trick or treat!
活動報告SSより。本編196話目の後くらいのお話です♪
「ただいま……って、なんで出迎えがロータスだけなんだ? ヴィーは? レティは?」
「お元気でおられますよ」
「そうじゃなくて。出迎えはって聞いてるんだろうが」
「諸事情により、お屋敷の中でお待ちです」
「諸事情?」
「はい。行けばわかります」
「??」
いつもの出迎えがロータスだけだったのでおかしいなと思ったんだけど、言われるままに屋敷の中へ入ることにした。
「いったいなんだっていうんだろう」
「さあ?」
一緒に帰ってきていたユリダリスとともにエントランスホールに入ると、
「とりっく・おあ・とりーちょ!」
と言って白いシーツを被った何か——どう見てもバイオレット——が、柱の影から飛び出してきた。
てゆーか、『とりっく・おあ・とりーちょ』ってなんだ??
飛び出してきたシーツの塊を抱き止めると、
「お菓子くれなきゃいたじゅらするじょ〜」
顔のところだけシーツを取り払ったバイオレットが、そう言ってニコッと笑っている。
「レティ、これはなに?」
「レティはおばけなんでしゅよ! 今日ははろうぃんだから、おばけにへんしんしてお菓子をおねだりしゅるんでしゅ」
「??」
バイオレットが一生懸命説明してるけど、ごめん、全然わからない。はろうぃん? なにそれ初耳。
「そっか〜。レティ様はお菓子が欲しいお化けなんですね」
「うんっ!」
「じゃあ、はい、これ」
「わぁ! ありがとう、ユリーおじちゃま!」
僕がぽかんとしている間に、ユリダリスは自分のポケットを探り、飴玉を出してバイオレットに渡していた。
天使の微笑みを向けられているお前が羨ましい。……じゃなくて。
「お前、いつの間にそんなもん仕込んでた」
「いやぁ? たまたま帰り際にカモミールにもらったんですよ」
「運のいいやつめ」
チッと舌打ちしていると、キラキラ輝く純粋な瞳とぶつかって、バイオレットが見ているということを思い出す。慌ててこほんと咳払いしてごまかす。
「それで、おとうしゃまからのおかしは?」
「ごめん、お父様は持ってないや」
「ではいたじゅらでしゅね! とうっ!」
「ぐっ!?」
バイオレットはあろうことか、僕のスネに蹴りを入れてきた。
いってぇぇぇ! 油断してた。
これはイタズラの範疇じゃないよね!?
ヴィオラの姿はまだ見えないので、とりあえずバイオレットを抱き上げてサロンに向かった。
「サロンにいればヴィオラも来るだろう——」
僕がサロンの扉を開けた時。
「おかえりなさいませサーシス様!」
という声が聞こえた。ヴィオラ、どこ行ってたんだ……じゃねぇな。
「——ヴィオラじゃないな」
「申し訳ございません。奥様ではありません」
そう言ってぺこりと頭を下げているのは侍女の一人。ご丁寧にヴィオラの服を着、似た感じに髪を結っている。
が、残念だな! 僕には区別がつくんだよ!
これもバイオレットの言うところの〝はろうぃん〟なんだろうか??
とりあえずソファに座ろうということになって、僕が腰を下ろすと、
「トリック・オア・トリート! お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞ〜」
ソファの後ろから声が聞こえてきた。声はヴィオラだ。
声の方を覗き込むと、目の前にはなぜか黒い物体が出てきた。——ああ、いつもの目障りなクマか。
ヴィオラが木彫りのクマを手にソファの後ろに隠れていたのだ。
「ただいま、ヴィー」
「あ、おかえりなさいませ!」
「で、レティといい君といい使用人といい、これは一体なんだ?」
「はろうぃんですよ〜。アンバー王国のイベントだそうで(※違います)、お化けの格好をして『トリック・オア・トリート』って言ったらお菓子がもらえるらしいんです」
「へぇ。そういえば今日、〝アンバー王国のお客様〟とお茶するって言ってたね」
「はいっ!」
そうか、カレンの入れ知恵か(※これも違います)。
「で、サーシス様? お菓子は?」
「レティはもらいました〜!」
「あらレティ、よかったわね」
「はい!」
「そ・れ・で、私の分は?」
「残念ながら僕は今日お菓子を持ってないんだよ。レティのそれも、ユリダリスがくれたやつだ」
「そうなんですね! じゃあ、いたずらですね〜」
「どんなイタズラがくるんだろう?」
「では——クマさんのキス攻撃〜!!」
「うわぁ!? ごめんごめん勘弁して!?」
ヴィオラが、手にしていたクマの置物を僕にぐいぐい押し付けてくる。クマのキスなんてて全然うれしくないっつの!
側ではユリダリスが爆笑してるし!
来年の今日は、念のためお菓子を買って帰ろう。
*** オマケ・ユリーさんとリアさんは……? ***
「トリック・オア・トリート」
「ええ〜。リアもかい」
「奥様に〝言え〟って言われたんですもの」
「奥様なら言いそうだ」
上司たちと別れて、俺は厨房にある勝手口から使用人用ダイニングに入って適当な椅子に腰掛けた。
公爵家の敷地内にある家に帰っても誰もいないので、いつもここでリアと夕飯を食べて、彼女の仕事終わりを待ってから帰ることになっている。
「で、私にはお菓子はないんですか?」
「残念! さっきレティ様にあげてしまったよ」
「あら、それは残念。じゃあいたずらですわね」
ニコニコしながら指をぼきぼき鳴らすステラリア。あれ? さっきの上司夫妻となんか様子が違うんですけど?
「どんないたずらされるんだろう?」
「そうですわね〜。デコピンでしょうか」
「オッケー」
俺は黙っておでこを出したんだけど。
びっちぃぃ!!
「いってぇぇぇ!!」
「クリティカルヒ〜ット!」
うちの奥さんハイスペック使用人だということを忘れてた。額に穴が開いたんじゃないか、これ。
「来年はお菓子を用意しておきます」
「期待してますね」
ありがとうございました(*^ー^*)




