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王太子様と公爵家のご令嬢の邂逅 〜バイオレットと王太子様〜

リクエスト企画SSより

 ある日、フルール王国の王太子様がちょっとお勉強にうんざりして、こっそり王宮を抜け出して庭園で息抜きをしていました。

 あまり王宮の人間がこない場所なのでのびのび寛いでいると、ガサガサっと草葉を揺らす音が聞こえました。

 誰かに見つかったかなと王太子様が構えていると、生垣の間からひょっこり顔を出したのは、まだ幼さの抜けない、とてもかわいらしい女の子でした。

 王宮にはそんな幼い子供はいませんので、誰かの子供なのでしょう。


「どうしたの?」

「ここはどこ?」

「ここは庭園の隅っこだけど、君はどうしたのかな?」

「お父さまとはぐれちゃったの。おにいちゃまは何をしているの?」

「ん~、僕? 僕はちょっと休憩」

「ふうん」


 コテンと首を傾げる姿が誰かに似ています。

 かわいらしい仕草に目が離せなくなった王太子様は、まじまじと女の子を観察します。


 濃茶の髪はゆるくウェーブし、光を反射しています。

 その愛らしい濃茶の瞳は、無邪気な好奇心で輝いています。

 色は違えどどことなく見知った面影……。


「!!」


 これは……ヴィオラ?!


 小さい頃から大好きなヴィオラの面影を、ここにいる少女に見出した王太子様。


「……ヴィオラ?」


 思わず声に出してしまいました。


「ヴィオラ? それはわたしのお母さまのおなまえとおなじだけど?」


 キョトンとしながら答える女の子です。


「似てると思った……!」

「おにいちゃまはここでおやすみしているの? 何かおいそがしいんですか? わたしのお父さまもおいそがしいけど、お母さまがいればつかれがどこかへいくんですって。おにいちゃまもそうなの?」

「……複雑な気分だなぁ」


 女の子の口から公爵夫妻の仲睦まじさを聞かされて苦笑いになる王太子様でしたが、


「今はわたししかいないから、おにいちゃま、がまんしてね」


 そう言うと、女の子は王太子様のそばに寄ってくると、おもむろに頭をよしよしと撫ではじめました。王太子様はその優しさにキュンとしてしまいました。


「……君の名前は?」

「わたしのなまえ? わたしは……」


 女の子が名前を言おうとしたその時です。


「ここにいたんだね! 探したよ、大丈夫だったかい?」


 庭園の向こうから近づいてくる男の人が現れました。


「フィサリス公爵っ!」

「お父さま~!」


 王太子様と女の子の声が重なりました。

 フィサリス公爵はその長い足であっという間に近づいてくると、ひょいっと女の子を抱き上げて、こつんとおでこを合わせながらホッとしたように微笑んでいます。


「ちょっと目を離したすきにいなくなってしまうから。お父様はずいぶん心配したよ」

「ごめんなさぁい。きれいなお花が見えたから、もっと近くで見たかったの~」


 女の子もフィサリス公爵にぎゅっと抱き付いています。


「ここで何をしていたのかな? 知らない人がいたら、近づいちゃいけないといつも言ってるだろう? それに、怪しい人に声を掛けられたら、大きな声をあげなさいと教えたよね?」

「はあい」


 公爵はチラッと王太子様を見てから、女の子に言い聞かせました。

 

「いやいや、まてい! 僕は怪しい人じゃないっ!!」


 さんざんな言われ様に王太子様が口を尖らせツッコむも、


「おや、王太子殿下。ご機嫌麗しゅう」


 さも今初めて気付いたような顔をして、公爵が王太子様にごあいさつしました。


「ずっといたわ! しかもさっき『怪しい人』って言った時、僕をチラ見しただろうが!!」

「それは失礼いたしました」


 ツッコむ王太子様と、爽やかに微笑む公爵。


「――それは公爵の娘か?」


 王太子様が女の子を指して公爵に尋ねれば、


「…………知人の娘でございます、訳あって預かっている」


 しれっと視線を外して答える公爵。


「うそつけ~っっっ!!! たった今『お父様』って言ってただろうが!!」

「そうでございましたか?」

「それにヴィオラそっくりじゃないか!!」

「チッ」

「チッって言った?! 今チッて言ったよな?」

「はあ? 何をおっしゃっているのかよくわかりませんが? では私たちはこれにて失礼したします」

「ぅおおおおいっ!」

「さようなら、おにいちゃま!」

「あ、うん、さようなら! って、おいっ!」


 すっとぼけて、その場を後にする公爵。公爵に抱っこされたまま、ニコニコしなら王太子様に手を振る女の子。その笑顔に釣られてニコッと笑ってしまった王太子様でした。



 それからン年後。王太子様からお嬢様に『妃になれ』と打診がきて、公爵様と王太子様で「嫁にくれ」「嫁にやらん」と攻防するのを「あらあら、まあまあ」と見守っている公爵夫人と張本人のお嬢様がいるのでした。



ありがとうございました(*^ー^*)


こちらは『未来』の話なので、ひょっとしたら変わる可能性もあります。

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