Once upon a time
活動報告SSより♪
旦那様が小さい頃を回顧して。ロータスはレティには甘いけど幼い頃の旦那様には塩対応だったという(あれ? 今も?w)
「レティ様、外が非常に冷えておりますので、今日の稽古は大広間でいたしましょう」
「はあい」
「!?」
バイオレットの剣の稽古を『外は寒いから』という理由で室内に変更したロータス。
ちょっと待て。僕がバイオレットくらいの時にそんな甘やかされた記憶がないぞ? ロータス、お前は僕を問答無用で極寒の外に連れ出したよな?
幼い頃の記憶を思い出し、じとんとロータスを見ていると、
「おや、今日のお稽古はお父様自らがつけてさしあげますか?」
しれっと言ってきた。
いやいや、僕の顔を見れば何を考えてるかわかってんだろう?
「いや、僕はそばで、レティの頑張りを応援しているよ」
「はい、おとうしゃま! レティ、がんばりましゅ!」
模造剣片手に気合いを入れるバイオレットは今日も安定のかわいさだ。
構えているロータスに一生懸命かかっていくバイオレット。うん、なかなか筋がいいと思う。
頑張るバイオレットに、眼を細める僕とロータス(と使用人たち)。
「えい、えい」と真剣に剣を振るうバイオレットを微笑みながら躱すロータスだけど、僕の時は微笑んでなかったよな……。
そういや、僕は一度もロータスに勝ったことなかったんだよな。やっとついこの間勝ちを収めたけど。
負けていたのは剣だけじゃないか。
何かとロータスには勝てなくて悔しい思いをしてきたんだった。
* * *
『寒いから外に出るの嫌だ!』
『外が寒い? 上等ではございませんか。寒中訓練だと思って頑張りましょう。体を動かせばすぐに温まりますよ』
『…………』
ズルルル……とロータスに引きずられて外に連れて行かれる僕。
『頭が痛くて熱が出てるみたいだ。今日は勉強したくない』
『おや、いつもと変わりないようでございますけど? まさか、昨日の勉強が難しすぎて知恵熱が出ているとか?』
『…………』
勉強したら治りますよ〜とか言って、机の上に分厚い本を山積みにしたっけ。
執事見習いのロータスは、まだ子供の僕にも容赦なく毒舌だった。
幼かった僕は何をしても勝てないから、せめてもの逆襲にと、ロータスの弱点を探して、そこを攻撃しようと考えたんだよな、あの時。
誰かに聞いてもよかったんだけど、そこから僕の計画がバレたら困るから、僕は自分で探そうと考えた。
コソコソとロータスの後をつけて回ったんだっけ。
動物とか、虫とかに驚いたら面白いのにって思ったけど、全然平気だし。
何か嫌いな食べ物とか見つけたら、それを食べさせてやろうと考えたのに、それもないし。
う〜ん、どうしたもんか。
僕が悩んでいると、
『あ〜、疲れました。疲れた時にはカフェが効くんですが、あいにく私はカフェが苦手ですからねぇ。特にミルクのたっぷり入ったカフェ・オ・レなんて最悪です』(棒)
というロータスの声が聞こえてきた。
そうか! ロータスはカフェが嫌いなんだ! それもカフェ・オ・レが。
いいこと聞いたぞ〜と、僕はスキップしながら厨房へと行き、
『ロータスが、今すぐカフェが飲みたいって言ってるぞ』
と料理長に言って大至急用意させた。
『おや、珍しいですね』
『疲れてるそうだ』
『そうでございますか。それにしても、おぼっちゃまがわざわざこちらまで出向かなくても。では誰か他の使用人に持たせましょう』
『いや、大丈夫だ! 僕が持っていく!』
『大丈夫でございますか?』
『もちろんだとも』
そして料理長が用意してくれたカフェ・オ・レを手に、僕はロータスの書斎に急ぐ。
〝この僕〟が直々に持ってきたんだ、嫌でも飲んでもらうぞ。
『ロータス〜! 仕事で疲れたんだろう? 僕がカフェを持ってきてあげたぞ! これを飲んで少し休め』
僕がいそいそと机の上にカフェを置くと、
『おや、今日のおぼっちゃまはお優しいですね。私の好物をわざわざ持ってきてくださるなんて』
『えっ!? ロータスはカフェが嫌いなんじゃないのか?』
『ブラックは苦手ですが嫌いではございませんし、ミルクのたっぷり入ったカフェ・オ・レはむしろ好物でございますよ?』
なんて、ニコッと笑いながら言いやがった!!
あの時の僕は全然気付いていなかった。
『ロータスがカフェを飲みたい』と料理長に言ったのに、用意されたのが〝カフェ〟ではなく〝カフェ・オ・レ〟だったということに。ロータスがカフェ、と言うと、料理長がカフェ・オ・レを作るくらいに……それくらい、ロータスがカフェを好んで飲んでいるということに。
でもなんであの時料理長は『珍しい』って言ったんだ?
僕はてっきり『(カフェ嫌いなのにカフェが飲みたいと言い出したから)珍しい』と言ったんだと思ってたんだが、後から料理長から聞くと『(執務時間中にカフェが飲みたいと言い出すなんて)珍しい』と言ったつもりだったそうだ。ややこしいこと言うなよ、まったく。
どちらにせよ、悔しいことに僕は完全にロータスの掌の上で転がされてたんだ。
一事が万事そういう感じで、僕はロータスに勝った試しがない。
いやもう、勝てる気がしなくなっていった。
そして今に至る。
* * *
「……って、今でも剣以外は勝ててないけど」
「なんでございますか?」
ありがとうございました(*^ー^*)
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