諸兵科は民生技術とも連合する(最終回)
1990年からの湾岸戦争は、A-10をシンボルとする地上攻撃航空部隊の栄光の絶頂であり、諸兵科合同という観点からは、航空攻撃への過度な期待と空軍の主導権増大をもたらす、バランスブレーカーでもありました。イラクが発射したスカッド・弾道ミサイルはイラン・イラク戦争全体で発射された数にははるかに及びませんでしたが、移動式発射台は見つけにくく、発射されたミサイルを迎撃できるのはパトリオットだけで、当時の迎撃成功率については様々な主張があります。
ハウスが語る1991年の「東経線73度の会戦」は、英語ではBattle of 73 Eastingと呼ばれています。MBTとIFVを中心とする諸兵科連合部隊は迅速にイラク軍を回り込む機動を見せ、射程のアウトレンジと電子機器に補助された照準の正確さで、一方的な打撃をイラク軍に与えました。部隊としての迅速な機動は、車両の速度が揃っていて信頼性も高かったことをうかがわせます。
この戦場は、次々に敵の増援が来る欧州とは条件が異なっていました。そのため、ハウスが指摘するように(358頁)、湾岸戦争からもっぱら戦例を取った1993年のマニュアルは、せっかく勉強した「先読み」としての作戦術を忘れかけたものになりました。
2001年改訂版であるこの著作は、「911」以降のアフガニスタンでの経験、ましてやウクライナでの直近の経験を反映していません。アメリカ軍はベトナム同様、アフガニスタンでもイラクでもまとまった部隊として敵にぶつかったときは、良い戦力比で勝利し、アフガニスタンではアメリカ軍とCIAの死者を13名で収めました。そしてこの2001年のアフガニスタンで、アメリカ軍のドローンは最初の攻撃任務に就きました。
しかし2021年のアフガニスタン撤退までに、小規模な襲撃による死傷者がかさみ、アメリカだけで2420人の死者を出すことになりました。イラク駐留でも同様のことが起き、アメリカをはじめ多くの軍の軽車両は(全部ではなく、ご予算に応じて)地雷や爆発物にも強いものに置き換わりました。アメリカでの調達計画名MRAPが車両のカテゴリ名のようになっています。かつての「非正規戦争」という概念は新兵器も加わり、戦争ではないが襲撃の頻発する状態を含む低強度紛争(LIC)と呼ばれるようになりました。
民間サービスであるスターリンクを、ウクライナ軍はロシア軍に妨害された通信網の代替として用い、2024年にはロシア軍も海外から入手した端末でウクライナでの利用を始めたことが報じられています。ウクライナでの大規模なドローン生産も兵器生産経験のない民間企業に担われており、民生技術を吸い込むように利用して変化し続ける軍事技術革新の中で、それぞれの車両と武器は自分の立ち位置を見つけて行かねばなりません。いっぽうロシアが次々と見つけてウクライナに送り込んでくる旧式車両は、欠点を持った古い兵器であっても何かしら戦闘を優位にする点が残っていて、その優位を打ち消すものがなければ、残額を血で支払わされることを示唆します。
戦後編は知らないことをニワカ勉強しながら見てきたように講釈する、久しぶりの経験でした。勘違いが残っていたらごめんなさい。




