Be with you 〜夢オチシリーズ4〜
リクエスト小話より♪
裏状況説明100話目の続き。男女逆転したヴィオラと旦那様。二人の関係は……?
私はフィサリス公爵家の一人娘サーシア。
やんごとない事情……いいえ、かなり自己中心的な事情でユーフォルビア伯爵家のヴィオルと政略結婚したのはいいけど、私のわがままのせいでヴィオルに愛想を尽かされ離縁の危機に瀕してしまった。
ヴィオルの良さに気付き始めた矢先の出来事。青天の霹靂。
後ろ手に手を振りながら屋敷を出て行こうとするヴィオルに縋り付いて、なんとか出て行くのを食い止めたわ。
「あんなおだやかで優しい人に愛想尽かされるなんて、ほんとうちのバカお嬢様は……」
「わかってるってば!」
侍女長のロータシエに呆れのため息をつかれるけど、そんなの自分がよ〜くわかってるわよ。ん? 今『バカお嬢様』って言った? この暴言侍女め! でも間違ってないから言い返せない。
ヴィオルがプルケリマ侯爵家のユリーと一緒に夜会に参加すると聞いてイライラした意味がようやくわかった。
それは嫉妬。
私の手じゃなくユリーの手をとることがどうしても許せなかったの。
じゃあなぜ許せないか。答えはもうわかってるわよ。
私がヴィオルに惹かれているから。
ヴィオルの、私に対する好感度は地を這ってるとは思うけど、去って行こうとするのを手をこまねいて見てるのだけは絶対に嫌。
足掻けるだけ足掻いて、ヴィオルに私を見てほしいと思う。
「ダリアーノ! ヴィオルから預かってるもの出しなさい!」
「なんでございましょうか?」
「しらばっくれても無駄よ。離縁届よ り え ん と ど け ! ヴィオルから預かってるでしょ」
「ええ、これですね」
「貸しなさい!」
ダリアーノの胸ポケットから出された白い封筒を、私はさっと奪い取った。
「あっ! サーシア様!」
まず最初に、執事のダリアーノに預けたという離縁届は、ダッシュでビリビリに破り捨てた。こんな物騒なもの(?)、置いとくわけにいかないわ!
そして次に、別棟の彼氏——カロンとお別れした。
これが一番大事なことよね。
「カロン、ごめん、別れてほしいの」
別棟でくつろぐカロンに告げたわ。
いきなりの別れ話。カロンはどう反応するだろう……?
ドキドキしながらカロンの反応を見守っていると、
「そうか、わかった」
え? まさかのたった一言?
「いいの?」
「いいのもなにも、お前が言い出したんだろうが」
「でも」
「お前が旦那を気にしだしてるのはとっくにわかってたさ。まあ、旦那と仲良くしな」
「カロン……」
「お前が幸せになるならそれでいいんじゃね? もらった服や宝石は手切れ金代わりにもらってくよ」
「カロン〜〜〜!!」
「泣くな」
修羅場るかと思いきや『もうこっちに気がないのは薄々感じてた』そうで、私が貢いで……ゲフゲフ、プレゼントした服や宝石を手切れ金代わりに持っていくという条件で、サクッと別れてくれた。——でも、そんなアッサリ出て行くんだぁ……と思うと、なんか捨てられたのは私のような気がしてきた。
いやいや、そんなことで凹んでいる時間はなくてよ!
身辺整理はすっかりできたわ。これからはヴィオルの良き妻になるべく行動しなくては!
朝はちゃんとヴィオルよりも早起きしてダイニングで一緒に朝食をとり、出仕のお見送りをし、ヴィオルが帰ってくるときは一番にお出迎えし、一緒に晩餐をとる。お茶会だのパーティーだの、ふらふら遊び歩かず、ヴィオルのためにお菓子なんか焼いちゃったり。
大事な社交も、ダリアーノと一緒にちゃんとスケジュール管理してヴィオルと参加したり。
「——最近、どうしたの? 大丈夫? 無理してない?」
私の変わりようにヴィオルが逆に心配してきたけど、全然無理はしてないわ。好きな人のためなら頑張れるというもの。
「無理なんてしてませんわ。わたくしはヴィオル様と一緒にいられたら幸せなんです」
「あ、うん……そう……」
ヴィオルが若干引き気味だけど、気にしない。
ある朝、ヴィオルの顔色が悪いなと、ふと気がついた。
本人はいつも通り出仕する準備をしているけど、動きが鈍い。
「ヴィオル様?」
「なに?」
「どこかお加減が悪いんじゃありませんか?」
「え? そうかな?」
そう答えるけど、やっぱりボーッとしている。
私は『失礼しますね』と断ってからヴィオルの額に手を当てると——やっぱり熱がある。
「ヴィオル様、熱があるようですわ」
「え? う〜ん、でもそんなにしんどくはないから、仕事に行く——」
「いいえ、絶対に行かないほうがいいです。医師様に診てもらって、安静にしておいたほうがいいです」
「でも……」
「ロータシエ! ヴィオル様をベッドに縛り付けておいて。ダリアーノは医師様を呼んで。今すぐよ」
「「はい」」
渋るヴィオルをロータシエに預け、ダリアーノに医師様を呼んでもらった。
結果的に、無理やり仕事を休ませたのは正解だった。
流行りの風邪をもらっていたみたいで、ヴィオルはそれから五日ほど寝込んでしまったから。
熱で苦しむヴィオルを見るのは辛かったけど、できるだけ私がつきっきりで看病したわ。
医師様が『もう全快ですよ』と診断してくれた時には、心底ほっとした。
ほっとしたついでに今度は私が倒れちゃったけど、それくらいどうってことないわ。どうせ家にいる暇人だもの。
一人ベッドでおとなしく寝てたら、
「サーシア、今日王宮でこれをもらってきたよ。苦いけどよく効くらしいから」
仕事から帰ってきたヴィオルが持ってきたのは、王宮の薬草庭園でしか育てられていない貴重な薬草。
「わざわざもらってきてくれたの?」
「ああ。料理長に言って煎じ薬にしてもらったよ」
そう言ってスプーンで掬って私の口に運んでくれる。
スプーンであ〜んなんて……ちょっと照れるけど。
そっと口に含むと——。
「にっがいっ!! んん〜〜〜〜っ!」
盛大に渋い顔になった。
「ははは! 美人が台無しだけど、我慢だよ」
私が顔をしかめたのを見て笑うヴィオル。そしてもう一口、と、スプーンを近付けてきた。
「——ありがとう」
「どういたしまして。奥さんが辛そうなのは見てられないからね」
「え?」
私の方を見てニコッと笑うヴィオル。
これは……仲なおり、できた……?
「ふあぁぁぁぁぁ! ……ああ、夢か。すごくいい夢見た」
「珍しいですね」
「悪夢ばっかりは辛すぎる」
「確かに」
ありがとうございました(*^ー^*)




