傭兵ですがとりつかれました
この子と初めてあったのは憧れの守護戦士の日本の本拠地の五十嵐道場についに行けたときのことなんです。
茶色の長い髪を銀色のかんざしでまとめてグーレラーシャ傭兵国の民族衣装で防御力が高い水色の真ん中スリットの少し刺繍された長衣、戦衣と水色のズボンで槍を背負ったハシバミ色の瞳の女性傭兵レディナシア•オルゴスが後に語った。
グーレラーシャの王都の王宮の真ん前にある王立傭兵ギルトの本部で若い傭兵二人が仕事の依頼手続きを待ちながらホールで語っているようだ。
「それで、それがついたのか? 」
レディナシアのバディで焦げ茶の髪を三つ編みにして少し刺繍の入ったカーキ色の戦衣と同色の細身のズボンにロングソードをさした青年、ガルティウス•カザフは琥珀色の瞳を半眼にした。
「ええ、黒い子が付いちゃったみたいです」
私、方向音痴ですからねと若き女性傭兵レディナシアは指で頬をかいた。
レディナシアの暮らすパーウェーナ世界のグーレラーシャ傭兵国は国民総傭兵国家である。
もちろんほとんどの人は兼業傭兵で別の仕事が本業で例えばグーレラーシャ傭兵国名物の細工飴の職人と兼業だったり看護師が兼業だったりする。
「最近、水色の戦衣を仕事着にしてるのももしかして……」
「はい、守護戦士三級の資格が取れましたので、許可された色で作っちゃいました〜」
見習いは実戦に出ないみたいですけど、取れたのが嬉しいので〜とレディナシアが水色の戦衣をさわってうふふとやや不気味に笑った。
守護戦士とは明正和次元の2次界が本拠地の凄腕の戦士で、グーレラーシャにも青服の傭兵として入ってきていて、その強さに一目置かれている。
青服の傭兵と呼ばれているのは強さによって違うが一般的に実戦が可能な守護戦士2級の作務衣風の制服をがほとんどだが制服の色が強くなり級が上がるたびに青みが増していくからである。
「ズルいぞ、俺だって行きたかった」
「誘ったら、資格更新だって言ってました」
レディナシアが人差し指を振った。
何年かに一度傭兵資格の更新があり、特に専業傭兵は実技が伴うので一日仕事である。
だってあれは、日本国ツアーだろうがぁ〜
フリーの時間に行ったのです〜迷いましたけどとレディナシアはニコリとニヤリの中間の笑みを浮かべた。
そういえば、迷って男の人に道を聞いてから黒い子が出始めたようなと黒い子がフワフワ舞う様子をレディナシアは目で追った。
それならズラしたぜーとガルティウスが拳を突き上げた。
そのくらいグーレラーシャ傭兵、憧れの五十嵐道場なのである。
五十嵐の長老様も宇水の妖怪様もお強かったですが、一番強かったのは強い人を踏みまくる踏み踏みワンコさんだとバディが行くまで教えないと少し人の悪い笑みを浮かべた。
踏み踏みワンコは強ければ強いほどやばいところに足が入る大型犬ですみません〜と言われながら踏まれまくったレディナシアは実は地方都市デリュスケシの幼年学校時代から最強クラスで王都の傭兵学校からスカウトに来るレベルで王立傭兵学校卒業、天槍のクーシャルーカの再来と呼ばれているが、本人は冗談だと思っているようだ。
「一人じゃ迷いまくるくせに」
「故郷じゃ迷ったことないのです」
大体海の方行けばわかりましたしとレディナシアが小首をかしげた。
デリュスケシは国際港を有する漁港街である。
でも、王都ラーシャと違って、住民皆顔見知りくらいの大きさなので海の方に行けば方向音痴を知られてて誰かしらに誘導されてたのであった。
明槍のレディナシアじゃなくて迷走のレディナシアのくせに〜
そんなに踏まれたかったのですか〜
二人が拳をかまえたところで壮年のベテラン男傭兵サナウスが通りかかった。
「おいおい、私闘は処罰対象だぞ」
「そうですよー、明正和の五十嵐道場ぐらいなら私がいつでもご案内いたします」
拳を両手のひらで押さえたサナウスのかたわらにフワフワと黒いローブみたいなのに顔部分に黄色の2つの光が目のように光ってる手のひらサイズのなんかがよってきた。
「なんだぁ? こいつ……」
「出汁ソードと申します、お見知りおきを」
ふんわりとローブ? の一部を胸に当てて黒い何かは礼をした。
「また、そいつかよ、サナウスのおっさんわりぃな、ついな」
「すみません、サナウスさんつい迷走って言われて頭に来ちゃいました、その黒い子は……よくわかんないけどとりつかれてます? 」
お前ら、このなんか香ばしい匂いのする生きもん? と知り合いかよとサナウスは内心顔を引きつらした。
ちなみに明槍のレディナシアとは二つ名である、ついでに迷走のレディナシアも迷いすぎてあだ名になったようである。
「はい、香ばしい生きもん? でございます、レディナちゃん、お仕事の手続き終わったみたいですよ」
フワフワと黒い物体がレディナシアの周りを待った、受付に目を向けると中堅どころの受付ギゼルニアが事務的な微笑みを浮かべて頷いた。
「明槍のレディナシアさんと疾風のガルティウスさん、順番です」
ギゼルニアは手招きした。
グーレラーシャの傭兵は二つ名を持っている、かぶることも多いので大体、名前まで呼ばれるが凄腕の傭兵となると独自の呼び名があったりする、有名どころは天槍のクーシャルーカや蓬髪のガイウス等である、王族は公式にグーレラーシャの獅子等国名が付く、非公式で黒ウサギ剣士と名乗ったふざけた? 王族もいたようであるが……
ちなみに明槍は独自二つ名でレディナシアは方向音痴さえなければ高等槍士の上級を取る強い戦士である、もちろんガルティウスも強いが高等剣士の中級なので一歩劣るのである、それでも学生時代から組む仲の良い? 二人であった。
「すみません、すぐ行きますね」
レディナシアが慌てて手を上げて受付に早足でよって行った。
後ろからガルティウスも慌ててついて行った。
王立傭兵ギルトの受付、実は最強クラスの人たちが就業している、グーレラーシャの傭兵は幼年学校の次の中等学校で礼儀作法を叩き込まれるので、あまり荒々しく……なくもないが、依頼人が暴れたり言いがかりをつけたり、獲物が暴れたりすることもあるので最低でも高等戦士の下はもたないと就職できないのである。
「呼ばれたらすぐ来てください、サインをお願いします」
それに私闘は……とギゼルニアの空恐ろしい微笑みにすみません、すみませんと二人は頭を下げながら通信機の画面にデジタルペンでサインした。
そして、本日の二人の依頼は国内から、港町であるが、故郷デリュスケシでなく、ファウデスケの町である。
「海ー、王都は刺激的だけど、海はいいです〜」
レディナシアは大きく伸びをした。
坂道上から石造りの建物が港に向かって続いているのが見える。
故郷のデリュスケシと違って漆喰を使っている家もありその向こうに海が見え、船が係留されている様子に、ここならきっと迷わないとレディナシアは拳を握った。
うーんいい匂いですねと黒い子が出てきてるけど、きっと海さえあれば迷子なんてならないとレディナシアは内心思った。
「確か、この辺にファウデスケ漁業協同組合があったはずだ、動くなよ、迷走槍士」
「大丈夫ですよ、それに巨大ザメの討伐ですよね、楽勝〜楽勝〜」
アーデギース組合長によく振られてるしとレディナシアがニヤリとしたのに絶対に動くなよとガルティウスは一抹の不安を覚えながら言いおいて漁協の事務所の扉にくぐっていった。
ああ、港町って言いなぁと言いながら、レディナシアはのんきに露店や小売店を眺めながらゆったりと歩き出した。
このところ内陸ばかりで海と触れ合えなかったからレディナシアも少しストレスが溜まっていたようである。
あ、あの海鮮焼き串美味しそうです、あ、あっちの貝細工のかんざしも素敵です〜……いざとなれば海に行けば大丈夫と高をくくったレディナシアは見事に迷ったようである。
「うぁ……今度こそ、バディ解消宣言されちゃうのです」
レディナシアは海どこですか? と街の入り組んだ小道から海が見えないかとキョロキョロとした。
今までも散々迷って迷惑をかけまくり、バディ解消〜と叫ばれた事は一度や二度ではないのである。
グーレラーシャ専業傭兵は基本的に二人一組が最小単位である、必ず、バディがいない専業傭兵は潜りであると言われるくらい大事で戦時の生存率アップのために始まったと言われている、信頼できるバディは金にも天鉱合金にも勝ると言われており、大体はバディは一定である。
たまに結婚やグーレラーシャ名物の求愛行動? や仲違い、相性が合わないで替えたり、とっかえひっかえの傭兵も中にはいるが、大体稀で、レディナシアとガルティウスも傭兵学校時代からのバディである。
もちろん、レディナシアは明槍のレディナシアと呼ばれるくらいの天才高等槍士なので、バディはよりどりみどりなのであるが、よりどりみどりすぎて求愛行動にはしるグーレラーシャ男性も多く、抱き上げないガルティウスは貴重品なのであった。
「大丈夫ですよ、私がいます」
クルクルと空中に出現しながら黒い子が黒いローブ? の一部を上に上げた。
「ありがとうございます」
黒い子さんお願いします〜とレディナシアは藁にもすがるおもいで黒い子をおった。
仕事開始はもうすぐである、遅刻はグーレラーシャ専業傭兵としての評価や査定に関わるのである。
細い道を駆け下り、一緒に遊ぼーぜとナンパする外国青年をすみません〜と振り切り、黒い子と迷走、失礼、明槍傭兵はなんとか港についた。
「海についたのに……全然わかりません」
「おかしいですね? この辺のはず」
海に付けば迷わないと思っていたレディナシアは絶望した。
当たり前である、デリュスケシとファウデスケは海の方向も違う、それにデリュスケシではレディナシアが方向音痴なのは顔見知りのおじちゃん、おばちゃん連中をはじめちびっ子までも知られていてさり気なくもなくフォローされてたのである。
わーんバディ解消? 遅刻と騒ぐレディナシアの前に一隻の船が止まった。
舳先から誰かが飛び降りた。
あ、あれ?ガルティウス? 目の前の腕を組む焦げ茶の髪の青年傭兵にレディナシアは後ずさった。
「でめー、動くなと行っただろうが!! 」
ガルティウスはレディナシアのこめかみをグリグリした。
わーんごめんなさいです〜
でめーは方向音痴なんだからな動くなと行ったよな
バディ解消はご勘弁を~と謝り倒すレディナシアとグリグリしてるガルティウスを船の甲板から眺めながら漁協組合員な船主がそろそろの……と言いかけたところで黒いものに気がついた。
「なんだ、この黒いもんは? 」
「失礼いたしました、私はレディナシアさんの羅針盤です」
空中でちっちゃい胸を張る黒い子に注目が一瞬だけ集まった。
「さっさと巨大サメ倒すぞ。」
「そうですね」
傭兵二人は羅針盤という発言を聞かなかったふりをして船に乗り込んだ。
その後、無事に巨大サメを退治したようである。
ところ変わって明正和次元のとある精神科病院の外来診察室でに性別不詳? の青年か中年かわからない黒髪、青目の千鳥格子のシャツとチノパンで診察室にこしかけていた。
「グーレラーシャの可愛い女性傭兵さんが、五十嵐道場どこでしょうと正反対のところで聞いてきたので、教えながら心配したのは確かなんです、でもなんでそれだけで……」
先生、どうしたらいいんでしょうといつものごとくソード•ソーサリーが精神科医師森河 慈雨を見た。
ちょっと案内して方向音痴を心配しただけなのに任せてくださいと出汁ソードがぁとソードは頭を抱えた。
「今度は、『私はレディナシアさんの羅針盤です』だそうだねー僕も先生のコンパスになりたいな、このムダ毛は処理した方が良いですよとかアドバイスするんだ」
黒い出汁ソードがフワフワと慈雨のはげてないところの髪に油を塗りながらおハゲは素敵な財産です〜歌っている。
「ムダ毛じゃありません、ソーサリーさん引き取ってもらえませんか? 」
「嫌だな、無理に決まってるじゃありませんか……ほんとにどうしたらいいんでしょうか? 最近、私は○○って流行ってるんですかね? 」
回収できるのは対象の人が消滅してからですと疲れた微笑みを浮かべるソードにやっぱり、この患者世○管○○とか○高○系のような気がすると慈雨は思った。
そして残る髪を殲滅しようと虎視眈々と狙ってる黒いのはやっぱり回収してもらいたいと切実に思う慈雨であった。
ああーこの間も増えたんだ〜先生〜とソード•ソーサリーは顔を覆った。
ソード•ソーサリーと森河 慈雨医師との付き合いはまだまだ続くようである。




