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空を見ろ 海を見ろ 見るだけは見ろ

 シンガポール陥落までのイギリス陸軍は、わずかな食料と弾薬を身に着けてジャングルを歩いて来る日本歩兵に意表をつかれました。しかしこれは砲兵の支援を捨てるということでしたから、堅陣を築き、物資投下か仮設滑走路でもちこたえれば、そうした日本歩兵は対抗手段がなく、後方に浸透しても堅く守られた都市から物資を得ることもできず、退くしかなくなりました。こうした空中補給に支えられた陣地を、空までつながっているという意味で日本側では円筒陣地と呼びました。


 ハウスが描き出すように、インパール作戦で、イギリス軍はインパール市そのものを空輸で支え、反撃開始後も輸送機で歩兵と軽砲を機敏に送り込み、「空輸能力」をカギとしたエアランドバトルの先駆を見せました。もちろんこれは航空優勢なしではできず、機甲部隊・自動車化部隊と組んだ迅速な前進には地雷処理を含めた工兵部隊の献身と犠牲が必要で、条件がそろったときのみ目覚ましい戦果がありました。


 ドイツ軍の空輸作戦としてはデミヤンスクやスターリングラードが有名です。スターリングラードからの補給要請リストに馬の飼料があったという話がありますが、空輸のキャパシティはどんな国でも限られており、どんな危機でも克服できるわけではありませんでした。珍しいところでは、(おそらく戦闘機などの特定機体限定で)輸送機で丸ごと移動するドイツ空軍の修理部隊があったことが、戦後の捕虜尋問記録にチラッと出てきます。輸送機は多発機訓練の機材としても使えますから、空輸を濫用して損害を出すと、爆撃機乗りの養成にも差支えが出ます。ただしドイツ軍の場合、スターリングラードでの輸送機の損耗と並行して全般的な航空優勢の揺らぎが始まり、多発爆撃機が空で生き残りづらくなっていったので、それが戦況を変える要因になったかというと難しいところです。


 映画『遠すぎた橋』で予定にない場所に降りた空挺部隊が補給物資を投下してもらえず、地上で合図をしても敵の欺瞞だろうと無視され、決死の覚悟で取りに行ったコンテナは軍帽だった……というシーンはあまりにも印象的であり、ヒトラーのチクショーメと並ぶミリタリ系のネタ元です。空挺部隊が友軍と連絡を取る無線機がまともに動かないことは、お約束のようにそうした部隊共通の宿痾(しゅくあ)でした。この連載でずっと見え隠れしている点ですが、「連絡がつくか」は部隊同士が協力するための決定的な条件です。その他の技術だけ進んでも、連絡がボトルネックになりがちで、これは現代まで、妨害と遮断も含めた悲しいマラソンが続いているところです。


 同様に、「輸送機やグライダーで運べる兵器の大きさ・重さが限られる」ことも尽きない試行錯誤を生みました。2022年以降ウクライナに送り込まれたM777・155mm榴弾砲は、空輸に適した軽量な砲として開発されたものです。それは牽引車両のスペックが低くていいとか、いい道路でなくても車輪が埋まりにくいとか、他の利点にもつながったはずです。しかしドローン戦争と化したウクライナで、砲は撃ったらすぐ逃げねばならず、ゲームチェンジャーにはなりそこなったようです。


 上陸作戦はしばしば空挺作戦をその一部として含みますが、陸海空で連絡し調整し指揮権を整理し情報を共有するという不可能事を無理やり実行するものです。一般論を煎じ詰めると「がんばれ」とかそういう話になるでしょうか。ひとつの上陸作戦だけでも、しばしば1冊の本では概略しか語れません。「諸兵科連合」としては、まあエアランドバトルくらいまでの話としたいと思いますので、ここでは流します。


 同様の理由で、特殊作戦は特殊なのでここでは語らないことにします。


 これで、ハウスの著作第2部に沿った第2次大戦までの話を終わりますが、ハウスが最後に強調するのは、米英軍の諸兵科連合は多分に現場の工夫にとどまり、指導層がそれを今後どう制度化していくかは積み残されたということと、問題の焦点は諸兵科連合から三軍連合に移りつつあったということです。


 皆様お気づきのように、マイソフは1945年から先の軍事史、下手をすると1945年5月以降の軍事史にはあまり興味も知識もありません。ここから先はマイソフの最新知識が小学生のころ読んだ小山内宏『世界の秘密兵器』であったり、「大戦略」の攻略本であったりするかもしれないのですが、もったいないので、突っ込めるところがあるか読むだけ読んでみようと思います。



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