新年おめでとう!
活動報告より♪
フルール王国の新年のお話。こんな時期に……w
そろそろフルール王国の新年が近づいてきています。
フルール王国の新年は建国記念日で、偶然? 必然? とにかく、初代国王様のお誕生日でもあるそうなんです。
しかもこれまた偶然『フルールの月の一日』。
もうここまでくると意図的な何かを感じますねぇ。まあそう言い伝えられてるのでそう信じていますが。
余談ですが、フルールの一年は十二ヶ月あり、それぞれに『フルールの月』『ソレイユの月』『フロワの月』……などと名前が付いています。そしてそれぞれ三十日で一月になります。
フルール暦の余談はさておき。
毎年フルールの月の一日は「今年も一年、平和で過ごせますように」と家族でお祈りし、ご馳走を食べます。
派手なことがお好きな方は、その前日からニューイヤーパーティーを開いてどんちゃん騒ぎをしたりするそうです。
え? うち? そんなのしませんよめんどくさい。
そして結婚して初めて迎えるフィサリス家の新年。
「公爵家にきて初めての新年ですね! サーシス様はどう過ごされるのかしら? パーティーはしないだろうけど、ご馳走……ハッ! ダリア、薬の用意!!」
「大丈夫でございますよ」
顔色を変えてダリアを見れば、苦笑いが返ってきました。どう大丈夫なのかが超心配。
ドキドキしながらダリアの次の言葉を待っていると、
「毎年派手なことはいたしません。新年の食事を召し上がるくらいでございます」
「そうなのね、よかった」
「食事の後、王宮に行って国王陛下の新年のご挨拶を拝聴し、教会にお参りいたします」
おおまかな新年の日の流れを説明してくれました。
そうそう、新年には王宮で国王様のスピーチがあるんですよ。貴族平民みーんな集まって。なんといっても建国記念日ですからね!
去年までは家族で貴族席の隅っこの方に参列していました。ええ、実際国王様なんて豆粒くらいの大きさでしたよ! それくらい遠いお方だったんだけどなぁ……遠い目。超名門公爵家だからなぁ、いつも通りめちゃくちゃ近い席に案内されるんだろうなぁ……遠い目。
当日のことはまあよしとして。
「お義父様たちはいつからいらっしゃるのかしら?」
地方の領地にいるお貴族様ももちろん上京してきます。
だから、うちの義父母達ももちろん王都のお屋敷に来るわけで。
「新年の二日前くらい、とおっしゃっておりました」
「じゃあ、その準備もしなくちゃね! ビスカムの木は庭園にある?」
「もちろんございますよ。前日に取ってきて飾りつけますね」
私の質問によどみなく答えるダリア。
ビスカムの木というのはフルールの新年に欠かせないお飾りです。
ギザギザの棘のような形をした葉っぱが特徴のビスカムは、昔から邪気を払うと言われているんです。
そしてその下でキスをすると、その一年が幸せになると言われています。
「うう、義父母のお迎え準備を手伝うか、ビスカム飾って回るか……悩ましい」
「そんな真剣に悩まないでください」
新年の準備と義父母をお迎えする準備と。忙しくなりますね!
「新年おめでとうございます。今年も一年、いい年でありますように」
「「「いい年でありますように」」」
そして迎えた新年の朝。
ずらりとご馳走が並ぶメインダイニングに集合した旦那様と私と義父母は、旦那様のお言葉に続いて新年のお祈りをします。
それからご馳走を食べるのですが大丈夫、さっきこっそり薬を飲んだから抜かりはないですよ!
しっかしいつも以上にご馳走が並んでいます。絶対に食べきれないよこれ。ああ、私のもったいない精神がウズウズする……。
カルタムたち、頑張ったなぁと、次々に運ばれてくる(まだあるのか!)料理の数々を見ながら感嘆します。やっぱり絶対食べきれないから、私の分だけでも後でリメイクお願いしよう。
それから馬車に乗り、王宮へ向かいます。そうです、国王様のありがたい新年のお言葉を聞きに行くのです。
こういう時の嫌な予感というものは的中するもんで、フィサリス家御一行様は、やはりばっちり一等席的なところに案内されてしまいました。
聴衆というより、どちらかというと王族に近い側に立たされてるんですけど? オーディエンスのみなさまと向かい合ってるってどういうこと??
「……国王様があんなに近い。しかも一般のみなさんがこっち向いてる……」
「毎年ここだから。観念して」
私の小さな呟きをキャッチした旦那様が、これまた小さく囁いてきました。マジか。諦めるしかないのか。
二人でこそこそ話している間に、国王様のお話が始ままりました。
「ここに集まってくれたみなのもの、新年おめでとう。そして建国の日、おめでとう−−」
あ、これ毎年同じパターンなので聞かなくてもいいやつです。
冒頭はいつも一緒。途中からアレンジきかせてくるのです。
「これが終われば教会にお参りして終わりだから」
「あ、そうですね。公爵家はどこの教会にお参りするんですか? うちはいつも近くの教会に行ってたんですけど」
「いつもこのまま王宮内の神殿にお参りするけど?」
「おー……」
そうだった。フィサリス家は実家と違って超名門お貴族様だった。
特別な貴族しかお参りできない王宮内神殿。そういや結婚式もそこだったなぁ。
国王様のなが〜いありがた〜いお話も無事終わり、ビスカムの木が綺麗に飾られている王宮内神殿にお参りしました。
神殿でバーベナ様たちにお会いしたのでご挨拶したりしました。
国王様の間近、しかも聴衆と向かい合って新年のスピーチを聞きーの、超ビップ待遇な王宮内神殿にお参りしーの、初めて尽くしで疲れましたよ。度々感じてはいますが、超名門貴族ってほんと疲れる。
来た時と同じように馬車に乗り、後は帰ってゆっくりするだけだなぁと思っていると、
「この辺で一旦停めて」
と、旦那様が御者さんに指示しました。
「サーシス様?」
私が不思議に思って首を傾げていると、
「僕たちはこの辺で降りますので、父上たちは先の屋敷に戻っておいてください」
旦那様は私の手を引き外に出てしまいました。
え、まだお屋敷じゃないよどこ行くの?
「え? え? サーシス様?」
私がキョドっていると、
「気をつけるんだよ〜」
「暗くなる前に帰ってらっしゃいよ〜」
義父母様たち、何の不思議も感じないのか、馬車の中から手を振って帰って行きました。
え? また私だけ知らないのか?
呆然と走り去る馬車を見送ってから、旦那様の横顔を見上げます。
「あの〜? これからどこか行くんですか?」
「うん。さ、行こうか」
ニコッとしらばっくれて私の手を引く旦那様。−−サプライズのお好きな方ですからねぇ。仕方ない、黙ってついていきましょうか。
馬車から出て周りをよく見れば、見慣れた景色……あら、ここは私の実家の近くじゃないですか。
でもうちの実家に用があるなら、こんなところで降りずに馬車で直接乗りつけますよね。わざわざ歩くとはこれいかに?
旦那様に手を引かれゆっくり歩いていると、なんとなく旦那様の考えがわかってきました。
こっちには、私が家族と毎年お参りに来ていた教会があるのです。
はは〜ん。そういうことですか。
「サーシス様? もう一度お参りですか?」
クスクス笑いながら旦那様を見上げると、
「わかった? そうだよ。神殿よりもこっちの方が賑やかで楽しいだろうからね」
ニコッと笑い返してくれました。
限られた人しか入れない神殿と違って、町の教会は庶民や貴族、たくさんの人で賑わっていてお祭りムード満点なんですよ。振る舞い酒も配られていたりしますしね。
私たちが教会に着くと、お祭り騒ぎはすでに始まっていました。
ビスカムの木の下で歌い飲み笑う声。ああ、これでこそ新年おめでとうですよ! でもさすがに教会の中は神聖な場所ですから、静かで厳かな雰囲気はそのまま、誰も騒いだりしていませんよ。
慣れ親しんだ光景に、私はうれしくなります。ええ、相変わらず庶民派ですが何か?
私たちはもう一度新年のお参りを済ませ、振る舞い酒をいただき、歌い踊る人たちを見て楽しみました。
「いつもの町デートのようで楽しいですね!」
旦那様を見上げると、
「あ、ヴィー」
「なんですか?」
ちゅっ。
……公衆の面前で何するんですかコノヒトは!!
旦那様を見上げた私の口に、素早くキスをした旦那様。もうっ!
恥ずかしさで真っ赤になりながら旦那様を睨むと、
「ほら、上見て」
全然恥ずかしがることなくシレっと私の上を指さしました。上がなんですか?
指差す方を見上げると。
「ビスカム……」
「そ。新年おめでとう! これで今年も一年幸せに過ごせるね。これからは毎年ここに来よう」
呟く私にニッコリ笑いかける旦那様。……そうだ、この人ロマンチストだった。
ちょっと恥ずかしかったけど、周りもみんなやってるし……まあいっか。
「はい! おめでとうございます!」
今年も一年、幸せに過ごせる気がしました。
ありがとうございました(*^ー^*)




