偶然の出会い ~ユリーさんとリアさん その3~
書籍第四巻リクエスト企画より♪
ユリーさんとリアさんの続きデス♪ 進みが亀の歩みwww
ユリダリスさんがお休みのある日。
宿舎にいてもゴロゴロするだけで暇だし、せっかくだから久しぶりに町中を散歩しようと思ったユリダリスさんは、特に目的もなく王都の中心街をぶらぶらと歩いていました。
「新しい店、結構できてるね~。忙しかったから町中ぶらつくのも久しぶりだもんな」
ランタナとジェンが言ってた安くて美味い店はここかぁ、とか、あっちは若い女性に人気だと綺麗どころトリオが言ってたな、とか。部下の噂話を思い出しながら歩いています。
ちょうどレモンマートルのカフェの前を通りがかり何気なくガラス越しに中を見てみると、中途半端な時間だからか珍しくいくつか空席がありました。「ああ、そういえばここでスィーツパーティーやったことあったけなぁ」と、いつぞや上司夫妻のデートに乱入した(というか上司夫妻を待ち構えていたと言った方が正しいのかも)時のことを思い出していた時。
自分の後ろ、カフェのガラスに映ったのは、ユリダリスさんの気になるあの子ではありませんか。
ガラス越しでも見間違うはずがありません。
急いで振り向くと、そこには見慣れた王宮女官の制服でも、先日偶然再会した時に来ていたフィサリス家のお仕着せでもない、普段着と思われる服を着たあの子がこちらに向かって歩いて来るところでした。
紺色の上品な小花模様のワンピースのせいか柔らかい優しい感じで、いつもの彼女とは違った雰囲気です。
いつもの凛とした雰囲気の彼女も好ましいけど、こっちもいいな。
なんて、ユリダリスさんがボーっとガラス越しの彼女に見惚れていると、偶然彼女と目が合ってしまいました。一瞬キョトンとした顔をした彼女ですが、ユリダリスさんのことをすぐに思い出したのか、ニコッと微笑み、
「ご機嫌麗しゅう。奇遇でございますね。今日はお仕事がお休みなのでございますか?」
ユリダリスさんの服装を見、彼女から声をかけてきてくれました。
「ええ。暇を持て余していたのでちょっと散歩と思って。ええと、……貴女もお休みで?」
彼女の名前を知らないユリダリスさんは、前を呼ぼうとして一瞬間が開いてしまいました。
あ~、名前! 団長んちで再会したときに奥様が彼女の名前を言ってた気がしたけど、あの時オレ、びっくりしすぎてパニクってたから聞き逃した……! 一生の不覚!
ユリダリスさんが自分の失態を思い出し、困った表情をしたのを敏感に察知した彼女は、優しく微笑むと、
「申し遅れました。わたくしステラリアと申します。以後お見知りおきを」
綺麗な挨拶をしてくれました。
うぉぉぉ! 名前!! やっと聞けた!! つか、俺恥ずかしくね? 自分から名前を聞けよ。レディに名乗らせんなよ。
彼女――ステラリアの名前を聞けたことに感動しながらも、自分の不甲斐なさを責めるユリダリスさん。
反省は後から山のようにしたらいい、しかし今このチャンスを逃すわけにはいかないと気を取り直し、
「ステラリアさん、ですか。かわいらしいお名前ですね。私はフィサリス団長の下で副団長をやっていますプルケリマと申します。ユリーとでも呼んでください」
「存じておりますわ! でも、ユリー様、ですか? ユリダリス様ではなくて?」
「ええ、ぜひユリーと呼んでください!」
「ふふ、わかりました」
「そうだ。もしよろしければ、これからお茶でもいかがですか? ここのカフェのお菓子、とても美味しいですよ」
「まあ! 特に予定もございませんし。こちらのカフェ、とっても気になっていたのです」
先ほどカフェの中に空席があったのを見ていたユリダリスさんがお茶に誘うと、嬉しそうにステラリアさんが頷いてくれました。
「先日はびっくりしました。まさか団長の屋敷でばったりお会いするなんて。――王宮から転職されたのですか?」
「転職というか――。まあそんなところでしょうか? いろいろ事情がございましてね」
まずはフィサリス家で再会したことを聞くユリダリスさんに、曖昧に微笑んで答えるステラリアさん。『いろいろ事情』を聞いていいのかどうしようか迷いましたが、ここは敢えてスルーすることにしました。
「そうですか。いや、貴女ならどこにいっても立派な侍女としてやっていけるでしょう」
王宮で見かけた姿を思い出しながらユリダリスさんが言うと、
「いえいえ、私など未熟者でございますわ。まだまだ母の足元にも及びませんもの」
ウフフ、と意味ありげに微笑みながら言うステラリアさん。
母って誰だ?
小首をかしげるユリダリスさん。
ステラリアの『母』を知らないユリダリスさんが怪訝な顔をしていると、「ああ、」と気付いたステラリアさんが、
「母は、フィサリス公爵家で侍女長を務めておりますの」
「えっ?!」
と説明してくれました。ひくっと頬が引きつったユリダリスさんです。
侍女長って、団長んちのしっかり者のあの人だよな?!
何度か訪れたことのある公爵家の、侍女長といわれる人の顔を思い浮かべます。ちょっときつそうな、でも有能な婦人の顔です。
しかしその侍女長と彼女があまり似ているとは思えず、まじまじとステラリアさんのの顔を見ていると、
「あまり似ていません? うふふ。わたくし、顔は父親似だとよく言われますの。あ、ちなみに父は公爵家の料理長をしております」
「ええっ?!」
クスクス笑いながらさらに説明してくれるステラリアさん。ひくひくっと頬を引きつらせるユリダリスさん。
団長んちの料理長?! 見たことはないけど、腕は超一流って人だよな。つーか、実際公爵家の料理美味かったけど。……じゃあ、前に彼女からもらったキャラメレは、団長んちの料理長お手製だったってこと?! 確か父親が作って持たせてくれてるって言ってたよな?
ステラリアさんとの甘い思い出が、ちょっと複雑な感じになってきました。
「……ステラリア殿は、公爵家にずいぶんゆかりのある方だったんですね……」
「生まれも育ちも公爵家、でございますしね」
「おー……」
ステラリアさんのことは好きだけど、付き合うとなると嫌でも上司が絡んでくるのが見えたユリダリスさん。ましてやステラリアさんと結婚したとなると、あの面倒く……ややこし……腐れ縁な上司との縁がますます強固になるのは必至。
ちょっと軽く眩暈がしたユリダリスさんでした。
「今日はありがとうございました」
美味しいお菓子とお茶を堪能し、いざ別れの時間。
胸中去来するアレコレがあったものの、
「またこうして会っていただけますか?」
さり気なく次の約束を取り付けようと頑張ったユリダリスさんに、
「喜んで」
ユリダリスさんが虜になったあのふにゃりとした柔らかい笑みを向けるステラリアさん。そんな反則的な笑顔を見せられたら、上司なんてどうでもいいわと思えてくる不思議。
「では次のお休みは……」
と、次の約束を取りつけることに成功し、少し進展したことに喜ぶユリダリスさんなのでした。
ありがとうございました(*^-^*)




