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生意気な年下 〜バーベナとサージェント〜

本編117話目からの、アルゲンテア家の夜会にて。

バーベナ様に春が来る?

 私は小さい頃からずっとフィサリス家に嫁ぐものだと思い込んでいた。正式に婚約していたわけじゃないけど。政略結婚とは言いつつ、私はサーシス様が好きだったから、願ったり叶ったりのはずだった。


 それがどうして。


 なんだか色々予定が狂って、気がつけばサーシス様ったらよくわからない貧乏伯爵家の娘と結婚してしまって……!

 どうせその結婚相手も政略結婚だろうし、愛人にはかなわないだろうから、なんだったら正妻の座を奪っちゃえるかもなんて思っていた時期もありましたわ。

 なーのーに! サーシス様ったら、嫁にぞっこんじゃない! 

 私があの子に一言物申してやろうとしたら、颯爽と助けに入っただけでなく、そのまま私の眼の前で惚気る惚気る。

 いつもはキリッとしたサーシス様なのに、あんなにあっま甘な顔で惚気られたら、戦意も喪失するわ。

 というか、サーシス様がそんなに女の人に入れ込んでるのって、あの愛人以外見たことない。いや、今回はあの愛人以上だわ。愛人を連れていた時ですら、あんなに人前で惚気たりはしなかったもの。


 サーシス様を虜にしてしまったあの子は何者?


 サーシス様に振られてから気にするようになった、ユーフォルビア家の娘。あんな貧乏貴族の地味娘、と思っていたのに……!


 私の何がイケナイの? あの子の何がいいの?!


 あの子にあって私にないものを探すべく、あれからあの子の話は根掘り葉掘り聞いたわよ。やれあの子のために別棟を改装しただの、二人で仲良く町中をデートしてるだの……って、ほとんどノロケに近いものばっかりだったわね……。

 実際に会う機会はあまりなかったけど、見かけた時にはそりゃもうしっかり観察させてもらったわ。

 そうしてわかったこと。


 くやしいけど、いい子。見た目も、中身も。


 私の知ってる貴族の娘たちと全然違う。

 だから、あの子と友達になれたら、私も変われるんじゃないかなぁって思ったのよ。

 もうサーシス様は諦めたから。前を見て歩き出すためにね。

 手始めにあの子……ヴィオラさんのマネでもしてみようかしら。性格はまだこれからもっと知ってからだけど、せめて外見からだけでも。ちょうど今の流行もナチュラルだしね。まあ、流行自体がヴィオラさんのマネなんだけど。




 うちの夜会に来てくれたヴィオラさんと、なんとか話しができた。ま、まあ、セロシア兄様がいてよかったわ。どうも私の言ってることは、ヴィオラさんには通じてないみたいだったから。


 お茶会も誘えたし、ウフフ、楽しみだわ~!


 私が軽い足取りで新しく飲み物を取りに行くと、


「こちらをどうぞ、バーベナお嬢様」


 と言って、横からグラスが差し出された。あら、しかも気が利くことに私の好きな果実酒じゃない!


「ありがとうございます」

「どういたしまして」


 グラスを受け取りお礼を言ってから初めて相手を見た。若い男の人……誰かしら?

 今までサーシス様しか目に入っていなかったということもあって、若い男は全然わからない。

 山盛り縁談が来ていて、釣書には絵姿もついてるんだけど、全然興味がなかったからしっかり見たこともないし。

 まあ、関係ないわと軽く会釈をしただけでその場を離れようとしたんだけど、


「僕はナスターシャム侯爵家の長男でサージェントと申します。以後お見知りおきを」


 と、その若い男は胸に手を当て綺麗な騎士の礼をした。あら、この人騎士なのね。

 ナスターシャム家って、確かお嬢様がヴィオラ様と仲良くしてなかったかしら。じゃあ、この人はあのお嬢様のご兄弟なのね。お嬢様は特筆すべきところもない(毒舌ごめんあそばせ!)ふつうの人だけど、このサージェント様は……目力があるわね。特に目を引くイケメンということもないけど、まあ整った顔。だけど目にすごく力がある。


「サージェント様、飲み物ありがとうございました。では、これで」


 と私はその場を去ろうとしたのだけど、


「せっかくですから、よろしければ僕と踊ってくださいませんか?」


 なんて誘ってきた。

 ダンスねぇ。別にいいけど……と思いながらフロアを見ると、ちょうどフィサリス公爵夫妻が踊っていた。


 ……ナニアレ、めっちゃ上手い! 難しい曲なのにステップ間違いもなく優雅に、って……あれに並んで踊る自信ないわ!!

 しかもサーシス様、ヴィオラさんを軽々と持ち上げてターンなんてしてるし! ふわりと舞ったドレスの裾がまた優雅で……。

 ヴィオラさんも、バランスの難しいターンを涼しい顔で決めてるし。

 時折ヒソヒソと囁きあってはクスクス笑いあって。

 なんて絵になる二人。会場じゅうの視線を独占している。


 私が二人の姿に見惚れていると、


「さすがにあの横で踊る自信はないですね~ははは!」


 私の心を読んだの!? という絶妙な間で、サージェント様が笑った。


「ええ……そうですね」

「やっぱりフィサリス副団長はカッコイイですねぇ」

「そうですわね」


 あら、そこは間違っていてよ。私、サーシス様だけに見惚れていたんじゃないのよ? ああもう、今話しかけないでくださる? せっかくの素敵な二人を見逃してしまうじゃない。

 私は踊る二人の姿を眼で追うのに忙しかったので、適当に返事をしていると、


「まだ諦められてないの?」


 サージェント様がいきなり顔を近づけてきたかと思うと、耳元で囁いた。


「はぁっ?!」


 何気ない会話をしていたはずなのに、急に何を言い出すかこの男は!! びっくりしすぎて、被ってた猫をかなぐり捨ててしまったじゃないの!

 し、しかも人の耳元で囁くとか!!

 バッと顔を離し、慌てて耳をふさぐ。

 あんぐり開きそうな口を引き締め、サージェント様を睨みつけると、


「うわ、真っ赤。かわいい」

「はああ!?」


 意地悪な笑みを浮かべてそんなこと言うな〜っ!


「もう既婚者だし、さっさと諦めた方がいいと思うけど」


 ニコって笑いながらさらに失礼なことを言ってきた。うわ、こいつ性格悪い?

 思わず後ずさったらすぐさま腰をホールドされた。む、手が早いわよ!


「うるさい」


 持っていた扇でベチンとその不埒な手を叩けば、


「あ、猫かぶりやめましたね! ふふふ」


 またおかしそうに笑う。


「うるさいって言ってんでしょ」

「ヴィオラ様はそりゃあ素敵ですけど、バーベナ様だってとってもかわいいですよ」

「はぁ!?」


 やだもう何この子コワイ!! 綺麗とか美人とは言われてきたけど、かわいいとか言われたことないわよちょっと目大丈夫!?

 私がワナワナしながら見ているというのに、飄々としたままのサージェント様。


「副団長と同じとはいかないだろうけど、僕も出世するつもりでいますし」

「……」

「ほら、名前も『サーシス』と『サージェント』、似てません?」

「……だから何」


 私がキッと睨むと、サージェント様は大袈裟に肩をすくめてから私をホールドしている手を解いて、


「お買い得ですよ~」

「何言ってんの!? ……もうどこか行ってくださいな!」

「は~い。嫌われないうちに退散しま~す」


 ひらひらと手を振り、同じような男の人の集団の方に向かっていった。


 ……なんだったのよ一体。


 ナスターシャム侯爵令嬢って、さっきも言ったけど特に目立つことない地味な子よね……。なのにその兄弟があんな腹黒?! ちょっとギャップありすぎじゃない?!



 後日わかったこと。

 サージェント様は私よりも三つ年下の一七歳で、サーシス様とは別部隊だけど近衛の騎士をしているらしい。もちろん釣書の山にも、彼の絵姿はあった。


 つーか何よ、年下のくせに生意気すぎるでしょ!!



ありがとうございました(*^ー^*)

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