まばゆさと幸せの中で(1)
少女には水着を作ってもらった。とはいっても、布地が厚いだけの下着と同じものである。いつもの二本撚りの糸ではなく、三本撚りの糸で布地にすれば自動的に厚さが出るという。
「勢いでそれ以上脱がないこと」
「ずいぶんと気になさるのですね。一緒にお風呂は平気なのに」
「短時間だから見ぬふりしてるだけだっての!」
海を前に注意点を述べていると悪戯げな反論が来た。有無を言わせるわけにはいかない。なにせ、まばゆい陽光の下で肌も露わな少女と過ごすのは正輝の倫理観に反している。
(そうじゃなくたって、陽の光以上にまぶしいってのに)
水着は下着と同じサイズになっていて、少女の胸元からアバラあたりまでを覆っている。少し膨らみを見せるバストはいけない趣味を持つものなら垂涎の的であろう。
パンツはゴム代わりの皮膜素材のお陰で、サイドがかなり細く変わっていた。前は結んでいただけなのでマシになったとはいえよう。ショートパンツを重ねておくようにも言ったのだが拒まれた。
(なんだかんだと言いながら薄着を好むんだから)
意思表示だとしても顕著である。
少女は特に染める必要を求めなかった。なので、黄色人種に近いながらも十分に白い肌と相まって、白い水着を含めた全部がまぶしさを放っている。反射のそれと美しさのまぶしさも加わって、白い砂浜に絶景の美が舞っている。
「泳がないんです」
「泳ぐさ。それほど得意じゃないが」
「ここに水トカゲはいないよー」
ロナタルテにもからかわれる。
小妖精も同じデザインの水着を作ってもらっていた。海面を飛ぶ彼女に必要があるのか否かは疑問ではある。だが、一緒を好むのはエメルキアに似ている。
「人を襲うサイズの魚は?」
「ずいぶんと沖に行かないといません」
「人を襲うサイズの哺乳……、息をする海洋生物は?」
「聞いたことないです」
「人を襲うサイズのメタル系海洋生物は?」
「昔はいたそうです」
「いたんかい!」
再三の確認作業に二人は笑いだす。しかしながら、正輝はこの世界に通じてないので危険は見過ごせない。水トカゲで懲りていた。
「ところで、泳げる?」
試しに訊いてみる。
「泳げます」
「必要ないのに?」
「余計に、です」
浮遊の魔法が使えるエメルキアは数時間は浮いていられる。横移動まで伴うとなると蓄えた精気をかなり消費してしまうとしても、海を飛んで渡るのでなければいけそうだと思ったのだ。
「途中で力尽きれば水に落ちますので」
「泳げなきゃ溺れるだけだもんな。島に渡ったときは船で?」
「小舟ですけど」
こっそり秘密に触れるような質問を交えてみた。少女は気づかなかったようで普通に答える。距離的にも可能だと思ったが、彼女は自力でパムール島まで渡ってきたらしい。
「まあ、今日は遊びなのでこんな物を用意してみた」
「用意したのはわたしです」
「立案は俺だ。なので、膨らませる権利は俺にある」
冗談交じりの会話を経て浮き輪を膨らませはじめる。皮膜素材で作った浮き輪である。バイクのタイヤチューブと変わらないものをそれっぽいサイズにしただけなので注文は簡単だった。
「できたー」
「俺に掛かれば一撃だ」
簡易なものなので吹き込み口を結んで閉じる。パンパンに膨らんだ直径1mほどの浮き輪を少女に被せ海に浮かせる。正輝が掴まってバタ足で押しだしていくとスムーズに足のつかないくらいの場所まで届いた。
「仕組みは理解しましたけど実際に使うと楽でいいです」
「全然力いらないもんな。波に揺られてのんびりとしてられる。油断すると沖合まで流されるかもしれんが、ここはそんなに風もないからさ」
「なんだか征服感!」
輪の上に立ったロナタルテが豪語している。落ちると、餌と間違われて下からガブリとやられそうなので気をつけておく。サメみたいな魚がいるなら彼も怪しいが。
「ゆったりとしてるとなにもかも忘れそうです」
泳ぐために編んだ長い髪を背中に押しやりながら言う。
「考えなくていい。遊びってのはそういうもんだ。最近は遊んでばっかだけどな」
「活動範囲が広がっただけいろいろ集めて細工もしましたし。休むのもいいと思います」
「そのうち畑でもとか思ったが、森が深くて陽の光が入らない。ちょっと厳しいな。まあ、三人で食っていく分には野草を集めるだけで問題ないか」
家の周りは背の高い木々が密集していて少々切り拓いた程度では畑を作れない。木漏れ日で育っているものや、河原近辺で採れる野草でそれなりに採集量があるので健啖家の彼の胃袋くらいなら賄える。
「無理に畑作らなくても豆と芋はどうにかしたいな」
炭水化物が不足気味。
「芋掘りはちょっと大変ですもの。マサキがあんなに食べるとは思いませんでした」
「やっぱりな。肉と合わせて主食だからさ」
「簡単に増やす方法があるといいんですが」
エメルキアたちはあまり炭水化物を摂らない。なので、あえて採集対象ではなかったようだ。だが、彼には不可欠な栄養素である。
「豆はともかく芋は簡単だ。確か切り分けて埋めとけば生える」
「そうなんですか? 知りませんでした」
「昔、実家の近所のおっさんが言ってたから大丈夫だと思うけどな。木の根方に植えれば勝手に這い登るだろ」
海に浮きながら食に密着した話題しか出てこない正輝であった。
次回『まばゆさと幸せの中で(2)』 「しかし、ここはあえて青で行く!」




