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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第8章 ステーションマスター
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第100話

 ステルス仕様のフリゲートは、一般のそれに比べて最低でも倍以上の価格で取引されている。それを2隻撃沈され、1隻を機密保持の為に自沈。そして一隻を中破させてしまったゴーウェンだったが、同盟領へ帰った彼を待っていたのは賞賛の声だった。ゴーウェン自身が極刑を覚悟していただけに、それは全く予想外ですらあった。


「失った船も多いが、君の持ち帰った情報は千金に値する。トップは君に新しい艦隊の指揮を任せるつもりのようだぞ」


 いつに無く上機嫌な彼の上司が、鼻歌交じりにそう発する。


「そうですか……それはなんというか、ありがたい限りです。えぇと、その。本部はどこへ注目されたのでしょう。相手の電子戦技術ですか?」


 おずおずと発するゴーウェンに、上司が深く頷く。


「当然それもあるが、問題は彼らの新兵器だ。諜報部からの情報で、彼らが新しい誘導兵器を開発したとの情報は前から入ってきていた。眉唾物だと思っている者もいたようだが、そうでは無かったようだな。既に各地の固定施設に敷設されているようだが、艦艇につめる形のものがあるというのは新しい情報だ」


 先ほどとは打って変わり、真剣な表情の上司。ゴーウェンとしては敵が新兵器を所有している事さえ知らされていない事実であったので、そういうものかと納得するしか無かった。


「なるほど……確かにあれは脅威でした。ビームと違い、ジャミングさせる事が出来ませんからね」


 あの絶望的な数分間を思い出し、ぶるりと震えるゴーウェン。彼の「あれが大量配備される可能性は?」という質問に、上司が首を振って答える。


「それは無いだろう。兵器の詳細は当然未確定だが、実弾であるのは間違い無いのだ。そうである以上、欠点もある。恐らく高価なはずだし、弾頭は補給の必要があるはずだ。それらを踏まえたうえで体制作りをされたら脅威だが、あのEAPにそこまで出来るとは思えんな」


 鼻を鳴らし、軽蔑の表情を作る上司。明らかに敵を舐めきった態度にゴーウェンは問題を感じないわけでは無かったが、そこでそれを咎めた所でどうなるわけでも無かった。


「この戦争、勝てますかね」


 短い、馬鹿げた質問。上司から答えが帰ってくる事は無かったが、そもそも期待はしていなかった。勝つのが前提であり、負ける事など考える必要が無かったからだ。負けた場合、そこには破滅の道しか無い。


「さぁ、新しい艦隊が待っているぞ、ミスター・ゴーウェン。さっさとドックへ向かう事だ。帝国の圧制から人々を解放する為に、今後も奮闘を期待している」


 上司の「話は終わりだ」という意味の言葉を受け、敬礼を返すゴーウェン。彼は国境管理司令部の部屋を後にすると、廊下を歩きながら考える。


「本当に、帝国は圧制など敷いているのか?」


 彼は国境警備という役割柄、外の情報と接する事が多い。不法入国をもくろむ商人から話を聞く事もあれば、EAPのスパイと思われる人間から事情を聴取する事もある。

 しかしどんな人物に問いただしても、帝国が前と変わったなどという話をする者はひとりもいなかった。上からの話ではネットワーク寸断後に帝国は大きく変わったとの事だったが、実際にどうなのかはわからなかった。上層部を疑うつもりは無いが、確信がもてないでいるのも事実だった。


「わたしが考えた所で、仕方が無いか」


 ゴーウェンはひとりぼやくと、足早にドックへ向かう事にした。彼にやれるのは、彼に期待されている事をやる事だけだった。




「なるほど、それは大変興味深いお話ですね。貴重な情報の提供、ありがとうございます」


 にこやかに、丁寧な様子で会釈をする帝国軍の男。太朗とアラン、そしてファントムのいるここは、デルタ星系帝国軍駐屯所。要塞化されたステーションを丸々使用したそこに、太朗達はEAPの快速船を用いて8時間がかりでやってきていた。スターゲイトの割り込み使用権に大量のクレジットを取られたが、今は時間の方が大事だった。


「えぇと、はい。まじっすよ? 本当にお願いしますよ?」


 なんとも釈然としない気持ちのまま、そう発する太朗。受付の男は神妙な顔付きでそれに頷き返して来るが、太郎にはその表情がどことなく嘘臭く感じられた。


「これで帝国は動いてくれるんかな? なんか、すげぇ期待できねえんだけど」


 受付を後にし、ドックへと向かう通路で太朗がぼやく。アランはちらりと太朗の方を見ると、何か考え込んだ様子で立ち止まる。


「ファントムの言う通りだな。やはり、一度見せておこう」


 アランはそう言うと、方向を変えて元の道を引き返し始める。太朗はなんだろうと疑問に思いながらも、彼の後をついて行く事にする。


「テイロー、現金を作れるか? 1万クレジット程でいい」


 表札も何も無い、大きな扉の前で立ち止まるアラン。太朗は訝しげな表情で「現金?」と答えるが、何か考えがあるのだろうと素直に従う事にする。


「ちょっと待ってね……ほい、1万丁度」


 BISHOPでステーションネットワークにアクセスし、手元のチップへ現金を移動させる太朗。アランは太朗からそれを受け取ると、扉の奥へと足を進める。


「おい、外部の者は進入禁止だ。すぐに引き返せ」


 扉の向こうへと進んだ先。再び現れた両開きの扉の前にいた兵士が、つまらなそうに発する。兵士は全身を鎧のような金属スーツで固めており、フルフェイスのヘルメットゆえに表情は見えない。太朗は初めてみるアームドスーツに「かっちょええな……」と感嘆の声を漏らす。


「わかってるよ。俺は元軍属なんだが、知り合いに施設を見学させてやりたくてね。昔のよしみってやつがあるだろう? ちょいと覗かせてくれないかな」


 同僚に声をかけるように、親しげな様子のアラン。2,3歩足を進めた彼に、兵士が躊躇無く銃口を向ける。


「それ以上進めば射殺する。ここは第一機密区域だ。見学なら受付から一般施設のを申し込め」


 めんどくさそうにそう語る兵士に、両手を上げて止まるアラン。彼はゆっくりとその場に屈みこむと、手にしていたチップを床に走らせる。


「……ふむ。なるほど。そういう事なら、話は別だ。あまりうろつきまわるなよ」


 先ほどまでとは違い、楽しげな様子の兵士。アランは後ろを振り返ると、「行くぞ」と短く発する。太朗は目の前で行われた賄賂のやり取りに呆気に取られていたが、背中を押すファントムに促されて足を進める事にする。


「いやいや、ちょ。まじで? あんなんでいいの? 第一機密って、最重要指定っしょ?」


 声を潜め、焦った様子でアランに発する太朗。アランは「そうだな」と短く返して来るが、その後は無言で歩き続けた。


「えぇと、射撃演習場?」


 アランに連れられて到着した先。そこにあった表札を読み上げる太朗。中にはだだっ広いフロアに長テーブルが置かれており、数百メートル先に標的と思われる人間のホログラフが浮かび上がっている。施設内には人影ひとつ無く、太朗達が足を踏み入れた際にようやく明かりが付いた程だった。


「そういう事になってるが、実態はただの暇つぶし場だな。何か新しい型は出たかな?」


 呆気に取られる太郎を他所に、多数の武器が収納されているケースを物色し始めるアラン。彼は何かお気に召す物があったのか、その中からライフルをひとつ取り出す。


「BDP332か。良い銃だが、俺はあまり好きじゃないな。CC26はあるかい?」


 軽い調子でそう問いかけるファントムに、無言でケースから別の銃を取り出すアラン。アランが最初に取り出したものよりずっと巨大なライフルを、ファントムは軽々と受け取る。


「そんなもん、普通の人間には使いこなせないからな。俺はこれで十分さ」


 そう発すると、おもむろに標的へ向けて銃を構えるアラン。銃口から青白い光と共に細いビームが放たれ、標的へ向けて一瞬で到達する。太朗は発砲による大きな音に驚いたが、耳を塞ぐほどでは無かった。


「いや、つーかアラン。これ何しに来たん? 単なる暇つぶしだったらって、あぁおぅっ!?」


 急にそばから聞こえた爆音に、耳を押さえて飛び上がる太朗。アランの銃から聞こえる音が爆竹を破裂させた程度なのに対し、ファントムのそれは鉄パイプで金属板を全力でぶっ叩いたかのような音。


「ちょっとした遮蔽物があっても、それごと撃ちぬける良い銃だよ。君も撃ってみるかい?」


 にやりと笑うファントムに、「遠慮します」と太朗。いくら撃っても微動だにしないファントムだが、その反動のすさまじさは容易に想像がついた。


「それよりもさ、まじで何なん? ただの遊びじゃねぇって事はわかるけど、テイローちゃんあんま頭良くないからさ。はっきり言ってくれると嬉しいんだけど」


 茶化してはいるが本気で疑問の太朗に、ふむと鼻を鳴らすアラン。彼は再び収納ケースへ向かうと、今度はまた別のライフルを取り出す。2人が使っているごつごつとした形状のものと違い、流線型を多様したデザイン。


「こいつは、AR212。帝国兵器工廠が開発した新兵器で、完全に機密扱いされてる」


 そう言うと、また別の銃を取り出すアラン。


「こっちはBB49。機密だ。これはBB50。機密。L&DI、機密。これも、これも機密だ」


 言いながら、次々と銃を持ち上げて見せるアラン。そんな彼に、ぽかんと口を開けた太朗。


「えっと、新兵器実験場って事? いやいや、つーか、機密なんだよね? んなとこ、こんな簡単に入って来ていいん?」


 引きつった顔でそういう太朗に、自嘲気味な笑みを見せるアラン。彼は手にしていた銃を無造作にケースへ放り投げると、肩を竦めてみせる。


「つまり、そういう事さ。帝国軍に期待するのはやめておいた方がいいぞ、テイロー」


 諦めたような表情で、視線をケースへ向けるアラン。


「帝国軍は、完全に腐敗してる。あいつらに金以外の関心事があるとしたら、俺は裸で逆立ちをしてやっても構わんぞ。分の悪い賭けだから、誰も乗ってこないだろうけどな」




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