言われてみると妙だな。いったいどうすればそんな事が可能になるんだ?」


 さっぱり思いつかんとばかりに、肩を竦めて見せるアラン。そんなアランのひと言に、しばらく場に沈黙がおちる。


「よし!!」


 そんな沈黙を打ち破る、太朗の大きなひと声。視線が立ち上がった彼に集まる。


「そいつを確かめに行こうぜ。現地の企業に話を聞くのが一番てっとり早いし、EAPの連中を納得させるだけの材料も見つけられるかもしんねぇじゃん?」




近頃、いわゆる年末進行という奴で仕事が非常に忙しく、

今まで通りのペースでの投稿が出来ません。


次話もいくらか遅れての投稿となりそうなので、

楽しみにしていただけている方がおられましたら、

ここに前もってお詫び申し上げます。ゴメンネorz


年末さえ越えてしまえば、

前と同じペースでの投稿が出来るかと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 中盤の 「あの地域における戦略的価値の低さを考えると、そう捕えたほうが自然だな。主力かと思っていた相手が、単なるいち方面軍だったという事か……これは早い所、EAP首脳陣に現状の把握を努めて…
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