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74 お姫様にはなれない




 壁を背に床にへたり込んだまま、隣に座ったメリッサにしか聞こえない小さな声で仮定を語った。


 まずは、母のことを。

 伯父は、たぶん私が女だと知らなかったのだと。

 伯父が普通に訴えずに暗殺などという手段を選んだのは、正規の手順で訴えたところでエインズワース公爵に揉み消されるだろうとわかっていたからだろう。それ故に、あんな真似をしでかした。

 そうして誰にも揉み消せない状態にしてエインズワース公爵家の罪を詳らかにすることで、公に断罪されるべきだと考えているのだろうとも。


 母のことを話したとき、メリッサはひどく驚いた顔をした。

 けれどそれは事情を知って驚いた、という風ではなかった。私がそれを知っているということに驚愕し、痛みを受けたような顔をしていた。

 大きな目に涙を溜めて唇を噛み締める姿は私への同情からではなく、暴いた者に対する怒り故に見えた。

 しかしそれ以上大きく取り乱すことがなかった様子を見るに、きっとメリッサも乳母から引き継いだのか母の事情を知っていたのだと思う。

 それでもメリッサが私にそれを告げたことはなかった。触れたことすらない。

 ただ思い返してみれば、メリッサは私が母と関わる最低限にすら関わらせないようにしてくれていた。

 きっと私は私が思う以上に周りに守られていて、負担もかけていた。

 何度も躊躇う口から擦れた声を絞り出す間に、窓の向こうの景色は夕闇から夜の帳へと浸食されていった。暗くなっていく部屋につられたせいだけでなく、語る毎に心が更に暗く沈んでいくのがわかる。

 仮定を言葉にしてしまうと、言霊に囚われてしまったかのようにそれが真相なのだと思えた。


「そんな、そんな馬鹿なことが、」


 語り終えれば、メリッサは驚愕に大きな目を零れ落ちんばかりに瞠った。

 あるわけがない、と言いかけたメリッサの唇は戦慄いて、だけど最後まで言えなかった。ない、と言い切れなかったのだと思う。

 暗くても顔が血の気を失っているのが見て取れた。悔しそうに一度奥歯を噛み締めてしばらく息を詰めた後、眉間を寄せて呻くように声を吐き出す。


「……ありえない話ではない、と思われます。オーウェン様のことは母から聞いたことがありますが、エインズワース公爵との折り合いは悪かったのは間違いありません。公爵に信頼されていなかったオーウェン様に秘されていたとしても、おかしくはありません」


 メリッサの目から見てもそう見えたのならば、あながち私の仮定は間違ってはいないということだ。

 絶望が押し寄せてくる。

 ほんの僅か、否定してもらえたら、と願っていた自分の心が軋む音が響く。膨れ上がった不安と恐怖に押し潰されて息苦しい。必死に奥歯を噛み締めて堪えているけれど、今にも意味のない言葉を泣き喚いてしまいそう。メリッサと繋がれた互いの手の指もひどく冷たい。

 死にたくない。

 死なせたくない。

 心臓がドクドクと足掻くように存在を訴えてくる。


(だけどもう、全員助かる方法なんて思いつかない……っ)


 ここまで足掻いてきたつもりだった。けど、やっぱり私は甘かった。

 その時その時を必死にやってきたけど、見通しが甘くて、いつだってその場しのぎにしかならなかった。せめてもっとはやく、生まれた時から前の記憶があればもう少しうまくやれたかもしれないけど、既に手遅れになった状態で思い出したってどうにも出来ない。

 これでも私は、前の私を思い出すよりも以前から手探り状態で試行錯誤しながら足掻いてきた。

 乳母がいなくなって。乳母がいなくなったら母が私に指示するのかと思っていたけど、何もなかったから。

 母は私に何も言わなかった。何をしたらいいかわからなかった。

 大人は誰も助かる方法なんて教えてくれなかった。

 逃げ出す道を示してはくれなかった。

 エインズワース公爵は妄執に囚われて現実が見えていない。母は最初から私を助ける気はない。伯父は頼れるほど近しくなく、乳母とメル爺はきっと最初から助かることなど考えていなかった。

 メリッサとセインは、私にとって頼れる相手ではなかった。いや、頼ってはいたけど、最終的には私が守らなければならない対象だった。

 なんとかしないとって、一人、手探り状態で足掻いた。

 でも所詮は世間知らずの子供の頭で考えられることなんて、たかが知れている。

 詰めが甘くて、傷つけられれば怯んで、怖くなって立ち竦んだ。そのくせ頭の片隅では、いつか誰かがどうにかしてくれるんだって、そう思う気持ちも少なからずあった。

 こんな馬鹿げた状態、大人が放っておくわけがない。きっと誰かが助けてくれる。そんな他力本願な気持ちでいた。

 絵本の中で語られるお伽話のように、いつか誰かが私を救ってくれるんだって。そんな夢ばかり見ていた。


(でも、誰も助けてくれなかった)


 私は絵本の中のように、お姫様ではなかったから。

 だって私が王子様だったのだから。私が周りを救わなければならなかった。

 ひとりでどうにかするしかなかった。

 足掻く度に思うようにならなくて絶望して、打つ手が合っているのかどうかもわからないまま、いつか暴かれてしまうことに怯えながらも走り続けた。

 諦めたくなくて、必死に足掻いてここまで来た。それなのに。


(どうしてこんなに、うまくいかないっ)


 これだけ足掻いてきても、全員が助かる道なんてない。その上このまま手をこまねいていたら、誰一人助けられない。

 兄はたぶん、私が襲われたのは第一皇子派の内の誰かが暴走したのだろうと考えているはずだ。そしてエインズワース公爵家に罪を着せているのだと。

 だけど実際にはそうではなく、王家を巻き込んだはた迷惑な自爆目的の御家騒動なのだと知れば、いくら兄とて私を特別だと言い張っても庇いきれるとは思えない。


(……そもそも庇ってもらえるわけないじゃない)


 どこまで甘い考えでいるの。



「──逃げましょう。アルフェンルート様」



 不意に、繋いだままの手にぎゅっと力が込められた。

 隣から掛けられた声に驚いてまじまじと見つめれば、榛色の瞳が暗い中でも輝いて見えた。迷うことなく私を見据えている。


「何を、言って……そんなこと、できるわけがない」

「私が連れて逃げてさしあげます。最後の手段のつもりで考えていましたが、もう今しかありません」


 まったく予想もしていなかったことを言われて、絶句しか出来ない。


「城では衛兵が多くて無理でしたが、ここなら監視の目は少ないので逃げ出すことが出来ます。私は母から乗馬を叩き込まれておりますから、いざとなれば馬でだってアルフェンルート様おひとりなら連れて逃げられます。アルフェンルート様さえ望めば、明日にだって」


 目を瞠る私を見据え、メリッサが淡々と語る。


「日が明け切る前の明け方ならば人も少なく、クライブ様も朝は弱いので起きてはきません。シークヴァルド殿下も早朝からこちらの部屋にはいらっしゃることはありえませんし、他の近衛のお二人は殿下に付かれているでしょう。知られず部屋を抜け出すことは可能です」

「でも、部屋の前には衛兵が控えているでしょう」

「殿下に頼まれているので、鶏小屋まで今朝の分の卵を取りに行きたいと言えば快く送り出してくれるはずです。幸い、アルフェンルート様が珍しいゆで卵を指示されたこともあって怪しまれることはありません。もし付いてこられても、一人ぐらいならばどうにでもなります」


 強気に言い切るメリッサに気圧されながら、コクリと喉を嚥下させた。心音がドクドクと跳ねる速度を上げていく。


「どうにでもって言っても……大の男一人、私は倒せないよ?」

「そんなことはわかっています。何のために私が化粧などしてきたと思っておられるのですか。荷物検査は当然ありましたけど、男性は化粧道具の中身まではわかりません。念の為にスラットリー老から預かってきた痺れ薬と睡眠薬を中に忍ばせてきています」


 ちらり、とメリッサが鏡台の上に置かれた化粧用の小箱へと視線を走らせた。

 あまりにも無造作に置かれているから、まさかその中にそんな物騒なものが入っているなど考えもしない。

 化粧をしていることにもそんな意味があったのだとは思わなかった。単純に旅行だから可愛くしているだけだと思っていた私は、なんて呑気で馬鹿なの。

 私の動揺に気づいてもかまっている場合ではないのか、メリッサがまるでずっと考えていたかのような流暢さで計画を告げる。


「もうすぐ夜勤明けという気が抜けかけている状態で、ねぎらいのお茶を振る舞われて断る者はまずいません。それに油断するよう、私は愛想を振りまいておりましたから薬入りだと疑われはしないでしょう。付いてきたとしても、鶏小屋で卵を取るフリをしている間におやすみいただきます」


 夢物語としか思えない申し出が、現実味を帯びてくる。ここから逃げられるのだと訴えるように、私の手を取ったままのメリッサの指に痛いほど力が入った。

 だけど屋敷から逃げ出せたとしても、その後はどうするの。


「でも馬と、お金はどうするの」


 そういえば兄から預かった財布は持ったままだ。しかしこれを持ち逃げしたとしても、これだけでどうにかできるとは思えない。


「淑女嗜みとして、ドレスと一緒に宝飾品もいくつか持ってきております。宝飾品ならポケットに入れておけますし、それを換金すれば路銀になります。お金さえあれば後はどうとでもなります」

「その前に、私は通行証なんて持ってないよ」


 ここに来る前に見た領境界の検問を思い出せば怯む気持ちは湧いてくる。

 王家の馬車で移動したから通行証など必要なかったというのもあるけれど、王族ということで通行証なんて最初から持っていない。見た限りでは出ていくことは簡単だったけど、他領に入る時が厳しい。


「それに関しては私はマッカロー伯爵令嬢ですし、城付きの侍女というだけでも信用があります。私一人分の通行証でも問題ありません。ここはランス領内ですから、厳しく検問するよう全域に通達するまでに時間はかかるでしょう。その前に突破して逃げられるところまで逃げ切ります」


 これをただの夢物語で終わらせる気はないのだと、メリッサの瞳が告げる。


「……どこに、逃げるの」

「マッカロー伯爵領と言いたいところなのですが、すぐに追手はかかるでしょう。エインズワース公爵領とうちの領を避けて、まったく違う場所に逃げた方が足は付かないかと思われます」

「メリッサと二人だけで、いくの?」

「私はセイン様のように頼もしくはないでしょうけど、二人ならばなんとか暮らしていけると思いませんか? アルフェンルート様、以前に平民暮らしに憧れていたではありませんか」


 そう言って、メリッサが少し笑った。強張ったまま笑い返せない私を見て、少しだけ悲しそうに目を細める。


「もう頑張らなくていいのです。アルフェンルート様は私たちを守るために戦ってきてくださいました。今度は私たちが守る番です」


 強く握られていても冷たいままの指先。迷いなく熱く語られはしたけれど、メリッサの胸の内は不安と緊張に溢れているのだとわかってしまう。

 それなのにメリッサはそれらを覆い隠して、切実さが滲む声で訴えてくる。


「お願いですから、逃げてください」


 ぎゅっと胸が引き絞られたように痛んだ。

 ……私はメリッサを、守ってあげなくてはいけないと思ってきた。

 私の理想を模したような女の子。

 綿菓子のようにふわりと揺れる髪と、大きな瞳。小動物のような印象を抱かせる可憐な少女。私に巻き込まれてしまっただけの可哀想な娘なのだから、と。

 だけど今、私の前にいるメリッサは見た目通りのか弱い少女ではなかった。

 大きな瞳に強い意志を讃え、凛と背筋を伸ばして迷いや恐れを見せないようにしている。

 私が足掻いていたように、きっとメリッサもメリッサなりに考えてきた。私の見えないところで戦っていたのだ。

 そんな当たり前のことに、今更気づかされる。

 見た目通りの柔らかい雰囲気を纏った少女のままでいられなくしてしまったのは、私だ。


「私は、本当に逃げてもいい?」


 躊躇いながらもそう問いかければ、メリッサの顔が輝いた。勿論だと言う代わりにメリッサの指先に熱が籠る。


「誰が許さなくても、私は許します」


 力強く頷かれて、胸がひどく軋んだ。


(メリッサは、私を許してしまうの)


 逃げきれなかったとき、どんな代償を払うことになるのかわからないわけではないだろうに。

 優しいね、メリッサ。

 いつだって、みんな私に甘い。こんな私にこれほどまでに愛情を注いでくれた。


(だからこそ私は、あなたたちを失いたくない)


 迷ったときは、いつも何が一番大事なのかを考える。

 私が一番失いたくないもの。

 守らなければならないもの。

 自分の中で優先順位を考える。命の重さがみんな同じだなんて、そんなの嘘だ。けして同じにはなりえない。


「…………ありがとう。その言葉で、覚悟が出来た」

「でしたら、」

「うん」


 胸の奥に燻る罪悪感を吐息に変えて、細く吐き出した。息を呑んで目を瞠ったメリッサに微かに笑いかける。握られていた手をそっと握り返してから、ゆっくりと解いた。


「そうと決まれば、準備しないといけないね。ちゃんと食べて、早く寝て、明日に備えなきゃ」


 話し込んでいる間にかなり時間は過ぎていたようだ。

 窓の外は完全に夜になっていて真っ暗だった。外からは微かに夜に鳴く虫の声が聞こえてくるだけで、それ以外の音はなく静かだ。その虫の音が夏の終わりがけに聞くものだと気づいて、少しだけ物悲しさを誘う。


「今、何時だろう。……少し、お腹すいた」

「お腹がすくのは良いことです。時間的にとうに晩餐は終わってしまっているでしょうが、夜食をいただけるようお願いしてまいります。ついでに明日の朝の分も補えるよう、多めにいただいてまいりますね」


 私がちょっと間抜けなことを言ったからか、メリッサが安堵を滲ませて笑った。明朝に失踪することが決定事項になったからか、立ち上がりながら強かなセリフを口にする。

 その見た目にそぐわないたくましさに少しだけ苦く笑ってしまった。

 暗闇にいたせいで視界がおぼつかないので壁に手を突きながらゆっくりと立ち上がれば、気遣って手を取られた。促されるままにベッドに腰を下ろす。

 滅多に使われない客室には灯り代わりの蓄光石は置いていないので、メリッサがベッド脇のランプに火を灯してくれた。


「お疲れでしょう? 私が戻るまで、しばらくお休みになってくださいませ」


 そんなに顔色が悪く見えたんだろうか。素直に頷く。だけど座った状態のまま、部屋から出ていこうとするメリッサの背を見つめる。


「メリッサ」


 ふと、その背を呼び止めた。


「はい?」


 当たり前に返事をして、メリッサが振り返る。

 優しいメリッサ。大好きなメリッサ。私の姉であり、友でもある、かけがえのない大事な人。

 本当に二人で一緒に暮らしていけたら、きっと楽しい。

 主従関係でなくなったら遠慮はなくなってくるだろうし、喧嘩もするだろう。しっかり者のメリッサから見たら、頼りない私に苛立つこともあると思う。でもメリッサは案外不器用だから、そういうところは私でもフォローできるんじゃないかな。

 補いあって、きっと二人なら楽しくやっていけたんじゃないかって、そんな気もする。


「ありがとう。メリッサがいてくれて、よかった」


 微かに笑って心からの感謝の言葉を告げれば、メリッサがはにかんだ笑みを見せた。目を細め、くすぐったそうに笑ってから部屋から出て行った。

 扉が閉まるまで見送り、耳を欹てて足音が遠ざかるのを聞く。完全に気配が辿れなくなってから細く息を吐き出した。ゆっくりとベッドから立ち上がる。


(本当に二人で逃げられたらよかったけど)


 鏡台の前に立った。メリッサが言っていた化粧道具の入った小箱に手を伸ばす。

 メリッサの私物扱いだから勝手に触れることに罪悪感は湧くけれど、躊躇ってはいられない。

 男性が化粧道具一式を見たところで、何が何だかわからないだろう。男として育った私が化粧品に触れるのは初めてだけど、OLをやっていたから常にメイクは整えていた。オタクだとバレないよう、体面上はうまく取り繕ってきたつもりだ。そのおかげで化粧の知識は頭に入っている。

 箱の中に綺麗に詰められている道具を手早く取り出していく。ファンデーションにチーク、それとアイシャドウ。ハイライト、眉墨、アイライナーとマスカラ、口紅……質は私が知っているものより劣るけど、それほど化粧品に差異はないらしい。

 順番に取り除いていけば、余るものが出てくる。

 

(睡眠薬と痺れ薬はこのあたりかな)


 小さな小瓶に入った液体と、化粧品のひとつのように見えて使い道が謎な白い粉。

 瓶の蓋を取って匂いを嗅いでも、香水のような香りはしない。化粧水とも考えられるけど、メリッサがこれを使っているのを見た覚えはないからこれが怪しい。

 それと眠れないときにメル爺が出してくれたのは粉だったから、見た覚えのある粉がたぶん睡眠薬。

 指先にとって舐めてみれば、覚えのある苦みが微かに口に広がる。生憎と毒に慣れた私には効きにくいけど、飲み慣れていない人になら効果はある。

 メモ帳を1枚破いて、粉の方の中身を少し拝借する。それをポケットに忍ばせてから、中身を元通りに戻した。

 メリッサが戻ってくる前に、と焦っているせいで心臓がドクドクと跳ねている。緊張のあまり、自分を落ち着かせるために吐き出した息が震えた。


(あとはこれを、メリッサに飲ませたらいいだけ)


 食後のお茶か、入浴後に呑むだろう水に混ぜておいてもいい。寝る前に気持ちを落ち着かせる飲み物を淹れてあげる体を装って入れることも出来る。メリッサは私を疑わないから。

 私の用が済むまで、メリッサには眠ってもらわなければならない。


(……どうしたって、逃げられはしないんだよ)


 顔からは感情が抜け落ちて、鏡に映った自分の青い瞳が光を失い、仄暗い色を灯す。


(ごめんね。メリッサ)


 この屋敷から逃げ出すことは、確かに出来るかもしれない。だけど逃げ続けることなど不可能。

 私も何度妄想し、シミュレートしたかわからない。でも所詮、夢物語でしかない。

 逃げることが可能なら私はとっくに逃げ出していた。世の中はそんなに甘く出来てない。逃げたところであっという間に追いつかれて、捕まるのは目に見えている。


(こんな小娘二人が逃げ続けることなんて、無理なんだよ)


 そして捕まってしまったら、もう最悪しか残っていない。


(それに私は欲張りだから、私とメリッサだけが助かるのでは駄目なの)


 優先順位が違う。


(だから私は、もういい)


 嫌だけど。仕方ない。もうどうしようもない。誰もが助かるなんて、そんな手は思いつけない。

 それなら今この時点で、誰を助けられるのか。

 誰を助けたいのか。

 この命を秤にかけて、私は選ばなければならない。




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