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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
孤島スローライフ

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まばゆさと幸せの中で(2)

 遊泳を楽しんでから、本日のメインとなる釣りタイムとなる。思いつきだったカルデラ湖のときと違い、今回はそれなりに準備をしてきた。具体的には、ちゃんとした釣り針にかなりの長さの釣り糸、糸巻き、釣り用の革手袋などである。


「よく見るといろいろいるな」

「キモー!」


 岩をひっくり返すと海洋性のヒルの仲間がいる。一様に赤から赤茶色の陸生ヒルに比べカラーバリエーションが著しい。青っぽいのから黄色のまで蠢いていた。


「ロナはどれが食いがいいと思う?」

「黄色?」

「青って食欲湧かないもんな。しかし、ここはあえて青で行く!」

「冒険家ぁー!」


 青いヒルを捕まえて尻尾に針を掛けると小妖精(リトルエルフィン)に託す。彼女は針をぶら下げて沖合100mまで運んでいった。そこでぽとりと落とす。


「OK。戻ってこーい」

 手招きするとひとっ飛びで肩まで帰ってきた。

「掛かったー?」

「まだだな。やっぱり(おもり)を付けるべきだったか? 沈むのに時間掛かってる」

「そっかー」


 単純に針と餌を放り込むだけでは難しかったかもしれない。エメルキアと対策を話し合っていると、手にしていたワイヤーラインがガツンと引っ張られた。不意のことに正輝は転びかける。


「そうきたかよ!」

 すぐに踏ん張って臨戦態勢に移行。

「掛かったー!」

「大きな魚がいる深さまで届いたんですね?」

「仕掛けが大きいからさ。それなりのサイズしか食ってこないはずだ」


 5cmはある針に大きめのヒルを掛けてある。おそらく、小魚なども捕食するような中型から大型魚しか釣れないはずなのだ。


「さすがにスレてないな。一発で食ってきた。しかも、こいつは」

 かなり引く。

「手袋なしだったらアウトだった。ありがとな、ルキ」

「なんでもないです。布製品に比べると革製品は簡単ですので」

「厚手でもほんのり熱くなってる」


 無理せず糸を送りだしている。岩場に潜り込まれたりすれば厄介だが、魚にとっては生憎とワイヤー製と同等の強度を持つ釣り糸である。そうそう切れはしない。本腰を据えて引き寄せに移る。


「あからさまな仕掛けに食いついたのが運の尽き。ちゃんと美味しくいただいてやるから往生しろ」

「頑張れー」

「うりゃ!」


 力任せに引く。付き合いで何度か経験したことのある趣味の釣りではない。食料確保の漁なのだから、遊びもなく容赦せず引き寄せるのみ。十分ほどの格闘の末、波打ち際に暴れる魚を確認できた。


「弱ってきた。いただきだ」

「マサキの勝ちー」


 回遊性と思われる流線型の魚体を迎えに行って持ちあげた。1m超えの獲物はずっしりと重い。砂浜に引っ張って上げると少女たちに拍手で迎えられた。


「とりあえずこれで飯にしよう」

「捌きましょう」


 エメルキアがさっくりと締めると手早く三枚におろしていく。内臓は寄生虫が怖いのでヒルたちに返し、兜と中骨は鍋に入れて煮込む。身の部分を持った彼女が問い掛けてくる。


「焼きます?」

「いや、ちょっとでいいから生で」

「生ですか?」

 正気かという面持ちだ。


 料理というものをあまりしてこなかった正輝でも切り分けるくらいはできる。ナイフを借りて、脂の乗った腹身の側を切り取ると一口大にしていく。持ってきた塩をぱらぱらと振って流体金属(メタル)で作った皿に盛りつけた。


「こんな感じでさ」

 二人は興味を示さない。

「美味いんだぜ?」

「大丈夫ですか?」

「まあまあ」


 フォークで差して口へ。多少の磯臭さは御愛嬌。噛みしめると、新鮮さを象徴するようなぷりぷりとした食感。魚の旨味と脂の甘味が口中に広がる。久々に味わう刺し身は顔を覆いたくなるほど美味しかった。


「堪らん」

 続けざまに口の中へと放り込む。

「もしかして、トカゲ肉も本当は生で召しあがりたかったんですか?」

「あっちは腹壊しそうだから勘弁な。でも、海の魚はだいたい大丈夫だってのが常識なんだが。こっちはそういう習慣ない?」

「聞いたことないです。ただ、わたしが人間の食習慣にはそれほど明るくないというのもありますけど」

 微妙な反応である。

「正確には俺の祖国の習慣だな。強制するようなもんじゃない。こいつは普通に焼いても煮ても美味いやつだと思う」

「では、一口だけ」

「食ってみ」


 少女の反応は微妙だった。確かに、ほのかな生臭さとか、焼き魚とはまったく違う食感とか、習慣として経験してなければ受け入れがたい部分はあろう。ロナタルテも小さな欠片を試食していらないと言った。


「やっぱり焼いたほうが美味しいと思うのです」

 塩を振ってしっかりとスパイスをきかせたほうが好みらしい。

「もちろん、これも美味い。それぞれの味わいがある。こればかりはどうしようもない」

「臭みに弱いのかもしれません」

「スパイスを多用するとこをみると味覚がそうなのかもな。じゃ、こっちは?」


 アラで出汁を取っただけのスープ。それに、近くで摘んできた適当な野草を浮かせて飲む。


「これは美味しいです」

「こっちはこっちで磯の香りがするんだけどな。まあ、いろいろあるもんだ」

「美味しー!」

 小妖精もスプーンにすくったスープを飲んで喜んでいる。


 生食文化というのは新鮮さが命となる。アイテムボックスのような保管技術とか、移送にまつわる冷凍技術がないかぎりは沿岸部のみで伝わる漁師飯の形でしか伝わっていないかもしれない。


 正輝は刺し身を独り占めできたのは悪くないと思うことにした。

次回『まばゆさと幸せの中で(3)』 「証明しよう」

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