ヴィオラ見守り日記
いつかの活動報告SSより♪
今日予定していた王太子殿下の視察が急にポシャった。王太子殿下が急に熱を出したからというのが理由なんだが。ふむ、これからどうしようか。今日、まるっと一日外出予定だったから、昨日のうちにできる仕事は済ませてあるし……と考えていたら。
「もう今日は帰っちゃっていいんじゃないですか〜? 特に急ぎの案件もないですし」
ユリダリスが書類を整理しながら言ってきた。
「そうそう! いつも忙しく働いてますからね、副隊長は」
「たまにはこういうイレギュラーもいいのでは?」
「俺らもゆっくりしたいですし……あ、しまった」
周りにいた部下たちも僕に帰宅を勧めてくる。おいそこ! 最後しっかり聞こえたぞ。……まあ、いい。
「では、今日は休みにするか」
「ここで開店休業してるより、家にいる方が休まりますからね。お疲れさまでした」
なんか追い出された感があるが、気にするまい。しかし、出仕早々に帰宅って。まったくなにしに来たんだか。
ユリダリスたちに見送られ、僕は家に帰ることにした。
まだ昼にもなっていない、帰宅するには早すぎる時間。今頃ヴィオラは何をしてるかな?
そういえば先日たまたま早く家に帰った日に、ヴィオラがお仕着せを着て窓拭きやってるのを見つけたんだったな。今日もやってそうな気がするけど、どうだろう。
ん? ヴィオラをこっそり観察する……。これ、結構面白そうだな。
どうせ今日は暇なんだし、僕のいない時間のヴィオラを観察してみるか。そう考えた僕は、こっそり屋敷の裏門へとまわった。
「だ、旦那様!?」
「しっ! 馬をよろしく」
「? かしこまりました」
こんな時間こんな場所に姿を表した僕に驚く門衛に騒ぐなと制す。そして馬を託して、静かに屋敷に潜入した。今の時間、ヴィオラはどこにいるんだろう? まずはヴィオラを見つけねば。
天気がいいから庭で花をいじっているかもしれないな。じゃあ、べリスのところか? しかしヴィオラも、あんな無口な強面とよく仲良くなったもんだ……と、そんな感想は置いといて。温室をそっと覗く。作業しているのは、どうやらベリス一人のようだ。
ベリスのところにはいない、か。では、サロン? 次にいそうなところということでサロンに回ってみたが、そこにもロータスしかいなかった。
ヴィオラはどこだ?
厨房・図書室など、屋敷中をコソコソと僕が探し回っていると、本館の端、洗濯などをする部屋から女性陣の楽しげな笑い声が聞こえてきた。たぶん使用人だけだろうけど、とりあえず覗いてみようか。
そっと近付き中の様子を見てみると、ちょうど使用人たちが洗い終えたシーツの水切りをし、広げているところだった。
「やっぱり使用に………んんん?」
何気に見落としそうになったけど、よく見たらシーツの角を持っている一人は、お仕着せを着たヴィオラじゃないか! 馴染みすぎてて使用人かと思ったよ……じゃなくて。ヴィー、こんなところまで進出してたのか。
驚きつつも、せっかく見つけたヴィオラ。中の様子を窺ってみる。
「「「「「せーの!」」」」」
息のあった掛け声とともに、シーツを上下にはためかせる。その連携の見事さから、ヴィオラがどれだけここに馴染んでるのかがよ〜くわかる。
「しっかりバフバフさせたから、これでふわふわ間違いなし! あとはお日様にしっかり当てて乾かしたら、サーシス様もお気に召す触り心地ですよ。気持ち良く眠って疲れをとっていただかなきゃ」
ヴィオラの弾んだ声。……なんてかわいいことを言ってくれるんだ。ヴィー!!
こっそり隠れながら、感動に打ち震えてしまう。今すぐ出て行ってぎゅっと抱きしめたい……っ! いやいや、我慢我慢。
「うふふふふ! そうですね〜」
「旦那様もきっとお気に召しますわよ」
使用人たちと楽しそうに会話しながら、ヴィオラたちは外に洗濯物を干しに行った。
昼ご飯を使用人用ダイニングで済ませたあと、ヴィオラはミモザとステラリアを従えて庭園の方に出て行った。あっちは、ヴィオラが自分で手入れしている庭のある方向だ。ステラリアとミモザが何か道具の入った袋を持っているように見えたから、今から庭の手入れをするんだろう。そう思い、ヴィオラの庭に先回りすれば、案の定すぐに姿を現した。
ヴィオラが雑草を抜いたりしている横で、ミモザがお茶の用意をしているから、しばらくここにいるつもりなんだろう。そういえば僕もお腹がすいてきたな。すっかりヴィオラの観察に夢中になって、昼ごはんを忘れてた。ヴィオラがゆっくりしているこの隙に、カルタムに軽食を作らせよう。僕はヴィオラの庭を離れた。
「だ、旦那様?!」
「しぃっ! 今すぐ何か簡単に食べられるものを」
「ただいま」
「それと、僕が屋敷にいることをヴィオラには言わないように」
「? かしこまりました」
突然の僕の登場に驚く厨房使用人たちに帰宅していることを口止めしながら、急いで用意されたサンドイッチを腹に収める。
「じゃ」
「は、はい」
キョトンとしたままの使用人たちを置いて、僕はまたヴィオラの庭に向かった。
ヴィオラたちもちょうどお茶が終わったところのようで、片付けをし、移動するところだった。
また後をつけていくと、今度は厨房に入っていった。危なかった、僕がもたもたしていたら鉢合わせていたところだった。僕は厨房の外に身を潜めて、ヴィオラの様子を窺った。
「今日の晩餐は何?」
「美味し〜いお肉が入っておりますので、ステーキにしようかと思ってま〜す」
「わぁ! いいですね〜! ステーキはサーシス様もお好きだから。そうねぇ、ソースはサーシス様のお好きな……」
「はいはい、旦那様のお好みのソースですね〜わかってますよ〜。マダ〜ムはいつもそう言うから」
「だって〜。旦那様はお仕事してきてお疲れなんですよ? 美味しいものを食べて癒されてほしいじゃないですか〜」
「マダ〜ムは旦那様想いですねぇ〜」
カルタムがいつも以上にニヤニヤしながらヴィオラを冷やかしてるけど。
なにこれ。うちの奥さんめっちゃかわいいんですけど!?
カルタムの言葉にテレテレと笑ってるヴィオラが、またこれかわいいのなんの。やばい。やっぱりギュとしたくなった。……くっ、我慢だ僕。
それからもヴィオラが厨房の端っこでちまちまと何かを作ったりしていると。
「奥様、そろそろ旦那様の帰ってこられる時間でございますよ」
ロータスが呼びに来た。
「あら、もうそんな時間? 急がなきゃ」
「後はこっちでやっておきますよ〜」
カルタムたちに後を任せて、お仕着せから普段着に着替えに急ぐヴィオラ。おっと、もうそんな時間か。僕もそろそろ帰らなきゃね。
僕もまたこっそり裏門に向かった。
そして何食わぬ顔で正門に回り、さも今帰ってきたかのようにヴィオラをハグする。今日はハグだけじゃ止められなくて、その柔らかな唇にキスも落とすけど。
「ただいま。ヴィーは今日も楽しそうだったね」
「?? 楽しかったデスヨ??」
ありがとうございました(*^ー^*)




