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92 思春期と言えば反抗期


 翌朝、いつも起きる時間より少し遅く寝間着姿のままで寝室の続き間である居間へと顔を出した。

 これまで私が遅く起きることも、寝間姿で侍女の前に出ることもなかった。そんな私のいつもと明らかに違う様子に、兄の元から出向している年配の侍女が珍しく動揺を見せた。


「食欲がないので昼食は結構です。夕食の時間まで、一人にさせてください」


 朝食のプレートを受け取り、か細い声で頼む。

 血色の悪い顔をしている私を見て、侍女は気遣わしげな表情で了承してくれた。昨日は寝室に引き籠っていたという申し送りに加え、兄から私が塞ぎ込んでいるかもしれないと聞いていたのか、余計なことは言わずに「ゆっくりおやすみくださいませ」と一礼される。

 これで誰かが寝室まで入ってくることはない。

 ラッセルとノーラはいつも通り午後から来る予定だけど、この様子なら彼女がうまく言っておいてくれるだろう。


(これで夕食までの時間稼ぎが出来た)


 まさか昨日の今日で私が脱走を図るとは、陛下も兄も考えないはず。

 寝室に戻り、受け取った朝食を食べられる範囲で急いで胃に納めた。食べ終えるとすぐに浴室に籠って着替える。

 袖を通した三本ライン入りの侍女服は、メリッサが城を去る際に私へ返却したもの。

 名残惜しくて手元に置いていたのが幸いした。小柄なメリッサの服なので僅かに丈が足らないけど、これぐらいは許容範囲。足元は動きやすさを重視して編み上げブーツを履く。

 次いで鏡の前に陣取ると、肩までの髪を左右の耳の下で結んだ。そのまま手早く化粧も施していく。

 前の私はオタクであることを隠して綺麗め系OLに擬態していたので、化粧で化けるのは得意な方。血色の悪い頬は自然な薔薇色に。印象に残りやすい瞳は、腫れぼったく見えるよう瞼の上に少し暗い色を乗せてぼかした。眉は少し太く、色を濃い目に入れる。

 最後に口元に小さく墨を乗せて、ホクロも書いた。

 前の私は口元にホクロがあり、いつも「口元にホクロがある人」という覚え方をされていた。それを逆手にとって、ホクロがあるから別人だと思わせる作戦だったりする。


(安直な変装だけど、結構印象は変わる)


 恰好を整え終えると、今度は前日から用意していた物に目を向けた。


(財布とお金。紹介状。地図に、変装用の化粧品。あと換金用の宝飾品)


 一つずつ確認して、飾り石の付いたループタイとカフスは服の両ポケットに目立たない程度の量を詰めた。

 しばらく生活費はこれを換金して補うつもりだけど、後ろめたいせいか自分の物なのに泥棒している気分。しかし先立つものが無ければ立ち行かないのだから、罪悪感は捻じ伏せて手持ちのお金も確認する。

 集金に使いそうなショルダー型の大きめの財布は、ランス領でおつかいした際の駄賃として兄から貰ったもの。こんな形で役に立つなんて。

 ありがとう、兄様。それと、ごめんなさい。

 申し訳なさを抱きつつも、脱走を取りやめる、という選択肢は頭にない。

 とりあえず絶対に必要な物は持った。私のおつかいとして街に降りる侍女を装うつもりなので、怪しまれないように持ち出せるものは最小限。

 そう思いながらも、まだ鞄に少し余裕がある。迷ったものの寝室に戻って、兄から渡された本を手に取った。文庫サイズなので、セインから貰った青い髪紐を結んで思い出代わりに詰めておく。


(あとは……)


 昨夜書いた手紙の脇に置いてあるペンに目を落とす。

 琥珀色のそれを躊躇いがちに手に取れば、ペンにしては少し重くて掌に馴染む。誕生日に贈ってもらったそれは、いつもは胸ポケットに入れていた。

 置いていこうかどうしようか、ずっと迷っていた。

 持っていかない方が未練は残らないと思うものの、置いていけばきっと後悔する。


(嵩張るものじゃないし。ペンとメモ帳は生活必需品だし。後で買うのも二度手間になるから)


 誰にともなく言い訳しながら、手放しきれなくてメモ帳と一緒にペンも入れて鞄の蓋を閉めた。


(これで全部かな)


 置き手紙には、ちゃんと事情は書いておいた。

 近親婚を繰り返すことにより遺伝子異常を起こす危険性。

 私が子を産むことが困難である可能性。

 ましてやそれが兄相手の場合のデメリット。

 それと、私は死んだことにしてくれていいとも書いた。私が失踪したことに気づかなかった周りを咎めないでほしいことも。

 自分の口から言う勇気はなくても、手紙としてならなんとか書けた。

 納得してくれるかどうかはわからないけど、こんな馬鹿なことをしでかすぐらいだから半分は信じてもらえるはず。

 でも家出したところで、すぐに追手に見つかって連れ戻される確率の方が高いとは思ってる。無駄なことをするだけでは、という気持ちもある。

 それに兄なら、ちゃんと向き合って話せばわかってもらえたとは思う。

 だけど自分の体に関する葛藤はまだ消化しきれていなくて、あまり考えたくないという気持ちが勝った。この問題を声に出して話し合う、という行為を考えるだけで苦痛で仕方がない。胸が軋んで息苦しくなる。


(産めないって決まったわけじゃないけど……結局、男にも女にもなれないのかもって思ったら、ちょっと)


 独りよがりで自分勝手だというのはわかっている。それでも逃げ出したい自分を止められないことに、深く嘆息が零れ落ちた。

 体に引きずられて反抗期なのかもしれない。


(……反抗期で済ませられることじゃないけど)


 迷ったところで、心は既に決まっている。一つ息を吸い込んで、最後に姿見で自分の姿を確認した。

 この姿の私を見て、一目で私と見抜ける人はいないと思う。

 それにちょうど後宮内の侍女は入れ替わりをしている最中。今ならば見慣れない顔も、新しく入ってきたばかりの私付きの侍女だと思ってもらえるはず。

 とはいえ、昔から私の部屋周りを守っている衛兵に見つかればさすがにバレる。そのため内部を通るわけにはいかないので、テーブルクロスに見せかけたショールを手に堂々と寝室からテラスへと出た。

 後宮の中庭は景観を損なわないよう、衛兵は最小限。ここに入れるまでの場所を重点的に警護しているので、基本的に人気はない。

 さりげなく周囲に視線を走らせながら中庭へと繋がる階段を降りれば、私がたまにお茶をする時に使っているテーブルセットが置いてある。万が一遠目に出てくる姿を見られたとしても、侍女がテーブルをセットをするために降りたように見えたはず。

 下に降りると周りは背丈ほどの木々に囲まれているので、私の姿を隠してくれる。念の為にしばらく息を潜めてみたけど、誰かが気づいて近づいてくる気配もなかった。


(よし、行ける!)


 自分に活を入れて、背筋を伸ばすと本宮を目指して歩き出した。

 呪文のように「私は侍女」と脳内で唱えながら、中庭を突っ切る。

 いつも中庭から医務室へと通っていたけれど、訓練場まで出るのはさすがに危険なので途中で道は変えた。そして当然ながら後宮区域を抜ける場所には、衛兵がいる。

 近づくにつれ、緊張で早鐘を打つ心音が指先にまで響いてきた。それを気取らせないよう、顔を上げたまま突き進む。こういう時は怯んではいけない。コソコソする方が怪しまれる。

 悪びれず堂々と行くべし!

 そんな心意気で突き進んだからか、止められることなく無事に通り抜けた。どうやら入ることは難しいけど、出ていく分には緩いらしい。もしくは三本ラインの侍女服が通行証の代わりになっていたのか。

 とはいえ、まだ城内である。

 気を引き締めて、以前セインと通った城内に併設されている図書館へと続く道を歩いていく。

 その間にも侍女や衛兵とすれ違って、ひやりとした。しかし城門が開いたばかりのこの時間、夜勤との交代時間でもあるので皆、慌ただしく過ぎていく。念の為にショールで袖口のラインは隠していたけど、必要ないぐらい誰も不審な目を向けてこない。


(思ったより簡単に出られそう?)


 期待が高まって少し早足になる。

 荘厳な白い石造りの建物である王立図書館の前を通り過ぎ、一般にも開放されている門へと進んだ。門の両脇には臙脂色の制服を纏った衛兵が立っているけど、その視線は外に向いている。

 やはり入ってくる人は警戒するけど、出ていく分には緩そう。

 とはいえ、心臓が緊張でバクバクとうるさかった。強張りそうな顔を必死に取り繕い、出来るだけ平然とした顔で出ていく人に便乗する形で門を通り抜ける。


(出られた……!)


 思わず心の中で高らかに拳を振り上げてしまった。

 でも安心するには早い。まずは辻馬車に乗ろうと意気込んだところで、早々に困ったことに遭遇した。

 乗り場と思わしき場所に、馬車がない。

 時刻表を覗き込んだら、驚くことに王都なのに午前中は2本しかなかった。しかも先程出たばかり。数分置きに来る電車の感覚でいたので、カルチャーショックを受ける。

 いや、ショックを受けている場合じゃなかった。こんなところで立っていたら、いつバレるかわからない。

 どうする? 歩く? 歩くとなると結構な距離がある。


「お嬢さん、街までおつかいかい?」

「!?」


 その時、急に野太い声を掛けられて肩が跳ねた。 

 息を詰めて振り返れば、そこには見たことのない男が馬を引いて立っていた。

 頭皮は輝いているのに顔半分は立派な白髭を蓄えた初老の男は、どっしりとした体躯に深緑の制服を纏っていた。深緑の制服は城下街を守る警邏隊である。襟元に金の徽章が付いているから隊長格に当たる。

 そんな人が、なぜ声を掛けてきたの。

 心臓がバックンバックンと飛び跳ねて口から出そう。


「報告を終えて街まで戻るところだから、よければ乗せていってさしあげよう。乗り心地はいまいちかもしれんが、次の馬車が来るのを待つより早い」


 動揺している私を見て警戒されていると思ったのか、安心させるように目を細めて笑む様は好々爺。丁寧に説明付きで申し出られて、目を丸くした。


(そういえば前に、騎士が侍女のおつかいで馬を出すこともあるって聞いたような)


 職場恋愛というか、そういうナンパもあるんだろうな、と思った覚えがある。

 でも相手はほぼお爺さんに近い。これは下心ではなく、純粋に世間慣れしてなさそうな娘が困っているから手を差し伸べてくれた感じがする。それに基本的に平民で構成されている警邏隊なら、私の姿を近くで見たことはない。

 すなわち、正体がバレる危険性は低い。


「ありがとうございます。ぜひお願いします」


 渡りに船とばかりに、一も二もなく笑顔で頷いた。




 手を借りて馬に乗せてもらい、王都で流行っている菓子屋を教えてもらっている内に城下街の入り口まで着いてしまった。

 辿り着いた城下街の入り口には警邏隊の詰所がある。馬から降りると「詰所に声を掛けてくれれば、誰かしらが城まで送ろう」と言ってもらえる。


(帰る予定はないのだけど)


 苦いものが胸に込み上げる。でも好意は有り難かったので、笑顔で御礼を告げて別れた。

 平民のはずだけど、さすが隊長格。紳士的で親切な人だった。

 ちょっとメル爺を思い出してしまった。

 隊長格なら服装から私付きの侍女だとわかっていたと思うけど、何も聞かれなかった。貴族間では私の話は既に誰もが知っているけど、まだ噂は平民まで回っていないのか。でも隊長格なら耳に入っていないとは思えないので、気を遣ってくれただけか。

 わざわざお土産に良さげな菓子屋を教えてくれたということは、後者かもしれない。

 優しい気遣いのおかげで、緊張で強張っていた心が少しだけ解れていく。

 僅かに軽くなった足で、目的地である城下街へと踏み込んだ。

 城へと繋がる道はメインストリートになるので、人通りはとても多い。流れに乗ってしまえば、人波の一部と化してしまう。誰も私に目を向けることもない。

 これなら十分、紛れ込んで生きていけそう。

 実のところ、失踪するとは言っても王都を出る気はなかった。木を隠すなら森の中というように、人が雑多にひしめく王都で暮らすつもりでいる。

 流れるままに歩いていけば、前にも来たことがある広場へと辿り着いた。

 この辺りまで来ると、所狭しと店がひしめき合って並んでいた。街の中には老若男女、服装も様々な人が行き交っている。行商人や旅人も多いのか、荷物を抱えた人は珍しくない。おかげで私の姿も溶け込む。


(これなら予定通りいけそう)


 まず最初に、目についた鞄屋に入った。

 そこで大きめの鞄を買って店を出る。広場の影でカチューシャとエプロンを手早く外すと、鞄に突っ込んだ。持ってきたショールを肩に羽織れば、濃紺のシンプルなドレスに身を包んだお嬢さんに見える。

 とはいえ、見る人が見れば侍女服だとわかる。あくまで応急処置。

 装いを改めたところで、今度は若い町娘が入っていった服屋に目を向けた。

 たぶんそこには町娘が着るような服が置いてあり、値段もお手頃のはず。そう目星をつけて、入ってすぐに店内を見渡した。目が合った店員にトルソーが着ている服一式を指差す。


「これください。とても気に入ったので、着て帰っても良いですか?」


 一式買いしたからか店員も快く「もちろん! こちらでどうぞ」と更衣室を提供してくれる。

 秋向けのブラウンのツーピースは町娘の普段着というより、少しおでかけ仕様。先程買った鞄と合わせると、いかにも王都までお上りに来ました感が出た。着ていた侍女服は鞄に詰め込む。

 我ながら手慣れていることに感心してしまった。昔取得した経験値は消えてないっぽい。


(前はイベント遠征する時、よくこうしてたっけ)


 思い返すと懐かしい。

 スーツケースが邪魔になるので、よく現地に前日入りした先で服を買っていた。その日に着ていた服は泊まったホテルから自宅へ送り、買った服をイベントに着ていく。身軽な状態でイベントに参戦し、空いた両手で戦利品を抱えて帰るのが鉄板コース。

 仕事で泊まりの出張に行くこともたまにあったから、一人で動くのに慣れていたことも今に活かされていると思う。

 かつての経験がこんなところで役に立つなんて……アクティブなオタクでよかった。

 それと、これまで何百回も城を脱走する妄想をしてきたことも、かなり役に立ってる。城下街に来るのも3回目というのが良かった。初めてならきっと慄いて動けなくなっていた。

 ふと一緒に来た誰かさんの顔が脳裏を過ったけど、胸の奥に捻じ伏せて会計を済ませる。

 今は思い出に浸るより、まずは現実を見なければ。そろそろ財布の中身が心許なくなってきた。


「この辺りに質屋ってありますか?」

「広場を抜けた先の右手にありますよ。赤い看板があるので、すぐわかると思います」


 店員に御礼を言って、買った帽子を被って店を出る。

 教えてもらった通りに歩いていけば、赤い看板がすぐに目に入った。メリッサも私に逃げようと言った時、宝石を換金するつもりでいたようだったことから考えても、旅人が宝飾品を換金するのは珍しくないらしい。

 カラン、とドアベルを鳴らしながら店に入る。すぐに中から恰幅のいいおじさんが笑顔で出てきた。


「いらっしゃい。買い取りかい?」

「これの換金をお願いできますか?」


 侍女服から財布に移動させておいたループタイを一つ取り出し、台の上に置いた。


「どれどれ……。お嬢さん、これはどこで手に入れたんだい?」


 それをしばらく片眼鏡で眺め眇めつしていた店主が、営業スマイルで聞いてくる。朗らかに見えるけど、目が探るような色を乗せていることに気づいてしまった。

 出来るだけ小さい石を選んだつもりだけど、高い石だった!?

 宝石なんて全然興味なかったから、価値がわからない。こんな小娘が持っていたらおかしい代物だったのかも。


「育ててくれたおじさんの形見分けで貰った物なの。困った時に使いなさいって言われてたけど、お金にならないの?」


 念の為に用意していた言い訳を口にして、価値を知らない小娘を装って小首を傾げて見せる。


「いやいや、そんなことはないよ。ずいぶん立派な物さ。そうだね……これなら、金貨2枚ってところかな」

「金貨2枚!」


 20万円ってところである。素直に驚いて、歓声を上げた。

 そんな私を見て、店主は「おまけして、銀貨2枚上乗せしとくよ」と気のいいセリフを口にする。

 でもたぶん、実際にはそれ以上の価値があると思う。こっちが何も知らないと思って、足元見ていそう。だって笑い方がちょっといやらしい。小娘相手だから油断しているのか、得をした、と滲み出ている。

 人の悪意には、私は敏感だ。

 でもここは食い下がったりはしない。それどころか、上乗せと言われた銀貨2枚は店主へとそっと返して眉尻を下げた。


「おまけはいいから、私でも暮らせそうなお家を紹介してくださらない?」

「お嬢さんが住む家をかい? 一人で暮らす気なのかい?」

「本当はお城で働いているお嬢様を頼るつもりだったの。でも私と行き違いで侍女を辞めてしまっていたみたいで……行くところが無くて困っているの。ずっと宿暮らしをするわけにもいかないし……帰るお家も、ないから」


 弱々しい声で心底困った、と訴えて肩を落とす。

 実際、とても困っているので演技というわけでもないので真に迫っている。

 質屋ならいろんな人が来るだろうから、それなりに信用できる伝手はあるはず。ましてや先程私の足元を見たわけだから、不憫な娘を騙したことに多少の罪悪感もあると思う。

 でもここで娼館に連れて行かれても困るので、「紹介状はあるのよ」と財布から封書を取り出した。


「マッカロー伯爵夫人の紹介状があれば、身元がわかって安心でしょう?」


 笑顔で差し出せば、店主がぎくりと頬を強張らせた。

 貴族の紹介状を持つ娘ならば、下手なことは出来ない。伯爵夫人の紹介状までもらえるとなれば、それなりの血筋の庶子だとでも思われそう。身の程知らずな高価な物を持っていたことにも説明がつく。

 もしこれで先程の釣り合わない対価を突かれたら、困るのは彼だ。

 

(偽造文書だけど……)


 私の名前で紹介状を作れば絶大な力を発揮するだろうけど、悪目立ちしてしまう。だから昨日、乳母の名前を借りて作った偽造文書だったりする。

 もし問い合わせをされても、乳母ならば即座に公にはしないはず。

 それに事態を知れば、メリッサが般若と化して乗り込んできそう……。

 でも多分、問い合わせはされない。偽造文書は見つかれば厳罰に処されるけど、平民が貴族に「これは本物ですか?」と疑いを持つこと自体が不敬である。

 まじまじと紹介状を見ていた店主は、少々引き攣りながらも顔を笑ませた。とびっきりの愛想笑いだ。


「勿論、身元がしっかりしているお嬢さんにならいくらでも紹介してあげるよ!」

「ありがとう。でも、あまり高いところはやめてね。お金は大事よ」


 しっかりと釘を刺しておく。

 これで換金した金額でしばらくは問題なく暮らしていける場所を紹介してもらえるはず。


 かくして、私は住む場所も無事に確保したのだった。



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