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65 もしも。


 朝食後、部屋に戻ってきた兄が机の上にあったメモ帳に何かを走り書いた。それを無造作に封筒に入れ、封印をすることなく私に差し出す。


「アルフェ、これをランス伯の部屋まで届けてくれ」


 咄嗟に受け取ったものの、思わず首を傾げた。

 この兄は今さっきまでランス伯爵一家と食事をしていたはずで、それでどうしてまたランス伯爵へ渡すメモを寄越すのか……。


(挨拶して来なさいってことかな)


 ランス伯爵は私が何者かを知らされているわけだから、やはり完全に侍女で押し通すわけにもいかないのだろう。多分これは、私をランス伯爵の元に行かせる為の体のいい理由に違いない。

 一瞬戸惑ったけれど、兄の思惑を理解して「承りました」と頷いた。

 メリッサがほんの少し心配そうに顔を曇らせたので、少し笑いかけて安心させる。


(兄様が一緒に来ないってことは、たぶん私一人でも大丈夫ってことだろうし)


 あまりいい感情を抱かれてはいないだろうけど、それをあからさまに出すほど大人げなくはないはず。それに個人的に世話になっているのに、挨拶もなしというのは心苦しい。こういう機会を与えてもらえるのは助かる。

 だからといって顔を合わせてじっくり話したいかといえば、そういうわけでもないのだけど。とりあえず最低限の挨拶ぐらいはしておくべきである。


「クライブ。案内してやれ」


 言われるままに出ていこうと踵を返しかけたところで、兄がクライブに指示を出した。


(……まぁ、そうなるよね)


 よく考えたら、私はランス伯爵がどの部屋にいるのか知らない。

 案内してもらわなければわからない上に、私が一人で出歩くのは宜しくないというのもわかる。

 自分に言い聞かせながらも、内心苦い気持ちは湧き上がる。それを顔に出さないよう気をつけながらクライブに促されるまま部屋を出た。


「こちらです。付いてきてください」


 そう言い置いて先導するクライブの後ろに付いて、屋敷の中を歩いていく。

 今朝のことがあったからかクライブは無言だ。とはいえ、こちらを気にしているのか時折視線を感じる。極力見上げないようにしているから、視線は合わないけど。


(クライブとなにを話せっていうの)


 クライブもクライブで、屋敷の中で今朝の話をするのは憚られるのだろう。

 私としても、ここで「今朝は申し訳ありませんでした」と言われても困る。跡取りの若様に謝罪させている侍女なんて、どんな奇異の目で見られるかわからない。


(だいたい今はクライブどころじゃない)


 今考えるべきは、これから会う人のことだ。細く息を吸い込んで気を引き締める。

 ランス伯爵がどんな人か、私はよく知らない。

 ランス伯爵家は昔から王家に仕える騎士の家系だ。伯爵夫人が兄の乳母になるほどだから、陛下から信頼も厚い。伯爵位を継がれる前は近衛騎士だったと記憶している。

 昨夜は少しだけ伯爵夫妻の姿を見たけれど、接触した時間はほんの僅かだったし頭を下げていたから覚えていない。


(まともに話が通じる人ならいいのだけど)


 表情は変えていないつもりだけど、緊張で喉が渇く。意識して背筋を伸ばしていないと気持ちまで怯んでしまいそう。


「アルト様」

「なんですか」


 不意にクライブの足が止まった。唐突に降ってきた声に反射的に切り返してしまう。

 しかも見上げてしまい、心配そうにこちらを窺う緑の瞳と目が合って、ぎくりと胸が軋む。狼狽えた私が瞳に移り、思わず口をへの字に曲げた。

 そんな私を見下ろし、クライブがぎこちなくだが微かに笑いかけてくる。


「僕も付いていますから、そんなに緊張なさらなくても大丈夫です」


 いや、クライブが付いていてくれても、私にしてみれば前門の虎、後門の狼って感じなのだけど。

 けれど少し、ほんの少しだけ肩から力が抜けた。ちょっと不本意ではあるけれど。

 ゆっくりと静かに息を吐き出して、「ありがとう」と呟く。御礼を言うようなことではない気はするものの、少しとはいえ安心したのは事実。

 そんな私の気持ちが伝わったのか、クライブが安堵を滲ませた顔をする。

 言っとくけど、今朝のことまで許したわけじゃないから! あれはあれ、これはこれ!


「どうぞ。こちらです」


 どうやら辿り着いていたらしい部屋の扉を示されて、ノックをしてからクライブが来訪を告げた。すぐに扉越しにくぐもった声で返事を寄越されたのに応じてクライブの手が扉が開く。

 傍に避けたクライブに促されるまま、部屋の中へと一歩踏み出した。書斎らしき部屋の中にはたった一人しかいなかった。執務机の前からすぐに立ち上がった相手と目が合うと同時に、背後で静かに扉が閉められる音が響く。


(この人が、ランス伯爵。……クライブの父親)


 この屋敷の主人であるその人の身長は高かった。髪色はクライブとデリックと同じ焦げ茶色で、瞳はヘーゼル。顔立ちは、デリックの方が父親に似たのだろう。少し吊り目気味で、優しげな風貌のクライブと違って黙っているとちょっと強面。

 こちらに歩み寄るその人を前にして、少し迷う。

 侍女であることを貫いて、淑女の礼を取るべきか。

 それとも、アルフェンルートとして普通に挨拶をするべきか。

 一応メリッサからカーテシーは習ったものの、所詮は付け焼刃。やってみると意外に体幹が鍛えられるお辞儀をここで優雅に出来る気がしない。


「本来はこちらから出向くべきなのですが、こうしてお呼び立てする形となって申し訳ありません。アルフェンルート殿下」


 迷っている内に、私の前に歩み寄ってきたランス伯爵は目の前で床に片膝を着いた正式な礼をした。


「!」


 まさかそんな礼を取られるとは思わず、息を呑んで見下ろす。

 自分の王族という立場を考えれば、何もおかしいことではない。ただ第一皇子派であるこの人が躊躇いもなく私に対してそんなことをするとは思ってもいなかった。

 おかげで動揺と居心地の悪さを覚えて落ち着かない。


「どうぞ立ってください、ランス伯。むしろ最初にご挨拶すべきは私の方でした。こちらの無理を聞いて受け入れてくださったこと、感謝しています」


 促せば、ゆっくりとランス伯爵は立ち上がった。立ち上がるとクライブと同じくらい身長が高くて気圧されそう。

 それでも足を踏ん張って見上げれば、その人は少しだけ申し訳なさそうな顔をした。「どうぞ」とソファを勧めてくれる。

 出来れば長居はしたくないのだけど、お呼び立てして申し訳ないと言ったということは、この人は私に話があるのだろう。

 応じて腰掛ければ、クライブは父親相手でも護衛に徹する気なのか私の座るソファのすぐ脇に立つ。ランス伯爵は特にそれに何かを言うことなく向かいに座った。

 そこでまずは兄から預かった封筒を渡す。


「シークヴァルド殿下から預かって参りました」


 ランス伯爵は少し目を瞠り、御礼を言って受け取った。開いてすぐに読み終わると少し苦笑いをする。

 その反応に何が書いてあったのかと思ったのが伝わってしまったのか、「貴方を早くお返しするようにと」と教えてくれた。


「シークヴァルド殿下にこう仰られてはあまりお引き留めも出来ません。お呼び立てしたのは、貴方にお返しすべき物があったからです」

「私に返す物、ですか?」


 そう言われても、私はランス伯爵に何かを預けた記憶はない。そもそも会ったこともなかったはずだ。

 怪訝な顔をすれば、ランス伯爵はテーブルの上に置かれていた木箱の蓋を開いた。中から取り出した掌サイズの紙箱を私に差し出す。


「お返しする機会に恵まれず、随分と長い間お預かりしてしまいました。申し訳ありません」


 そう言いながら差し出された物は、確かに見覚えのある物だった。思わず目を瞠ってまじまじと見つめる。


(これ、パステルだ)


 受け取った小箱の蓋を念の為に開けてみれば、そこには予想通り色とりどりのパステルが並んでいた。

 折れている物や随分と減った色もあれば、あまり使われていない色もある。誰から贈られたものかまでは覚えていないけれど、それは確かに私の物だった。

 幼い頃に図書室で塗り絵に使っていた、パステル。


(どうしてこれを、ランス伯が……)


 湧いた疑問は、顔を上げてランス伯爵を見つめれば思ったよりもすぐに答えを見つけた。

 とても大きな、黒い人。

 話しかけられたことに驚いて飛び上がり、咄嗟に逃げようとした。けれど伸びてきた手はあっさりと私を捕まえて、「駄目でしょう」と叱った。そう、確か叱られたのだ。そんな記憶が脳裏を過る。

 つまりこの人は、私からパステルを取り上げた人。

 顔までは覚えていないけど、たぶんそうだ。兄は私に注意をさせた護衛は私と似た年頃の子供がいると言っていた。あの当時なら、この人が兄の護衛に付いていてもおかしくはない。

 そう考えると、納得できた。


「あの時の方は、ランス伯だったのですか」

「無礼を働きましたこと、お詫び申し上げます」

「いいえ。あれは叱られても仕方のないことです」


 懐かしい思い出の品を指先でなぞる。

 とっくに処分されていると思っていたので、まさか戻ってくるとは思わなかった。珍しい物ではあるけれど手が届かないほど高級品なわけでもなく、欲しければまた取り寄せられる程度の物だ。

 さほど劣化していく物ではないとはいえ、わざわざこうして大事に取っておくほどでもなかったのに。


「まだ持っていてくださったのですね」

「勝手に処分するわけにはいきません。それに……」

 

 ふと、ランス伯爵が言葉を濁した。

 パステルから視線を上げてランス伯爵を窺えば、ヘーゼルの瞳が意を決したように私を見据えた。


「私は貴方に、謝らなければいけませんでした」


 パステルを没収されたことなら、謝ってもらうほどではない。元を正せば私が悪いのだし。それにさっき既に謝罪はもらっている。

 しかし私を見つめるランス伯爵の顔は真剣そのもので、これに関する謝罪には思えなかった。

 パステルを机に置き、改めて背筋を伸ばして向き合う。

 謝ってもらわなければいけないようなことに心当たりはない。けれどきっと、このまま適当に濁しては彼の気が済まないのだろう。そんな気がした。


「私はあの当時、シークヴァルド殿下よりも世界を知っていました。だからこそ、私はシークヴァルド殿下よりもずっと、あの時の貴方の特異性が見過ごせるものではないとわかっていたのです」


 私を見据えて告げられた言葉は、想定していないものだった。驚きに乾いた息を呑む。


「陛下のお傍近くに仕えていた私は、王家にそういう方が生まれることがあると知っていました。あの時シークヴァルド殿下はしばらく様子を見ようと仰いました。ですが私は、間違いなく貴方がそうであるとわかっていたのです。シークヴァルド殿下より幼く、城から一度も出たことのない貴方がほぼ完璧に色を塗る……幼子に出来ることではありません。大人であっても、できる者は限られる」


 心臓が脈打つ速度を上げる。無意識に手に力が入り、掌に自分の爪が食い込む。

 私はそんな大層な存在じゃない。そう言いたかったけれど、語る迫力に気圧されて口を出せる雰囲気じゃなかった。

 それに、彼が言いたいことはわかる。わかってしまう。

 この世界にはTVなんてないし、動物図鑑に限らず本はほぼモノクロ。フルカラーに囲まれた現代日本の子供なら当たり前にわかっていることでも、圧倒的に情報が無いこの世界では幼子が色を知りえることなどありえないのだ。ましてや、籠の鳥だった私が。

 顔が強張っていくのがわかる。

 同じように、いや私以上にランス伯爵の顔は強張っている。顔は血の気が引いて青い。

 それはまるで、耐え切れない罪を前にしたかのように。


「しかし私は、シークヴァルド殿下に言われるままに、陛下にそれをお伝えしなかった。黙ったまま、ここまで来てしまった」


 罪を吐き出すように苦しげに眉根を寄せ、呻きにも似た声で訴えられた。


 ――この人はそうと知っていて、私の存在を隠匿したのだ。


 見ないフリをした。気づかないフリをした。

 もしも私の特異性が公になれば、兄の立場は脅かされる。そうなればきっと立場は逆転し、最悪、王位争いで国は乱れる。そして私が皇子だと思っているランス伯爵から見れば、圧倒的に私が優位。

 そうなれば兄は勿論、兄に仕える彼らの立場も間違いなく悪くなる。乳母である妻、乳兄弟である子どものクライブ、そしてまだ幼いデリック。

 彼には、国だけでなく他に守るべき大切なものがあった。国の為だけでなく、保身も働いたのだろう。

 だからきっと、目を背けた。口を噤んだ。


「私があのとき陛下にお伝えしていれば、今の貴方のお立場はもっと違うものとなっていたでしょう……っ」


 苦渋に満ちた顔で、血反吐でも混じりそうな声でランス伯爵がそう言った。


「……確かに、そうでしょうね」


 しばしの沈黙の後、思ったよりも冷静な声が自分の口から零れ落ちた。

 ランス伯爵の肩が痛みを受けたように揺れ、奥歯を噛み締めているのか強く唇が引き結ばれる。


(確かにあの当時に私が特異な存在だと知られていたら、話は変わっていた)


 記憶がなかったから、そう簡単に前の生の知識が引き出せたとは思えない。それに私の中にある知識は、今の私から見たら他愛もないばかり。

 それでももしかしたら、彼らの琴線に触れる何かがある可能性に賭けて、私は大切にされただろう。女だとわかっても、処罰されることはきっとなかった。

 どころか下手に騒いで大事にするわけにはいかず、周りの人間も許されていた可能性も高い。

 そんな、もしもの世界を考えずにはいられない。

 もしかしたら私がここに来ることをランス伯爵が了承したのは、ずっと抱え込んでいた罪を許されたかったからなのか。

 いや、正確には許される、というのとは違うか。

 きっと、私に糾弾されたかったのだろう。

 罪をつまびらかにして、私に責められて、そうして罰を受けたかったのだろう。わざわざ息子がいる前でそんな真似をしたのだから、相当の覚悟を持って私に打ち明けたのだと思う。

 視界の端ではクライブが目を瞠って息を止めている。呼吸すら忘れて父の姿に見入る。

 言葉を発さず、ただ責める言葉を待つランス伯爵は顔を上げない。そのつむじを見つめ、長く深く嘆息を吐きだした。


「ですが、それが良い結果になったとは限りません。むしろ悪い方に転がったのではないでしょうか? 王家に仕える近衛騎士であったランス伯が、保身だけでそうしたとは思えません」

「!」


 弾かれたように顔を上げるランス伯爵を見据える。

 許したわけじゃない。私は聖人君子じゃないから、当時の彼の判断にどうしようもないやるせなさも感じる。だけど私は、彼の罪を罰することも出来ない。


(だってこれは、罪とは言えない)


 あの当時の私に、それほどの価値があったとも思えない。今も、あるとは思えない。

 それに様子を見ようと、仕えるべき相手である兄が言った。彼の立場では逆らえない。

 だいたい安易に私の存在が特異であるとすれば、最悪の場合は国が乱れる。国の平穏を守るべき騎士である彼には、やはりそんな選択は出来ない。


(それに私が祭り上げられていたら、国はまともに立ち行かない)


 生憎と私は、国を盛り立てていけるほどの頭脳も度量も、なにより覚悟がない。

 自分が上に立つ人間じゃないことは百も承知。せいぜい私を利用したい貴族達の傀儡になるのがオチ。兄を踏み潰し、その犠牲の上に私が立ったとしても何も残らない。むしろ国は食い潰されていく。

 ならば、黙っていた彼が間違っていたわけじゃない。

 とはいえ、あくまで「間違っていたわけじゃない」だ。本当に正しかったかどうかはわからない。

 私は最悪を想定したけれど、逆に最良も考えられるのだ。もしかしたら、私の存在が公になっていた方が良かったことだってある。


「何が正しくて、何が間違っているのか。私にも正解はわかりません」


 あの時、私の存在が知らされていたら。実際には何の役には立たなくても、ほんの少しの特異性に縋れて、助かっていたら。

 そう考えないわけじゃない。

 だけど。


「もしもあの時ああしていたら、そう考えることはあるでしょう。だけど、もしもを考えてもどうしようもないのです」


 失敗したと思う度に、時間を巻き戻したいと祈った。今だって巻き戻せるものなら、出来ることならあの日に帰りたいと願ってしまう。

 あの日、私が殺された日に。

 寝坊なんてしなければ。ホームの最前列になんて並ばなければ。もっと周りに気をつけていれば。

 もしも。

 もしも。

 もしも。

 あの時、ああしていれば。こうしていれば。誰だって可能性を考える。そうならなかった未来を思い描く。

 もしもあの日に回避できていれば、私は今、ここにいなくて済んだのに。


(だけどたとえば50年後に老衰で死んだとしても、同じようにここに生まれたかもしれない)


 あの日に死ななかったとしても、次の日に交通事故に遭って死んでないとは限らないのだ。

 考え出したら、いくらだって可能性は広がっていく。それにやり直せたからと言って、良い方に転がるとは限らない。

 たとえば50年後に平和に老衰で死んでいたら、私はきっとここまで生き汚くはならなかった。

 きっともっとずっとはやくに、ここで生きることは諦めてしまっていた。


(それは、やだな)


 私は生を奪われることの怖さを知っているからこそ、まだ今もこうして立っていられる。

 きっとそれは、もしもの世界では手に入らなかった、なけなしの強さ。


「過去を反省することは大切でしょう。けれど囚われすぎてもいけない。私たちは、今に向き合わなければならない」


 それはたぶんランス伯爵にというよりも、自分自身に言い聞かせる言葉だった。

 ここで彼を責めたところで、今更現状は変わらないのだ。

 どれほど「もしも」に縋りたくても、振り切って現実を見据えなければならない。

 言っている傍から、私だって「もしも」を捨てきれないでいる。えらそうなことを言うくせに、過去の所業を全然反省できていない。兄も周りも選べず、未だ立ち竦んだまま動けないでいる。

 それでも結局、いま目の前にあるものにいつかは立ち向かわなければならない。


「……生きるのって、難しいですね」


 食い入るように私を見据えるランス伯爵を見つめ返し、ふ、と微かに笑ってしまった。

 笑ってでもいないと、泣いてしまいそうだったから。


「私に貴方を咎める資格はありません」

「アルフェンルート殿下……」

「それにランス伯が何も言わなかったからこそ、私は今こうして兄様と一緒にお邪魔させていただけているのです」


 この人が私がどういう存在かを告げていたら、私と兄の間には埋まらない深い溝が出来ていただろう。

 そう考えると黙っていたことは、悪いことばかりじゃない。今があるからこそ、出会えた人達もいるのだから。

 今度は自然と笑えた。






更新半年目、現在49万字となっていました。

お付き合いいただけて嬉しいです。ありがとうございます。


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