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笑顔の行方 〜現代版状況説明2〜

リクエスト企画より♪

現代版状況説明パート2。ざっくりとした設定は37話目を参照ください(^ー^)


バレンタインを控えたフルール学園にて。

 ビューっと冷たい北風が通り抜けていく冬二月。

「さっぶい!!」

 制服のセーターに顔を埋めて震える私の周りでは、


「ロータス先輩、受け取ってくれるかなぁ」

「ベリス先輩は硬派だから門前払いらしいよ」

「カルタム先輩はぜ〜んぶもらってくれるんでしょ? さすがフェミニスト」


 友達がきゃっきゃうふふと楽しそうに女子トークを繰り広げています。

 友達だけじゃありません。もう、学園中の女子がこんな感じ。

 外は寒さが一段と厳しいというのに、聖フルール学園高等部の生徒たちは心浮き立地、ふわふわポカポカしているようです。もはや空気がピンク色に染まってる気がする。


 はしゃいでいるのは主に女生徒たちなのですが、それにつられて男子生徒までもがそわそわしている季節。——そう、もうすぐバレンタインなのです。


「ヴィーは誰にあげるの?」

 女子トークの輪からアイリスが私に聞いてきました。

「ん〜? お父さんでしょ、弟でしょ、妹にもあげないと拗ねちゃう。あとはアイちゃんたちにあげる友チョコくらいかな。うわ〜、友チョコだけですごい数になりそう!」

 みんなみたいにブランド物のチョコレートは買えないので(貧乏憎んで人を憎まず!)、お金ではなく愛情かけて手作りです。クラスのみんな(ただし女子に限る)にあげるので、こりゃ前日はフル稼働だな。

 いくついるっけ〜と指折り数えていたら、アイリスが苦笑いしていました。


「さすがヴィー。安定の残念さね。完全身内チョコと友チョコだけじゃなくて、だ〜いじな彼氏様にはあげないの?」

「——は?」


 アイリスの『彼氏様』という単語に反応した私の顔は般若もびっくりだったでしょう。ものすごく低い声出たし。


「うわっ! ヴィー、コワイコワイ!」

「彼氏様ぁ? そんなのいないし。アイちゃんは一体誰のことを言ってるのかしら?」

 ダンッ!! と机を拳で殴りながらも笑顔で尋ねます。

「もちろんサーシス様のことに決まってんでしょ〜」

「誰が認めたのよ、誰が!」

「いや、もう、学園中が認めてるって」

「私は認めてないっつーの! そもそもね、同じ学生に『様』つけるっておかしくね?」

 アイリスが言ってる『彼氏様』というのは、一つ上の学年のサーシス先輩のこと。

 何をトチ狂ったのかこんな平々凡々・貧乏人の私を気に入り、やたら構い倒してくるんです。

 確かに初対面でいきなり『ニセカノになれ』って言われたけど、それは丁重にお断りしたはず。先輩の周りにはゴージャスでお美しいお姉様方がいっぱいいるんだから、そこから選べっての。噂では三年生のカレンデュラ先輩というゴージャス美女(だけどちょっと素行が問題ありらしい。詳しくは知らないけど)と付き合ってるらしいんだけど、そこんところどうなんだろ?

「そもそもさぁ、サーシス先輩には彼女さんいるんでしょ? 最近知ったけど」

「最近ってところがヴィーらしいわ……。まあ、それは別れたらしいって、もっぱらの噂よ」

「え〜、でも私めっちゃ睨まれるんだけど?」

「そりゃあ、元カノvs今カノってやつじゃないの?」

「ええ……理不尽……」

 美人さんの怒り顔って、めっちゃ怖いんだけど……。しかも相手は二つも年上だしね!

 なんであんな美人さんと別れちゃうかなぁ?

 だからか。いつの間にか私が『本命の彼女』に昇格し、周りにも公認されてしまってるのか。

 ちょっと普通の子(この学園では容姿端麗・お金持ちがスタンダード)と毛並みの違う私が珍しいだけだと思うんだけど。周りも『あんな貧相な子、やめとけ』って思わないのかしら。

 って、私は認めてないっつーの!! いろいろ大変な学園生活(主に金銭面!)、目立たず地味〜にすみっこ暮らししたいんです!


 なのに。その昼休み。


「ヴィー? 僕はこんなにヴィーのことを想っているのに。ヴィーはつれないなぁ」


 って、この男には通じてないし。

 ほぼ休み時間ごとにうちの教室に顔を出すサーシス先輩が、さっきの私たちの会話を聞いていたようで、めっちゃ笑顔で迫ってきました。

 笑顔がコワイって、どういうことよ……。あ、元カノさんもそうか。

「ほ、ほら、先輩にはもっとお似合いの人がいると思うんですよ。こんな地味子、釣り合わないですよ〜」

 美形の迫力にたじたじと後退れば、ぐいっと抱き寄せられてしまいました。おっと、逃げ場なし。

「ヴィー以上の人はいないね。ねえ、そう思うでしょ?」

 サーシス先輩が周りに聞いています。ものすごく爽やかスマイル付きで。

 そしたらみんな、一斉に『そうです!!』『ヴィオラさんが一番お似合いです』とか、わけのわからない絶賛コメント口々に言い出すし!

 絶対あのエセ爽やかスマイルにやられたね! あの笑顔には洗脳効果があるんだわ……コワイコワイ。

「ほらね。ところで、さっき聞こえたんだけど、ヴィーはバレンタインのチョコを僕にくれないつもりなのかな?」

 また私に向き直って、にっこり微笑むサーシス先輩。あれ? さっきの爽やかさが消えてまた迫力増したよ? おっかしーなぁ??

「え、ええ〜と……」

「友チョコもあげるっていうのに、婚約者である僕にはないのかな?」

「勝手に婚約者にランクアップしないでっ!!」

 またコノヒト、外堀埋めにかかってる〜! 気がつけばちょっとずつ既成事実作られてるのよね……。


「あら、いつの間に婚約なさったの?」

「言ってくださってらよかったのに。もう、水臭いですわね」


 なんて周りがざわついてるじゃないですか、ヤダもう。

 そんな事実ねぇよってことは後で説明するとして。

「手作りだから全然立派じゃないし、そんなに量産できないし……きっとお口に合わないと思うんですよ」

 なんてったってサーシス先輩たちが普段口にしてるような高級食材使いませんからね! ちなみにアイちゃんたちは、お嬢様だけど普段からジャンクなお菓子を食べたりしてるから、大丈夫なのは確認済み。

「ヴィーの手作り!? むしろそれ、すごく食べたい」

 なのにサーシス先輩ったらそんなところに食いついてくる。

「いや、そんな、サーシス先輩の目に触れさせられるような代物では……」

 私が全力でお断りしてるっていうのに、


「ヴィオラさんのお料理やお菓子は、とても美味しいんですよ。よくお相伴に預からせていただくのですが、ほっぺが落ちるようでございますの」


 まさかのアイリス裏切り! 


「ア〜イ〜ちゃ〜ん〜」

「あら、本当のことを言っただけよ?」

 アイちゃんをギンッと睨んだけど、当のアイちゃんはしれっと笑ってるし。

「そっかぁ。そりゃあますます食べたいな」

 サーシス先輩はますます迫ってくるし。

「やあもう! あげませんてば!」

 なんかもうイロイロ限界突破したので、私はサーシス先輩を思いっきり突き飛ばして教室から逃げたのでした。





 とりあえず逃げ切った、はず。後ろから追ってこないのを確認し一息ついた私は、ようやく自分のいる場所を確認しました。

 どうやら中庭みたいですね。

 さすがにクッソ寒いのでお弁当を食べたりくつろいでいる生徒はいませんが、暖かくなるとここは気持ちのいい憩いの場になります。

 今教室に戻るのは危険なので、どこかで昼休みをやり過ごそうと歩いていると、小綺麗なサンルームが見えてきました。

 確かここは選ばれた生徒(=生徒会メンバー、もしくはVIP待遇の生徒)しか入れない特別な場所。さすがお金持ち学校だね! ……違くて。


「おお〜、ロータス先輩はサンドイッチ片手に読書ですか。似合うなぁ。ん? ベリス先輩とミモザ先輩、同じお弁当箱!? まさかあの二人は付き合ってるの!? ……これはアイちゃんに聞いてみよう。カルタム先輩はダリア先輩に一生懸命話しかけてるけど、ダリア先輩はスルーって感じね。これは片思いかしら?」


 サンルームでお昼休みを満喫していたのは、生徒会のメンバーでした。

 そっかぁ、ベリス先輩はミモザ先輩という彼女がいるからバレンタインチョコは門前払いか。納得。

 カルタム先輩、来るもの拒まずでチョコもらってたら本命(ダリア先輩)に相手してもらえませんよ!

 ちなみに、ダリア先輩は三年生で会計担当、ミモザ先輩は二年生で書記担当です。ちなみにサーシス先輩は副会長です。ドウデモイイ情報。

 

 みなさんがくつろぐサンルームをスルーし、図書室で残り時間をやり過ごそうと思います。あそこなら暖房も効いていて静かだしね。

 早く暖かいところに行きたくて廊下を急いでいると、ちょうど図書室から出てきた人にぶつかりかけました。

「あっ…………」

「すみません!」

 あわてて頭を下げて謝ります。

「………………」

「………………?」

 あれ? なんの反応も返ってこない。

 恐る恐る顔を上げ、相手を見ると。


 ありゃ。カレンデュラ先輩!


 なんでこんなところで出会うかなぁ……。

 いつものごとく、じっと睨んできます。美人さんの目力ハンパねぇっす!

 図書室に逃げ込みたいけど入り口はカレンデュラ先輩が立ちふさがってるから入れないし、両横は壁。あからさまに背中を見せて逃げるのも敵前逃亡っぽくて嫌だし(だって私は悪くない!)。

 それでも無言の圧力にじりじりと後退していたら、いつの間にか背後に人がいたようで、今度はそちらにぶつかってしまいました。


 おっと、退路も絶たれたか!(二回目)


 いや、後ろから来た人はただ単に図書室に用事のある人だから、その人と一緒にしれっと中に入っちゃえばいいのか! ラッキー天の助け☆

「あ、すみません! …………あっ」

 振り返りながら後ろの人に謝ったんだけど、その人は私のことを後ろからぎゅっと抱きしめてしまいました。

 これは。


「……サーシス先輩……」

「ヴィーが逃げるから探したよ。図書室行くの? 偶然だなぁ、僕も本が読みたかったんだ」


 なんて言ってカラカラと笑う先輩。嘘くせぇ。

 でもこのなんとも言えない緊張感を壊してくれてありがとうというべきか?

 どうしよう、このいたたまれない空気……。

 前には先輩の元カノ、後ろは先輩ほんにん。いやぁぁぁぁ!

 また逃亡したくなった私だけど、


「あら、サーシスはずいぶんその子にご執心のようね?」


 ニコッと笑ったカレンデュラ先輩が先に口を開きました。

「可愛いでしょ。僕の最愛」

 サーシス先輩が私の頭の上でふふっと笑った気配がします。

「「…………」」

 絶句するカレンデュラ先輩。グハッ! と砂を吐きそうになった私。なんだよぅ、私が一番ダメージ受けてるんですけどぉ?

「……こほん。言っとくけど、私がサーシスを振ったんだからね? 誤解しないでちょうだい」

「……はい? あ、はい」

 気を取り直したカレンデュラ先輩が私に向かって言うから、反射的に返事しちゃったけど。ん? サーシス先輩が振られたの? じゃあなんで、顔見るたびに睨んでくるのかわけわからん。

 元恋人同士に挟まれて私がさらにいたたまれなくなってると、

「そうそう。振られたのは僕、振ったのかカレン。だからカレンはこれからヴィーのことをいじめたりしないでね」

 なんて、サーシス先輩。

 睨まれてはいるけど、いじめられてはいませんよ?

「いじめてなんかないわよ」

「それならいいけど。もしもヴィーに何かあったらただじゃすまないってことだけ、覚えておいてね」

「わかったわ」

 あっさりそう言うと、カレンデュラ先輩は三年生の教室のある方へと去って行きました。


「アリガトウゴザイマス?」

 これは、助けてもらった、の、かな?

 いちおうお礼を言うと、

「ヴィーを守るのは婚約者として当然だから! あ、お礼は本命チョコでいいよ」

「……」


 爽やかにおかしなことを言うのはやめていただきたい……。



 

 結局『本命チョコ』を作らされましたよ。

 なんの変哲もないガトーショコラだったけど、めっちゃくちゃ喜んでくれたから、なんか、まあ、ちょっとうれしい、かな。


 身内チョコや友チョコより、ちょっとだけグレードアップさせてたのは内緒です。

ありがとうございました(*^ー^*)

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