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ロータスの恋人

活動報告より♪ 書籍第三巻発売時のリクエスト。

時間的には本編69話目くらいでしょうか。

 いいお天気に恵まれたある日のこと。

 ロータスが朝の仕事を終えて、公爵家三階にある自分の部屋に戻ってきました。今日はお休みの日なのです。

 仕事用の燕尾服の埃をブラシで取り払い、丁寧にクローゼットに片付けてから私服に着替えていると、部屋の扉が遠慮気味にノックされました。


「はい」

「おはようございます、ロータスさん」


 落ち着いた女の人の声です。その声にふっと笑みを漏らすと、


「どうぞ」

「はい」


 ロータスはノックの主を誰何することなく、自室へ入ることを許可しました。

 部屋の主の許可を得てそっと扉を開いたのは、先代夫妻にお仕えする侍女の一人、アマリリスでした。隣国オーランティアとの戦のために、先代夫妻が領地から王都のお屋敷に『疎開』するのに付き従って、一緒にやってきているのです。

 今日はお休みなのか公爵家のお仕着せではなく、落ち着いた色の私服を着、長いプラチナブロンドを緩く一本の三つ編みにして肩から前に垂らしています。たれ目がちな瞳は、嬉しそうに微笑みを湛えてロータスを見つめていました。


「久しぶりですね、アマリリス」

「そうですね。前にお会いしたのは戦の前でしたものね」


 いつまでも戸口に佇んだままの彼女の手をとり長椅子に座らせ、ロータスはお茶の支度をします。しばらくするとハーブティーのいい香りが部屋に漂ってきました。

 カップを静かにアマリリスの前に置いてから、ロータスもその横に腰かけます。


「こちらは随分と落ち着かれた様ですわね。また雰囲気が変わりましたわ」

「そうですね。奥様……ヴィオラ様のおかげですね」

「前に来た時よりもさらにヴィオラ様が生き生きとされていて。よかったですね。旦那様たちも喜ばれていましたわ」

「それはよかった。ところで、ご領地では変わりありませんでしたか?」

「ええ、とても穏やかで――」


 二人は窓の外を見ながら、離れていた時間のことについておしゃべりしました。二人の視線の先、元気よく庭園を散歩するヴィオラを微笑ましく見守りながら。



 アマリリスは公爵家の使用人としてはちょっと異色の経歴を持っています。そもそもアマリリスは違う貴族の元で働いていました。働き出して十年も経ったある日のこと、その貴族が遠くの領地に引っ越すことになりました。しかしその頃アマリリスの親が病を患っていて、働き手であるアマリリスが王都を遠く離れるわけにはいきませんでした。領地についていくことができないので、アマリリスはその貴族の屋敷から暇をいただき、別のお屋敷を探すことにしました。


「ほんとは領地についてきてもらいたかったんだけどね」

「申し訳ございません。私もご一緒したかったのは山々なのでございますが……」

「わかってますよ。で、次の働き口は決まったの?」

「いいえ、まだ」

「アマリリスくらい有能ならば、引く手あまたですよ。フィサリス家にだって十分通用します」

「まあ! フィサリス家だなんて奥様。私が行けるようなお屋敷ではありませんわ」

「そんなことなくてよ。そうね、フィサリス公爵夫人なら懇意にしていただいていますから、紹介状を書いてあげるわ」

「ええっ?! よろしいのですか?!」

「これまで真面目に働いてくれたアマリリスへのほんの気持ちよ」

「ありがとうございます!」


 専門学校の成績は主席でこそありませんでしたがそれでも上位でしたし、十年務めた貴族の家では十分に働きキャリアも積んでいました。

 幸い、主の貴族がフィサリス公爵夫妻(先代)と懇意にしているとかで、紹介状を書いてもらうことができ、フィサリス家に再就職することができました。


 しかしここからが甘くはありませんでした。


 フィサリス家の使用人になるためには、まず三カ月間の『試用期間』というものがあります。その間にいろいろその人物を見極めるのです。仕事ぶりから人となりまで、ありとあらゆることが試される期間なのです。執事・侍女長、そして先輩使用人から毎日厳しいチェックがされます。それをアマリリスは半年間と決められました。新卒使用人の倍の時間です。アマリリスの場合、他家から転職という異例のことでしたので、特に『密偵ではないか』というところを徹底的にチェックするためです。


 アマリリスにはお手本侍女のダリアと執事見習いのロータスがつきっきりで監視していました。




 アマリリスは針仕事や帽子を縫うことなどは得意でしたが、お茶を淹れることが苦手でした。前のお屋敷では別の侍女がお茶を淹れる係で、アマリリスがタッチすることがなかったからです。それでも人並みには淹れることはできますが、ここはフィサリス家。すべての使用人がなんでも完璧にこなせて当たり前の世界です。『人並み』や『いちおう』ではなく『一流』それも超のつくものが求められるのです。

 時間を見つけてはお茶を淹れる練習をしました。それに付き合い、厳しく指導したのはロータスです。


「茶葉のくせを見極めて。茶葉の大きさにも気を付けて」

「はい」

 

 茶葉の大きさに気を付け蒸らす時間をとれば、


「……これは湯の温度が下がり過ぎていますね。温度管理をしっかりしないと」

「はい……」


 一口飲んだロータスに渋い顔をされました。失敗し、また新たに淹れなおすと今度は、


「これは汲みたての水を使いましたか?」

「先ほど使った水の残りを使いました」

「水は汲みたてを使うといったでしょう。これは飲めたものではありませんよ」

「……はい、すみません」


 カップからすぐ口を離したロータスが、また渋い顔をします。


 美味しくないって、顔に書いてある……。


 表情があまり変わらないロータスですが、そこは敏感に察知するアマリリス。しゅんとなります。

 何度も失敗しながら、それでも根気よく練習した甲斐あって、ひと月もする頃にはロータスも満足するようなお茶を淹れることができるようになっていました。


「これは美味しい。よく頑張りましたね、アマリリス。これなら旦那様や奥様にお出ししても大丈夫でしょう」

「あ、ありがとうございます!」


 渋い顔ばかりしていたロータスが、カップを口にした途端に微笑みました。その珍しい笑みに、ぽうっとなるアマリリスです。


「ちょっと厳しく言い過ぎたかなとは思いましたが、貴女ならできるだろうと心を鬼にして指導した甲斐がありました」

「ありがとうございます!」


 厳しいばかりで褒めてくれたことなど一度もなかったロータスからの言葉に、涙が出そうになりました。

 他にも、公爵家独特の掃除方法や洗濯方法を身に着けていきました。


 そんなこんなで半年も過ぎ。


 そもそも密偵ではないアマリリスは特に問題もなく試用期間を過ごすことができ、晴れて公爵家使用人の一員になれました。しかもその真面目さ、優秀さを認められ、奥様付きの侍女になったのです。


 そんな普通よりも厳しい試用期間を泣き言ひとつ言わずに頑張ったアマリリスにロータスはいじらしさを感じていたのですが、それがいつの間にか愛しさに変わっていたのでした。

 アマリリスも、厳しいけれど優しさも併せ持つロータスに敬愛の念を持っていたので、二人はいつしかお付き合いするようになっていました。




 そして四年の月日が流れた頃。

 ロータスが「そろそろ結婚してもいいかな」と思い始めた矢先、公爵様が嫡男サーシスに家督を譲って領地に隠居することになりました。そしてそれに伴い執事のフェンネルも引退して領地について行くことになったので、ロータスが執事見習いから正式な執事となったのです。


「サーシス様はまだお若い。私がしっかりしないと」

「ロータスさんなら大丈夫ですよ! しっかりとおぼっちゃまを支えて差し上げてくださいな。私もお力になれるよう、できることはいたしますから」

「ありがとう」


 そう言って励まし合っていたのですが、アマリリスは奥様付きの侍女。公爵夫妻がご領地に隠居するのに従って、アマリリスもご領地に行くことになっていました。二人のお付き合いは公にしていなかったので、公爵夫人は二人を引き離すことになるなど露程も知らなかったのです。

 焦ったロータスが二人のことを公爵に正式に伝えようとしたのですが、仕事の引き継ぎやおぼっちゃまの素行のことなどでバタバタしているうちにタイミングを逃し、結婚するどころか離れ離れになっていたのでした。

 公爵夫妻が領地に隠居してからのロータスは仕事に追われました。何せ新しい当主がほとんど仕事をしなかったので。アマリリスのことを先代にお願いする時間も余裕もありませんでした。


 そういういきさつのある二人。今では先代夫妻が領地から王都の屋敷に帰って来る時くらいしか会えなくなってしまいました。

 手紙のやり取りはマメにしていますが、寂しいことには変わりありません。しかし二人とも大人ですので、お互いを信じて日々を過ごしています。




 ロータスの休みに合わせてアマリリスも休みをもらいました。今日はこれから久しぶりの王都を散歩し、ロータスお気に入りのカフェでゆっくりする予定です。王都にいた頃はよく一緒に行ったものです。

 仲良く腕を組み、ゆっくりと歩きます。


「先代様たち、しばらくこちらに滞在されるんですね」

「はい。また一緒にいられますね」


 どれくらいの時間また一緒にいられるかはわかりませんが、とにかく、今、一緒にいる時間を大事だと思う二人は見つめ合い、微笑み合うのでした。



 ~ 後日 ~


「み~ちゃった~!! ロータス!! デートしてたでしょ!!」


 アマリリスといい感じで出て行ったのを、ヴィオラにばっちり見られていました。


「さあ、なんのことでございましょう?」

「とぼけたってダメなんだから! 腕組んでラブラブしてたもん。あれはお義母様の侍女さんのアマリリスね!」

「…………」

「いいよいいよ、ロータスが話してくれないならアマリリスに聞いてきます!」

「え?! あ、奥様?!」


 ロータスの制止もむなしく、別棟へと駆け出すヴィオラ。

 そしてアマリリスを捕獲し、根掘り葉掘りと問い詰めすっかり話を聞き出して、


「そんな事情があったなんて……ロマンスよロマンス!! なんて健気な恋なんでしょう! ああ、そうだわ、アマリリスさんをこっちのお屋敷に戻してもらえないかお義母様にお願いしてみます! いや待って、お屋敷に戻すんだったらもういっそ、結婚しちゃいましょう!!」

「えっ?!」


 ものすごく盛り上がったヴィオラが暴走し、義父母夫妻のところに直談判に行くのは余談。


 そして、


「ごめんなさい!! 知らなかったからとはいえ、こんなに長い時間離れ離れにしちゃって……」

「すまん! 許せロータス!!」


 知らなかったとはいえ今まで離れ離れにして悪かったと猛謝罪してきた先代夫妻がすべてを取り仕切って、身内だけのささやかだけど幸せいっぱいな結婚式をしたのはさらに余談。



ありがとうございました(*^-^*)

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