Eyes to me……?
書籍発売記念リクエスト企画より♪
旦那様とユリダリスさんの追っかけっこが思わぬ方向に……w
「ちょ、待て!」
「待ちません!」
バタバタ……と慌ただしく走る足音が廊下に響く。
「お前だけなんだ!」
「いいえ、そうじゃありません!」
「そんなことは、断じてない!」
「知ってるんですよ!」
「な、何を!?」
声は二人。言い争いをしながら走っている。どうやら追いかけっこになってるようだ。
「私の話を聞け!!」
逃げる相手に追いつき、その腕を掴み走りを止める。
捕まった方は勢い余って壁に背が当たった。
やっと捕まえたんだ逃すまいと、捕まえた方が壁に手をつき相手を囲う。
じっとにらみ合う両者。
やがて顔が近付き…………。
「だ〜か〜ら〜、新年前に休みが欲しいっつてんでしょうが、顔近い離れろ!」
「新年前後は謁見の準備とかで忙しいんだ、休むな!」
「休むのは俺だけじゃないでしょう! 知ってるんですよ!」
「そんなことはない!」
壁に背を当てているのはユリダリス。ユリダリスを囲っているのはサーシス。
どうやら休暇のことについて〝話し合って〟いるようだ。
「別に俺が休んだところで、副隊長がいるんだから問題ないでしょう!」
「お前は私の片腕なんだ、クッソ忙しい時に休まれては困る」
「はぁぁ? 自分の仕事は自分でできる人が何を言ってるんですか。…………ん?」
「な、なんだ?」
「まさか、自分が休めないからって、俺にも休むなって言ってるんじゃ……」
じとんと睨むユリダリス。
「………………」
しれっと視線を外すサーシス。
「図星かよ」
はぁ、もう。と、ユリダリスがため息をついた時だった。
「見てはいけないものを見てしまったわ……」
「これは浮気にあたるのかしら? ……まさか、愛妻家で通ってるフィサリス副隊長様が、プルケリマ小隊長様とだなんて」
「これは浮気にはならないんじゃないかしら?」
「そう……そうなのかしら?」
こそこそ、ひそひそ。
かすかな声が近くから聞こえてきた。
「「ん?」」と、眉をひそめる二人。
声が聞こえてきた方を見れば、ピャッと壁の向こうに引っ込む四つの頭が見えた。
「何を言ってるんだ?」
「…………おい、この体勢、かなりマズイだろ」
「あ……!」
サーシスたちは自分たちの態勢を冷静に考えてみた。
壁に押し付けられたユリダリス、それを逃すまいと、壁についた両腕の中に閉じ込めているサーシス。
これはいわゆる『壁ドン』ってやつっ…………!!
自分たちの今とっている態勢に気がつき、冷や汗が吹きでる。
なんてことだ! これではまるで僕がユリダリスを壁ドンしてるみたいじゃないか!
なんてこったい! これじゃまるで俺が副隊長に壁ドンされてるみたいじゃねーか!!
「「〜〜〜〜!!」」
サーシスとユリダリス、二人同時に声にならない声を上げた。
「違う、誤解だ! これは逃げるユリダリスを捕まえるためにだな——」
珍しく取り乱したサーシスが、先ほど見えた四つの頭——騎士団所属の女子事務員——に説明する。
「大丈夫です! 私たちは何も見ていませんから!」
「そうです! 見ざる聞かざる言わざるです!」
「私たちのことはお気になさらず〜」
「「………………」」
力一杯断言する事務員たちだが、目はキラキラ、顔はつやつや……嫌な予感しかしない。
「いや、本当に——」
ユリダリスも弁明しようとしたのだが、
「みなまで言わなくても大丈夫ですわ。いろいろおありでしょうから」
と、喰い気味に事務員に止められた。
「私たちはこのまま退散いたしますから、続きをどうぞ!」
「誰にも他言しませんわ!」
「「「「おほほほほ〜!!」」」」
笑いながら自分たちの部署に戻っていく事務員たち。
「「嫌な予感しかしねぇ〜〜〜!!」」
その場に膝から崩れ落ち、頭を抱えるサーシスとユリダリスだった。
もちろんすぐさま『フィサリス副隊長がプルケリマ小隊長を壁ドンしてた!』という噂(というか目撃談)があっという間に広がった。
「サーシス様? 今日、お義母様からあるお話をお聞きしたのですが」
「な、なんだろう?」
真顔でサーシスに話を切り出すヴィオラに、サーシスは冷や汗が吹き出る気がした。
「サーシス様がユリダリス様に迫っていたとか? 角度的に見てキ……キスを……」
「はぁぁぁぁ!? 話に尾びれも背びれもびらびら付きすぎてる!!」
「その慌てぶり……やっぱり本当なんですか?」
昼間、王宮に遊びに行っていた先代公爵夫人から噂話を聞いたヴィオラが、サーシスに真相を問いただそうと聞いてきたのだ。
「違うに決まってんでしょ!」
「百歩譲ってサーシス様の浮気は諦めましょう。でもユリダリス様やステラリアは巻き込んではいけないと思うんです」
「待って! 絶対浮気しないし、諦めないでくれる?! あれは——」
サーシスはあの時の状況を細かく説明した。
「な〜んだ、そういうことでしたか〜」
「そうですよ。まったく浮気——しかも男となんてするわけないでしょ」
「あはははは〜」
「それより、ヴィーさん?」
「はい?」
「本当に僕が浮気したら諦めるんですか?」
「たぶん」
「ええ〜!!」
テレテレと笑うヴィオラにブスッと口を尖らせるサーシスだった。
「お前……ステラリアという妻がいるにも関わらず、公爵様と浮気をしていたんだってな?」
「してませんって!!」
「リアは……カムフラージュだったのね」
「母上! そんなわけないでしょう!」
ユリダリスに至っては、すでに『男色疑惑』があったわけだから、ステラリアだけでなく実家にも弁明してまわったのだが、今度はなかなか信じてもらえなかったそうだ。
ありがとうございました(*^ー^*)
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