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ダリアとカルタム 

活動報告リクエスト企画より♪


ダリアとカルタムの馴れ初めです。

 ダリアがフィサリス公爵家に来たのは、専門学校をぶっちぎりの主席で卒業してすぐのことでした。

 どの科目もパーフェクト。すべての教官から『どこにでも推薦状を書いてあげるよ!』と言わしめたほどです。

 その優秀さは偉い人たちにも伝わっていて、卒業後は王宮の女官にならないかというお誘いもきていました。

 しかしダリアは王宮ではなくフィサリス公爵家を選びました。というのも、公爵家はひそかに王宮よりも待遇がいいからです。お給料もいいし、お休み・福利厚生もばっちり。王宮にはいろんな事情があって、使用人を採用するにも広く門戸を広げているのですが、公爵家は『わたくし』ですから、そんな事情は要りません。純粋に一流の使用人だけを採用できるので、選ばれた人しかいない、切磋琢磨するには本当にいい環境なのです。




 きりりと気持ちを引き締めてやってきた公爵家は、聞きしに勝る職場でした。

 優しい公爵夫妻に生まれたばかりのかわいらしいお坊ちゃま、そして優秀な使用人たち。恵まれた職場で、ダリアも即戦力としてきびきび働きました。

 やりがいはあるけど気は抜けない。いつも緊張感に包まれているけど、しかし充実した毎日を過ごすダリアでした。


 恵まれた環境なのですが、しばらくしてひとつ気に入らないことができました。

 

 それは公爵家で働き出してから二年が経った時のことです。

 

 厨房に新しい料理人がやってきました。公爵家に来るまでは王宮の料理人をしていたというその人はカルタムという名で、金色の髪と緑の瞳が綺麗なイケメンさんです。


「きゃあ、カルタム! このお菓子美味しい!」

「それはよかった! 美しい貴女に褒められるなんて、なんて光栄なのでしょう!」

「も~! カルタムったら~」


 ダリアが休憩しようと使用人さん用ダイニングに入っていくと、数人の侍女に囲まれたカルタムがデレデレと笑っているところでした。


 いっつも女の人に囲まれて鼻の下伸ばして! このチャラ男が!


 いつ見てもカルタムは女の使用人を数人侍らせていて、チャラチャラしているのです。ダリアはそれを見ると無性にイラッとするのです。

 料理の腕は若いにもかかわらず素晴らしいものを持っているのに、普段のチャラチャラした感じがどうしても受け入れられないのです。自分と真逆だからでしょう。


 見ないふりをするに限る。


 ダリアはチャラチャラした集団とは反対側に、少し距離を置いて座りました。カルタムたちを見て疲れがどっと出た気がしたので、一息入れてからお茶を淹れようと先に座ったのです。

 一瞬気を抜いて目をつぶり、大きく息を吐き出していると、


「眉間に皺。せっかくの綺麗な顔が台無しだよ~」


 という声がすぐ近くでしたかと思うと、


 むぎゅっ。


 眉間を指で押されました。


「はぁっ?!」


 びっくりして目を開けると、至近距離でカルタムが、ダリアの眉間に指を当てていたのです。

 思わずのけぞり、おかしな声が出てしまいました。

 今起こったことがよくわからず眉間に手を当て口をパクパクさせていると、ニコッと優しく笑ったカルタムが、


「はい、お疲れ様~」


 と言って、温かな湯気の立つマグカップをテーブルの上に置きました。


「……ありがとう」


 食べ物(飲み物?)にあたるなんて罰当たりなことはできません。そっとカップを受け取るダリアです。


「どういたしまして~。これ飲んで元気出して! ダリアのために心を込めて淹れたから。このお菓子も、心を込めて作ったからね」


 スマートにお菓子の載った皿を添えてきました。


 それ、さっき他の侍女さんにも言ってないかったっけ。


 心の中ではツッコみつつ、とりあえずありがたくお茶をいただくことにしました。

 口に含んだ途端に広がるフルーティーな香り。


 あ、私の好きなお茶……。


 はっとなってカルタムを見ると、満足そうに微笑んでダリアを見ています。

 カルタムに自分の好みなど言ったことがなかったのに、ダリアの好きなお茶がさり気なく淹れられていました。




 優しいとは思うけど、それは誰にでも優しい。そして、女の人には特に優しい。

 いつもカルタムはチャラチャラしていて、見るとイライラするダリアでした。

 一方のカルタムは、いつも眉間に皺を寄せて自分を見てくるダリアが面白いのか、隙を見ては眉間をぐりぐりやってきます。それにまたイライラするダリア。ループです。


 そんなある日。


 公爵家のエントランスに飾られてある置物が、何者かによって盗まれてしまいました。

 ほんの一瞬の出来事です。


「ここにあった置物を最後に見たのは?」


 執事のフェンネルさんが、使用人さん用ダイニングに手の空いている使用人を集めて聞きました。


「先程私が掃除をいたしました」


 ダリアが手を上げて言いました。


「それはいつごろですか?」

「そんなに前ではありません。――ええと」


 ダリアはよく思い出しながらフェンネルに答えます。

 周りの使用人さんたちの視線がダリアに集中します。

 自分がちゃんと見張っていれば――。実際そんなことはできないのですが、思わず自分を責めてしまったダリアは、顔色をどんどんなくしていきました。


「誰もダリアを責めていませんよ」

「ダリアのせいじゃないから」

「ゆっくりその前後のことを思い出してごらん」


 侍女長のアニスも優しくダリアをなだめます。他の侍女さんたちや使用人さんたちも口々になだめました。


 その時です。


「盗人を捕まえました!」


 と、カルタムが厨房にある勝手口から、見知らぬ男の首根っこを摑まえて入ってきました。


「おお、でかしたカルタム! ロータス、縄を」

「はい」


 ロータスが物置に駆けていきます。

 そうして用意された縄で、ロータスと一緒に盗人を縛り上げたカルタムが、


「舐められたもんですね、こいつ厨房から逃げようとしていました。ここまでは完璧に侵入したくせに詰めが甘いですね」


 いつものチャラい雰囲気はどこへやら、きびきびとその場の状況をフェンネルに説明しています。

 その様子をボーっとしながら聞いているダリアでした。




「ちょっとダリアはここで休んでいきなさい」


 フェンネルさんに言われ、一人使用人さん用ダイニングに残ったダリア。

 呆然としたままテーブルに座っていると、


「一件落着でしょ。これ飲んで元気出して。それと、疲れた時にはこれを食べたらいいよ」


 あ、あのお茶の香り。


 カルタムがダリアの前に出してくれたのは、あの、ダリアの好きなお茶。

 そして、そのお皿に添えたのは一粒のキャラメレ。


 そっとカップに口を付けると、大好きな香りと温かさにホッとしました。

 そしてキャラメレは、口に含むと優しい甘さが広がり、さっきまでの張り詰めた気持ちや、これまでの緊張が一気にほどけていくような気がします。


 優しい温かさと甘さに、気が付けばボロボロと涙があふれてきました。


「おおー……泣いちゃいましたか」


 一瞬驚きましたが、苦笑いになるカルタム。


「泣いちゃったわ」


 ぐすんと鼻をすすってから、ぎこちなく笑い返すダリアでした。




 あとで聞いたところによると、カルタムは誰にもお茶なんて淹れてくれないそうで、


「あんただけ特別なの! 知らなかったの?」


 と、侍女仲間に口をそろえて言われました。



* お・ま・け♪ *


 という、ダリアとカルタムの馴れ初めを聞いたヴィオラ。


「……ひょっとして私が壊しちゃったのって、その二人の思い出の品?!(※本編49話目参照)」

「まあ、そうですね」

「ぎゃ~!! ごめんなさ~い!!」


 ダリアに平謝りするのでした☆

ありがとうございました(*^-^*)

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