お稽古始め?
書籍3巻発売記念リクエストより♪
ある意味ヴィオラの成長記録w
*** ヴィオラ 三歳 ***
ある天気の良い日の昼下がり。
「ヴィーちゃん、ヴィーちゃん」
「なあに、おとうちゃま」
庭で花を摘んで遊んでいるヴィオラのところにやってきた父が、手に持っていたスコップと何かの苗をヴィオラに見せた。
「お父様と一緒に土遊びしようか」
「どろあそび?」
父親の手元を見、首をちょこんと傾げて問い返すヴィオラ。
「う~ん、ちょっと違うかな? 土遊びだよ」
「なにがちがうのか、ヴィオラ、よくわかんない」
「そう難しく考えなくていいよ! ほら、これを植えるんだ」
手に持っていた苗をヴィオラに見せる。
それはまだ双葉が出たばかりの何か。ぶっちゃけ、雑草にも見える何か。
それをまじまじと見て、また首をかしげるヴィオラ。
「なあに? それはおはな? でも葉っぱしかないよ?」
「お花とはちょっと違うんだなぁ。これを植えて育てると、サラダにしたり煮たり焼いたりして食べられるお野菜ができるんだよ」
「おお~、すごいね!」
「だろう? 自分で育てたものを自分で収穫して食べるのは、最高に美味しいんだよ」
「おいしいの! うれしいの!」
目を輝かせ、うれしそうに笑うヴィオラ。
「よし、じゃあ植えよう!」
「うん!」
父と娘、二人でせっせと庭の片隅に穴を掘り、苗を植え始めた。
三歳にして父に家庭菜園を教えられるヴィオラであった。
*** ヴィオラ 五歳 ***
あるのどかな休日。
「ヴィーちゃん、ヴィーちゃん」
「なあに、おとうちゃま」
居間で絵本を読んでいるヴィオラに、父が話しかけてきた。
「1たす1は?」
「2!」
いきなりの計算問題だったが、間髪入れず答えるヴィオラ。
わが子の賢さにウルウルする父。
「おお、ヴィーちゃんは賢いね!! じゃあ次は難しいぞぉ。100たす32は?」
父はさらなる計算問題を出したが、
「えーと……指が足りない」
難しい顔をして指を折るヴィオラ。十本の指では足りないので困っている。
それを、面白そうに見守っていた父が、
「はは! 計算は指を使うんじゃないんだよ、頭を使うんだよ」
「う~ん、頭が足りない……」
助け舟を出したのだが、斜め上の答えがかえってきた。
さらに難しい顔をして項垂れていくヴィオラ。
「数だよね?! 中身じゃないよね?! ……じゃあ、100ルフランたす32ルフランは?」
「132ルフラン!!」
単なる数の計算から『通貨単位』がついた『お金の計算』になると、またしても間髪入れず即答するヴィオラ。
「……お金だと計算早いね」
苦笑いになる父。
五歳にしてお金の計算が得意になったヴィオラであった。
*** ヴィオラ 六歳 ***
ある天気の悪い午前中。
「ヴィーちゃん、ヴィーちゃん」
「なあに、おかあさま」
今日は雨が激しいからお外には出られないなぁと、窓から外の様子を眺めていたヴィオラに、母が話しかけた。
「今日はお天気悪いからお外には行けないわね」
「うん」
「今日はお母様とおうちで一緒に遊びましょうね」
「うん!」
目を輝かせ、うれしそうに笑うヴィオラ。
満面の笑みを浮かべる娘にニッコリと微笑み返す母は、
「ヴィーちゃんは手先が器用だから、針と糸を持ってもいい頃だと思うの」
「はりといと?」
裁縫箱を取り出してきて、針と糸を見せる。
母の手にあるそれを見、ちょこんと首をかしげるヴィオラ。
「これが針で、これが糸。針は先がとがっているから気を付けてね」
そう言って実際に針と糸をヴィオラに渡したのだが、
「あ、いたっ!」
さっそく針で指先を突いたヴィオラ。
「言った先から……。身をもって経験することは大事ね。唾つけときゃ治ります」
「えーん」
突いた指先をくわえて泣くヴィオラだが、血が止まると、
「この針に糸を通して……こうやって……そうそう、上手よ、それを使って布を縫い合わせるの」
母は早速糸の通し方から教え始めた。
「ぬいあわせると?」
「いろんなものができるのよ~! カバンもできるし、ドレスもできるし」
「わあ~! すごい!」
カバンやドレスと聞いて、途端に目を輝かせ、うれしそうに笑うヴィオラ。
「でしょう? じゃあ手始めに巾着でも作りましょうか」
「作る作る!」
六歳にして裁縫を教わったヴィオラであった。
*** ヴィオラ 七歳 ***
あるぽかぽか陽気のいい天気の日。
「ヴィーちゃん、ヴィーちゃん」
「なあに、おとうさま」
気持ちのいい陽光のせいで眠気と戦っているヴィオラに、父が話しかけた。
「計算はできるようになったから、今度は実践だ!」
「じっせんてなに?」
父の突然の発言に、ちょこんと首をかしげるヴィオラ。
「実際にやってみよう! ってことだよ」
「ふうん? なにをじっさいにやるの?」
父がなにを実践したいのかさっぱりわからなくてまた首をかしげるヴィオラ。
「ということで今日は一人でお買い物に行ってみよう!」
「ひとりで?」
どうやら『一人でお買物』を実践するらしい。実践も何も、お稽古すらしたことないのだが。
「ヴィーちゃんなら大丈夫だよ! お母様といつも一緒に行く八百屋さんあるだろう」
「うん」
「そこでお野菜を買ってくるという簡単なお買物だよ。はい、お金はこれね」
「うん! わかった!」
一人でお金を持ってお買い物に行けるという『プチ冒険』に、目を輝かせ、うれしそうに笑うヴィオラ。
~ そして、ぽてぽてと歩いて八百屋に向かうヴィオラを尾行する父というお約束 ~
「ただいま~! かってきたよ!」
「やっぱりヴィーちゃんは賢い子だね! ちゃんとお金も渡せてお釣りも計算間違いなくもらってきたね! 八百屋のおじさんも褒めてたじゃないか」
ミッションを完遂してきた娘を感極まって抱きしめる父。
家にいたはずの父が、どうして買い物の様子知ってんだ? という、父の失言に首をかしげるヴィオラ。
「なんでしってるの? おとうちゃま?」
「細かいことは気にするな!」
ぎゅ~っと娘を抱きしめてごまかす父であった。
七歳にして一人でお買い物ができたヴィオラであった。
*** ヴィオラ 八歳 ***
あるどんよりとした曇り空の日。
「ヴィーちゃん、ヴィーちゃん」
「なあに、お母様?」
今にも雨が降り出しそうなので今日は庭に行くことを諦め、生まれたばかりの弟を見ていたヴィオラに、母が話しかけた。
「赤ちゃんが泣いてるから抱っこしててくれる? お母様、オムツをとってくるから」
そう言ってまだふにゃふにゃの赤ちゃんをヴィオラに渡す。
「んぎゃーんぎゃー」
「わかった~。泣きやめ~泣きやめ~」
そっと大事に抱っこし、ゆらゆらと揺らしながらあやすヴィオラ。
「んぎゃーんぎゃー」
「泣き止まないよ~。ふええ~」
ぎこちない抱っこがお気に召さないのか、それとも濡れた襁褓が気持ち悪いのか、赤ちゃんは一向に泣き止まない。
初めての子守りに一緒になって泣いてしまうヴィオラだったが、しかしこの先グングン成長し、オムツ替えから寝かしつけまで、子守り全般を一通りマスターしたのだった。
* * * * * *
「ヴィーは小さい頃からいろいろやってるんだねぇ」
「はい! ある種の英才教育です☆」
ありがとうございました(*^-^*)




